鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

花筏図小柄 古後藤

2010-03-23 | 小柄
花筏図小柄 後藤


① 花筏図小柄 無銘古後藤


② 花筏図鐔 銘 正随(花押)


③ 花筏図鐔 銘 長州萩住友久作

 京を彩る桜の名所と言えば、御室、円山などを思い浮かべるが、先の嵐山辺りも装剣小道具に採られている。最も多いのは嵐山に添うように流れ降る大堰川の景観であろう。大堰川は渡月橋辺りの呼称で、下流が桂川、上流域は大井川、嵐山辺りを保津川と呼び分けている。古くから山中で伐採した材木を筏に組んで流し、京都や大坂へと供給した歴史があるも、その筏流しの様子は風物として愛され、殊に桜の季節には散り掛かる桜花と共に鑑賞の対象とされたという。この雅な景色は後に文様化され、筏に桜花を添えた『花筏(はないかだ)』と呼ばれる雅な模様として完成する。
 Photo①は、初、二、三代の頃の後藤家の作と極められた、武家の持ち物らしい格式が感じられる豪壮で美しい小柄。赤銅魚子地を高彫とし、桜花に金の色絵を施して配色鮮やかな空間を創出している。着物などにもみられるように、筏と花の大きさは現実とは異なって文様美が極められている。何とも優雅である。時代は室町後期。この頃には既に花筏の文様は完成されていたのである。
 Photo②と③はいずれも同じ趣を題に得た鐔。赤銅地を丸形と木瓜形の違いはあるも高彫にし、背景を透かしさって主題を鮮明にし、筏と桜花を巧みに組み合わせ、要所に金の色絵を施している。②の正随(せいずい)は武州伊藤派に学んだ江戸時代後期の工であろうと推測される。③の友久(ともひさ)は江戸時代後期の長州鐔工の一人。いずれも武州伊藤派の影響を受けている。伊藤派は植物を題に得て正確な構成を専らとしている。