鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

瓜図揃金具 正阿弥長鶴 Nagatsuru Aizu-Shoami Soroikanagu

2014-09-30 | 鍔の歴史
瓜図揃金具 正阿弥長鶴


瓜図揃金具 銘 会陽住正阿弥長鶴

 江戸時代の金工の手になる、古作を見るような揃い物。銘鑑では江戸時代初期の工とされている。作風は、桃山時代の影響を充分に遺していることから、江戸初期と捉えたものであろう。このような図は好まれたとみえ、古くから多数存在する。葉の表面の抑揚のある表情、唐草のように伸びた蔓の様子など、古作の通り。さて、瓜のうっとりだが、とても健全度が高く、その下の様子を観察したいと願っても無理だろう、古作の通りにうっとりの表面と同様の処理が為されていると考えて良いのだろうか。

瓜図小柄 後藤乗真 Josin Kozuka

2014-09-29 | 鍔の歴史
瓜図小柄 後藤乗真


瓜図小柄 後藤乗真

 室町末期の後藤の作。被せられたうっとり色絵が剥がれており、残念と言えばその通りなのだが、面白い景色となっていると考えればこれも許せる。考えてみれば、少しばかりの作業手順を省略して金板を固定しなかった故の状態である。こうなることが判っていて、うっとり色絵の手法を採った。普通であれば理解に苦しむ。剥がれた部分を拡大観察すれば壊れかけた雰囲気だが、全体を見渡せば、面白いじゃないかと、当時の人々も考えたであろう。利休が求めた茶に、使用によって変質してゆくその状態をそのまま楽しんでしまうという意識があるのに似ている。先に紹介した山銅地金色絵の兎図目貫や牡丹図目貫のように、剥がれたことによって生じた面白さである。目貫も共に後藤宗家三代乗真と極められている。

栗図笄 古金工 Kokinko Kougai

2014-09-27 | 鍔の歴史
栗図笄 古金工



栗図笄 古金工

 赤銅魚子地高彫金うっとり色絵による表現。高彫部分のうっとりが擦れている。栗のイガは針状に高彫できないことからこのような表現とされる。それ故に突起が針ほどではないものの鋭く突き出し、その根元は深い。この深部で金の板が留まっている。すり減りによって妙なる景色が生じており面白い。この金うっとりの下地にも丁寧な彫刻が加えられている。やはりうっとり色絵が落ちることを想定しているのであろうか。
 栗や団栗は秋の実りを意味する素材として好まれたようだ。栗鼠も描かれることがある。太古の時代、我が国の各地に自然の実りが存在した。それが故に縄文文化と呼ばれている繁栄の時代があった。もちろんこの笄を製作した人はその環境を知るものではないが、少なくとも、現代よりは遥かに多くの自然の恵みを、ごく自然に受けていた。そんなことを想わせる作品である。象嵌に脱落はあるが名品である。このような作例は多い、色々な面で作品をもっと楽しんでほしい。

七夕図目貫 古後藤 Kogoto Menuki

2014-09-26 | 鍔の歴史
七夕図目貫 古後藤


七夕図目貫 古後藤

 桃山時代以前の後藤家の作と極められた目貫。ふっくらとした高彫の表面に丁寧な彫刻を施しており、最後の仕上げとして金の色絵を施したもの。際端の観察から、かなり金の板が剥がれてはいるものの、高彫の端部において金の板が固着されていることが判るであろう。しかも高彫部分では銀鑞による焼き付けがない。うっとり色絵の手法である。さて、この高彫の表面を観察してほしい。特にうっとり色絵が剥がれた部分。この目貫に限らず、うっとり色絵が処方された作は、うっとりの下に隠れるはずの部分にさえ、精巧な彫刻が施されているのが常である。即ち、金を総て剥がしてしまっても充分に高彫処理に精密な彫刻が加えられており、言わば一つの作品として完成しているのである。先に紹介したうっとりがほとんど剥がれてしまった秋草図鐔の菊花の様子などは、丁寧な毛彫によって、普通にある菊花に仕上げられている。色絵が無くても充分に秋草の様子が楽しめるのである。


秋草図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2014-09-25 | 鍔の歴史
秋草図鐔 古金工


