鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

山水図鐔 額川保則 Yasunori Tsuba

2019-01-31 | 鍔の歴史
山水図鐔 額川保則


山水図鐔 額川保則

 無銘ながら水戸金工の特徴が良く現れ、額川保則と極められている作。朧銀魚子地は清く澄んだ空気。遠く雲の上に見える山波と寺院。裏に懸崖、橋の上からこれを眺める旅人。舟に白鷺が翼を休めている場面は「一路平安」の意味があり、旅の安全を願っている。山水図ではふつう風景を主とするが、ここでは人物を大きく捉えている。裏には舟上の人物と鶴。それぞれ別の場面で、別の人物。違った意味を備えているものと思われる。

李白観瀑図鐔 弘親

2019-01-30 | 鍔の歴史
李白観瀑図鐔 弘親


李白観瀑図鐔 弘親

 酒を友として盧山の渓谷に遊び、詩を詠んだ李白の姿は、李白を代理体験として武将や知識人に好まれた。背景にあるのはもちろん李白が詠んだ詩「望廬山観瀑」。山水図の典型である。弘親は、古典に通じた水戸金工。その他、複数の李白観瀑図をご覧いただきたい。


李白観瀑図鐔 浜野春好


李白観瀑図鐔 元壽


李白観瀑図鐔 友久

先に紹介した大小揃いの鐔と同じ長州の友久。彫口は全く同じ。先の大小鐔も観瀑図である。この鐔では瀧を見下ろす構成となっている。すごいね。

董奉図鐔 安定 Yasusada

2019-01-29 | 鍔の歴史
董奉図鐔 安定


董奉図鐔 安定

 董奉は薬種に通じた仙人。虎を手なずけたことから、虎と共に描かれることが多い。寒山拾得を育てた豊干禅師も同様に虎を伴うが、風体が違う。この鐔では仙人の住む奥深い山中として、山並みは描かずに切り込んだ谷と滝を描いている。山水図も遠山、奇岩ばかりではない。朗月亭安定は江戸後期の京都の金工。

草廬三顧図鍔 橋部正貞 Masasada Tsuba

2019-01-28 | 鍔の歴史
草廬三顧図鍔 橋部正貞


草廬三顧図鍔 橋部正貞

 山水図が背景とされることが多いのは古代中国の物語。三国志の各場面や仙人、偉人図。草廬三顧図は劉備玄徳と諸葛孔明の出会いの場面としてあまりにも有名。橋部正貞は京後藤家益乗の門人。後藤家には鐔はほとんどない。ところが、その門人は後藤の掟に従わなくてもよかったのであろう、このように鐔を製作している。それも後藤の趣を充満させた出来。山は雪模様。この表現がいい。銀の平象嵌を施しているのであろう、魚子地の雲の彼方に鮮やかに輝いている。

山水図大小鐔 友久 Tomohisa Tsuba

2019-01-26 | 鍔の歴史
山水図大小鐔 友久


山水図大小鐔 友久

 画中画というと山水図。鐔工は中国の風景を見たことはないのだから、山水図は、すべて伝わり来た中国の墨絵などを手本にしたものに違いない。そして山水図鐔というと、まず長州鐔工が思い浮かぶ。それほどに多い理由は良く判らないが、山水図の発祥地である大陸に近いこと、室町時代の山水画の巨匠雪舟が大内氏の庇護を受けて活躍したこと、などが理由として挙げられる。鋭く斬り立つ岩山、重なるように続く山並み、そして近くには奇岩、瀧、東屋、寺院などの添景、そしてその景色に溶け込むように佇む人間。重要なのはこの人間であり、この作品を自らのものとした人物は、描かれた人物の目を通して画中に遊ぶという意識を持っていた。下は大小揃いの小。

地紙散図鐔 安親 Yasuchika Tsuba

2019-01-24 | 鍔の歴史
地紙散図鐔 安親


地紙散図鐔 安親

 地紙散らしとも呼ばれる画中画の施された鐔など装剣小道具は、古くは桃山時代の埋忠明壽に近い光忠に作例があるようだ。ただし、完成度の高さにおいては芸術意識の高まった江戸時代中頃の安親が勝る。本作を見ても、改めて安親の凄さが思い知らされよう。鐔に散らされている図は五点。松原に千鳥図と苫舟に帰雁図は、安親がそれぞれ一枚の鐔として完成させている。地紙散らしの題は風物、源氏物語、山水図など。この安親の場合は、山水画を下敷きとして日本の風景画を突き詰めたもの。


