鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

勝虫図小柄 古金工 Kokinko Kozuka

2020-08-31 | 鍔の歴史
勝虫図小柄 古金工


勝虫図小柄 古金工

夏を少しでも涼やかに過ごそうと考え、自然の風景として魚を探しているうちに、魚の図の多くが自然そのものではなく自然から採取された魚、天からの恵みのものであることに気付いた。
今年はまだまだ暑い。夏と言えば虫。まずは勝虫とも呼ばれて武将に好まれたトンボ。この小柄は大胆な構成である。勝虫だけを描いている。拵に備えられていればかなり目立つだろう。それが狙いであろう。桃山頃の作とみてよいだろう。戦国武将の意識が窺いとれる。赤銅魚子地高彫金色絵。目玉がすり減って何となく透明感があるように感じられ、時を経た結果ながら面白いところでもある。

魚図小柄 古金工 Kokinkou Kozuka

2020-08-29 | 鍔の歴史
魚図小柄 古金工


魚図小柄 古金工

 少なくとも桃山時代、ちょっと遡れば室町末期に、既にこのような漁の結果を示すような図柄が描かれている。自然風景ではなく、このような構成とされるのはなぜだろう、興味深いところである。クシコと呼ばれる乾燥したナマコの図柄も頗る多い。海鼠の図柄は見たこともないのだが、クシコが多い。クシコは将軍家にも献上されたり、中国にも輸出された産物である。魚が産業を成すものとして捉えられたのであろうか。

魚尽し図縁頭 七宝象嵌 Sippou Fuchigashira

2020-08-29 | 鍔の歴史
魚尽し図縁頭 七宝象嵌


魚尽し図縁頭 七宝象嵌

 海野生き物を題に得た作品を紹介しているつもりであったが、自然が対象とは言えそうもなく、ちょっと方向性が違っているような気もする。この縁頭は、七宝技術を用いた魚。鯛やゆであがった蛸などは赤色系の七宝。うまいことやるなあといった印象。鯛の背後には笹であろうか植物が敷かれており、自然世界の景色ではない。魚の図柄というと、魚屋の店先、或いは獲物といった表現とされるのが面白い。

エイに河豚図目貫 文雄 Fumio Menuki

2020-08-28 | 鍔の歴史
エイに河豚図目貫 文雄 エイに河豚図目貫 文雄   桂野文雄の作。エイをそのまま捉えているのも面白いのだが、河豚もまた赤文一門らしい彫口で個性的。やはり皮質感に特徴がある。鑚の切り込み方が見どころで、これによる微妙な凹凸が生じ、皮質感となっている。

河豚図小柄 春明(三窓印) Haruaki Kozuka

2020-08-27 | 鍔の歴史
河豚図小柄 春明(三窓印)


河豚図小柄 春明(三窓印)

 見事な河豚だ。季節の梅花を添えており、どう見ても料理に出される魚という視点。しかし、デザインがいい。彫口がいい。まだパクパクと口をあけている様子を見事に捉えており、目玉も光沢が強く、今にも動き出しそうだ。

魚尽し図縁頭 東嶽子政常 Masatsune Fuchigashira

2020-08-24 | 鍔の歴史
魚尽し図縁頭 東嶽子政常


魚尽し図縁頭 東嶽子政常

 石黒政常の作。石黒というと花鳥図を正確な描写で表現するを得意としたが、この縁頭を見ると、魚類も見事な彫口で特徴を捉えている。高彫の彫り際がくっきりと立っているように量感がある。烏賊の銀を活かした表現、フグの丸みのある様子、手長エビであろうか、躍るような身体の様子も見事。皮質感、色絵の処方も感動的。

白魚図目貫 景政 Kagemasa Menuki

2020-08-22 | 鍔の歴史
白魚図目貫 景政


白魚図目貫 景政

 銀の色合いを活かした作品。本来の透明感のある白魚を、金属で見事に再現している。もちろん透明な身体の再現などできるはずもないのだが、透明感という風合いを見事に再現しているのだ。景政は東龍斎派の金工。


