鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

波龍図鍔 藻柄子平塚十太夫精本 Kiyomoto Tsuba

2012-01-31 | 鍔の歴史
波龍図鍔 (鍔の歴史)


波龍図鍔 藻柄子平塚十太夫精本

 宗典の弟子の一人、ちょっと珍しい精本と銘する金工の作。宗典は多くの門人を抱えた工房として活躍していたことは良く知られている。だが、その門人の銘で遺された作は極めて少なく、この鍔は貴重な資料の一つ。しかも裏には「於相模國彫之」と添え銘があり、これも金工の動向を探る上で極めて興味深い。作風は先に紹介した雲龍図鍔にそっくり。師を倣ったことは明白。鉄地肉彫地透、金銀象嵌。70.2ミリ。□

十二支図鍔 藻柄子入道宗典 Soten Tsuba

2012-01-30 | 鍔の歴史
十二支図鍔 (鍔の歴史)



十二支図鍔 藻柄子入道宗典

 『銀座情報』誌の一月号で紹介した鍔。表を龍虎対峙の場面とし、その周辺に他の動物を表裏に分けて配している。素材は赤銅地、高彫に金銀素銅の色絵象嵌。象嵌の手法が凝っている。桃山時代の後藤家が製作した『平家物語』図鍔のように、人物や主題を目貫のような打出し高彫に仕上げ、これを一端鋤き下げた地に象嵌しているのである。即ち龍や虎の内部は空洞であり、塑像の端部で溶着させているのである。その痕跡は処々に窺いとれ、製作手法の妙味と技術の高さを存分に示している。78ミリ。□

雲龍図鍔 藻柄子入道宗典 Soten Tsuba

2012-01-28 | 鍔の歴史
雲龍図鍔 (鍔の歴史)


雲龍図鍔 藻柄子入道宗典

 鉄地を実体的な肉彫にし、その周囲を透かし去って主題の存在感を強めた表現を得意としたのが藻柄子宗典。良く見られるのが和漢の歴史人物に取材し、鉄地肉彫金銀象嵌布目象嵌を巧みに施した作。確かに手法は同じ手だが、宗典もこのような鍔を製作していたのかと改めて感じ入った。鉄色黒々として素材そのものにも迫力がある。地を透かし抜いて細かな彫刻を施すため、総体的に鉄は軟質で、錆色も赤っぽくなり勝ちだが、本作を見る限りそのような気配はなく、強さが満ち満ちている。肉彫に細かな彫刻を加え、金象嵌を線と点で加えているところが面白い。85ミリ。

雲龍図鍔 高山 Kozan Tsuba

2012-01-27 | 鍔の歴史
雲龍図鍔 (鍔の歴史)


雲龍図鍔 高山(花押)

 保井高山は江戸中期の京都の金工。この門人に初銘を雪山と切った一宮長常がいることでも有名。表裏にわたって描画する手法を採り、迫力ある画面を創出している。そもそも鍔はこの作例のように表裏があり、表裏を違えて作画する場合と表裏を連続させる場合、裏を表の裏から見た図とする場合とがある。奈良派の人物図では表裏連続させた図があり、起こりはもう少し遡るかもしれないが、江戸時代中期頃から流行し始めたと考えられる。その手法によるも、さらに画面からはみ出るほどに大胆に描いている。真鍮地の耳を打ち返しにして地叢に仕上げ、図柄の端部を鋤き下げ、身体はわずかな高彫。この経年変化による色合いもいい。金銀の色絵も過ぎることなく画面を引き締めている。69ミリ。

這龍図鐔 長州萩住金子忠兵衛幸治 Yukiharu Tsuba

2012-01-26 | 鍔の歴史
這龍図鍔 (鍔の歴史)


這龍図鍔 長州萩住金子忠兵衛幸治

 これもまた迫力がある。鉄地を肉彫にし、雲や波を描かずに背景を透かし去って龍神の身体の動きを鮮明に浮かび上がらせている。四肢引き締まって胴体太いながらもここにも緊張感が満ち満ちている。鱗強く鰭や髭が鋭く宙を射し、開いた口に中も顔と同様に成功に彫り出されている。強みのある鉄地がいい。渋く落ち着いた色合いが優れ、目玉のみ金象嵌で鋭い。特に鏨の切り込んだ表情が活きいきとしている。幸治は江戸時代中期の長州鍔工。

