鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

文様図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2014-10-31 | 鍔の歴史
文様図鐔 古金工


文様図鐔 古金工

 時代の上がる魚子地の例。刀身と拵が如何なる様式であったものか、頗る興味深い作。素銅地に簡潔な毛彫と透かし、魚子地は古拙であり面白い。時代の上がる仏具の彫刻手法をみているようだ。魚子が整然としていない。打ち込み処理によるものであろうが、魚子の表面が丸みを帯びていない。魚子同士が重なり合っている部分があり、これによって石目地のようにも見える。魚子を打った後に毛彫しているようだ。いろいろなことが見えてくる。
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紅葉に鹿図鐔 加賀 Kaga Tsuba

2014-10-30 | 鍔の歴史
紅葉に鹿図鐔 加賀


紅葉に鹿図鐔 加賀

 加賀金工の手になる平象嵌を駆使した作。加賀には微細な石目地などで平滑に仕上げた地面に繊細な平象嵌を施した作があり、加賀象嵌とも呼ばれている。ここでは、鹿を高彫平象嵌で表し、裏面の紅葉を金、朧銀、素銅の色調を活かした平象嵌に繊細な毛彫で表している。それだけではない。地面に叢に石目地を打ち施すことにより、鹿の背後には秋草を、裏には紅葉の枝をうっすらと浮かび上がらせているのである。その技法は、これまで紹介してきたような腐らかしだけではなく、微細な石目地をも加えており、効果をより繊細なものとしている。金工作品に描かれている主題の背景など施す装飾は、古くは魚子地などがあり、次第に多彩な石目地が採り入れられるようになる。

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雨龍図鍔 甚吾 Jingo Tsuba

2014-10-29 | 鍔の歴史
雨龍図鍔 甚吾


雨龍図鍔 甚吾

 もちろん鉄地にも腐らかし手法は活用されている。この鍔は、これまで紹介してきた金工物の腐らかしと全く同じ手法で処理した作。龍の部分のみ腐らかしを逃れて浮かび上がっているのだ。地鉄は斑になって龍神の背後の空気感を演出するには好適。肥後金工甚吾の作と極められている。
 この鍔は、裏面をみて判るように、椀状に仕立てられている。鞘口を椀で覆うことにより、鞘にほこりや雨が入らないようにと考えられたものではないだろうか。ここではさらに八角形に造りこんでいる。八は全宇宙を暗示する数字。こうして眺めてみると、半球状に仕立てているのは、椀鍔としての利用価値以外に大きな意味が潜んでいるようにも感じられる。
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桐図鐔 肥後 Higo Tsuba

2014-10-28 | 鍔の歴史
桐図鐔 肥後


桐図鐔 肥後

 赤銅地の表面を腐らかしの手法で石目地状に仕上げ、腐らかしの処理をしなかった部分で花桐を浮かび上がらせている。鉄錆地のような自然な凹凸が連続しており、赤銅地ながら求めた肌合いは鉄鐔の古作で、赤銅の漆黒と金の小縁が新たな美空間を演出している。左右の大透は扇。耳際を桐の花が長く連なっており、地金の活用と意匠が優れている。
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獅子図鐔 雪山 Setsuzan Tsuba

2014-10-27 | 鍔の歴史
獅子図鐔 雪山


獅子図鐔 雪山(花押)

 先に紹介した高山の弟子が雪山。真鍮地高彫。腐らかしの手法を的確に自作に採り入れている。この雪山が、後に一宮長常と改銘したと伝えられている。後の長常の頃の作風とはずいぶん異なるので、少々戸惑うこともあるだろう。四肢の片切彫部分は腐らかし処理が行われておらず、地面の線にはわずかに腐らかしの痕跡が窺える。雪山は獅子の高彫や片切彫、銘の処理を腐らかしの後に行っているのに対し、高山は片切彫と銘を切った後に腐らかしを施している。もちろん、高山は、波の表面の泡を腐らかしで施し、その激しく乱ている様子を表わしているのである。
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蟹図鐔 高山 Kouzan Tsuba

2014-10-25 | 鍔の歴史
蟹図鐔 高山


蟹図鐔 高山(花押)

