鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

波に貝図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2013-09-30 | 
波に貝図鐔 古金工


波に貝図鐔 無銘古金工

 短刀、小脇差用の鐔。古典的な文様表現であり、拵に装着しては、耳の周囲はわずかに見える程度の小鐔であるにも関わらず風格が感じられる。高彫された波の肉取りがゆったりとしていて、巧みである。もちろん文様としての波だが、波と波の間の太い筋状の彫り込みは古く感じられるが、波頭の崩れ落ちる様子などには微妙に重なる要素を加えており、かなり上手の工の作と推考される。切羽台の茎穴周囲を彫り込んでいるのは、実用において、刀身‐鐔‐柄という構成上、言わば緩衝機能を持たせているものと考えられ、間々見られる構造でもある。

波文図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2013-09-28 | 
波文図鐔 古金工


波文図鐔 無銘古金工

 山銅地、奇抜な八木瓜形で、切込み深く異様な印象がある。桃山頃の婆娑羅好みの武将の需であったと思われる。文様は古風な青海波に似た文様を毛彫で描き、所々に立波を配している。さらに加えているのが銀の点象嵌。波しぶきを意味しているのであろうが、これが時を経て銀の滲みとなっている。

波文図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2013-09-27 | 
波文図鐔 古金工


波文図鐔 無銘古金工

 表裏の波の意匠を違えた作。先に紹介した真鍮地の波文鐔も表裏の意匠が違っていた。赤銅一色の高彫で、綺麗に揃った線が魅力。表裏の違いは波の重なりの様子に現れており、違いによって騒がしさが一生際立っているように感じられる。巧みだと思う。櫃穴も大きくとり、常とは異なる形状であり、桃山頃の異風好みの武将の注文であろうか。

蜘蛛図笄 後藤乗真 Joshin Kougai

2013-09-26 | 
蜘蛛図笄 後藤乗真



蜘蛛図笄 無銘後藤乗真

 後藤宗家三代乗真の作と極められた、葉を利用して川を下る蜘蛛を表現した笄。蜘蛛は智恵のある虫と考えられて好まれており、図に採られた例も多い。波は象徴的な表現であり、古金工の鐔で見たように文様的な描法。この図における水は大きな意味を持つも、主題はこれらを利用する蜘蛛に他ならない。表現は簡潔であり、しかも図の本意が伝わらねば意味がない。

波に芦図笄 古金工 Kokinko Kogai

2013-09-25 | 
波に芦図笄 古金工



波に芦図笄 古金工

 荒れ狂う川面を表現したものであろう、大地に根を張る芦も流されまいとしているようだ。崩れ落ちる波は川瀬の岩にぶつかって飛び散っている様子であろうか異風で面白い。その下には細い毛彫で渦巻き状に波が描かれている。いずれも高彫で、金色絵の痕跡が残されている。背景は魚子地であり、これらの図の中での波は主題の一つ、大きな意味を持つものである。単なる荒れた川瀬の風景を捉えたものではなく、強い意味が背景に隠されている。

唐花波紋図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2013-09-24 | 
唐花波紋図鐔 古金工


唐花波紋図鐔 古金工

 耳のみに波文を施した鐔も比較的多い。この鐔では、平地部分の異風な唐草唐花と波との関連性は全くないのだろうか、単に波を装飾として捉えているだけだろうか、騒がしいほどに動きのある唐花の文様と波とが調和しており、違和感がない。そこで仔細に観察すると、唐花は水草の菱の意匠ではなかろうかと思える。ならば波も頷ける。高彫金色絵。天地に渦巻く波を意匠しており、そのせめぎ合う表現も巧み。

波図小柄 古金工 Kokinko Kozuka

2013-09-21 | 小柄
波図小柄 古金工


波図小柄 古金工

 山銅地にゆったりとした波を彫り描いた作。寄せる波、ぶつかり合う波は、後の刃文構成の一つでもある濤瀾乱(江戸時代前期の大坂刀工津田助廣創案)に似ているというわけではないが、濤瀾乱刃を想わせよう。立波が連続する背後には渦巻きを施しており、それが凄みを感じさせている。ちよっと面白い図である。

波文図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2013-09-20 | 
波文図鐔 古金工


波文図鐔 古金工

 丸形の真鍮地の切羽あたりを方形に仕立て、その周囲に高彫と鋤彫で波文を廻らした構図。自らが立つ大地の周囲すべてが荒海であるかのような印象。しかも激しく波立つ様子は嵐のそれであり、目が廻りそうなほどに動的であり、面白い。もう一つ興味深いのは、表裏の波の構図が違っている点。表は比較的ゆったりとした構成だが、裏面は波頭も次々と寄せ来るようだ。78.6ミリ。

波に枝菊図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2013-09-18 | 
波に枝菊図鐔 古金工


波に枝菊図鐔 古金工

 枝菊を主題として菊水を想わせる意匠構成だが、背後の波を見てほしい。先に紹介した波図鐔と同じような手法で高彫し、波には金色絵を加えずに菊の背景、地文としての立場を徹底している。全面に施された波の間に立つ波は、ここでは連続した構成。波頭が右から左へ、あるいは左から右へと、続いている様子が文様表現されているのである。波の表面にさらに細い毛彫で波と渦巻きを施しているのも先の波図と同じで、この点は波文の基礎とも言えようか。77ミリ。

