鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

釣り人図小柄 後藤光侶 Mitsutomo-Goto Kozuka

2012-07-31 | 鍔の歴史
釣り人図小柄 (鍔の歴史)



釣り人図小柄 銘 後藤光侶(花押)

 後藤宗家十代廉乗光侶は八代即乗の四男。若くして父が死んだため、九代程乗に学んで宗家の家督を継いだ。人物描写を得意としたものであろうか、後藤の伝統的な図柄に加えて人物の登場する画題が間々みられる。この釣り人図もそのような作。後藤家には恵比寿を題に得た作がある。岩上で釣り糸を垂れる図、舟上で鯛を釣り上げた図などで、いずれも福徳願望の意識を背景とした七福神思想に関連している。
 だがこの図は漁師。釣り上げようとしているのも鯛ではなさそうだ。後藤家には、浜辺で網を引く漁師の図などもあり、他の職人を題に得た図と同様、同時代を記録したものとして興味も一入である。赤銅魚子地に高彫金銀色絵。波を古典的な波とせず、大きく寄せる構成としている。

虎の子渡し図小柄 紋程乗 Teijo-Goto Kozuka

2012-07-30 | 鍔の歴史
虎の子渡し図小柄 (鍔の歴史)



虎の子渡し図小柄 銘 紋程乗 光美(花押)

 この図も禅に通じるものと考えられている。赤銅魚子地高彫金色絵。荒れる川を、わが子を背負って渡る虎の姿を伝統的な彫刻手法で表現した作。虎の容姿、波の構成、高彫の量感、鏨を効かせた表面処理、金地に赤銅の平象嵌などなど総てにおいて後藤である。十五代光美の極め。

誰が袖図小柄 紋程乗 Teijo-Goto Kozuka

2012-07-28 | 鍔の歴史
誰が袖図小柄 (鍔の歴史)



誰が袖図小柄 銘 紋程乗 光晃(花押)

 『源氏物語』を想わせる雅な図である。留守文様のような暗示ものも多く製作されている。細部にわたって精巧で精密な彫刻、金平象嵌を用いて華麗に表現しており、加賀前田家に仕えた際の創造性は、宗家として製作した作品においても示されたことであろう。
 程乗作と確実視されている鐔は極めて少ない。この点は他の後藤家の工と同様だ。加賀においては、作者不詳の加賀後藤と呼ばれるような後藤の風情を漂わせて、しかも豪壮で華麗な鐔が遺されており、これらの製作に程乗などが直接関わっているのではないだろうかと想像する方も多いのではないだろうか。

鏃図小柄 程乗作 Teijo-Goto Kozuka

2012-07-27 | 鍔の歴史
鏃図小柄 (鍔の歴史)



鏃図小柄 銘 程乗作 光壽(花押)

 鏃としたが、手裏剣ではないかという意見もある。尻のほうが捻じれているのは、真直ぐに飛ばすために回転させるもの。面白い図柄である。このような道具を題に得たものは古後藤と呼ばれる桃山時代以前からある。同時代に用いられた道具で、現在存在しないものがけっこう多く、図柄を分かり難くしている。どちらにせよ、武具を題とした図が製作されるのは、時代が降っても同じようだ。

布袋図小柄 程乗 Teijo-Goto Kozuka

2012-07-26 | 鍔の歴史
布袋図小柄 (鍔の歴史)



布袋図小柄 銘 程乗作 光壽(花押)

 大きな袋を枕にして天を仰ぎ見る布袋の姿には自然体が窺いとれる。そのようなおおらかさがある一方で、手にしているのは宝珠に他ならず、左に布置されている金色絵された杖の存在感も強く、堂々として貫禄ある画面とされている。江戸時代も下って次第に世の中も安定しており、武骨の中に妙を見出す作品より、乱を意識させずに武士の存在を示しているような作品が製作されているように感じられる。この頃には画題も多彩になっている。この小柄は、赤銅魚子地に高彫色絵された、後藤家らしい作行きで、彫刻技術は高く、絵画的構成も特に優れている。名品である。十一代光壽が極めた程乗作。□

四睡図小柄 程乗 廉乗 光壽 Teijo-Goto

2012-07-25 | 鍔の歴史
四睡図小柄 (鍔の歴史)



