鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

龍虎図鐔 文子 Bunshi Tsuba

2020-05-30 | 鍔の歴史
龍虎図鐔 文子


龍虎図鐔 文子

 先の赤文の鐔と同じ図柄を片切彫のみで表現している。元来絵画には絵筆を走らせる墨絵がある。この筆描のような風合いを金工で再現したのが片切彫。高彫とは違った印象で面白い。先の作品はいずれも高彫に強弱変化に富んだ片切彫を加えたもの。特に虎の縞模様を片切彫で表す。この鐔は造形が奇抜で、虫食いを施しているところを考えると、虎の古画を鐔に再現した、と考えてよさそうだ。文子は赤文の弟子で、表の銘は赤文のそれであり、本作はいわば子弟の合作。この点も面白い。□

龍虎図鐔 赤文 Sekibun Tsuba

2020-05-29 | 鍔の歴史
龍虎図鐔 赤文


龍虎図鐔 赤文

 赤文は虎を好んで彫り描いたようだ。間々見かけることがある。いずれも迫真に満ちた作風であり、注文者もこの虎に心動かされたものであろう。虎の描写は写実味のある迫力のある彫口だが、裏の雲はいかにもイラスト風。江戸後期という装飾絵画の発展を裏付けているように感じられる。本作も、激しく動く雲と、これに向かって吠え掛かる虎の険しい表情によって龍神を暗示しているものである。

龍虎図鐔 赤文 Sekibun Tsuba

2020-05-27 | 鍔の歴史
龍虎図鐔 赤文


龍虎図鐔 赤文

 遊洛斎赤文もまた安親に私淑した金工。安親が遺した図柄を自らも積極的に再現している。正確に写したものと、本作のように独創を加味して新たな景色を鮮明にしているものとがある。この鐔での虎は、安親の虎と同様の姿で佇み、後ろを振り返っているところまでは同じなのだが、少し上を見ている。周りには雲が迫り渦巻いている。すなわち龍の存在を暗示しているのであり、龍虎対峙の場面。龍を描かなくとも、確かに虎の視線のかなたに龍神が潜んでいるのである。

猛虎図鐔 岩本昆寛 Konkan Tsuba

2020-05-26 | 鍔の歴史
猛虎図鐔 岩本昆寛


猛虎図鐔 岩本昆寛

 岩本昆寛の虎もまた安親を手本としたもの。ふっと後ろを振り向く姿を捉えているところもそうだが、水辺の岩に生えている苔あるいは下草の表現が安親の作風に倣っているところが見どころ。この作品は、赤銅地を碁石形に造り込み、主題の虎の周囲をわずかに鋤きこんで高彫に描き、より立体感を強く印象付けている。いわゆる肉合彫だが、さらに顔の部分に量感を持たせている。さて、この鐔のように、背後へ視線をおくる猛虎は何を意味しているのであろうか。背後への注意、微かな空気に乱れにも感応する精神力。猛虎でさえ自らの力を過信することなかれという意味であろうか。

猛虎図小柄 安親 Yasuchika Kozuka

2020-05-25 | 鍔の歴史
猛虎図小柄 安親


猛虎図小柄 安親

 安親は町彫を代表する一人だが、この虎は明らかに後藤家を意識している作風。銘がなければ後藤とみてしまう方もいると思う(ただし下草に安親の特徴がある)。銘に「東雨子安親」とある。即ち二代目安親の作。昔から二代というと技量が劣ると評価されがちだが、はたして現品をご覧になった人が評価しているのであろうかと言いたくなる。二代目安親も初代に劣らぬ名人である。しかもこの小柄では後藤を凌駕していると言っても良いだろう。

猛虎図鐔 東雨(安親) Yasuchika Tsuba

2020-05-25 | 鍔の歴史
日本刀買取専門サイト 銀座長州屋

猛虎図鐔 東雨(安親)


猛虎図鐔 東雨(安親)

 東雨は安親が用いた銘。安親は奈良派の中では最も印象深い、数多くの作品を遺している名工である。この工が装剣小道具の画題に新たな世界観を広げたといってよいだろう。岩場に佇む虎の図は安親が好んだ構成。後の金工に影響を及ぼしている。

虎の子渡し図小柄 政信 Masanobu Kozuka

2020-05-22 | 鍔の歴史
虎の子渡し図小柄 政信



虎の子渡し図小柄  乙柳軒味墨

 利寿とは同じ奈良派の政随に始まる浜野家四代目政信。これも虎の顔つきに独創を求めている。親子ともにふっくらとした肉付きの顔。目が特にいい。総体の描写も写実味が際立ち、親子各々の心情をも捉えているような目つきに仕上げているのだ。親はしっかりと先を見据えるように、子は水に怯えているように。虎の子渡しというと、利壽や程乗のように川岸で待つ子虎を添え描いて図の意味を分かりやすくしているのだが、江戸時代後期にはこの図も広く認識されるようになったのだろう、川を渡る虎の図のみを描いても通じていると同時に、虎の姿をより精密に描く意識も芽生えているようだ。

虎の子渡し図小柄 利壽 Toshinaga Kozuka

2020-05-21 | 鍔の歴史
虎の子渡し図小柄 利壽



虎の子渡し図小柄 利壽

 利壽は奈良派の名工。江戸に栄えた町彫金工を代表する一人。虎の顔つきが後藤家のそれらとは全く異なる。町彫金工は、もちろん後藤家を強く意識していたと思われる。独創を凝らしたと思われ、それが作品に現れている。同じく後藤家を遠祖としながらも町彫の代表格とされている横谷宗珉には虎の図を見たことがないのだが、その獅子図に例を採るまでもなく宗珉が後藤とは全く異なる図を描いているように、町彫金工は後藤家を強く意識しているのだ。利壽の虎はころっとした丸みのある身体。顔つきも特に鼻が大きく張っている。