波文図鐔 古金工 Tsuba

2013-09-17 | 
波文図鐔 古金工


波文図鐔 古金工

 赤銅地全面に渦巻く波と崩れ落ちる波頭を描き、文様としながらも波のみで装飾としている。波そのものが主題であり、特に動感豊かな空間演出は好まれるところである。各々の波の境界部分に深い筋彫りを加えて波を際立たせている。全体に散らし配されている飛沫は丸状の高彫に金色絵、立波部分も金の色絵。


波に壷透図鐔 Tsuba

2013-09-14 | 
波に壷透図鐔 


波に壷透図鐔 無銘平田

 製作は江戸時代初期、肥後国平田と極められている。山銅地を質朴な技法で処理し、耳には小田原覆輪を廻らしていることからの極め。ところがこの毛彫の処方を見ると、時代の遡る工法を採り入れていることが想像される。拡大写真を見てもらうと判るように、線描写は決して線ではないのである。奈良時代の仏具などに見られる、蹴り跡を連続させたような点線描法。波の文様は青海波とは異なるものの整っており、波頭の崩れ落ちる様子もなく、大海原を印象付けている。上部には雲。透の壷が意味するところは、目出度い席で演じられることもある謡曲「猩々」、その留守模様。この画題の意味を背景とすると、波は穏やかである方が合っている。73ミリ。□

波に貝図揃金具

2013-09-13 | 鍔の歴史
 比較的古くからある文様の一つとして波文を採りあげる。波文は、唐草文と同様に動きを秘めた文様である。網状に構成される唐草文の先端は、繰り返される生命の存在を暗示し、その蔓草の伸延の様子は時に丸みを帯び、発芽のその様子を先端に感じさせる。絶えることなく繰り返し寄せ来る波も永遠を意識させる自然現象であり、それを文様とした背景には無限に連続する生命への憧れが窺いとれるのである。


波に貝図揃金具


箱根神社伝来曽我五郎所持と伝える腰刀の残欠

 鎌倉時代の曽我五郎が所持したと伝えられる腰刀拵の残欠が、箱根神社に伝来しているという。これについては写真でしか見たことがないので、「実際に見た作品しか解説しない」というこのシリーズの規則から外れてしまうが、これを手本として製作されたと思われる腰刀拵が存在するため、本歌の代わりとしてこれを主に簡単に説明する。
 写真の腰刀拵は、赤木鞘と呼ばれているように下地は赤味のある堅木製で、筒金を柄と栗形辺りに備え、それらに波文が施されているのである。正確には曽我五郎使用と伝う拵を写しているわけではなく、雰囲気が似ていると言うべきで、銀地金具には毛彫で青海波と呼ばれる端整な波文を連続させ、その合間に貝の文様を散らし配している。即ち波は貝の図の地文。本歌は青海波文ではなく濤瀾風で、散らし配されている文様も貝ではなく唐花菱紋である。赤木柄鞘の拵は江戸時代後期の作。遠い昔を想定して再現しているのであり、江戸時代の武家の中でも古作への想いを具象化し、楽しむという意識の持ち主は多かった。加えて、江戸時代後期には復古思想が高まり、古作の再現は拵だけでなく刀身そのものにも向けられたことは良く知られている。




小督仲国図小柄 Kozuka

2013-09-09 | 小柄
小督仲国図小柄


小督仲国図小柄

 とある小さな屋敷に小督の存在を知った仲国は、すぐさま声をかけて天皇の許に戻るべく説得すべきか迷っていた。このまま行方が知れぬこととしておいた方が互いに幸せであるかもしれぬ。幾度か門扉を押し開けようと試みるが足が動かない・・・。流れている想夫恋は、離れてもなお夫を想う極にほかならず、仲国が思いついたのは自らの横笛を琴に重ね合わせて小督の心を問うことであった。

小督と仲国図目貫 Menuki

2013-09-07 | 目貫
小督と仲国図目貫


小督と仲国図目貫

 小督と仲国の対で表現されることが多く、この目貫は両者を意味する道具を描いて留守模様とした作。琴を得意としたのが小督、仲国は笛を得意とした。とある鄙びた村で、雅な琴の音を耳にした仲光は、その曲が小督の奏でる想夫恋であることに気づき、殊に合わせて自らも笛の調子を合わせたのであった・・・。
 金無垢地を容彫にし、赤銅の色金を巧みに加えて荘厳なる金地に変化を与えている。
 もう一点の目貫は、同図を金無垢地一色で表した物。この作例のように定型化した図柄であり、広く好まれていた図柄であることが理解されよう。


小督と仲国図鐔 Tsuba

2013-09-06 | 
小督と仲国図鐔


小督と仲国図鐔

 平安時代の雅なる世界観を表現している作で比較的多いのがこの図。『平家物語』に取材したもの。傀儡のごとく平家の管理下にあった高倉天皇。その天皇に寵愛されていた小督は、自らの存在が天皇の不利となると考えて出奔した。その行く先を探し出すよう命じられたのが仲国であった。行く当てもなく途方に暮れ、一人得意の笛を奏でる仲国。