 浜に打ち寄せる波が描く自然の文様を演出したものであろう、腐らかしを巧みに蟹の背景に採り入れている。真鍮地高彫色絵象嵌腐らかし。腐らかしを活用したとはいえ、意図したように自由に文様が描けるものではなかろう。先に紹介した肥後金工の唐草文のように文様の形状が唐草という定型化したものであれば分り易いだろう。水飛沫や動く波によって生じた泡などは、写実性と感覚的な文様との間にあって、表現は容易ではないだろう。
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波に龍図鐔 平戸住国重 Kunishige Tsuba

2014-10-24 | 鍔の歴史
波に龍図鐔 平戸住国重


波に龍図鐔 平戸住国重

 真鍮地を腐らかしにし、波や龍の背景に地文を施している。荒れた海、あるいは龍神の背後にある空気感を演出したものであろう、江戸時代には、このように作品に関連させて腐らかしを活用している。この鍔では、切羽台辺りと波の表面だけの処理で、鋤き込んだ地面は鏨による石目地処理、拡大写真では、耳の粗い石目地を含めてその違いは明瞭。平戸国重は、南蛮渡来の金工(南蠻鐔)の作風を手本とし、独自の世界観を表現している。
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家紋図鐔 阿波正阿弥 Awa-shoami Tsuba

2014-10-23 | 鍔の歴史
家紋図鐔 阿波正阿弥


家紋図鐔 阿波正阿弥

色揚げについて。総ての装剣金工作品は色揚げが行われている。色揚げを行われなければ、赤銅も、素銅も、山銅も、朧銀もほとんど見分けがつかないような新鮮な10円玉のような色合いである。金工による秘伝であるところの色揚げ作業により、赤銅は真黒、素銅はくすんだ赤褐色、山銅は黄色を帯びた灰褐色、朧銀は緑色を帯びた灰色となる。作品上に見えている金や銀の色も、実は色揚げによる色調であり、実際はもっと色味に乏しいものである。ただし、色揚げによって色合いが変質しているのはごくごく表面近傍のみである。
筆者がこの世界に入った直後、大きな失敗をした。赤銅の作品の表面の汚れを落とすように社長から指示されたのだが、こするほどに赤銅の黒い色が落ち、ついには赤味を帯びた金属光沢が現れてしまった。その間、社長は何も言わずに筆者の作業を見ていた。社長は筆者に赤銅の性質を体感させるためにこの作業を指示したのであろう。
古い作品も色揚げがされていると考えて良いのだろうか疑問である。だが、赤銅地などは長い間空気中に晒しておくと黒く変化する。空気中の硫黄分と容易に反応する銀などは、瞬く間に黒くなることがある。色揚げとは、こうした自然界で起こる色調の変化を、金工の秘伝によって促進させ、あるいは特徴のある色調へと向かわせることに他ならない。だから、上の家紋図鐔や下の埋忠明壽のこのような作などは、色揚げが施されていなければ絵柄がほとんどわからない。

九年母図鐔 埋忠明壽
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二雅図小柄 一琴 Ikkin Kozuka

2014-10-22 | 鍔の歴史
二雅図小柄 一琴


二雅図小柄 一琴(花押)

 江戸時代後期の金工、船田一琴の作。朧銀の特徴的な肌模様が窺える仕上げ。地面は磨地とも微細な石目地とも判じ得ないような自然味のある平滑な肌である。その表面に、金属組織の様子を明示している。朧銀地は銅と銀の合金で、その混合割合によって色調と皮質感が違って見える。もちろん表面に現れている色調は、作品の最終仕上げである色揚げ作業によってあらわれるもので、この色揚げが行われる前は、新鮮な10円玉と同じような銅の色合いである。金工秘伝の薬品に漬け込んで化学変化を起こさせ、表面に薄い独特の被膜を生じさせる。だから、微妙な組成の違いによって微細な斑文が生じることになる。朧銀地は比較的このような文様が現れやすい合金であるが故、意図的に虎の毛皮文様風に縞状の斑文を表わした作例もある。
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馬図縁頭 遊洛斎赤文 Sekibun Fuchigashira

