鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

巣籠鶴図鐔 西垣勘平 Kanpei Tsuba

2014-01-31 | 
巣籠鶴図鐔 西垣勘平


巣籠鶴図鐔 銘西垣勘平作

 先に紹介した忠重の鐔と同じ意匠だが、ちょっと違った表現の作。鉄地に松樹を覆うように翼を広げた鶴を配し、松樹に金の布目象嵌を加えて情感を高めている。この鐔の風合いは肥後の特質。先の赤坂忠重もまた、肥後鐔に学んでいるのである。まさに陰陽に処理された図案の面白さだが、単純な切り絵とは異なって、透かしの切り口に生じた自然味のある凹凸が、鉄の素材や錆から生じたものであり、もちろん製作されて三百年以上を経たが故の鉄の魅力もあり、興味のポイントは一様ではない。75.2ミリ。

巣籠鶴図鐔 忠重 Tadashige Tsuba

2014-01-30 | 
巣籠鶴図鐔 忠重


巣籠鶴図鐔 銘忠重作

 江戸時代中期の赤坂派を代表する名工、忠重の力強い鉄地に透かしを巧みにした作。松樹の上において翼を広げている様子を、大きく意匠して心象的風景としている。線描と透かしの曲線からなる陰陽の図柄は味わい格別のものがある。

鶴亀蓬莱図鐔 遊洛斎赤文 Sekibun Tsuba

2014-01-29 | 
鶴亀蓬莱図鐔 遊洛斎赤文


鶴亀蓬莱図鐔 銘遊洛斎赤文老人

 鉄地を変わり形に造り込み、大きく翼を広げる鶴、その下には松樹があり、さらに亀がいる。松樹だけではない、竹に梅が配されており、松竹梅。櫃穴は赤銅で埋められており、毛彫で宝文様が彫り表わされている。これでもかと言うほど、全面がお正月らしさに包まれている。ここでの、鶴が鐔の上部に意匠される構成は素敵だ。鉄地高彫に金、素銅、山銅、赤銅などの色金を巧みに使い分けて表現している。


鶴亀蓬莱図目貫 京後藤 Kyo-Goto Menuki

2014-01-28 | 目貫
鶴亀蓬莱図目貫 京後藤



鶴亀蓬莱図目貫 無銘京後藤

 お正月に飾られる蓬莱を意味する図柄。松と竹は冬でも緑を失わないことから尊ばれ、殊に松は長寿の象徴とされている。桃山時代の後藤分家の作と極められている豪壮華麗な目貫。金無垢地を打ち出してふっくらとした造り込みとしている。松に鶴は、我が国の自然観を良く映し出した組み合わせとも言える。


鶴亀蓬莱図目貫 無銘美濃

 美濃彫の特徴が良く現れた作。ふくらと打ち出し強く彫り出し、図柄の背景を透かし貫いて主題を明確にしている。明るく鮮やかな上質の金無垢地になる造り込みも華やかで正月らしい。一月も終わりころに正月の図になってしまったが、ご容赦願いたい。


人間万事塞翁が馬図小柄 船田一琴義長 Ikkin Kozuka

2014-01-27 | 小柄
人間万事塞翁が馬図小柄 船田一琴義長



人間万事塞翁が馬図小柄 銘船田一琴義長(花押)

 素銅地に金と赤銅の平象嵌、わずかな毛彫で表した作品。後藤一乗一門の巧者船田一琴の軽やかな手法になる小柄。手綱を切って逃れた馬の行方を眺め、悪きことあればよきこともあろうと、目の前で起きたことにとどまらない思考をめぐらせる。
 さて、今年はどのような一年になるのでしょうか。もちろん最も分り易く、しかも目の前に控えているのは消費税増税ですが・・・、その後にあるであろう良い動きを期待したいと考えたいと思います。


瓢箪から駒図鐔 越前住記内 Kinai Tsuba

2014-01-25 | 
瓢箪から駒図鐔 越前住記内


瓢箪から駒図鐔 銘越前住記内

 諺を題に得、棚にぶら下がる瓢箪の様子を大きく捉えて表現した作。文様風表現であり、心象的でもある。記内派は様々な題を得て鉄地肉彫手法で鐔を製作している。

秋草に馬図大小縁頭 美濃 Mino Fuchigashira

2014-01-24 | 縁頭
秋草に馬図大小縁頭 美濃


秋草に馬図大小縁頭 無銘美濃

 桃山から江戸初期の美濃の風情を漂わせている縁頭。美濃彫の典型的深彫表現になる作で、図柄も秋草を大きく採ってこれを背景に馬を点在させた文様風の意匠構成。秋草と馬の大きさのバランスが異様だが、これが美濃彫に多く見られる意匠である。秋草に鹿、秋草に兎でも同様であり、即ち文様表現である。とは言え、身体に比して脚が太くがっしりとした姿。面白い。

