鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

梅に鴛鴦図小柄 堀江興成 Okinari Kozuka

2014-06-18 | 小柄
梅に鴛鴦図小柄 堀江興成


梅に鴛鴦図小柄 銘堀江興成

花鳥十二ヶ月図揃い小柄から十二月

花…早梅
色うづむかきねの雪の花ながら
 年のこなたに匂ふ梅がえ

鳥…鴛鴦
ながめする池の氷にふる雪の
 かさなる年ををしの毛ごろも

 梅と言えば鶯なのだが、ここでは冬鳥の鴛鴦が美しい姿で競い合っている。鴛鴦は、金、朧銀、素銅、銀といった多彩な色金を用いなければ表現できない。華やかな様子が銀色絵の雪に、また大きく開いた梅との見事な調和を示している。色のなくなる冬における、色彩の妙を表現したものである。

枇杷に千鳥図小柄 堀江興成 Okinari Kozuka

2014-06-17 | 小柄
枇杷に千鳥図小柄 堀江興成


枇杷に千鳥図小柄 銘堀江興成

花鳥十二ヶ月図揃い小柄から十一月

花…枇杷
冬の日は木草のこさぬ霜の色を
 はがへぬ枝の色ぞまがふる

鳥…千鳥
千鳥なくかもの河せの夜はの月
 ひとつにみがく山あゐの袖

枇杷の花期は冬場。寒さに耐えて生きる植物の例として松、竹、梅、菊などが知られているも、枇杷が装剣金工の題材に採られた例は少ない。千鳥との組み合わせも面白い。背景が海ではなく川辺である点も興味深いのだが…。時代の上がる千鳥を描いた器物に、塩山図蒔絵手箱がある。千鳥が描かれているのだが、これは海辺ではなく甲斐国塩山のことだとも言われている。即ち千鳥というと海を思い浮かべてしまうが、実は海だけの鳥ではなかったというのだが…。

残菊に鶴図小柄 堀江興成 Okinari Kozuka

2014-06-14 | 小柄
残菊に鶴図小柄 堀江興成


残菊に鶴図小柄 銘堀江興成

花鳥十二ヶ月揃い小柄より十月

花…残菊
神な月しも夜の菊のにほはずは
 秋のかたみになにをおかまし

鳥…鶴
ゆふ日影むれたつたづはさしながら
 時雨の雲ぞ山めぐりする

 静かに秋の深まってゆく様子が感じられる作。鶴の足元に描かれた浅い筋は水田を意味している。

白鳥図小柄 吉岡因幡介 Inabanosuke Kozuka

2014-06-13 | 小柄
白鳥図小柄 吉岡因幡介


白鳥図小柄 銘吉岡因幡介

 穏やかに揺れる水面に漂っているかのように進む一羽の白鳥を題に得た作。いずれも吉岡因幡介の銘があるも、吉岡因幡介は代々が同銘を切ることから代別の極めが頗る難しい一門と考えられている。これも、いずれが先か、いずれも同人の作か不明である。単純に並べて比較して鑑賞してみるのも面白い。


鷺図小柄 廉乗 Renjo Kozuka

2014-06-12 | 小柄
鷺図小柄 後藤廉乗


鷺図小柄 銘紋廉乗光晃(花押)

 後藤宗家十代廉乗の作であることを、同十六代光晃が極めたもの。古金工に通じるような古様式の表現で、雪の降り掛かる柳の枝に身を寄せる白鷺を描いている。赤銅魚子地高彫金銀色絵。色金として金を用いてはいるが、水墨画のような風合いがある。

巌上猛禽図小柄 岩本貞仲 Sadanaka Kozuka

2014-06-10 | 小柄
巌上猛禽図小柄 岩本貞仲


巌上猛禽図小柄 銘蟠龍軒岩本貞仲(花押)

 鉄地高彫に金象嵌。背景は河の流れであろうか荒波の打ち付ける巌にしっかりと爪を立て、獲物の到来を狙っている。水飛沫は銀の点象嵌で要所に散し、同様の銀象嵌で降り積もった雪を表わしており、寒々とした空気のありようが窺いとれる。爪の様子にも増して鋭い目つきが魅力である。貞仲は一宮長常の高弟。人物を題材に市井に見かける風俗を題に得た作品を多く見るが、このような自然の一場面を捉えた感動的な作品も遺している。