白魚図鐔 正甫

 武藤正甫は岩本昆寛の門人。

魚尽し揃金具 天野義随 Gizui Tsuba

2020-08-20 | 鍔の歴史
魚尽し揃金具 天野義随




魚尽し揃金具 天野義随

鐔、縁頭、鐺の揃い物。魚の背景は笹の葉であるところなどは、どう見ても魚屋の店先であろう。あるいは釣り上げられた獲物といったところ。でもこの描写はすごい。彫口が鋭く鏨の痕跡が強く起っているように感じられ、身体に施された微細な点刻なども生命感の源。なんといっても、目の描写に個性がある。目玉の周りから目玉の色絵、青貝を使っているところも見逃せない。本作は、海老図目貫と蟹図小柄を採り合わせ、脇差拵とされている。□


魚尽し図鐔 如竹 Jochiku Tsuba

2020-08-19 | 鍔の歴史
魚尽し図鐔 如竹


魚尽し図鐔 如竹

 村上如竹は魚を題材とした作品を多く遺している。だが、先に紹介した政随の蛸壺図や安親の蟹図縁頭とは異なり、魚屋の店先に並んでいる魚、といった風情だ。装剣小道具では、自然界の様子の他にも、四季の食卓を彩る魚としての題材も多い。如竹に特徴的なのは、目玉に青貝を象嵌する手法を採り入れているところで、その風合いは生命感の描写にもつながっており、他の金工にも影響を与えたようだ。この鐔のように縦に刻んだ地模様も如竹に特徴的な手法。

蟹図縁頭 安親 Yasuchika Fuchigashira

2020-08-19 | 鍔の歴史
蟹図縁頭 安親


蟹図縁頭 安親

 真鍮地や素銅地を石目地に仕上げ、高彫色絵で水辺の生き物を彫り描いた作。何でもない風景だが、安親の心情が表されている。安親は、こうした小さな生き物を得意としていた。庄内在住の頃に製作した蟻図縁は、精巧で見事な出来と言われている。

蛸壺図縁頭 政随 Shozui Fuchigashira

2020-08-18 | 鍔の歴史
蛸壺図縁頭 政随


蛸壺図縁頭 政随

 縁頭の縁に磯の波を、頭そのものを蛸壺として表現し、その割れ目から這い出す蛸の様子を彫り描いた、面白い図柄。頭を蛸壺としてしまうところなどユニークであり、表面に付着するフジツボなどの生き物の痕跡もいい感じだ。手足を出す蛸だが、頭の一部を覗かせているのも巧みな構成。自然界の生き物をちょこっと覗いてみた景色。鉄地高彫象嵌。

足長図小柄 春則 Harunori Kozuka

2020-08-17 | 鍔の歴史
足長図小柄 春則


足長図小柄 春則

 「ああどうしたらいいんだろう」悪魔にとりつかれて身動きできず、天を仰いで神の助けを待っているといったところか。表情がいい。同じ図でも政随の驚いたような顔とは異なっている。南蛮人は蛸を食わない、だったかと思う。そのような知識は作者にもあったのだろう、あんな恐ろしい生き物を口にするなど考えられなかった、と作者は見ているようだ。まだ見ぬ世界の人々への興味が主題だ。蛸の描写が生々しくていい。春則は浜野派の金工。

足長図小柄 政随 Shozui Tsuba

2020-08-13 | 鍔の歴史
足長図小柄 政随


足長図小柄 政随

 異国趣味の漂う作品を紹介している。「手長足長」という想像の世界の人があった。足の長い人が手の長い人を背負い、海辺で漁をする図である。古い伝説にあるのだが、装剣小道具には度々見る機会がある。異国への憧れがこのような伝説の背景にあることは間違いない。この小柄では足長のみが描かれている。足長の足に絡みついた蛸。足が長い分、手が短いため、手長の助けがなくては蛸を獲ることができない。何とも滑稽な雰囲気の、面白い図柄である。