放馬図鐔 江川利秀 Toshihide Tsuba

2014-01-23 | 
放馬図鐔 江川利秀


放馬図鐔 銘武州江戸住江川利秀(花押)

 銘文はさらに「備州長舩祐直鍛之」と刻されており、備前刀工祐直の鍛えた地鉄に利秀が彫刻を施したことが分る。このような作例は、江戸時代後期に間々みることができる。利秀は、横谷の系流の利政の門人。地は鉄地で、横谷流の量感のある高彫に表現されている。84ミリ

繋ぎ馬透図鐔 武州 Busyu Tsuba

2014-01-22 | 
繋ぎ馬透図鐔 武州


繋ぎ馬透図鐔 無銘武州鐔工

 鉄地を切り絵のように巧みな陰影で表現している。武州鐔工としたが、赤尾派や赤坂派がこのようなすっきりとした透鐔を遺している。毛彫を加えなくても充分に馬であることは理解できるのだが、完全な切り絵ではなく、要所に肉彫と毛彫を加えて魅力ある鐔面を創出している。73ミリ

蜘蛛に馬図縁頭 遊洛斎赤文 Sekibun Fuchigashira

2014-01-21 | 縁頭
蜘蛛に馬図縁頭 遊洛斎赤文

 
蜘蛛に馬図縁頭 銘遊洛斎赤文

 片切彫による赤文の馬の図。古歌に「くもの糸に荒れたる駒はつなぐともふた道かくる人は頼まじ」があるそうだが、さて、この意味を縁頭に表現したものであろうか…。素銅地を巧みにし、銀の細い平象嵌を加えて蜘蛛の糸を表わし、駒は片切彫で動きがある。

檀渓渡河図鐔 浜野直随 Naoyuki Tsuba

2014-01-20 | 
檀渓渡河図鐔 浜野直随


檀渓渡河図鐔 銘浜野直随(花押)

 三国志演義に取材したもので、直随が得意とした図柄。荒れ狂う檀渓の渡河を決行した劉備の意志、それを現実のものとした劉備愛馬の的盧が主題。朧銀地高彫に力強い鏨を切り込み、その痕跡を活かした作風。的盧は鐔の表裏に亘って描かれている。その目線は、対岸のさらにその遠く聳える山並みに向けられているのであろうか。71.2ミリ

放馬図縁頭 中村正次 Masatsugu 

2014-01-18 | 
放馬図縁頭 中村正次


放馬図縁頭 銘中村正次(花押)

 中村正次は野村家の門人で、後に野村正道の養子となり、その五代目を襲った、蜂須賀家の御抱工金工。洗練された高彫は後藤の流れを汲むものだが、後藤らしさを感じさせない優しさが窺いとれる。美しい作品である。





放馬図鐔 銘モト廣(花押)

この銘をモト廣と読んで良いのであろうか、系統の不明な金工。表裏にわたって五頭の馬が快活に描かれている。

放馬図鐔 愛壽 Aitoshi Tsuba

2014-01-17 | 
放馬図鐔 愛壽


放馬図鐔 銘愛壽

 愛壽は会津正阿弥派の林政光、正光と同人。鉄地を得意とする高彫手法で山水の一場面として描き、これを背景に小川のほとりに佇む馬と野に伏す牛を表裏に描き分けている。魚子地一色を背景に馬のみを描いた作が多い中で、このように状況が描かれると、親しみやすく感じられるのは当然だ。牛と馬を対比させているのだが、光乗の目貫とは、印象が全く異なっているのは面白い。作風の違いだけでなく、画題を採る根拠としているところが異なるのである。


十二支図鐔 貞隣 Sadachika Tsuba

2014-01-16 | 
十二支図鐔 貞隣


十二支図鐔 銘貞隣(花押)

 赤銅一色に目玉のみ金色絵で高彫表現された鐔。十二支を六つずつ表裏に分けるのではなく五と七に分けているところに陰陽の意識が窺いとれる。このように、江戸時代には普通に陰陽の意識が備わっていた。綺麗な高彫表現である。馬だけでなく各々の動物の特徴が良く捉えられている。貞隣(読みはサダチカであろうか)は横谷の流れを汲む大森派の工。70.4ミリ

競馬図目貫 石黒政常 Masatsune Menuki

2014-01-15 | 目貫
競馬図目貫 石黒政常



競馬図目貫 銘石黒政常(花押) 

 競馬と書いてくらべうまと読む。早駆けの競争には違いないのだが、端午節句に関わる行事の一つ。男の節句と言われるように、古の節句では石投げの合戦やペーロンなど競い合う行事が多い。いずれも子供が健やかに成長することを願ったもの。石黒政常は加藤直常と柳川直政に学んで横谷風の精巧な作品を製作し、殊に花鳥図で独創世界を展開したことは良く知られている。この目貫は後藤風を倣ったものだが、色絵を濃密に施す点は町彫りの極み。石黒らしい華やかな作となっている。馬の斑文を金と銀の平象嵌で表しているので、先に紹介した祐乗の笄などと比較されたい。