波龍図鍔 長州住友久 Tomohisa Tsuba

2012-01-25 | 鍔の歴史
波龍図鍔 (鍔の歴史)


波龍図鍔 長州住友久

 激しく立ち崩れ落ちる波に龍神。まさに竜巻を印象付ける作。赤銅地高彫に精密で精巧な彫刻を加えて険しい表情を浮かび上がらせており、火炎のみ金色絵。波飛沫として金の点象嵌を散らしているところが冴えており、単なる波、海面の景色ではない。裏面は波に雲で簡潔な描写ながら不穏な空気感が漂っている。
 こうしてみると、長州鍔工の龍の作品が如何に優れていることか、様々な意匠があり表現手法がありと、もちろん下手もあるが、総体的に精密な彫刻技術が背景にあることが良く分かる。山水図にせよ植物図にせよ、正確な構成と精密な彫刻は長州鍔工の基礎である。

這龍図鐔 長州中井友信 Tomonobu Tsuba

2012-01-24 | 鍔の歴史
這龍図鐔 (鍔の歴史)


這龍図鐔 長州中井友信作

 長州鐔工には珍しい、平象嵌を駆使した作。赤銅地に毛彫を加え、どの部分においても面として描かずに金と素銅の色調を活かして線描写している。火炎は素銅に金を複合させて変化を求めているところは巧み。線描写の面白みは、極細で繊細な線の組み合わせであろうが、さらに点描も加えている。中井友信は友恒の子。江戸後期天明頃に活躍した、長州藩工。74ミリ。

飛龍図鍔 長州萩幸利 Yukitoshi Tsuba

2012-01-23 | 鍔の歴史
飛龍図鍔 (鍔の歴史)


飛龍図鐔 長州萩幸利作

 翼を持つ龍神。鯱のようでもあるが、いずれも架空の生き物だから、この辺りの表現の違いが良く判らない。翼龍と呼ぶと太古の時代の恐竜の仲間の印象があるため、この呼称は避けている。赤銅地を彫り込み深く肉彫に仕上げ、海原に飛び込んだその瞬間を、巻き上がり崩れ落ちる波を描き添えることで活写している。赤銅一色ながら、表面の処理が巧みで、緩やかな曲面の連続からなる画面に仕上げて美しい。中原幸利は同家三代目で、活躍は江戸時代後期。69.5ミリ。

雲龍図鐔 長州萩住光高 Mitsutaka Tsuba

2012-01-21 | 鍔の歴史
雲龍図鍔 (鍔の歴史)


雲龍図鍔 長州萩住光高作

 赤銅地で暗雲を表わし、これを巻き上げて天を目指す龍神を高彫に金色絵で表現。漆黒地に金の身体が映えるよう構成している。宙を掴む鋭い爪、口は閉じられたままだが、その固い表情には強みが感じられる。比較的華やかな表現ながら、華麗に過ぎることなく、龍の持ち味を活かしている作品と言えよう。龍神は想像上のものだから写実的という表現は当たらないのだが、写実味を持っており、まさに生きているような、今にも動き出しそうな気配である。80.3ミリ。

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2012-01-20 | 鍔の歴史
雲龍図鐔 (鍔の歴史)


雲龍図鐔 長州萩住光高作

 同じ長州鐔工小野光高の作だが、龍神の顔は一段と険しく恐ろしい。くわっと開いた口が示す印象も強く、窪んだ眼窩のお国光る目玉、鼻から額に続く抑揚のある皮膚の様子も強く激しい。鐔全体を渦巻く雲として表現し、その所々に身体の一部を晒している。雲間から突き出した爪なども迫力ある。その雲の表情も歪んでいて流れるような構成。鉄地高彫で、一切の色金を用いていない。江戸時代後期。75.2ミリ。