2014-10-21 | 鍔の歴史
馬図縁頭 遊洛斎赤文


馬図縁頭 遊洛斎赤文

 素銅磨地片切彫毛彫平象嵌。赤文は江戸時代後期に活躍した作者だが、地金は古作を手本としているようだ。先の古金工の笄と同じ地模様が、磨地の表面に観察される。真鍮地でも素銅地でも、地模様が確認できないような緻密な例は多い。偶然に見出した地模様ではあろうが、古くから創造表現の手段として、その肌合いが作品に活かされていたのかもしれない。
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花に千鳥図笄 古金工 Kokinko Kogai

2014-10-20 | 鍔の歴史
花に千鳥図笄 古金工



花に千鳥図笄 古金工

 逆耳に仕立てられた古い形式の笄。江戸時代の耳と刃逆に仕立てられている例が、南北朝時代と推考される作に間々見られることにより、古い形式の一つと考えられている。地金は素銅。仔細に観察すると、表面に金属組織の微細な文様が見える。素銅地総てにあるわけではないが、間々見られる特徴の一つである。混ぜ込まれた金属によるものであろう。これを腐らかしにすると、微細な石目地状の文様が浮かび上がるということだろうか。試してみたいのだが、作品を壊してしまうので出来ない。


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菊花図鐔 Tsuba

2014-10-18 | 鍔の歴史
菊花図鐔


菊花図鐔 

 鉄地肉彫に金銀の布目象嵌を施していることから、古正阿弥の技術を用いた作と鑑られている。だが、作風から肥後金工の手になるものと鑑て良いだろう。図柄も肥後菊を想わせる。このような鉄地肉彫による菊花の表情も面白いのだが、ここでは、耳として廻らされている素銅地の表情を鑑賞したい。腐らかしがほどこされているのであろう、ごくごく自然味のある微細な凹凸が現れている。素材は山銅であろう、渋い色合いであり、表情もいい。
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牡丹唐草文図鐔 平田 Hirata Tsuba

2014-10-17 | 鍔の歴史
牡丹唐草文図鐔 平田


牡丹唐草文図鐔 平田

 西垣に先んじて腐らかしを得意としたのが同じ肥後国の金工平田彦三である。その技術が西垣などに伝えられた。この鐔は山銅地を腐らかしている。これも地肌は石目地状になり、筋状の地模様は見られない。すると、筋状の地肌は真鍮以外には現れることのない模様と考えて良いのだろうか。例えば山銅であっても、含まれている金属や半金属によっては、真鍮のような筋の連続になる地模様が浮かび上がる可能性があると思うのだが。この点は、金属材料を研究している方に、さらなる研究を願いたいところでもある。この鍔では、石目地のように微細な鏨を全面に打ち施したような文様の連続だが、鏨打ち込みによる石目地のように、鏨の形状が揃った風がないところに自然味がある。
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桐桜九曜紋図鐔 西垣 Nishigaki Tsuba

2014-10-15 | 鍔の歴史
桐桜九曜紋図鐔 西垣


桐桜九曜紋図鐔 西垣

 前回の鍔と同様に腐らかしを施すことによって文様を浮かび上がらせた作だが、表面の地模様が真鍮地のものとは少々違って見えると思う。この鐔は素銅地である。文様の周囲を腐らかしによって文様を浮かび上がらせている点は同じだが、腐らかしによる地模様の現れ方が異なっているのだ。鑢目のような線状とはならず、抑揚のある石目地といった風情だ。耳は平滑に仕上げられており、ここに片切彫で唐草文が廻らされている。腐らかしが施されていない耳の部分の地の風合いも記憶しておくと良いかと思う。手法はともかくとして、何とも素敵な作品である。素銅という素材は金銀赤銅に比較して派手ではないが、作品に華が感じられるのである。
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桐桜唐草文図鐔 西垣 Nishigaki Tsuba

2014-10-14 | 鍔の歴史
桐桜唐草文図鐔 西垣


桐桜唐草文図鐔 西垣

 腐らかしの手法で真鍮地の表面に桐文を濃密に散し配した作。これもかつては微細な鑢目を文様の周囲に施すことによって表現したものと考えられていた。文様部分に耐腐蝕性の物質などを塗り、その周囲を腐らかすことによって文様を生じさせたもの。光忠による鐔全面に肌目を表わす手法から、肌目を効果的に処方する技術が生み出されたと考えて良い。



抱杏葉紋図鐔 西垣

 全く同じ手法で文様を浮かび上がらせた作。図柄は異なるが、風合いは同じだ。
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