鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

桐紋透図鍔 金山 Kanayama Tsuba

2016-01-30 | 鍔の歴史
桐紋透図鍔 金山


桐紋透図鍔 金山

 戦国時代の実用的な片手打ちの刀に備えられていたと推考される、いかにも実用に即した、引き締まった鍔。鉄地毛彫地透。天地に構成しているのが葉を伸ばした桐紋。常にみられる桐紋とは異なって軽やか。面白い。透かし鍔は、線や比較的面積の少ない面による構成で、金山などは文様を構成した作を間々見る。

鳳凰図二所 古後藤 Kogoto Futatokoro

2016-01-29 | 鍔の歴史
鳳凰図二所 古後藤


鳳凰図二所 古後藤

 鳳凰が棲むと伝えられる桐樹を、阿吽の構成からなる鳳凰に添え描いた小柄。桃山以前にまで時代の上がる後藤家の作と極められている。豪壮華麗な赤銅魚子地高彫金色絵。桐樹は写実的な表現ではなく、桐紋を配した巧みな画面。この構成は間々見られる。面白いのは、五三桐紋を前面に配しているのだが、左右端の桐は確実な桐紋として仕立てられているわけではないが、いずれも五七の桐紋を暗示しているのだ。所持者の家紋が五七桐紋ということであろうか。

五七桐紋図目貫 後藤徳乗 Tokujo Menuki

2016-01-29 | 鍔の歴史
五七桐紋図目貫 後藤徳乗



五七桐紋図目貫 後藤徳乗

 桐紋は五三桐だけではない。五七の桐紋二双図目貫。裏行は古びてほこりが付着しているが、後藤家の古作に間々見られる陰陽の仕立て。五三桐紋に比較して縦に長く感じられるのは当然のこと。花の脇に刻された楕円形の鏨が見どころでもあり、後藤宗家五代徳乗の作と極められている。徳乗は桃山時代の金工。

五三桐紋に四ツ目菱紋図小柄 古金工 Kokino Kozuka

2016-01-28 | 鍔の歴史
五三桐紋に四ツ目菱紋図小柄 古金工


五三桐紋に四ツ目菱紋図小柄 古金工

 小振りに仕立てられている小柄。寸法に比して細身であることが判る。大まかに長さ97ミリ、幅14.5ミリという小柄の寸法は江戸時代のもの。時代が上がる小柄は、そもそも数は少ないのだが、江戸時代のような定形はなかったようだ。小ぶりな作もあれば、桃山頃のように大振りの小柄もあった。さて、桐紋と言うと武家全般の家紋という認識が強く、どの武家でも使用していたように感じられるが、元来は皇室で用いられた家紋の一つ。足利将軍が天皇から下賜されて以降足利家が使うようになり、また、将軍から同様に大名家などへ家紋が贈られ、多くの武家で用いられるようになったようだ。

梅花文に千鳥文図笄 古金工 

2016-01-27 | 鍔の歴史
梅花文に千鳥文図笄 古金工



梅花文に千鳥文図笄 古金工

 以前にも紹介したことがある。梅花を家紋のように中央に配した逆耳仕立ての笄で、時代の断定は難しいところだが、この様式から、かなり古い、室町時代はもちろんだが、南北朝時代まで上がるのではなかろうかと考えられる作。梅花文は箱根神社蔵曽我五郎所持と伝える腰刀の残欠に見られる梅花にもよく似ているので、家紋と言うより文様なのかもしれない。素銅地を小振りに、表面を滑らかに仕上げ、千鳥紋を毛彫で描き、これを背景に梅花を高彫にして銀色絵を施している。時代の上がる逆耳笄の完存品はとても貴重である。□

