鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

蟹図鐔 高山 Kozan Tsuba

2019-04-30 | 鍔の歴史
蟹図鐔 高山


蟹図鐔 高山

なんて面白い作品であろう。地面の腐らかしは叢に施されており、自然な地相から創造性のある、しかも意図を超えて現れる腐らかしによる景色であることが興味深い。鍛えることと熱を加えることによって生み出される、金属の表情を楽しむ作品の一つでもある。


葡萄図鐔 光忠 Mitsutada Tsuba

2019-04-27 | 鍔の歴史
葡萄図鐔 光忠


葡萄図鐔 光忠

 光忠は、明壽で知られる埋忠派の、明壽より時代の上がると考えられる金工である。この真鍮地の魅力は、拡大写真でわかるように、表面に微細な筋模様が現れている点。素朴な質感が文様と共に大きな美観。これも表面をわずかに酸で腐食させたものであろう、自然な景色となっている。布目象嵌の下処理でもある鑢目と異なることは、所々に施されている金布目象嵌をみれば判る。磨地仕上げの真鍮地には、かすかな地文が見える場合もあるが、多くは判然としない。やはり腐らかし処理されているのであろう。

花桐桜紋唐草文図鐔 西垣 Nishigaki Tsuba

2019-04-26 | 鍔の歴史
花桐桜紋唐草文図鐔 西垣


花桐桜紋唐草文図鐔 西垣

 先に紹介した抱杏葉紋鐔と同様に、腐らかしによる地面の自然な文様が魅力的。細かな鑢目か鏨による打痕の石目地のようにも見えるが、これも酸による腐らかし処理である。文様との境界部分の滲んだような出入りが美しい。時代の上がる真鍮地には、このような地模様が際立ったものがある。難しいといわれている真鍮地金の製作と密接にかかわっているのであろう。

抱杏葉唐草文図鐔 西垣 Nishigaki Tsuba

2019-04-25 | 鍔の歴史
抱杏葉唐草文図鐔 西垣


抱杏葉唐草文図鐔 西垣

 濃密に施した唐草文の中に抱杏葉の家紋を配した作。技法は真鍮の腐らかし。文様の周囲は腐らかしによってわずかに低く、微細な筋状の文様が生じている。真鍮という金属は作り出すのが大変難しい。真鍮とは、銅と亜鉛の合金である。普通、合金は溶融させて作る。銅の溶ける温度は1085度ぐらい。亜鉛の溶ける温度は420度ぐらいでかなり低い。そして亜鉛の沸点、すなわち気化する温度は907度ぐらいで、これも銅の溶ける温度より低い。即ち、二つの金属を合金にするために加熱してゆくと、銅が溶ける前に亜鉛が蒸発してしまう。これでは永遠に合金ができないことになる。室町時代の真鍮の作り方については良く判っていない。真鍮地の器物が高い評価を得ていたのは、このような背景があるからに他ならない。

牡丹唐草図鍔 平田 Hirata Tsuba

2019-04-24 | 鍔の歴史
牡丹唐草図鍔 平田


牡丹唐草図鍔 平田

 腐らかしの技法は、金属の表面に漆などを塗り、それ以外の露出している部分に酸を働かせて腐食させる。漆などを塗ったところが溶解せずに残り、文様が浮かび上がる。だから、腐食させたところの肌は微妙な凹凸があり、それが石目地の地模様のような味わい深い景色の一つとなる。本作は、山銅地に牡丹唐草を浮かび上がらせた作。牡丹の繊細な線描写が美しい。部分拡大でもわかるように、腐らかした部分には微細な鏨で処理したかのような石目地状の地模様が見える。

