鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

筒井筒図縁頭 夏雄

2023-05-31 | 鍔の歴史

筒井筒図縁頭 夏雄

 

恋物語である『伊勢物語』に取材した一首。幼馴染の恋歌だが・・・

 

男 「筒井筒井筒にかけしまろがたけ 過ぎにけらしな妹見ざるまに]

 

女 「比べ来し振り分け髪も肩過ぎぬ 君ならずして誰か上ぐべき」

 

金工作品としては余りにも有名であることから、敢えて説明しないでおこう。

 


桜に雉図小柄 堀江興成

2023-05-30 | 鍔の歴史

桜に雉図小柄 堀江興成

 

藤原定家自選歌集『拾遺愚草』に取材。二

花鳥十二ヶ月図揃い小柄より二月

 

花 「かざしをる道行く人のたもとまで 桜に匂うきさらぎの空」

 

鳥 「かり人のかすみにたどる春の日を つまどふ雉のこゑにたるらん」

 


藤壺に雲雀図小柄 堀江興成

2023-05-29 | 鍔の歴史

藤壺に雲雀図小柄 堀江興成

 

藤原定家自選歌集『拾遺愚草』に取材。

花鳥十二ヶ月図揃い小柄より三月

 

花 「ゆく春のかたみとやさく藤の花 そをだに後の色のゆかりに」

 

鳥 「すみれさくひばりの床にやどかりて 野をなつかしみくらす春かな」

 


三夕図小柄

2023-05-28 | 鍔の歴史

三夕図小柄

 

『新古今和歌集』に取材した、夕暮れ時を描いた小柄。

寂蓮「さびしさは其の色としもなかりけり まき立つ山の秋の夕暮」

西行「心なき身にもあはれはしられけり 鴫立つ沢の秋の夕暮」

藤原定家「み渡せば花ももみぢもなかりけり 浦の苫屋の秋の夕ぐれ」


江ノ島図縁頭 二題

2023-05-27 | 鍔の歴史

江ノ島図縁頭 

 

江戸時代には観光地として隆盛した江ノ島。古くは鴨長明も詠んでいる。

「浦近き砥上ヶ原に駒止めて 固瀬の川の潮干をぞ待」『鴨長明集』

今はビルが建ち並んで見えないが、龍口寺門前の砂丘辺りから眺めた江ノ島。

 

 

 


柿本人麻呂図目貫

2023-05-26 | 鍔の歴史

柿本人麻呂図目貫 

 

「ほのぼのとあかしの浦の朝霧に 島がくれゆく舟をしぞ思ふ」

柿本人麻呂作と伝える和歌の一つで、装剣小道具では好んで採られた画題。絵画にも採られて有名。多くが人麻呂像と明石の海原を対比の構成とする。


武蔵野図鐔 三題

2023-05-25 | 鍔の歴史

武蔵野図鐔 三題

 

『続古今和歌集』に、源通方の「武蔵野は月の入るべき峯もなし 尾花が末にかかる白雲」がある。これを本歌とりに、江戸時代につくられたのが「武蔵野は月の入るべき山もなし 草より出でて草にこそ入れ」

すすき野に沈む月を描いた作品が間々みられ、この図が大いに好まれたことが判る。古くからの東国の印象を、江戸時代においてもこのように表現していたのは面白い。

起伏のないススキ原といった景色を想定しているようだ。朧銀地に銀の平象嵌で三日月を描き、ススキは片切彫。図の下端に月を描いている。

亀眼の鐔は鉄地高彫、満月を同様に下方に描いている。

友直の鐔はススキのみの描写のようだが、鐔の外形が満月。耳に金覆輪を施して月の印象を高めている。

 


富士見業平図鐔 額川保則

2023-05-24 | 鍔の歴史

富士見業平図鐔 

 

『伊勢物語』の東下りから。

富岳を越えると異国。富士を眺める貴人(業平)の都への想い。

「時しらぬ山は富士のねいつとてか 鹿の子まだらに雪のふるらん」

 

『伊勢物語』は悲恋物語。壊れたハートを癒すために出た東国への旅だが、業平は都への想いをいっそう深めている。

この図もあまりにも有名であり、幾つかの作品を見ている。

 

 


蔦の細道図鐔 鵜飼清好

2023-05-23 | 鍔の歴史

蔦の細道図鐔 鵜飼清好

 

『伊勢物語』より。

「駿河なる宇津の山辺の現にも 夢にも人に逢はぬなりけり」

東国へと向かう在原業平が、宇津ノ谷峠(蔦の細道)を越える際に詠んだ歌。

蔦藪の茂る寂しい道を東国へと向かう。京への思いを深める作者だが、後の武士がなぜこの図を装剣小道具に採ったのだろう。

人物が描かれていない留守模様とされているのが気持ちいい。

 

 


八橋図鐔 京透

2023-05-22 | 鍔の歴史

八橋図鐔 京透

 

「唐衣着つつなれにしつましあれば はるばる来ぬる旅をしぞ思ふ」

『伊勢物語』より、在原業平が詠んだとされる和歌。この「かきつばた」を詠み込んだ、あまりにも有名な図。様々な文様にも表現されている。

ここでは写実味のある彫口の小柄と、簡潔な文様表現とされた京透の鐔を紹介する。

文様表現ながら八ッ橋が描かれている。

赤銅魚子地高彫金銀色絵の技法で写実味のある表現。

ただし八ッ橋は描かれていない。

 


芥川図目貫

2023-05-21 | 鍔の歴史

芥川図目貫

 

むかし男ありけり・・・と始まる『伊勢物語』。在原業平が昔を思い出して歌に詠んだものであろうか。喪失感の漂う一首である。

「白玉か何ぞと人の問ひし時 露と答へて消えなましものを」

目貫の図は、男が女を奪って逃げる場面。後に捕らえられてしまうのだが・・・なぜこの図を装剣小道具の図に採ったのであろうか、こちらの方も興味深い。

 


塩山千鳥図縁頭 義胤

2023-05-20 | 鍔の歴史

塩山千鳥図縁頭 義胤

 

松に千鳥の図を塩山(しおのやま)図と呼んでいる。蒔絵の文箱などの作例もある。

「しほの山のさしでの磯にすむ千鳥 君がみよをばやちよとぞなく」の和歌も良く知られている。

詠まれた地は現在の山梨県山梨市。笛吹川の畔にある差出磯大嶽山神社の辺り。

義胤 鉄地高彫

奈良利治 鉄地高彫

 

 


卯花に郭公(ほととぎす)図小柄 堀江興成

2023-05-19 | 鍔の歴史

卯花に郭公(ほととぎす)図小柄 堀江興成

 

藤原定家自選歌集『拾遺愚草』に取材。

花鳥十二ヶ月図揃い小柄より四月

 

花 白妙のころもほすてふ夏のきて かきねもたわにさける卯花

 

鳥 郭公しのぶの里にさとねれよ まだ卯の花のさ月待つ比


紅葉に鹿図鐔 正阿弥

2023-05-17 | 鍔の歴史

紅葉に鹿図鐔 正阿弥

 

詠み人知らずながら、遍く知られている和歌であり、装剣小道具にも良く採られている。

「奥山に紅棄ふみわけ鳴く鹿の 声きく時ぞ秋は悲しき」

 

正阿弥

鉄地に古風な素銅と赤銅の色合いを活かした象嵌。保存 10万円

加賀金工

この深まった秋の風情を、赤銅地に平象嵌と表面の腐らかしで、表現している。