四睡図小柄 銘 豊干 程乗(花押) 寒山 廉乗(花押) 拾得 光壽(花押)

 銘の示している通り、三者の合作である。赤銅魚子地金高彫据紋。禅の教えを意味するこの図は江戸時代に好まれたとみえ、多くの金工が遺している。禅の流行から禅僧を描いた作も間々みられ、江戸時代の武士の禅に対する意識の高さは思いもよらぬものであったと推測される。
 程乗は1603から1673年、廉乗は1628から1708年、光壽は1663から1721年まで。三者が重なるのは1663年から1673年で、この間の作かと思われるも否。拾得を製作した光壽の銘は二十三歳で養子として宗家に入ったころからのもの。この作品は、程乗が没した後に完成したのである。即ち程乗が製作年代を越えて、代々が製作することを企図したもの。程乗が豊干禅師を彫った時には、まだ誰が拾得を彫るのか全く判らなかったのである。何て面白い企画であろうか。□

狐に罠図小柄 程乗 Teijo-Goto Kozuka

2012-07-23 | 鍔の歴史
狐に罠図小柄 (鍔の歴史)



狐に罠図小柄 銘 程乗(花押)

 同図が程乗(1603~1673)の子の悦乗光邦(1642~1708)にもある。微妙に色金を違えているが、図柄構成は全く同じであり、並べてみると大変に面白い。悦乗は後藤理兵衛家の三代。程乗と同様に加賀前田家の御用を勤めている。後藤家には、獅子や龍、牛などなど代々が同図を写して作品とした例が頗る多い。それが伝統を守るという意味を含んでいるものと考え、作風の違いを見つけることも出来ようかと想像したが、むしろ写すことの面白さに興味が進む。そうこうしているうちに、何と後藤光方(~1730)の同図が見つかったのである。光方は後藤運乗(後藤三郎右衛門家)の子で、後に後藤半左衛門家を継いでいる。図柄構成は全く同じ。すると、程乗以前にも同図があったのではなかろうかと思いたくなる。この図で、代の上がる作者の作品をお持ちの方があったら教えて欲しい。



狐に罠図小柄 銘 後藤光邦(花押)



狐に罠図小柄 銘 後藤光方(花押)

水鳥図小柄 程乗 Teijo-Goto Kozuka

2012-07-21 | 鍔の歴史
水鳥図小柄 (鍔の歴史)



水鳥図小柄 銘 程乗(花押)

 後藤家では濡烏図は良く知られているが、この図はカワセミであろうか、朧銀地を高彫にし、金銀赤銅の色絵を加えている。波と飛沫は線描写。軽やかな構成である。
 この頃から後藤家でも盛んに朧銀地が用いられるようになったのは、程乗が加賀に出仕したことと関わりがあろう。伝統的な赤銅地と金地の組み合わせによる風格ある空間構成だけでなく、金を多用した華やかな作風をも多く製作しており、朧銀地を下地とした本作は、時代的な点からも程乗らしさが現われた作と言えよう。程乗自身銘である。

相撲図三所物 後藤光昌 Mitsumasa(Teijo)-Goto Mitokoromono

2012-07-20 | 鍔の歴史
相撲図三所物 (鍔の歴史)



相撲図三所物 銘 後藤光昌(花押)

 後藤程乗は顕乗の嫡子。顕乗が宗家を継いだために二十三歳で理兵衛家二代当主となる。光尹を光昌に改銘。覚乗と共に前田家に出仕し、加賀金工の育成と藩の財務に携わる。理兵衛家の程乗が後に宗家を継ぐこととなった理由は、八代即乗が若くして没したため、その子の技量が低く宗家を継ぐ技量が乏しいことから程乗を迎えて九代とし、技術指導に当たったもの。四十四歳で程乗と改銘。この時代の後藤家で最も技量の高い金工であることは明白。作品は相対的に華やか。彫刻技術も優れており、意匠も決して奇抜ではないものの迫力があり、動きが感じられる。写真は相撲図三所物。貴重な自身銘である。赤銅魚子地高彫に金色絵。裏板に銀を用いている。同時代の風俗を描き出したものとして頗る面白い。

