鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

達磨図鍔 金家 Kaneie Tsuba

2015-10-30 | 鍔の歴史
達磨図鍔 金家


達磨図鍔 山城国伏見住金家

天地左右が均一ではない耳、変わり形はこの金家から始まった。不定形な造り込みだけでなく、打返しによる独特の仕上げになる耳の抑揚でも特徴的だ。金家を説明すると、説明がどうしても作品に圧されて陳腐に感じてしまう。ただ見ているだけでも圧倒されるのが金家だ。多くは説明しない。

布袋和尚留守模様図鍔 埋忠 Umetada Tsuba

2015-10-29 | 鍔の歴史
布袋和尚留守模様図鍔 埋忠


布袋和尚留守模様図鍔 埋忠派

 七宝模様が施された袋。これによって宝袋という見方も出てくるが、布袋和尚の顔がここに重なって見えてしまう。布袋留守模様である。朧銀地高彫金象嵌毛彫。鍔の形状を、竪丸形を基本としながら、結び目を設けて異風に仕立てている。遊び心が溢れたことによる変り耳とされた作である。京に栄えた埋忠派の、文様美が巧みに展開されている。□

布袋和尚図鍔 八道友信 Tomonobu Tsuba

2015-10-28 | 鍔の歴史
布袋和尚図鍔 八道友信


布袋和尚図鍔 長州萩住八道友信作

 前回紹介した鍔と同じ意匠構成。耳のラインが、前回の竪丸形とは異なって不定形。同じように袋を図に採り入れ、袋の持つ柔らか味を変わり形で表している。もともと鍔は木瓜形、丸形、角形などを基本としていたが、桃山頃の金家に拳形と呼ばれるような変り形が登場した。変わり形鍔とは、耳のラインが不定形のものを指す。布袋和尚と言えばこの大袋。和尚の留守模様であっても、この袋で画題が判るほどだ。



布袋和尚図鍔 長陽正高作

これも同じ図。にこにこ顔の布袋和尚を袋の上に描いている。何が入っているのだろうかと想像させるほどに大きく膨らんだ袋が面白い。裏面の袋の様子も面白い。変り形にした効果が良く現れた作と言えるだろう。


布袋和尚図鍔 友周 Tomochika Tsuba

2015-10-26 | 鍔の歴史
布袋和尚図鍔 友周


布袋和尚図鍔 長門萩住河治権允友周作

 布袋和尚が携える大きな袋で耳を構成している。ここまでくると、耳というより鍔の構成そのものが袋と言えよう。鉄地肉彫地透金布目象嵌、和尚の持つ杖や笠は金銀素銅象嵌。表情が穏やかでとても良い。正確な図取りと高彫技術は長州鍔工ならではのもの。布袋和尚の袋をこのように構成した作は比較的多い。目貫の本体を大きな袋で描き、和尚の頭だけを覗かせているような作もある。伝統的な構成とも言えよう。

瓦に桜図鍔 後藤光久 Mitsuhisa Tsuba

2015-10-23 | 鍔の歴史
瓦に桜図鍔 後藤光久


瓦に桜図鍔 後藤光久

 打ち捨てられた瓦に散り掛かる桜。頗る印象的な場面である。そしてまた黒化した銀の桜が、墨染の桜を暗示して面白いが、ここでの桜は、遠い平安の世の雅を想わせる素材。桜の周りに配された金により、この鍔が製作された幕末から明治頃の京都に住む人々の、不安と遠い昔の世への思慕が強く浮かび上がってくる。名品である。さてこのような耳の仕立てを打ち返し耳と呼んでいる。あたかも耳の周囲を叩いて肉高く仕立てたかのような印象があるも、丁寧な鋤彫による描法とみて良いだろう。鍔の画面をおぼろに浮かび上がらせる効果がみられる。

波千鳥図鍔 壽明 Toshiaki Tsuba

2015-10-22 | 鍔の歴史
波千鳥図鍔 壽明


波千鳥図鍔 壽明

 以前、東龍斎清壽門人の作を何点か紹介したことがある。その作風に大きな特徴があることは、見ただけで判る。この鐔が東龍斎清壽一門の得意とした意匠構成の典型。耳際を二重、あるいは三重に仕上げ、あたかも洞穴から眺めているかのように構成している。耳は、図柄により、岩であったり、雲であったり、波であったりと、場面によって見え方が違ってくる。この鍔では、銀の布目象嵌を朧に散しているために、寒々とした印象がある。

蓬莱図鍔 京金工 Kyo-Kinko Tsuba

2015-10-21 | 鍔の歴史
蓬莱図鍔 京金工


蓬莱図鍔 京金工

 豪壮で華麗な風合い。文化の中心らしい京の品位が感じられる、赤銅魚子地高彫金色絵工法。やはり耳の表現がポイント。地面は魚子地仕上げとして敢えて大地や背景を描かず、耳際にのみ松樹を描き、下の耳際には波を描いて画面を周辺空域と明確に分け、蓬莱島を印象付けている。ここに棲むという亀もまた耳際に構成している。すると魚子地の部分はなんだろう。何を意味しているのであろう。砂浜か、蓬莱島を包む穏やかな空気か、耳の構成によって魚子地部分への想いも広がる。