雲龍図鐔 光高・茂常 Mitsutaka・Shigetsune Tsuba

2012-01-19 | 鍔の歴史
雲龍図鍔 (鍔の歴史)


雲龍図鐔 長陽萩茂常造

 茂常は岡本藤左衛門家の六代目で幕末頃に活躍。この鐔は、次に紹介する光高にも全く同じ図があることから、同図を要求されたものか、あるいは人気高く定型化された図があったのかも知れない。激しく揺れ動くような雲に包まれた龍神の姿を高彫にし、雲を網目のように配し、地を透かし去って迫力ある画面を創出している。上質の赤銅地に鏨を強く切り込み、龍神の厳しい表情を浮かび上がらせている。82ミリ。


雲龍図鐔 長州萩住光高作

 透かしに違いはあるも、総体は同じ構成である。素材は鉄地に高彫で目玉のみ金布目象嵌。鉄という硬い素材を用いている故か、手足の先端が細く引き締まった描写。半ば開いた口の表情も迫力ある。目玉が暗雲の中で光っているようにも見える。78.5ミリ。

雲龍図鐔 一陽斎就昌 Narimasa Tsuba

2012-01-18 | 鍔の歴史
雲龍図鍔 (鍔の歴史)


雲龍図鍔 一陽斎就昌

 就昌は江戸時代後期の埋忠派の流れを汲む江戸金工。古典的な葵木瓜形に造り込みながらも、南蛮鐔の複雑な彫口を手本としていることが良くわかる。図柄や構成は南蛮を手本としても、表現手法は全く異なり、南蛮の鋤彫に比較して高彫による量感と立体感が追求されている。布目象嵌については埋忠派もよく取り入れている手法である。77.2ミリ。


波龍図鍔 Nanban Tsuba

2012-01-17 | 鍔の歴史
波龍図鍔 (鍔の歴史)


波龍図鍔 南蛮

 南蛮としたが、激しく屈曲する身体を波間に見せる構成の、南蛮らしからぬ面白い龍の図である。だが、切羽台の方形、耳の装飾などから、南蛮鐔を意匠に取り入れたものであることが窺いとれる。さて国や流派はどこかと問われても判らない。このような形で、南蛮の手を意匠に取り入れた金工は頗る多いのである。在銘作があって、それを鑑賞して、ああこの工も南蠻を製作していたのかと改めて確認することになる。先に紹介した河治久次の作がその良い例である。鉄地肉彫地透、耳際に金布目象嵌、赤銅覆輪。73ミリ。

双龍図大小鐔 久次

2012-01-16 | 鍔の歴史
双龍図大小鐔 (鍔の歴史)

 大
双龍図大小鐔 長州萩住久次作

 長州鐔工の南蛮鐔。各地で製作されていたとはいえ、長州鐔工の作で、銘が遺されているのは頗る貴重。しかも大小揃いである点は、おそらく長州藩の高位の武士のもとめの特別の作であろう。
 鉄色黒く唐草は立体的な組み合わせ、唐草に咲く花を宝珠に見立てたものであろう、それを龍が追う構成。耳に銀の布目象嵌を施している。久次は河治六郎右衛門家の五代目。江戸時代中後期に活躍している。大77ミリ、小74ミリ。□

 小

双龍図鐔 南蛮 Nanban Tsuba

2012-01-14 | 鍔の歴史
双龍図鐔 (鐔の歴史)


双龍図鐔 南蛮

 鉄地に異風の龍を高肉彫して金銀の布目象嵌を施し、その背景に唐草文を透かしの手法で施したものが、我が国で流行した南蛮鐔の典型。耳は二重三重にし、ここにも文様を加えている例が多い。唐草文には特徴があり、中国の貴石を素材とした彫刻のように、複雑に彫り込んで唐草の筋が立体的に組み合わさるような構成とした例も多い。この辺りに中国文化の影響が窺えるところであろうか。地鉄は彫り込みを複雑に行うことを目的としているために、焼き入れが為されていない軟質のものが多い。それが故に錆が出やすいという特徴がある。切羽台の形が長方形であるのは西洋の鐔を手本としているところ。74ミリ。