唐草文図鐔 西垣 Nishigaki Tsuba

2019-04-23 | 鍔の歴史
唐草文図鐔 西垣


唐草文図鐔 西垣

金属にとどまらずすべての彫刻は鏨で彫り込むことによって成すと考えられがちだが、鏨を使わずに彫り込む手法もある。有名なのは、自然の雨だれなどを利用し、石の表面に凹凸を生み出す、言わば自然の力を利用した気の長い工法。それを促進させるような手法が酸を用いて薄手に彫り込む腐らかしだ。ただし、人物の姿形など細やかな描写は不可能である。だから、専ら主題の背景など地の模様や、文様そのものの表現に処方される。
この技法を巧みに用いたのが、茶の美観を装剣具に表現した肥後金工、中でも平田や西垣などである。この鐔は、耳に片切彫で桜紋と唐草文を施し、地面に腐らかしの手法を用いて唐草と九曜紋、桜花紋、花桐を浮かび上がらせている。これらの文様の周囲が腐らかしによるもの。

稲妻図鐔 正阿弥政員 Masakazu tsuba

2019-04-22 | 鍔の歴史
稲妻図鐔 正阿弥政員


稲妻図鐔 正阿弥政員

 政員は播磨の鐔工。黒雲と稲妻のみを構成して雷は描かない留守模様。鉄の地肌も鎚の痕跡を明瞭にして雲を暗示している。興味深いのは、左右の櫃穴。明らかに激しく動く雲を意味している。しかも穴を埋めている赤銅の表面に微妙な浮彫を施して雲の質感をより豊かに表現している。さて、この埋め金の表面の処理方法だが、鏨で彫り表して完成させているのではないだろう。鋤き込んだ部分は酸などで腐らかして微妙な凹凸を作り出しているのである。正員は播磨の工。

風神図小柄 菊池序沖 Tsuneoki

2019-04-20 | 鍔の歴史
風神図小柄 菊池序沖


風神図小柄 菊池序沖

 これも鬼を意識した風神。雲を蹴って動き回り、これから狙いを定めて風袋を開こうとしているようだ。何と恐ろしい描写であろうか、人々は自然災害をこのように見ていたのである。

風神雷神図鐔 奈良重治 Shigeharu Tsuba

2019-04-19 | 鍔の歴史
風神雷神図鐔 奈良重治


風神雷神図鐔 奈良重治

 風神のみを描き、雷神は稲妻だけで表現している。彼らが暴れまわっているのは海上のようだ。海上に農作物はないが、漁に生きる人々にとっては大変な災害だ。激しく打ち合う波、海面と雲に透かしを加えることによって動きが生じており、いかにも恐ろしい景色となっている。

風神雷神図鐔 加賀 Kaga Tsuba

2019-04-17 | 鍔の歴史
風神雷神図鐔 加賀


風神雷神図鐔 加賀

 表裏に各々を対比させるように構成した鐔。雲の上で両者が競い合うように、雷は稲妻を放ち、風神は地上めがけて風袋を開いている。彫刻技法は、加賀象嵌と呼ばれる平象嵌と片切彫の組み合わせ。絵画的であり、背景には宗達など琳派の画題があったと思われる。


雷神図鐔 鉄元堂正楽 Shoraku Tsuba

2019-04-16 | 鍔の歴史
雷神図鐔 鉄元堂正楽


雷神図鐔 鉄元堂正楽

 夕立に遭遇した市井の人々の慌ただしい瞬間を写真で捉えたように彫り描くを得意とした鉄元堂正楽が、ついに雷様まで彫り表してしまった。地上の人々は写実的で、現実的だが、雷については伝説にあるような、あるいは俵屋宗達風の太鼓を肩にした姿。

夕立図鐔 東雲斎光廣 Mitsuhiro Tsuba

2019-04-15 | 鍔の歴史
夕立図鐔 東雲斎光廣


夕立図鐔 東雲斎光廣

 正楽図とあることから、その図を手本とし、独創を加えて新たな夕立の場面を表現したもの。表裏素材を違えているところが面白い。厚い雨雲によって辺りは夜のように暗い。そこに稲妻が走り、一瞬明るくなる。知的な思考とアイデアが活きた作品である。