鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

菊花図鐔 貞廣 Sadahiro Tsuba

2018-09-29 | 鍔の歴史
菊花図鐔 貞廣


菊花図鐔 貞廣

 江戸時代中期の尾張鐔工の一人。次第に彫刻技術が高まってきているはずなのに、一時代遡るように見えるところがある。古作の尾張鐔に新時代の意匠を組み合わせたものと考えると分かり易い。鉄地の工夫の痕跡が窺える。耳に鉄骨が現われて躍動感に満ちた素材美が大きな鑑賞ポイント。手捻りの焼き物のように武骨で素朴。意図してのものであろう、鉄鐔の魅力横溢の作である。

蓬に菖蒲図鐔 柳生 Yagyu Tsuba

2018-09-27 | 鍔の歴史
蓬に菖蒲図鐔 柳生


蓬に菖蒲図鐔 柳生

 江戸時代中頃の柳生鐔。即ち尾張鐔工の作。鍛え強い鉄地が第一の魅力。鍛えて焼き入れしたその肌合いを指先で感じとる。柳生鐔とは、その呼称の通り、剣術家である柳生連也斎厳包が考案した、剣術の意味を含む鐔。後にその趣が好まれて尾張鐔工が再現を試みている。いずれも武骨で鉄地の素朴な中に強さが窺いとれる。中には大野鐔にも似ている作もあるのは面白い。

宝珠図鐔 埋忠明壽 Myoju Tsuba

2018-09-25 | 鍔の歴史
宝珠図鐔 埋忠明壽


宝珠図鐔 埋忠明壽

 埋忠明壽は優れた文様表現からなる作品を遺している。多くは金工物であり、鉄鐔は少ない。その中で本作は、鉄地を意識して古風な甲冑師鐔のように薄手にし、耳を打ち返して景色としている作。意図して耳の処理に変化を持たせたのは、桃山時代のこの明壽や金家からであろう。鍛えた鎚の痕跡をそのまま地模様とし、透かしと片切彫、金銀の布目象嵌で文様を散らし配している。これら文様の総てが独特の景色を成し、鉄地の中で躍っている。文様が活きているのは、鉄の熟しに優れているからであろう。これもまた指先で打返耳の抑揚や地面の素質を感じ取りたい作である。

鯉魚図鐔 甚吾 Jingo Tsuba

2018-09-22 | 鍔の歴史
鯉魚図鐔 甚吾


鯉魚図鐔 甚吾

 肥後金工志水甚吾の得意とした鯉魚を主題とした作。甚吾もまた鉄地が持つ美観を工夫した工。鍛えの強い鉄地を強弱変化のある地面に仕上げ、大胆な構成で滝のぼりの鯉を彫り描いている。甚吾は、主題に猛禽であったり鶏であったり、普通に見かける動物を採り上げているが、この鉄地の中に組み込まれると、まったく別の生き物のように、何倍もの強い生命感を示す。奇をてらった絵画は多々あるが、金工において、ここまで心象的な表現、芸術的意識の発展が進んでいる点は驚きである。その下地として鉄の工夫がある。なんにしても地鉄の表情がいい。これも指先で楽しむ作品である。

雪持笹図鐔 遊洛斎赤文 Sekibun Tsuba

2018-09-21 | 鍔の歴史
雪持笹図鐔 遊洛斎赤文


雪持笹図鐔 遊洛斎赤文

 江戸時代後期の金工。この金工も、鉄の素材美を追求した一人。鍛え強く、色合い黒く光沢の強い鉄地を用いながらも、なんとなく古く感じさせる肌合いに仕立てている。またこの鐔では、鉄地一色ながら、光源の加減で雪が白く見えるような、巧みな処理をしている。色金は覆輪の銀のみ。


武蔵野帰雁図鐔 亀眼 KIgan Tsuba

2018-09-20 | 鍔の歴史
武蔵野帰雁図鐔 亀眼


武蔵野帰雁図鐔 亀眼

 薄肉に鋤彫表現した作。月明かりの夕暮れ時、帰雁の姿がうっすらと浮かび上がって見える。そんな景色を心象表現している。鉄造りを見ると、鎌倉鐔のような鋤彫が要となっていることが判る。地荒らしとは異なるが、闇の迫る様子を表現したものであろうか、地面に抑揚変化をつけている。決して精密な高肉彫ではないのだが構成線が綺麗で、情感に溢れている。亀眼は江戸中期の奈良派の金工。