紋散し図鍔 古金工 Kokinko Tsuba

2016-01-26 | 鍔の歴史
紋散し図鍔 古金工


紋散し図鍔 古金工

菊は、家紋と言う認識で描かれることが多いことを以前に紹介した。室町時代初期の古金工の作で、波に丁子と共に菊紋を配した鍔を紹介したことがある。また桐紋との組合せも多い。写真は、古金工の時代の太刀金具師によるものであろう、赤銅地木瓜形に極厚の耳に仕立て、菊と巴の家紋を金色絵で配し、猪目と四葉の文様を小透にしている。この鍔での菊は家紋と言うより古金工の秋草図にあるような毛彫交差による菊花の表現。
応仁鍔にも菊紋があり、菊水紋を意匠した例もある。中段の写真がその例。
 古金工で素銅地に放射状の毛彫を加え、桐紋を主体に梅花文と菊文を配したのが下の作。家紋と捉えられるのは桐のみ。菊は十八葉や二十二葉で、家紋らしからぬ構成。


文散し図鍔 応仁


紋散し図鍔 古金工

菊と牡丹に蝶図鍔 元壽 Mototoshi Tsuba

2016-01-22 | 鍔の歴史
菊と牡丹に蝶図鍔 元壽


菊と牡丹に蝶図鍔 元壽作

 元壽は水戸金工大川元貞の門人。この鍔では表を赤銅地に菊とし、裏を朧銀地にして牡丹を描いている。描法は平滑な仕上げになる地面に平象嵌と片切彫。強弱変化に富んだ片切彫で、さらに緻密な構成で、菊の葉や枝だけでなく花弁もまた繊細な片切彫で生命感があり、動きがある。点刻を伴う片切彫平象嵌の蝶は、柾目に風にのっているかのように穏やか。朧銀地の片切彫平象嵌の牡丹も彫口は簡潔ながら濃厚な香りをも感じさせる表現。花弁の表面に施された筋彫には点刻のような強弱があり、これが菊花のそれとは異なり、どうやら匂い立つ牡丹の個性的な表情を鮮明にしているようだ。

秋草図鍔 愛山義行 Yoshiyuki Tsuba

2016-01-21 | 鍔の歴史
秋草図鍔 愛山義行


秋草図鍔 一丘斎愛山義行

 秋草を素材にその季節感を表現した、美しい構成になる作。朧銀地高彫色絵。水辺に咲く菊とススキ。夜の景色であろう、水に映った月は印象的。水と菊は古代中国の伝説「菊水」にも関連するが、ここでは単純に秋の風景として感じとった方が良いかもしれない。確かに秋草としての菊花である。古金工の時代には、頗る簡潔に秋草のある景色として表現した例もあるが、次第に写実的な風景図として完成してゆく。江戸時代後期、このような実景を表現したものもある一方で、文様表現を突き詰めた作もある。古くは拵を装う金具としてあったものだが、金工作品そのものが独自の美意識を高めていった結果と言えよう。

四君子図鍔 寶真齋壽景 Toshikage Tsuba

2016-01-20 | 鍔の歴史
四君子図鍔 寶真齋壽景


四君子図鍔 寶真齋壽景

雅ないくつかの植物の採り合わせからなる図柄がある。四君子は、蘭、竹、梅、菊を君子に擬えたもので、自らの意識をも高めたいと願ったものであろう、この図が比較的多い。壽景は東龍斎派の名工。この鍔では朧銀地の耳に竹と梅の古樹を意匠し、寄り添うように菊を蘭を描き添えている。正確で精巧な高彫に色合い豊かな金銀赤銅素銅の色絵。大輪の菊を金と銀で描き分け、見事に花弁を伸ばす様子を浮かび上がらせている。

二雅図小柄 一琴 Itkin Kozuka

2016-01-19 | 鍔の歴史
二雅図小柄 一琴


二雅図小柄 一琴(花押)

 船田一琴の得意とする甲鋤彫と平象嵌を駆使した作。題材は後藤の小柄と同様に、菊と竹。だが表現が全く異なる。素材は極上質の朧銀地で、丸みのある彫り口で抑揚を付けながら枝と葉を彫り描き、金と銀の平象嵌を要所に施している。筆でささっと描いたような墨絵を想わせる、簡潔で簡素な描法ながら濃密な色がそこに広がっているように感じられる。名工ならではの表現と言えよう。一琴は後藤一乗の門人の一人に数えられてはいるが、このような表現においては一乗以上の技術と感性を示した金工である。銀の菊花がいい。

