鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

波龍図鐔 秋田住正阿弥 Akita‐Shoami Tsuba

2013-11-30 | 
波龍図鐔 秋田住正阿弥


波龍図鐔 銘秋田住正阿弥

 赤銅地高彫で流れるような波を掻き分けて姿を現した龍神を高彫金色絵の手法で彫り描いている。この構成になる波龍図は、実は長州鐔工にもみられる。もちろん他の金工にもあるのだが、この鐔では銘を見なければ長州鐔の作と見間違えてしまう出来。ただし、龍の顔つきや胴体の締まりなど仔細に観察すると異なる点は多々ある。正阿弥派は、京に興り、各地に移住して栄えている。多くは鉄地高彫や肉彫に金銀の布目象嵌を施すを得意としたが、時代が下っては正阿弥の特徴が薄れたこのような作も遺している。

波龍図鐔 静壽翁政知 Masatomo Tsuba

2013-11-29 | 
波龍図鐔 静壽翁政知


波龍図鐔 銘静壽翁政知

 長州鐔工には龍の図が頗る多い。これまで、正確で精巧な植物図や山水図鐔を紹介したことがあるも、龍の図も得意としていたようであり、意匠も様々。この鐔は、耳際に龍を這わせて平地部分に地透の手法で荒波を彫り出している。秀国の波図目貫を紹介したが、波の下の部分の表現は、波そのものを独立させて彫り描くと、大変に難しいと思う。この鐔では網目のように波を構成しているが、波の下の構成線も活かされており、優れた作品であることを改めて感じさせられる。政知は藩の御抱鐔工で、長州の中心的な岡田氏。この鐔には年紀もあり、特別の作であったと思われる。81.5ミリ。

波千鳥図大小鐔 福田政茂 Masashige Tsuba

2013-11-28 | 
波千鳥図大小鐔 福田政茂


波千鳥図大小鐔 銘福田政茂(花押)

 福田政茂は江戸後期の江戸金工。作品を多くは見ないが、この波も面白い。波頭が渦巻いている。騒がしいほどの波であり、今にも千鳥が呑み込まれそうな感じ。おそらく龍神の存在を暗示しているのであろう。この波の構成も巧みである。

寿老人図鐔 寶壽斎政景 Masakage Tsuba

2013-11-27 | 
寿老人図鐔 寶壽斎政景


寿老人図鐔 銘寶壽斎政景(花押)

 月を背後に地上を見下ろす寿老人。長寿を保ち、人それぞれの寿命を書きつけた巻物を手にしている図が多いも、ここでは宝珠を抱えている。波はゆったりと寄せて渦巻くように白波を立てている。月の明かりの飛沫が光る。東龍斎派の描く波である。画題そのものは、長寿を願う、あるいは長寿を祝って描かれた例が多いのだが、この鐔では殊に図柄構成が面白い。朧銀地高彫金色絵を主体とし、裏面を赤銅で斜に色を変えているのも洒落ている。69.4ミリ。□

浜千鳥に錨図鐔 壽明 Toshiaki Tsuba

2013-11-26 | 
浜千鳥に錨図鐔 壽明


浜千鳥に錨図鐔 銘壽明(花押)

 壽明もまた東龍斎清壽門下の名手である。干上がった浜辺に現れた錨、飛び交う千鳥。陽が傾いている穏やかな景色に取材した作品である。裏は一転して曇った空に荒海。激しく打ち付ける波、白波立って崩れ落ち飛沫が舞い散るその上を飛翔する千鳥。波の動きが特にいい。鉄地高彫象嵌。縦70ミリ。□


千鳥図鐔 一次 Kazutsugu Tsuba

2013-11-25 | 
千鳥図鐔 高橋一次


千鳥図鐔 銘高一次造之

 これも東龍斎風の作品だ。二重式の耳に構成して額縁効果を求めた特色ある表現。鉄地高彫象嵌。夕日を背に飛翔する千鳥、磯馴松の伸びやかな様子、ひたひたと砂浜を撫でるような穏やかな波。砂浜は真鍮地に貝殻を彫り出し、波は鉄地高彫。この波も東龍斎派の特質である。76.7ミリ。

波千鳥図鐔 龍青 Toshinori Tsuba

2013-11-24 | 
波千鳥図鐔 龍青(壽矩)


波千鳥図鐔 銘龍青(花押)

 なんて素敵なんだろう、東龍斎派の作品。的確な構図と彫口。鉄地に高彫金の象嵌のみ。雲も、千鳥も、夕日も、もちろん波も他流派とは異なっている。大きくうねるような波を中程に配し、手前には寄せ返す波によって乱れた波を描いている。頗る巧みだ。64.5ミリ。

波千鳥図鐔 後藤清乗 Seijo Tsuba

2013-11-23 | 
波千鳥図鐔 後藤清乗


波千鳥図鐔 銘後藤清乗(花押)

 江戸後期の後藤清乗の作。清乗家は後藤家の流れを汲むも、典型的後藤風とは離れた作品を専らとしている。この絵画風の鐔も色紙に描かれた墨絵を見ているようで、空気のありようも夕日も地の槌目を活かしているところがいい。砂浜に寄せては返す波は海を穏やかに印象付けている。83.8ミリ。