塔山水図鐔 鎌倉 Kamakura Tsuba

2018-09-19 | 鍔の歴史
塔山水図鐔 鎌倉


塔山水図鐔 鎌倉

 薄肉の鋤下彫になる鎌倉彫に似た描法であるため、鎌倉鐔と呼び慣わされている。パッと見て、下手な絵だと感じるであろう。でも味わい深い。意図せず、いきなり鉄板を彫り込んで図柄を描くとこうなるのではないかと思う。刀装小道具研究家の伊藤満氏は、西垣勘四郎の鐔製作を即興的と表現したが、まさにその趣がある。何て味わい深いんだろう。「へたうま」という表現が30年以上前に流行ったが、そんな感じと言っては悪い言い方になるが、確かに古びた絵として完成しているのだ。鎌倉鐔は、このように全面に彫刻を施し、鋤き込んだ背景に凹凸を設けて景色にしている。主題という主題はなく、全面に布置された文様構成が主題だ。何て面白いんだろうと何度もため息がつく。どこからこのような発想が生まれたのだろう。普通は金家のように綺麗に描こうとする。おそらく計算し尽くした結果として金家の絵画があり、それとは対極に鎌倉鐔がある。そこが即興的というべきか、創造を超越した美観である。このような面白さに興味を持っていただきたい。

猿猴捕月図鐔 金家 Kaneie Tsuba

2018-09-18 | 鍔の歴史
猿猴捕月図鐔 金家


猿猴捕月図鐔 金家

 水に映る月に手を伸ばす猿。深い意味を持つ図である。この鐔も、表面は鍛えた鎚の痕跡を活かして古い絵画のような風合いを表現し、耳もまた打返しによる空間の巧みな切りとりの手法であり、一つの絵画に仕立てている。金家の鉄の質感は、粘土を捏ねて造る焼物にも似ている。折り返し鍛錬は即ち手捏ね、焼き入れは焼結。表面に生じさせた錆は、全体を自然に包み、錆そのものが鑑賞の要素ともなっている。金家鐔の原点でもある。

帰雁図鐔 一柳斎正光 Masamitsu Tsuba

2018-09-15 | 鍔の歴史
帰雁図鐔 一柳斎正光


帰雁図鐔 一柳斎正光

 江戸時代末期の会津正阿弥派の鐔工。金家も添景として採り入れたり、そのまま主題とした鐔もあるほどに、この雁の舞い降りる様子は我が国の人々に好まれた。鉄の肌合いは、この時代には、緻密で綺麗に過ぎるほどに詰んだ鉄肌は容易に作り出せたはずだが、微細な石目地状に仕上げ、さらに微妙な鋤き込みによって雲の様子を表現している。雁の連なる様子、鳴きかわす微妙な表情まで精巧。江戸時代には、鉄地も赤銅地も同じように視覚的鑑賞の対象。素手で触れてその微妙な肌合いを愉しむ意味合いは薄れていると考えてよいだろう。

李白と杜甫図鐔 金家 Kaneie Tsuba  続

2018-09-14 | 鍔の歴史
李白と杜甫図鐔 金家




李白と杜甫図鐔 金家

 地鉄表面は、鎚で叩き締めた鍛え肌に焼手が施されて微妙な抑揚が生じている。なだらかに地面に溶け込んでいるような遠くの山並みは金家の特徴的描法で、その背後に隠れるように寺院を描き、さらに背後には雲があるのだろう微妙な抑揚をつけ、山を越えて飛来した帰雁も添え描いている。これは裏面。表は旅の李白と杜甫が驢馬を操り、遠くの景色を眺めているのであろう、手をかざすところの表情は精巧緻密な彫刻で細部まで表現している。耳の仕立ては打返耳風で、この抑揚ある鉄の表情も金家に特徴的。この鐔でも主題の高彫部分は同じ鉄地による象嵌。その境界部分が全く分からない。作画の感性はもちろんだが、彫刻の高い技術力に驚かされる。象嵌部分の地面の厚さはわずか二ミリ。この薄い中に技術が詰め込まれているのだ。