秋草図鐔 古金工

 山銅魚子地高彫金うっとり色絵。古調ながら丁寧な高彫とされている。すり減りもあるのだろうか、高彫された植物の表面の毛彫などは良く見えない。最も興味深いのは、金うっとり色絵が施されていた痕跡が明瞭に窺えるのである。花の部分の高彫の周囲を観察してほしい。ごくわずかに金が残っているところもある。いずれも高彫に沿って筋状の細い溝が切り施されていることが判る。葉の部分の少し幅広の溝とは明らかに異なる。おそらくすべての花と幾つかの葉に金のうっとり色絵が施されていた。高彫の周囲の細い溝は、うっとり色絵の特長でもある金薄板の端部を固着する部分。しかもうっとり色絵とは、高彫部分を銀鑞などで焼き付けしないのが特徴でもある。では金処理されているすべてがうっとり色絵かというと、露のように金色絵が施された素銅地の球が象嵌され、菊花の中心のみ金色絵とされているようだ。室町時代の作と推考されている、頗る面白い資料である。

鉄線花図鐔 古美濃 Komino Tsuba

2014-09-24 | 鍔の歴史
鉄線花図鐔 古美濃


鉄線花図鐔 古美濃

 古美濃の高彫様式になる作。極端な深彫の下地として魚子地を打ち施し、鉄線の枝と花は際端を削ぐように仕立てており、文様がこれによって一層高く浮かび上がって見える。その高彫された花の部分に金の色絵が施されている。表面が擦れて剥離しており、うっとり色絵のように比較的厚手の金板が処方されていることが判る。だが焼き付けは完全には施されていないのであろう、わずかだが接着している用に見える部分と完全に剥がれている部分がある。ではうっとり色絵と断定してよいのだろうか。端部の処理を見ると、うっとり色絵の特長でもある金板を食い込ませた様子が強くもない。実はこのように、どちらとも判断できない技法による色絵が多く存在するのである。考えてみれば、金工作品とは、技法を展覧する場ではなく、金の装飾が効果的に為されれば良いというだけで、良い方法が見つかればその技法を採り入れてみようと考える職人もいるだろう。高彫色絵の一部が接着しているだけでも、うっとりより剥がれにくくなり、それで充分であったのだろう。

飛天図目貫 古金工 Kokinko Menuki

2014-09-22 | 鍔の歴史
飛天図目貫 古金工



飛天図目貫 古金工

 桃山時代の作であろうか、かなり華やかな装飾が施されている。赤銅地容彫に金銀の色絵を加え、衣服や天衣の文様として金の平象嵌を施している。このような細い線や点状の文様については象嵌と色絵の、いずれの場合もあり、表面からの観察では分らない場合もある。この作例のように脱落した部分の存在によって、麻葉文と点文部分が平象嵌、その他は色絵であると判る。後藤家などの古様式を狙ったものであることは、裏の足が陰陽に造られていることから判るが、地造りにおいて肉厚感があり、古式の薄手から江戸時代の厚手の作風へと移りゆく過程のものであることが考察される。

波文図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2014-09-20 | 鍔の歴史
波文図鐔 古金工


波文図鐔 古金工

 過去に紹介したことのある作品。時代が上がり、しかも手の良い作であることから何度も紹介する。波頭にのみ色絵を加えている。波飛沫は金の点象嵌。波頭の金色絵が手ずれによって薄くなっている。色絵は比較的薄手のようだ。色絵の端の方を観察すると、グラデーションが付いているようにも見える。即ち、色絵の厚さが端の方ではかなり薄く、微妙に消えているのである。厚い金の板の焼き付けでは、このようなぼかしに似た表現は難しいだろう。古金工とは桃山時代以前の諸工を指す。それら、時代の上がる工が、古様式を写すだけでなく、新たな風合いを求めて工夫を重ねていたことが想像されるのである。

藻貝図小柄 古金工 Kokinko Kozuka

2014-09-19 | 鍔の歴史
藻貝図小柄 古金工



藻貝図小柄 古金工

 赤銅魚子地高彫金色絵。元来は笄であったものを、小柄に仕立て直している。押し合うように密に構成しており、豊漁の様子が判る。笄だから裏面からの打ち出しではなく、彫り込みによる高彫表現である。量感豊かに彫り出した表面には細かな魚子が打たれてウニなどの質感をより鮮明にしている。色絵がその上に施されている。さて、色絵が先か魚子などの細かな表面彫刻が先か、という問題は難しい。大仏に用いられたような金色絵は、アマルガムを用いていることから細かな彫刻が施された高彫の上にも容易に金色絵ができる。ところがこの色絵は部分的に剥げが見え、魚子地が綺麗に施されているのも判る。銀鑞などで固着した色絵ではこのような微細な表情は生じ得ないだろう。色絵の上に魚子を打ち、繊細な彫刻を施したものであろうか。色絵の観察だけでも面白い。