瓢箪に山椒図小柄 紋即乗 Sokujo-Goto Kozuka

2012-07-19 | 鍔の歴史
瓢箪に山椒図小柄 (鐔の歴史)



瓢箪に山椒図小柄 銘 紋即乗 光孝(花押)

 きれいな赤銅魚子地にふっくらとした打ち出しの高彫で丸みのある瓢箪を立体表現し、さらに小さな山椒を、これも小さいながらも丸みをそのまま立体的に表わした、まさに写実表現になる作。山椒は美濃彫にもあるように古典的。瓢箪は瓢箪鯰図でみたように、後藤の得意とした図。これを巧みに組み合わせて新しい図に仕上げている。つややかな山椒と瓢箪の表情がいい。

三十匹獅子図鐔 紋即乗 光孝 Sokujo‐Goto Tsuba 

2012-07-17 | 鍔の歴史
三十匹獅子図鐔 (鍔の歴史)


三十匹獅子図鐔 銘 紋即乗 光孝(花押)

 金無垢地を高彫した三十匹の獅子。奇麗に揃った赤銅魚子地に据紋した作。この金紋が即乗の作であることを、光孝が極めたもの。元来が鐔であったものか、あるいは群獅子図の小柄笄から紋を外したものであろうか。このように、紋○○と銘されているのは、祖先の作から紋のみを外して作品化したという意味。この贅沢さは桃山時代風であり、光孝もまた時代観を良く理解していた。

獅子図三所物 後藤即乗 Sokujo-Goto Mitokoromono

2012-07-14 | 鍔の歴史
獅子図三所物 (鍔の歴史)



獅子図三所物 無銘後藤即乗

 即乗が十八歳のときに父である六代栄乗が没した。即乗はまだ若かったことから叔父の顕乗が七代を預かることなり、技術が達して後に家督を継いでいる。ところが即乗は三十二歳で没。それが故に即乗の作品は少ない。
 写真の獅子図三所物は、目貫の裏行きの観察から、前時代の、裏からの打ち出しの強さ、際端を絞ってふっくらとさせた手法などは継承しているものの、肉厚感があり、次第に桃山時代風から江戸時代風へと変化をしつつあることが窺いとれる。

楠公親子決別図小柄 顕乗作光美 Kenjo-Goto Kozuka

2012-07-13 | 鍔の歴史
楠公親子決別図小柄 (鐔の歴史)



楠公親子決別図小柄 銘 顕乗作光美(花押)

 十五代光美が極めた作。楠正成が子の正行と別れて、言わば死ににゆく場面。戦況判断の甘い朝廷と、それを知りながらも従い、最期まで主を変えぬという意識の楠親子の姿は、後に多くの芝居に採られている。赤銅魚子地高彫に金銀色絵。

苫舟図小柄 作顕乗 光侶  Kenjo-Goto Kozuka

2012-07-12 | 鍔の歴史
苫舟図小柄 銘 作顕乗 光侶



苫舟図小柄 銘 作顕乗 光侶(花押)

 これも十代光侶極め。小屋のような屋根のある小舟は、その舟に人がいることを暗示している。生活臭さが窺える。後藤家にはこのほか人を添えて描いた例、釣り人を想わせる福神を描いた作もある。小舟図では炭などを積んだ小舟を引く図もあり、後藤家の伝統的な図の一つとも言えよう。背景は文様風であり、この時代に流行しつつある琳派の風情を取り入れていることが良くわかるのだが、実はこのような表現は、琳派以前から存在したのではないだろうかと考えられる。

張り衣図小柄 作顕乗 光侶 Kenjo-Goto Kozuka

2012-07-12 | 鍔の歴史
張り衣図小柄 (鍔の歴史)



張り衣図小柄 銘 作顕乗 光侶(花押)

 京の街なかに取材したものであろう、洗った布を干す様子を描いた作。時代の上がる後藤が製作した金工作品には必ずと言って良いほどに図柄に意味があった。ところが、この図に戒め教えなどの意味があるのだろうか。筆者には分からない何かが隠されているのであろうか。単純に図柄として、文様化された風景として眺めるのであれば面白い。後藤宗家十代廉乗光呂が極めて銘を入れ、さらに光孝が極めている。十五代揃い小柄とされた中の一点。□