ススキに鶉図 堀江興成 Okinari Kozuka

2014-06-01 | 小柄
ススキに鶉図 堀江興成


花鳥十二ヶ月図揃い小柄から 

ススキに鶉図 銘堀江興成

花…薄
花すすき草のたもとの露けさを
 すてて暮行く秋のつれなさ

鳥…鶉
人めさへいとどふかくさかれぬとや
 冬まつ霜にうずらなくらん

鶉も秋を感じさせる鳥。まるまると肥えた様子は冬の到来を暗示するのだが、ススキなどの陰に隠れて、鳴き声のみが聞こえてくる。特に意味を備えているというわけでもないのだが、この鳥も題に採られることが多い。

竹林に雀図小柄 Kozuka

2014-05-28 | 小柄
竹林に雀図小柄


竹林に雀図小柄

 竹林に雀は、まさに舌切り雀。では、雀は本当に竹林に巣をつくるのだろうか。あるいは竹林に群れ集まるのだろうか。それを組み合わせて家紋にしてしまうなんて、なんて素敵なんだろうと思う。餌を探しているという雰囲気ではなく、何か語らっているかのような・・・、やはり昔語りが背景にあるのだろうか。

雀図小柄 光美 Mitsuyoshi Kozuka

2014-05-27 | 小柄
雀図小柄 光美


雀図小柄 銘 光美(花押)

 これも障子貼替えの糊を作るためのすり鉢。赤銅魚子地を背景に、他の景色を排除しているところは後藤流だが、ここからイメージするのは・・・舌切り雀の昔語りを思い浮かべてしまうが、まさにそんな風景だ。


帰雁図小柄 堀江興成 Okinari Kozuka

2014-05-19 | 小柄
帰雁図小柄 堀江興成



帰雁図小柄 銘堀江興成

花鳥十二ヶ月揃い小柄から

花…萩
秋たけぬいかなる色と吹く風に
 やがてうつろふもとあらの萩

鳥…雁
ながめやる秋の半もすぎの戸に
 まつほどしきる初かりの声

 思う人の到来を待ちわびる歌。芦と雁の取り合わせは、我が国の自然観が良く現れているものと思うが、萩との組み合わせも面白い。首を垂れた萩の叢枝が風を待っているように、自らも・・・。自然美に対する感性、我が国の自然に感謝したい。

三日月に雁図小柄 Kozuka

2014-05-16 | 小柄
三日月に雁図小柄



三日月に雁図小柄

 心象的表現である。即ち、このような景色を捉えることは不可能。絵であるが故に可能な表現である。波は片切彫で穏やかに続いており、その上を帰巣の雁が一羽。さらにその上から眺めおろしているわけであり、このように細い月は月齢1.5日ぐらいだから、空は明るくて見えないし、波にも映るはずがない。でも素敵な構成とされている。飛翔への憧れが生み出した想像の世界とも言えよう。朧銀地高彫金色絵、裏板には金と銀で赤銅の上に削継として装飾性を高めている。

芦雁図小柄 吉岡因幡介 Inabanosuke Kozuka

2014-05-14 | 小柄
芦雁図小柄 吉岡因幡介



芦雁図小柄 銘吉岡因幡介

芦原に隠れて翼を繕う雁。芦の枝を横に伸ばして横画面を活かした構成としている。因幡介には、白鳥図小柄があり、同様の一羽の美濃描写で、水に浮かんでいる様子を描いた作がある。このような構成を好んでいたものであろうか、興味深い。

鴉図小柄 後藤  Goto Kozuka

2014-05-12 | 小柄
鴉図小柄 後藤



鴉図小柄 無銘後藤

 鴉を題に得た図では、太陽に向かって羽ばたく古代思想にもつながる意識を秘めるものと、このように、水につかっている図を多くみる。水浴びをしているようなものと、このように明らかに溺れている図があるのも面白い。「鵜の真似をする烏」は「猿猴捕月」と同様に自らの能力を知ることの大切さ、能力を超えた活躍を目論んで失敗しては多大な損益をもたらすということの教え。幕府としては、整然と並んでいる状況を壊してまで何かをしようとするものが出るより、多少窮屈であっても安定を望んでいたということの証だ。


女郎花に鵲図小柄 堀江興成 Okinari Kozuka

2014-05-09 | 小柄
女郎花に鵲図小柄 堀江興成


女郎花に鵲図小柄 銘堀江興成

花鳥十二ヶ月図揃い小柄から七月 

花…女郎花
秋ならでたれにあひみぬをみなえし
 契やおきし星合の空

鳥…鵲
ながき夜にはねをならぶる契とて
 秋待ちたえる鵲のはし

 綺麗に澄んだ夜空に輝く星々。雲を描き、これに架かる橋を描いて心象的風景としているのは、鵲は天の川に翼を並べて橋をつくるという伝承があるからに他ならない。即ち七夕に通じる図である。