二雅図小柄 後藤 Goto Kozuka

2016-01-18 | 鍔の歴史
二雅図小柄 後藤


二雅図小柄 後藤

江戸時代の後藤家の手になる、雅な二種類の植物の採り合わせとされた図。菊と共に描かれるのは虫だけではない。歳寒二雅と言えば竹と梅。四君子と言えば梅、竹、蘭、菊の四つの雅な植物の組合せを指す。ここでは晩秋の菊と、冬でも青い竹を組み合わせ、雅な景色としている。元来は笄が備わっており、笄に蘭と梅が描かれていたのかもしれない。それはそれとして、ここでの菊は古典的な構成と描写であり、後藤家が古典を守り続けていたことが判る。赤銅魚子地は綺麗に揃っており、これだけでも美しい。竹は真直ぐであることに意味がある。

菊に蝶図鍔 高橋良次 Yoshitsugu Tsuba

2016-01-16 | 鍔の歴史
菊に蝶図鍔 高橋良次


菊に蝶図鍔 高良次造之

 江戸時代後期の高橋良次の作。江戸後期に隆盛した東龍斎清壽一門に学んでいるのだが、良く見られる東龍斎風とはちょっと異なり、独創が追求されているようだ。綺麗に揃った赤銅魚子地に、手折られた一枝の菊。これに蝶が誘われてきたといった風情。美しい空間が創出されている。大輪の菊花は、茎が真直ぐに伸びるよう添木などが施されて育てられるようだが、この菊の茎は曲線的な構成で妖艶な風情がある。花びらの広がる様子も自由に空間を探しているようでいかにも伸びやか。くっきりとした高彫に金銀の色絵であり、個性的な写実美である。□


菊に蝶図鍔 京金工

 先に紹介した良次の鐔とは、全く同じ意識で製作されたものであろうが、金工の手が違うと、ここまで異なるものか。手折られた一枝の菊に誘われ来た蝶。これも江戸時代後期の作。

菊花図鍔 美濃 Mino Tsuba

2016-01-15 | 鍔の歴史
菊花図鍔 美濃


菊花図大小鍔 美濃

 江戸時代後期の製作で、美濃様式を下地としたもの。菊花に多様化が進んでいるのが良く判る。蟷螂や鈴虫などを添え描くのも古い時代の美濃彫の特徴であり、姿形も古い時代の美濃に倣った虫を、ここにも描き添えている。様々な菊が押し合うように配されているのは江戸時代後期の面白さ。そう、菊花は古金工や古美濃からここまで変化したのだ。

菊図縁頭 秀興 Hideoki Fuchigashira

2016-01-14 | 鍔の歴史
菊図縁頭 秀興


菊図縁頭 秀興鐫

 江戸後期の京都に栄えた川原林秀興の、古作写し。古作写しとは言え、古美濃のような作風ではなく、赤銅魚子地一色のみからなる高彫手法で菊花を描いているという意味で古作を手本としたとみるのだが、明らかに他にはない個性を示している。菊は文様表現だが、枝振りや花に大小描き分けている部分があり、枝花の下に遠くに咲く菊を眺めている、といった風情だ。枝振りに量感があり動きが感じられ、活きいきとしている。もう文様とは言えない、写生になる菊花。菊は古金工の時代からここまで進化した。

菊花図鍔 美濃 Mino Tsuba

2016-01-12 | 鍔の歴史
菊花図鍔 美濃


菊花図鍔 美濃

 古い様式の美濃彫を下地とし、江戸時代に好まれて数多く作られたのがこの趣の鍔。赤銅地を木瓜形に造り込み、菊花や秋草を高彫(古美濃ほど極端な高彫ではない)にし、文様は古美濃や古金工と似た古風な様式。だが、仔細に観察すると、いたるところに新味が感じられる。


菊花図鍔 美濃

花の部分に金の色絵を多用して華やかさを高めている。古様式を狙ってはいるが、文様に古風なところがなく、花の形も二種類だが、枝葉の連なる様子は唐草風で古様式に倣っている。江戸時代の作であることが判る。