鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

蓬莱蓑亀図鐔 京金工 Kyokinko Tsuba

2014-02-28 | 
蓬莱蓑亀図鐔 京金工


蓬莱蓑亀図鐔 無銘京金工

 海原に大きく張り出した松樹。その下に遠く会場を眺める蓑亀。波がその身を包み込むように繰り返して訪れている。古典的な意識によって表現された生命の喜びを表現したものであり、それはまさしく蓬莱。長寿の象徴である亀、松樹もまた長寿を持ち、寄せては返す波は無限に繰り返される自然の力の存在を意味し、これらの背景にある魚子地による円周状の文様は、明らかに太陽の存在を暗示している。81.5ミリ。□


蓑亀図小柄 後藤廉乗 Renjo Kozuka

2014-02-28 | 小柄
蓑亀図小柄 後藤廉乗


蓑亀図小柄 無銘後藤廉乗

 鶴と対に描かれることが多い亀。後藤廉乗作と極めらたこの小柄は、尾に長い藻が生じて寿老人や翁の髭のようにみえることから長寿の象徴とされ、蓑亀とも呼ばれている。漆黒の赤銅魚子地に高彫金色絵された亀は、後藤の風格を備えている。漆黒の赤銅魚子地を金の小縁で綺麗に装飾し、その中央に主題を描くというこの手法は、頗る簡潔な構成ながら、江戸時代後期の構成美を目指した作風とは異なっていかにも重厚でありがた味が感じられる。□

四羽鶴透図鐔 大野 Oono Tsuba

2014-02-27 | 
四羽鶴透図鐔 大野


四羽鶴透図鐔 無銘大野

 金山に似て、さらに骨太な風合いが魅力の大野の鐔。地造りは厚くがっしりとし、地鉄は鍛えた鎚の痕跡が明瞭に現れて激しい表情。所々に山吉兵へに見られるような鉄骨が現れており、地鉄そのものも楽しめる。江戸時代の作。図柄は鶴を巴状に構成したもので、頗る面白い。73.5ミリ。□

三羽鶴透図鐔 佐州住利姓 Toshiuji Tsuba

2014-02-26 | 
三羽鶴透図鐔 佐州住利姓


三羽鶴透図鐔 銘佐州住利姓

 佐渡の鐔工。江戸でも製作している。この一派は鉄地を地透とした簡潔な図柄の鐔を遺している。三羽の鶴を丸く巴状に構成したこの鐔の洒落た風合いを愉しみたい。わずかに対称性を崩しているところがいい。70.5ミリ。

鶴丸透図鐔 正阿弥 Shoami Tsuba

2014-02-25 | 
鶴丸透図鐔 正阿弥


鶴丸透図鐔 無銘正阿弥

 線が細く上品な仕立ての鐔。京透もそうだが、文化の中心であった京都人の意識により、繊細な文様美が構築されたものと思われる。江戸時代の正阿弥派の作で、地鉄は比較的緻密に揃っている。
 桃山時代以前に時代の上がる正阿弥派を古正阿弥と呼び分けているが、文様表現に古風な所があり、また地鉄の表情にも一段と古びたところがあって面白い流派と言える。江戸時代に各地に移住していることからその流派の特異性が希薄となったためであろうか、他の尾張や赤坂や肥後など、地域と強く結びついたように感じられる金工に比較して低く評価されがちだが、実は頗る面白い存在である。特に時代の上がる鐔には、図柄の妙を愉しむ作例もあるが、地鉄の味わいにも視点が置かれる作に出会うことがある。古正阿弥と極められた鐔を見つけたら、よくよく比較鑑賞されたい。必ず心を打つ作に出会えるだろう。83ミリ。

鶴丸透図鐔 赤坂 Akasaka Tsuba

2014-02-24 | 
鶴丸透図鐔 赤坂


鶴丸透図鐔 無銘赤坂

 日本航空のマークにも似ていることで良く知られている。もちろん鶴丸(つるまる)の家紋の意匠の方が古い。鐔としてはいつごろから登場したのであろうか。肥後金工の平田彦三や林又七極めの作にみられることから、江戸時代初期と推定してよかろう。もちろん先に紹介した対鶴図に先行したものであろう。翼の構成線に多趣あり、印象の異なる鶴丸が生み出されている。赤坂派は肥後金工と交流があったとみられ、似た図柄が遺されていることも良く知られている。81.5ミリ。

喰い合い対鶴透図鐔 Tsuba

2014-02-21 | 
喰い合い対鶴透図鐔


喰い合い対鶴透図鐔 無銘

 左右に向かい合わせで意匠した作。これも家紋にある。赤銅地陰透。線の幅に強弱変化を付け、翼と羽根を猪目による網目のように複雑に構成している。文様化の進んだ対鶴であり、殊に嘴を交差しているところなど、自然の情景に取材したものと思われ、とても素敵だ。家紋と鐔の構成の妙なる関連を、改めて感じさせるものである。78ミリ。