水草に蟹図目貫 古美濃 Komino Menuki

2014-09-18 | 鍔の歴史
水草に蟹図目貫 古美濃


水草に蟹図目貫 古美濃

 藻貝図目貫と同様に、細身に仕立てられたもの。目貫にはこのように幅の極端に狭いものと、先に紹介した牡丹図目貫のように幅の広い作がある。短刀や腰刀などに装着する目貫を考えると、このように幅の狭い作の方が引き締まって見えるかと思う。赤銅地を打ち出し強く高彫に仕上げ、金色絵を施している。表面の擦れ具合の観察から、金の色絵はかなり薄手の仕上げ。網目のような背景の構成がいい。後に洗練味を帯びてくる曲線の貮實夜水の流れの様子が、未だ、水草と組み合わさっており、すっきりとはしていない。総体の古調な風合いが魅力である。

藻貝図目貫 古美濃 Komino Menuki

2014-09-17 | 鍔の歴史
藻貝図目貫 古美濃




藻貝図目貫 古美濃

 網目のように構成した藻草の所々に貝を配して豊かな漁場のありようを表現している。赤銅地を打ち出し強く量感豊かな高彫に仕上げ、表面には様々な鏨や地文処理をして実体感を高めている。この時代の装剣小道具の図柄に対して、写実性を求めていたことが良く判る作例である。植物図も写実に富んだ例が多く、上手だとは下手だとかは別として、定型化した表現の方法と、その再現の面白さは別として楽しみたい。金銀の露象嵌が施されているも、所々抜け落ちている。これにより本式の象嵌であったことが判る。だが仔細に観察すると、銀象嵌の一部に銀の色絵が剥がれかかっているところがあり、必ずしも象嵌が金無垢や銀無垢というわけではなさそうだ。象嵌の球に色絵が施されている例も多いのである。裏面の観察では、薄手に仕立て、際端を絞ってさらに量感を高めていることが判る。足が外されているのは、先に説明した通り、剣術の流儀や使用の方法など、様々な要因があり、曲げられたり外されたりと、その時々によって処理が加えられたものである。


枝菊文図縁頭 古金工 Kokinko Fuchigashira

2014-09-16 | 鍔の歴史
枝菊文図縁頭 古金工


枝菊文図縁頭 古金工

 室町時代から桃山時代にかけての作と推考される、古様式になる縁頭。かなり薄手の素銅地を目貫のように打ち出しているのが写真でも判るであろう。高彫部分に金色絵を施している。決して上手というわけではないが、不思議な魅力がある。前回紹介した鐔と共に太刀拵とされている。

唐草に桐紋図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2014-09-13 | 鍔の歴史
唐草に桐紋図鐔 古金工


唐草に桐紋図鐔 古金工

 小太刀拵に装着されている、室町時代後期から桃山時代にかけての作と推考される太刀鐔。薄手の山銅地を打ち出し、数ミリほどの厚さの中空の鐔に仕立てている。猪目透の隙間から内部が窺いとれるであろう、見た感じよりかなり軽い。鐔というと、もっと堅牢にできていると考えられがちであるが、古くは錬革鐔があり、薄手の山銅鐔があり、このような例があるわけで、硬い鉄地とは限らない。色絵が剥がれて錆が出ており、頗る質朴な感があるも、本来は全面が金色に輝く華やかなものであった。毛彫や片切彫になる唐草に桐紋は、かなり丁寧な処理がされており、高級武将の持ち物であったことが推考される。□

秋草に鹿図小柄 Koduka

2014-09-12 | 鍔の歴史
秋草に鹿図小柄


秋草に鹿図小柄

赤銅魚子地高彫金色絵。魚子地も高彫の表面も使用によって磨滅している。その金色絵の減り具合などに面白味を感じるのは筆者だけであろうか。当初の文様は、高彫全面に金が施されて相当に華やかであった。それが、使用によって新たな文様を生み出しているようだ。秋草と鹿の大きさのバランスなどは合っておらずに、まさに心象的であり、すり減った様子により、総体がシュールレアリズムの代表的作家であるジョアン・ミロのようで楽しい。

秋草に兎図目貫 古金工 Kokinko Menuki

2014-09-11 | 鍔の歴史
秋草に兎図目貫 古金工



秋草に兎図目貫 古金工

 古金工と極められた古風な目貫。先に紹介した牡丹図目貫とは、もちろん図柄が異なる点で風合いは違うのだが、葉の筋立てている様子など、彫刻の技術が良く似ている。山銅地容彫金色絵で、やはりすり減った様子に妙味あり、美しいし味わい格別。裏面の観察も比較して見たい。拵に巻き込まれていたことから汚れで判り難い点もあるが、地造りから裏行も良く似ている。際端の処理、抜け穴の処理も同様に似ている。同人の作とは断じ得ないが、頗る近しい職人であったと推考される。