虎の子渡し図小柄 後藤程乗 Teijo Kozuka

2020-05-18 | 鍔の歴史
虎の子渡し図小柄 後藤程乗


虎の子渡し図小柄 後藤程乗

 禅の教えが隠されていると言われる虎の子渡し図は、それが故に多くの金工によって彫り描かれている。本作は技量が高く加賀前田家にも出仕した程乗の作と極められている。赤銅魚子地、主題を裏から打ち出す高彫の手法を用い、毛彫や鏨による彫り込みで主題の表情を鮮明にし、さらに色絵と平象嵌を駆使して金と赤銅の対比からなる美観を極めている。禅の教えとはいうものの、今風にストレートにとらえればなぞなぞのようなもの(同様に瓢箪鯰が禅画と知られているように)。だが、それらには思考することの大切さが示されていることを忘れてはいけない。

猛虎図目貫 後藤光乗 Kojo Menuki

2020-05-15 | 鍔の歴史
猛虎図目貫 後藤光乗



猛虎図目貫 後藤光乗

 桃山頃の後藤の虎。小振りに引き締まった造り込みは光乗の特徴。金無垢地と赤銅地の芋継。金地はどこまでも明るく、色絵とは異なり時を経ても色が変わらぬ不変の素材。赤銅はどこまでも黒くすべての光を吸収する色合い。この陰陽の対比からなる造り込みは、万物の存在を意味しているように感じられる。後藤にはこのような陰陽、阿吽など対比の構成とされた作が多い。この目貫では、肩骨辺りを高く、頭をやや低くして目線は鋭く何か獲物を狙っている様子。


後藤徳乗

竹林に虎図目貫 後藤乗真 Joshin Menuki

2020-05-13 | 鍔の歴史
竹林に虎図目貫 後藤乗真



竹林に虎図目貫 後藤乗真

 後藤宗家三代乗真と極められた作。金無垢地を薄手に仕立て、裏から打ち出し強く、表面をふっくらと仕立てる手法は薬缶を作る手法に似ているところから薬缶出しなどとも呼ばれている。くっきりと肉高く彫り出し、毛彫を鋭く深く切り施している。



竹林に虎図目貫 後藤
上の目貫と同じ構成、細かなところまでほぼ同じ意匠とされている。後藤の極め。ところが裏行きをみると、前の作は陰陽根。子細に観察すればもちろん異なる。下の作は毛並み、表情、口元などが引き締まっているように感じられる。


加藤清正虎退治図大小鐔 柊屋 Hiiragiya Tsuba

2020-05-13 | 鍔の歴史
加藤清正虎退治図大小鐔 柊屋


加藤清正虎退治図大小鐔 柊屋

虎は、我が国で知られている獣の中では最も強い存在であるとの認識が根底にあるのだろう。それ以前は、霊獣、神獣として、古墳時代の認識まで遡るようにも感じられる。実際に生きている虎を見ることのない我が国の絵師は、大陸伝来の絵画や毛皮からその実体を想像していたのであろう。それが故、猫のように見えると評価される虎の図がある。戦国時代には、朝鮮へと出兵した部下の武将の志気を高めるために加藤清正によって行われた虎退治伝説が知られているように、朝鮮半島へと渡った人々は生きた虎を実際に見ているかもしれない。確かに装剣小道具においては、室町時代末期の後藤乗真と伝える作があるのだが、虎の図が盛んになるのは光乗や徳乗の活躍した桃山時代辺りからである。

竹虎図鐔 薩摩 Satsuma Tsuba

2020-05-12 | 鍔の歴史
竹虎図鐔 薩摩


竹虎図鐔 薩摩

 竹を輪にして鐔の耳を構成し、切羽台と耳を繋ぐように虎を配している。薩摩金工の得意とした図柄で、写実味のある出来もあるのだが、このような実風景をデザイン化し、奇抜な構成としているところが興味深い。2点紹介しているが、虎の顔の描写が、まったく異なり、上の作では空想の霊獣のように見えるところも面白い。


 このブログは、できる限り毎日更新しようと考えていましたが、しばらくは飛び飛びにせざるを得ません、ご容赦ください。
コロナウイルス感染者がへってきたら、お客様へ店内での対応を考えてゆくつもりでいます。
その方法を模索しているところです。もう少しお待ちください。

松に釣鐘透かし図鐔 金山

2020-05-11 | 鍔の歴史
松に釣鐘透かし図鐔 金山


松に釣鐘透かし図鐔 金山

 久しぶりに「鐔鑑賞記」のブログ画面を開きました。交代で出社して電話の問い合わせだけに対応しているため、電話の応対だけで一日が過ぎ去ってしまいます。コロナウイルス対策のため、お店へ来ていただいても入店は控えさせていただいていますが、お電話での注文は受けておりますので、現品を見てからでないと・・・とおっしゃる方もおられるようですが、クーリングオフもありますので、もう少し気軽にお問い合わせをいただき、お買い上げいただけるとありがたいです。『銀座情報』での商品情報も充実していますが、ホームページにも新商品が出ていますので、ご確認ください。

 大体が、透かし鐔の図柄などは簡略化されて、文様化されているのだが、金山鐔には稀にこのような作や富岳図など実風景を題に得ているものがある。中でも松樹の根元に転げている釣鐘などはいったい何を意味しているのか、その背景を探る上でも興味深いところだ。