四君子図鍔 壽景 Toshikage Tsuba

2015-10-20 | 鍔の歴史
四君子図鍔 壽景


四君子図鍔 壽景製

 朧銀地高彫金銀色絵。巧みな構成で、しかも優れた彫刻技術で写実表現した四つの植物。気品に満ちてしかも美しい。枝振りも、鍔と言う竪丸形の中に巧みに構成している。作者壽景は優れた感性の持ち主である。ここで説明したいのは、耳を竹と梅樹で左右に彫り分けて表現しているところ。明らかに耳を意識して植物の一部としている。梅樹に菊と蘭の葉が絡むように構成されているのもいい。耳の存在によって画面が完成しているのだ。

猛虎図鍔 薩摩 Satsuma Tsuba

2015-10-17 | 鍔の歴史
猛虎図鍔 薩摩


猛虎図鍔 薩摩

二、三紹介したように、主題に関連させて耳にも装飾を施した例は江戸時代に多くなっている。それはもう、鍔本来の耳ではない。画面の一部になっているのだ。この鍔では竹林に虎という、伝統的な取り合わせだが、竹林を描くことなく、耳に竹を構成している。節があることによって既に竹であることは判るが、さらに葉を描いて一層確かなものとしている。薩摩金工の得意とした図柄で、鉄味優れて力強い。

錨図鍔 Tsuba

2015-10-17 | 鍔の歴史
錨図鍔


錨図鍔 

波立つ海原を鍔全面に描き、大胆にも錨を透かしで描いている。それだけでもいいものを、さらに錨を繋ぐ綱を耳に構成している。これによって一際錨の存在感が高まり、しかも土手耳の効果も生まれている。簡素な手法だが頗る面白い。

牛図鍔 庄内 Syonai Tsuba

2015-10-16 | 鍔の歴史
牛図鍔 庄内


牛図鍔 庄内

 何とも鄙びた味わいのある鍔。見た通りの図柄構成で、しかも素材が持つ美観、真鍮地が活きている。ここでは牛を引く綱が耳に構成されている。牛を描く場合、背中などが耳のラインとして採られることもあるが、ここでは綱が巧みに採り入れられ、その中に牛が構成されているのだ。放牧された牛ではなく、背中を丸めて窮屈そうだが、確かに絵になっている。

秋草図鍔 美濃 Mino Tsuba

2015-10-15 | 鍔の歴史
秋草図鍔 美濃


秋草図鍔 美濃

 美濃彫り様式の鍔は幾度か紹介してきた。桃山時代以前の古い作は、地を深く鋤き下げることにより耳を高く文様を高く彫り出し、それらの表面には高彫と色絵を加えて華やかに表現するを特徴としている。この流れは江戸時代に至って美濃金工により同時代性のある作風が示されるが、また一方で美濃彫りの影響を受けながらも深彫様式から離れ、より繊細緻密な作風へと進化し、広く流行した。写真の鍔が後者の例。この鍔では、耳が特に意識されている。密集した秋草図だが、耳から鍔の内側に枝が伸びているのだ。鍔の下にはこれが花束であることも意味している要素がみられる。似た作風で、草叢に寝そべって空を見上げているような図柄もある。いずれも耳から内側に枝や花が繁っている。なんて素敵なんだろう。耳を意識していることを通じ、改めて鍔という装剣小道具の面白さに気付かされる。□

木賊図鍔 渡邊壽光 Toshimitsu Tsuba

2015-10-13 | 鍔の歴史
木賊図鍔 渡邊壽光


木賊図鍔 渡邊壽光

 覆輪ではないし土手耳ではないが、明らかに耳を意識し、耳際を肉高く仕立てた作。しかも装飾性に富んだ意匠である。意匠とは言っても束ねた木賊を耳際に構成しているだけのものだが、それが美しいから面白い。壽光は東龍斎清壽の高弟。植物など自然にあるものを題に採り、正確で精密な高彫による、文様として表現しているところに特徴がある。束ねるという構成は、もちろん収穫に他ならないが、熨斗に繋がる。我が国の伝統美だ。

舞鶴図鍔 埋忠就方 Narikata Tsuba

2015-10-10 | 鍔の歴史
舞鶴図鍔 埋忠就方


舞鶴図鍔 埋忠就方

平田の鍔でも紹介したが、鍔にはこの作のように覆輪が掛けられた作がある。元来は使用上の問題であったものが、次第に美観を高める目的に変化した。この鍔では明らかに地面全体に松葉を彫り描いていることから、覆輪は周囲の空域と鍔面を隔絶するものと捉えられている。額縁と同じだ。しかも金覆輪で綺麗に装っている。小柄笄の櫃穴にも金覆輪を掛けている点にも同様の効果を狙ったものであることが判る。くっきりとし、画面が際立っているのが良く判る。

炭に切枝図鐔 三角 Misumi Tsuba

2015-10-06 | 鍔の歴史
炭に切枝図鐔 三角


炭に切枝図鐔 三角

 肥後金工三角と極められた作。赤銅地を土手耳に仕上げ、耳から地面全体に図柄を鋤彫主要で肉彫に仕上げている。所々に金と素銅の色絵を加える程度。耳は多くが画面である平地部分と鍔の外の空間とを隔絶する、即ち絵画の画面という場を強く認識させるもの。つまり額縁である。ところがここでは、額縁にまで彫刻がなされているのだ。そもそも土手耳とは、桶底耳のように端部を高くして鐔としての強さを高める効用があった。多くは簡単な文様を施す程度であるが、主題に関連のある事物が肉高い耳とされたり、このように耳にまで図柄が及ぶ例もある。面白い。