鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

草廬三顧図鐔 橋部正貞 Masasada Tsuba

2013-04-30 | 
草廬三顧図鐔 橋部正貞


草廬三顧図鐔 橋部正貞寛永七年

 後藤七郎兵衛家二代益乗の門人。一般に後藤家では鐔の製作は少ない。しかも在銘作も少なく、年紀を切った例はさらに少ない。その中で、寛永七年の年紀が切られたこの鐔の価値は計り知れない。そもそも鐔を製作した金工全体を眺めても、江戸時代初期以前にまで時代の上がる作で、信頼できる年紀が切られた鐔はほとんどないのである。
 歴史的価値は、まずは横に置いて、この作品を眺めたい。赤銅魚子地高彫に様々な色絵表現。後藤の作風に間違いない。とは言え、後藤にはない手法も採られている。後藤家に学んだ橋部正貞に注文した武人はいったい誰であろうか、おおいに興味を引くが、分からない。精巧な彫刻で描き分けられた草廬の諸葛孔明、これを訪ね来た劉備一行。その背景となる山中の様子も見事。


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調子の悪かったパソコンが、こわれてしまった。
HDを取り出してデータを回収しようと試みたが、デスクトップに置いたデータのみがない・・・なんて状態。『銀座情報』の原稿もデスクトップで処理していたが故に書き直し。
問題はパソコンの本体ではなさそう。何しろ、Win8に変えてから良いことがない。

檀渓渡河図鐔 浜野直随 Naoyuki Tsuba

2013-04-24 | 
檀渓渡河図鐔 浜野直随


檀渓渡河図鐔 銘 浜野直随(花押)

 先に紹介した鐔と全くの同図。直随の作風は、切り込んだ鏨の力強い痕跡を活かした描法に特徴がある。先の作品に比較して、今回の鐔の鏨の活かし方が、直随の個性。動きのある波の表情も迫力に満ちている。朧銀地高彫金銀赤銅色絵。

檀渓渡河図鐔 浜野直随 Tsuba

2013-04-23 | 
檀渓渡河図鐔 浜野直随


檀渓渡河図鐔 銘 望窓軒浜野直随(印)

 浜野直随はこの場面を好んで描いている。あるいは、この場面が好まれたからであろうか。表に馬上の劉備を、裏にはその後半身を描き分ける構成も鐔ならではのもので画面を大きく使う結果となり迫力がある。朧銀地高彫色絵。直随の生涯は破天荒であったようだ。江戸で金工を学び、甲府、越後などと各地を渡り歩いて弟子を育て、晩年は南信濃の木曽に棲み、最期の地は伊那谷であったようだ。

張飛図縁頭 Fuchigashira

2013-04-22 | 縁頭
張飛図縁頭


張飛図縁頭

 丸顔を包むような髭の様子から、張飛だと思うのだがどうだろうか、携えている清龍刀がない。歌舞伎の一場面を活写したかのように、前方に突き出すてのひらに力が籠り、大きく開いた口、鋭く光る眼玉の表情もいい。朧銀地高彫金銀色絵。

張飛図鐔 玉成堂周治 Chikaharu Tsuba

2013-04-20 | 
張飛図鐔 周治


張飛図鐔 銘 玉成堂周治

清龍刀を盾のようにして周りに睨みを効かせているのが張飛。この前で何やら巻物を読んでいる武将がいる。いかなる場面であろうか、ご存知の方がおられたら教えてほしい。
 鉄地を高彫にし、金銀赤銅の象嵌を加え、迫力ある場面を活写している作。玉成堂周治なる金工については詳らかではない。動きのある人物像を彫り出した本作を見る限りだが、独特の顔つきや表現などに挑んだ独創的な思考の持ち主であると思う。江戸末期であろうか、作品が少ないのは、時代背景によるものであろう。他の作品も見てみたい気がする。

張飛図小柄 Kozuka

2013-04-19 | 小柄
張飛図小柄


張飛図小柄

 髭に包まれた丸い顔。張飛の特徴的な様子だが、…たぶん張飛であろう。大きく開いた口、相手を見据える目玉、大音声で…というその声まで聞こえてきそうな迫力である。朧銀地高彫金銀素銅の色絵。

張飛と関羽図目貫 Menuki

2013-04-18 | 目貫
張飛と関羽図目貫


張飛と関羽図目貫

 金無垢地でしかも正確な構成と精密な彫刻により、迫真に満ち満ちた場面としている。両者の得物の違い、顔、髭、表情の違いなど、直感的にわかる人物像を描き出して見事というほかはない。ただただ感動するばかりである。過去に紹介したことがある、水戸金工の作。