山水図鐔

 作者は異なるが、これも山水図を題材とした画中画のようだ。矩形があることから屏風絵が素材か。面白い作品である。


古墨図鐔 宜 Yoshitoki Tsuba

2019-01-23 | 鍔の歴史
古墨図鐔 宜


古墨図鐔 宜

 古墨は、今では使う機会が少ないことからその価値を知らぬひとも多いが、良い墨は、磨るという作業がとてつもなく心地よい・・・そうだ。書は、墨を磨る段階から始まっている。墨は文字を書くだけのものではないのだろう。それゆえに名墨は高く評価されたし、古くから伝えられた名墨は大切にされた。古い文化を大事にする江戸人はまた、装剣小道具にも図に採って己を深く顧みる礎としたのであろう。墨には、絵や文字が刻まれているものが多く、それも鑑賞の対象とされたであろう。

鍾馗図鐔 元儔 Mototomo Tsuba

2019-01-22 | 鍔の歴史
鍾馗図鐔 元儔


鍾馗図鐔 元儔

 鍾馗の絵は、子供が病気もせずに育つことを願って飾るもの。だから、絵画として採られることが多いのだが、鐔には鍾馗そのものが描かれ、このように画中画とされることは少ない。鍾馗様の幟がはためく端午の節句。今では見ない風景である。

香道具図小柄 加賀金工 Kaga Kozuka

2019-01-21 | 鍔の歴史
香道具図小柄 加賀金工


香道具図小柄 加賀金工

 香包と香箸。それらの装飾が文様風。絵画や文様の施されたものを画題の素材としている。下の柳に団扇図つばも同様、夏の風景だが、団扇の中にまた風景がある。とてもしゃれた表現世界である。加賀金工にはこうした平面的文様表現が多い。画中画を生み出す要因となったのだろう。


飾り図鐔 埋忠重吉 Shigeyoshi Tsuba

2019-01-19 | 鍔の歴史
飾り図鐔 埋忠重吉


飾り図鐔 埋忠重吉

 鐔の装飾において文様を極めたのが桃山時代の埋忠明壽に代表される京の金工と、やはり京に栄えた正阿弥重義など。古典的な文様を表すと同時に、文様のある雅な器物を鐔の題材に採った。織物やこの装飾が施された飾り物のようなもの。過去にも紹介しているが、実はこれが何だか本当のところが判っていない。楽器であるササラが装飾化されて飾りササラとなったものとして説明している。雅で綺麗だ。製作は埋忠派の重吉で、京の鐔工らしい金布目象嵌を駆使した繊細な出来。


宝尽図鐔 加賀象嵌

先に紹介した飾りササラと宝尽し文を描いた鐔。加賀の平象嵌を駆使して華やかに演出している。

地紙散に雪図大小鐔 伊藤正乗 Seijo Tsuba

2019-01-18 | 鍔の歴史
地紙散に雪図大小鐔 伊藤正乗


地紙散に雪図大小鐔 伊藤正乗

 江戸金工らしい正確で精密、しかも洒落た構成の鐔。なんとも不思議な構成である。雪輪があることから冬の景色。でも屏風と思しき意匠に地紙散らしだから、どのような状況なのであろうか。まあ、考える必要もないか。描かれた絵の中に絵がある。この雅で綺麗な鐔面を眺めているだけでも楽しい。

掛軸図鐔 知賢 Tomokta Tsuba

2019-01-17 | 鍔の歴史
掛軸図鐔 知賢


掛軸図鐔 知賢

 長州鐔工は、正確な図柄と精密な高彫表現で、山水図、植物図、龍神図などを得意として発展し、多くの作品を遺している。知賢もその一人。この鐔は、鐔の円形に掛軸を意匠している。掛軸にも表があれば裏がある。図柄に採るとすれば表裏を意識せざるを得ない。ここで掛軸に描かれているのは龍神と梅。いずれも長州鐔工の得意とした題材。普通、図柄はそのものが主題とされる。ところがここでは、絵画表現されたものを題材としている。画中画である。風に揺れている構成といい、精密な彫刻といい巧みだ。

鮑図鐔 越前住記内 Kinai Tsuba

2019-01-16 | 鍔の歴史
鮑図鐔 越前住記内


鮑図鐔 越前住記内

 記内鐔工は、様々な意匠の鐔を遺しているが、透かし鐔の場合、表裏同図にすることが多いのだが、この鐔においては、強く表裏を意識しているようだ。鮑と帆立貝を重ねておいている意匠で、鉄地一色ながら写実的で、全体の造形もさることながら特に表面の微細な皺や貝殻の年輪など精巧に再現している。

帆立貝図鐔 壽親 Toshichika Tsuba

2019-01-15 | 鍔の歴史
帆立貝図鐔 壽親


帆立貝図鐔 壽親

 こんな椀形鐔もある。帆立貝の貝殻そのままに鐔を製作している。表面の年輪、表面にこびりついている生き物の痕跡、内部もまた正確で精巧。白っぽい石灰質の貝殻そのままに、皺の表情もそのまま。面白いことに、櫃穴の周囲には貝殻を砕く際に生じる薄層の剥離という痕跡まで表している。表裏を意識した、遊び心に富んだ作である。