鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

秋草図鐔 石黒是美

2010-03-12 | 
秋草図鐔 石黒是美


秋草図鐔 銘 石黒是美(花押)

 江戸でも特異な存在と言うべきか、極めて写実的、繊細、そして豪壮、多彩な色金を用いて華麗な空間を創出した金工の流派が石黒家である。初代政常(まさつね)に始まり、同銘三代続いて明治時代に至り、初代の門には政美(まさよし)、その子で二代政美を継いだ是美(これよし)など御家流の作風を良く伝えた名工が多い。画題は猛禽などの鳥図が頗る多く、これに植物を加えた花鳥図もみられる。赤銅魚子地に鏨を強く効かせた極肉高の高彫とし、細部には繊細な鏨を加えて真に迫る空間を創出するを得意としている。
 写真の鐔は是美(生没年不詳・明治中頃までの生存を確認)の作。屏風の散し絵のように秋草を散し配した構図で、絵画風だが明らかに古金工にみられるような文様表現。鐔の造り込みは古典的な太刀様式で、それを刀に用いるよう製作したもの。モニターによってはモアレが生じて見難いが、赤銅魚子地は美しく揃い、透明な空気のありようを想わせる。この魚子地が野原であり、大地であり、作品の上では無限に広がる大宇宙である。武家金工後藤家と同じ世界を目指しているのだが、石黒の場合には、より精巧な彫刻表現を成しているところに違いがある。くっきりと高彫された秋草は枝葉に量感があり、立体的で花弁もふっくらとして瑞々しくさえ感じられる。金銀朧銀に加え、朱銅とも呼ばれる赤味の強い素銅を撫子の色絵に用いている。