対鶴図鐔 政富 Masatomi Tsuba

2014-02-20 | 
対鶴図鐔 政富


対鶴図鐔 銘長州萩住政富作

 先に紹介した神吉の作に比してより実体的表現になる対鶴図。美しく開いた翼は、肉彫表現により小羽の先まで丁寧な描写とされている。精密描写によりすっきりとした構成であるが、これも家紋を意識している作品である。岡田政富は江戸時代後期の文化文政頃を活躍期とする長州鐔を代表する工。精巧で精密な植物図を得意としている。その技法を採ったものであろう、翼の先端まで美しい。

対鶴図鐔 神吉 Kamiyoshi Tsuba

2014-02-19 | 
対鶴図鐔 神吉


対鶴図鐔 無銘神吉

 鐔の円形を家紋の円形に見立てたものであろう、明らかに上下の対鶴は家紋の構成である。簡潔な陰影に毛彫を加えて鶴らしさを高めている。もう一つ、上下の鶴によって囲まれた透かしの空間が松皮菱(まつかわびし)の家紋になっている点にも注意したい。江戸後期の肥後金工、神吉の手になる巧みな作品である。81ミリ。

対鶴図縁頭 安信 Yasunobu 

2014-02-18 | 縁頭
対鶴図縁頭 安信


対鶴図縁頭 銘安信

 真鍮地高彫銀色絵。地には霞を意図したものであろうか流れるような毛彫を加えている。縁は飛翔する姿を風景の中に眺めるように捉えているのだが、頭は明らかに対鶴(むかいづる)の家紋を意識したもので、鶴を対に意匠している。嘴は阿吽の意識を反映して一方が半ば開いている。鶴の身体は銀を主体に赤銅を組み合わせ、嘴のみ金色絵。安信は安親の門人とも二代安親の若銘とも言われている。素敵な作品である。

鶴図小柄 安達幽斎 Yusai Kozuka

2014-02-17 | 小柄
鶴図小柄 安達幽斎


鶴図小柄 銘安達幽斎

 同じ安達幽斎作小柄。首を傾げながら小魚をさがしているのであろう、片足をそっと上げ、得物に気付かれないよう狙いを定めている様子が良く捉えられている。これらの小柄に見られるように、鶴は幽斎の好んだ図であろうか、美しいのみならず動感に満ち満ちており、少ない色金処理だがそれらの布置は巧み。前回の小柄と同様に翼の動きに妙趣が感じられる。

立鶴図小柄 安達幽斎 Yusai Kozuka

2014-02-15 | 小柄
立鶴図小柄 安達幽斎


立鶴図小柄 銘安達幽斎

 安達幽斎は、片切彫平象嵌を駆使し、新味のある人物図、殊に動きのある人物の描写を得意とした金工。人物図に関しては筆描のように殊に強弱変化を付けた線刻を活かし、高彫ではないにも関わらず立体感と奥行感のある画面を創出した。この小柄は、ひとり佇む様子を捉えたもので、大空を見上げているその翼にわずかに動きが感じられるところなどが見どころ。確かな観察眼がに備わっていたことを証明しているようである。

立鶴図小柄 浜野保随 Yasuyuki Kozuka

2014-02-14 | 小柄
立鶴図小柄 浜野保随


立鶴図小柄 銘浜野保随

 保随は浜野直随の門人。各地をめぐって作品の糧としたが、後に徳島に定住し、蜂須賀家に抱えられる。晩年は又新と添銘している。この小柄は群れる鶴に取材し、奥行感を巧みに採り入れて立体表現したもの。朧銀地石目地に高彫金銀素銅色絵、毛彫と繊細な片切彫を加え、殊に翼の様子については濃淡色調を変えて表現している。「鶴の一声」が聞こえてきそうな、頗る精巧な作品である。

夫婦鶴蓬莱図小柄 後藤一乗 Ichijo Kozuka

2014-02-13 | 小柄
夫婦鶴蓬莱図小柄 後藤一乗


夫婦鶴蓬莱図小柄 銘後藤法橋一乗(花押)

 後藤一乗については説明する必要がなかろう。その一乗の手になる夫婦鶴図小柄。静かな時の流れが感じられる作品。笹の生い茂る野原は蓬莱島を想定したものであろう、綺麗に並んだ魚子地の背景は、澄んだ空気を感じさせる。ただ眺めているだけで幸せといった、暖か味のある作である。□

鶴に貴人図鐔 弘親 Hirochika Tsuba

2014-02-12 | 
鶴に貴人図鐔 弘親


鶴に貴人図鐔 銘弘親

 水戸金工打越弘親は弘壽の門人。水戸金工は古典に取材した図柄を好んで作品化している。精巧な彫口で朧銀地高彫に処理し、赤銅、金銀素銅の色絵を巧みに加えている。鶴が大空を旋回しながら地上を見下ろす姿は、いかにも絵画の題材として格好がよく、この鐔でも細部まで丁寧な彫刻処理がなされている。画題は良く分らない。74.8ミリ。