劉備と張飛図目貫 Menuki

2013-04-17 | 目貫
劉備と張飛図目貫


劉備と張飛図目貫

左が張飛で、右が劉備であろう。張飛は顔じゅう髭だらけの印象がある。長い鉾(槍)の使い手として知られる。背に剣を携えており、戦略を練っているのであろうか、場面は分からないが迫力のある作品になっている。保存状態があまり良くなく、黒化している部分が多いのだが、仔細に観察すると、細かで複雑な彫刻を加えているのがわかる。人物の表情もよく描き分けられている。

劉備玄徳と関羽図小柄 Kozuka

2013-04-15 | 小柄
劉備玄徳と関羽図小柄


劉備玄徳と関羽図小柄

 朧銀地に毛彫と平象嵌の手法で、劉備とその背後を守る関羽を描いた小柄。大薙刀のような青龍刀を巧みに操ったのが関羽として描かれることが多い。関羽はまた、長い顎鬚を備えており、怪力の持ち主であるばかりか知将としての印象が強い。
 三国志演義に題を得た作品は特に人気が高い。活劇という印象があり、物語も奇想天外、時に、こんなことないだろうなんて展開も出てくるのだが、それが故に史実とは別にして楽しめるのである。しばらく三国志演義に取材した作品を紹介する。

三国志演義図縁頭 Fuchigashira

2013-04-11 | 縁頭
三国志演義図縁頭


三国志演義図縁頭

 縁には馬上の劉備玄徳、この傍らに立つのは張飛益徳であろうか、頭は諸葛亮孔明、その後ろには青龍刀を持つ関羽雲長・・・で良いのだろうか、三国志演義の登場人物については少々不案内のところがある。みな似たような風体であり、分かりにくい。劉備は唐冠の後ろにあるような左右に垂れるウサギの耳のような飾りをつけた被り物をし、帝位に就いて以降は方形の飾りがある冠を備えている図が多い。
 この場面は、というと・・・これもよく分からない。頭に特徴的な被り物をしている孔明が描かれていることから、『桃園の誓』の場面ではなさそう。赤銅魚子地高彫色絵の手法で、各人物の特徴を良く表す工夫をしている。

樊噲(はんかい)図鐔 Tsuba

2013-04-09 | 
樊噲(はんかい)図鐔


樊噲(はんかい)図鐔

 自らの命を賭けて主の救出に向かう樊噲(はんかい)は、やはり人気があったようで、装剣小道具には比較的多く描かれている。先の張良や韓信のような智謀に長けた策士というより、力任せに突入してゆくところも好感が持たれたのであろうか。鉄地肉彫金布目象嵌。
 透鐔というと、表裏が同じ意匠になる場合が多いのだが、ここでは巧みに背後からの図に仕上げている。

樊噲(はんかい)図小柄 Kozuka

2013-04-08 | 小柄
樊噲(はんかい)図小柄


樊噲(はんかい)図小柄

 盾を抱えて門を打ち破ろうとしている武人が樊噲(はんかい)。先に張良の図で紹介したが、劉邦に与していた樊噲(はんかい)は、鴻門において行われた項羽との会見の場、酒宴の席で劉邦暗殺が目論まれていることを察知して助けに突入、釼を隠し持つ敵将の前に出て、自ら剣を持って踊る…。
 赤銅地高彫金色絵。横長の画面を活かした迫力のある表現である。

韓信股くぐり図目貫 春貫 Harutsura Menuki

2013-04-06 | 目貫
韓信股くぐり図目貫


韓信股くぐり図目貫 春貫

 精巧で緻密な彫刻表現になる青木春貫の目貫。先に鐔を紹介したが、鐔に描かれているのは、鎧に身を包んだ無頼漢の股下をくぐる韓信であったが、この目貫では、街の悪者といった風情であり、これを横で笑って見ているのも市井の老人。この目貫の図のほうがより伝承に近いのではなかろうか、傍らに置かれているのは魚の入った籠であり、物売りを意味している。伝承では無頼漢はを生業とする者とみられている。街中での事件であり、衆人環視という状況は、どれほどの屈辱であったろうか。
 赤銅地を容彫にし、細部まで精密に彫り出し、色絵に金の平象嵌、籠の中の魚まで精巧に彫り出している。

韓信股くぐり図鐔 森直悦

2013-04-05 | 
韓信股くぐり図鐔


韓信股くぐり図鐔 森直悦

 韓信もまた劉邦に仕えた一人。普通考えないであろう川を背にして陣を敷く、「背水の陣」なる奇策を以て強敵を倒した武将、策士である。その、若き頃の逸話を画題として採った例が多い。描かれていように、ひとの股下をくぐるなどという屈辱的な行為を強いられるも、それを耐え忍んだ。
 この鐔は、正確な構成と精巧で緻密な鏨使いにより、朧銀地高彫色絵に表現している。