李白と杜甫図鐔 金家 Kaneie Tsuba

2018-09-13 | 鍔の歴史
李白と杜甫図鐔 金家


李白と杜甫図鐔 金家

 この鐔も、ただ眺めているだけで幸せ。このブログでは、筆者が実際に手にとって鑑賞した作品のみを紹介している。印刷物でしか見たことのないものなど、いくらそれらしく説明しても無意味。印刷物はどこまでも印刷物。Webでの画像も同じ。だから何度も言っているのだが、ガラス越しの博物館もいいが、実際に手にとって鑑賞できる刀剣店に行くべきなのだ。そして、手にしてようやくその前にたどり着いたところだ。その後、指先で、掌で、もちろん視覚で、時には聴覚と嗅覚を駆使し(味覚はやめておいた方がいい)、さらに神経を集中させて脳の片隅で感じられる何かを得る。金家の作品は、刀に譬えたら宗近だとか吉光だとか、國俊だとか、正宗だとか、真改だとか、虎徹だとか、清麿だとかという大名刀に値する存在。だからすべての感覚を研ぎすまして鑑賞する、というわけではない。他のどのような作品も同様に、あらゆる感覚を掌上に集中させて鑑賞する。もちろん金家の場合には、なかなか手に取ってみる機会がないため、一層それが強まるだけ。
 この鐔は、詩人であった李白と杜甫が一緒に旅をしている場面。

芦雁図鐔 金家 Kaneie Tsuba

2018-09-12 | 鍔の歴史
芦雁図鐔 金家


 鉄地の透かし鐔と金工鐔とでは製作の技術や工程、表現方法が異なるし、鑑賞のポイントも違う。鉄が素材の鐔では、大きく分けて透鐔などと金工物に加えられる作がある。専ら、鉄地の鐔は鉄味に視点がおかれ、デザインはその次の鑑賞ポイントとされている。だが、鉄が素材でも金工に分類される作には彫刻表現の優れたものがあり、その代表が桃山時代の金家や、江戸時代中期の安親。特に金家は、時代の上がる甲冑師鐔によくあるような薄手の地面に抑揚をつけて山水風の風景をあらわし、主題となる高彫部分は同じ鉄地からなる高彫された塑像を象嵌している。わずか二ミリほどの薄手の地面に象嵌しているのである。大変な技術であり、しかも彫刻技術が素晴らしい。次の作は以前にも紹介したことのある、達磨図といわれている作と、芦雁図の鐔。多くの意味を含んでいるのだろうが、ただ眺めているだけでいい。ほっとする作品である。

達磨図鐔 金家


芦雁図鐔 金家

雪笹図鍔 尾張 Owari Tsuba

2018-09-08 | 鍔の歴史
雪笹図鍔 尾張


雪笹図鍔 尾張

 分かり易い図柄で、デザインが優れている。雪と笹の葉の取り合わせは、「雪笹」にあるように、「触れただけですぐに落ちる」ところから斬れ味の鋭さを意味している。それは葉に積もった雪だから、この風景はストレートに切れ味を意味しているわけではなかろう。でもデザインがいいので楽しめる。

芦透図鍔 赤坂 Akasaka Tsuba

2018-09-07 | 鍔の歴史
芦透図鍔 赤坂


芦透図鍔 赤坂

 枯れ芦に瓢・・・何と見る。そんな問いかけをされたような図柄。赤坂鐔工は、意匠に関して独特の風情を生み出した。後に江戸文化の一つとなった粋に通じる美観だが、初期の赤坂には粋なる発想はない。未だ室町文化の延長線上にあるのだろう。簡潔な図であり、面白いこと格別。

宝尽図鍔 古赤坂 KO-Akasaka Tsuba

2018-09-06 | 鍔の歴史
宝尽図鍔 古赤坂


宝尽図鍔 古赤坂

 ちょっと見には賑やかに感じられる作。時代の上がる赤坂鐔と鑑られている。総体を十字に構成したその切羽台周囲に鍵や小槌を描いておりこれによって宝尽としたが、鯰が添えられていることにより謎が生じている。これも思索させる図柄の一つと言えようか、面白い。