鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

秋草図縁頭 永武

2010-03-04 | その他
秋草図縁頭 今井永武

 
秋草図縁頭 銘 今井永武(花押)

 野の草花を優しい視線で捉えた作品。作者は後藤八郎兵衛家六代一乗の門人の一人と考えられている今井永武(ながたけ)。永武は京都の紙商の子として文政元年に生まれる。幼くして一条家の家臣であった今井家の養子となるも、養父の没後に職を辞して金工となり、後に後藤一乗の門人となると伝えられている。ただし、正式に一乗の門人になったわけではないという説もある。明治十五年没。一乗風の綺麗に揃った赤銅魚子地を高彫色絵表現する、優雅で繊細な植物図を得意とした。
 この縁頭の造り込みは、美濃の風合いを残した一華の作例とは全く異なり、端整で瀟洒。過ぎることのない文様化された秋草。永武は金の平象嵌に似たケシ象嵌と呼ばれる霞みのような表現も得意としているが、ここでは、高彫に多彩な色絵を加えている。古金工にもみられるような古典的な風合いを、近代的な図取りとした作品である。このような空間を活かした構成は一乗一門の得意とするところである。一華などの作品と比較鑑賞すると、同じ一乗一門でも、金工による独創性がより強く示されていることがわかる。このように、より強く個性を追求するのは幕末の特徴でもある。