潮汲図鐔 信住 Nobusumi Tsuba

2013-11-22 | 
潮汲図鐔 信住


潮汲図鐔 銘應需信住作

 三日月が沈みかかる頃、浜辺に置かれた潮汲みの桶。砂浜を撫でるような波、沖の波も穏やかに、チチチと鳴く千鳥の声が風にのって伝わりくる。暗闇が迫って既に人気なく静寂に包まれている海辺の様子を印象深く彫り描いた作。上質の赤銅地を抑揚のある石目地に仕上げ、各々の要素を的確な構成と高彫に色絵で表現している。磯馴松を添景として構成が巧みである。信住なる金工については詳らかではないが、素敵な作品を遺しており、優れた技術者だと思う。66ミリ。□


江ノ島図縁頭 壽霍斎政春 Masaharu Fuchigashira

2013-11-21 | 縁頭
江ノ島図縁頭 壽霍斎政春


江ノ島図縁頭 銘壽霍斎政春

 この政春は石黒派の工。朧銀を石目地高彫に仕立て、赤銅に色を違えた金の色絵を加えて変化のある色調に仕上げている。江ノ島が主題であり、頭の千鳥は添景だが、このように並べてみると、海岸から江ノ島に続く砂州の上を飛びゆく千鳥の様子が美しい。穏やかな波が江ノ島を包んでいる。現在、東の平地の辺りはヨットハーバーになっている。西には懸崖が続き、鬱蒼と茂った木々はそのままで、古くから修行の場とされていたことを窺わせる。鳥居と弁財天の塔も今のまま。この金具が製作された頃には既に、現在のような観光客が連なっていたのであろう。

鳥尽図鐔 直義 Naoyoshi Tsuba

2013-11-20 | 
鳥尽図鐔 直義


鳥尽図鐔 銘直義

 表に雌雄の鴛鴦を、裏に波千鳥を描いている。表が銀次で裏が鉄地。いずれも高彫の昼夜の表現。写実的な描写で、添景である岩や芦も丁寧に彫り描いている。鴛鴦の色使いも色の種類が少ない中で巧みに再現している。千鳥ももちろん動きがある。寒々とした風景であり、打ち返す波の様子が一際冬の海辺の様子を印象付けている。67ミリ。


波千鳥図鐔 赤文 Sekibun Tsuba

2013-11-16 | 
波千鳥図鐔 赤文


波千鳥図鐔 銘赤文

 波は具体的には描かれていないのだが、確かに波が見える。波に反射した陽の光を意図したものであろう、三つの小丸を透かしており、櫃穴と連続させて動きのある背景に仕立てているのだ。赤文は安親に私淑した一人だが、この優れた図案は赤文独自のもの。千鳥も安親風であるが、本作を見ても、さすが独自の作風を展開した人気の高い金工であったことが分る。78ミリ。

千鳥図鐔 秀興 Hideoki Tsuba

2013-11-16 | 
千鳥図鐔 川原林秀興


千鳥図鐔 銘川秀興

 安親の作風を手本として製作した、大月派の川原林秀興の鐔。千鳥は奈良派の安親を想わせるし、先の政随を参考にしてもいいだろう。ここでの波は岸辺を流れるそれであり、簡潔な表現ながら、月、雲、芦の葉とのバランスからも素敵な空間演出とされている。68.6ミリ。

波千鳥図鐔 政随 Masayuki Tsuba

2013-11-15 | 
波千鳥図鐔 政随


波千鳥図鐔 銘政随行年六十七

 奈良三作というと、利壽、安親、乗意の三名人を指す。これに次代の政随を加えて奈良四天王と評価している。政随は前三工に比較して浜野派という人気の高い巨大な流派を構築して江戸金工の幅の広さを世に知らしめた感がある。
 この鐔は、安親が文様化を極めた千鳥図を手本としたもので、松樹に掛かる太陽も、千鳥も文様表現が進んでいる。波も簡潔な片切彫の手法であり、これも文様風。千鳥の表情には、江戸に流行したであろう文様表現というだけでなく、政随独特の厳しさも感じられる。鉄地高彫金銀朧銀象嵌。72.8ミリ。


千鳥図鐔 銘政随行年六十又六

 同じ政随の、赤銅地に千鳥のみを描いた作。72.4ミリ。□

浜千鳥図鐔 奈良利治 Toshiharu Tsuba

2013-11-14 | 
浜千鳥図鐔 奈良利治


浜千鳥図鐔 銘奈良利治作

 先に紹介した安親の先達という位置付けにあるのがこの利治。同じ鉄地高彫金銀象嵌の手法で、風合いは似ている。描いているのは松原に千鳥、ここでは樹の間にわずかに見える程度に大海原の波を描いている。これに銀の点象嵌を加えて陽に波の輝いている様を表現したものか。千鳥の表情は安親のような文様化は進んでいない。むしろ写実味があり、群れ飛ぶ様子にも動きがある。79ミリ。