鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

夕顔図笄 Kougai Ko-Kinko

2019-06-29 | 鍔の歴史
夕顔図笄 古金工


夕顔図笄 古金工

ユウガオはアサガオやヒルガオとは異なり、瓜の仲間であることは改めて言うこともなかろう。春から夏にかけての植物を眺めているが、金工作品は植物図鑑ではないので、科学的な側面より作品そのものに目を向けたい。とはいえ、瓜の仲間であるということは、この植物が植えてあるのは鑑賞用ではなく食用のために他ならない。光源氏がたずねてきたこの家には夕顔があり、光源氏の牛車に夕顔が巻き付いているのは、しばらく光源氏が滞在していることを意味している。また、当時、食用の植物が家に植えられていることは恥ずかしいことでもあった。雅な風景ながら、『源氏物語』の夕顔の題から、そのような背景が窺える。

瓜図二所物 Futatokoro Joshin

2019-06-29 | 鍔の歴史
瓜図二所物 乗真


瓜図二所物 乗真

 季節の植物図の描かれた作品を紹介している。繁栄と言えば瓜もまた蔓草を四方八方に伸ばすことからその象徴とされている。そもそも、蔓草の背景にある唐草文そのものが永遠の生命を暗示している。空想の唐草に対し、瓜や葡萄などは現実の蔓性の植物。夏の植物の代表格だ。生命の源である太陽の光を受けて繁る植物。秋には実りがあり、冬枯れがあり、再び春には芽を出す。


杜若図二所 後藤海乗 Kaijo Kozuka

2019-06-28 | 鍔の歴史
杜若図二所 後藤海乗


杜若図二所 後藤海乗

 後藤海乗は七郎兵衛家の四代目。本来は目貫も揃いで三所物とされていたのであろう。春から夏への移り変わる梅雨の頃の花の一つ。杜若というと、『東下り』に取材した八つ橋が有名だが、これも落ち着いた風情があり素敵な画面となっている。


菱図笄 古後藤 Ko-Goto Kougai

2019-06-27 | 鍔の歴史
菱図笄 古後藤


菱図笄 古後藤

 菱の実は食べられる。水栗の異称があるように、ゆでるとホクホクとして甘みがあるそうだが、残念ながら食べたことがない。古くから栄養源として考えられ、また薬種としても重宝されていたようで、画題に採られた理由も良く判る。最近の研究では目に良い薬効成分が、菱の皮から採られているそうだ。そこまで経験的に理解されていたのであろうか分からないが、繁栄を意味する植物の一つであったことは間違いない。菱の実の存在感がまたいい。

河骨図縁頭 浜野保随 Yasuyuki Fuchigashira

2019-06-26 | 鍔の歴史
河骨図縁頭 浜野保随


河骨図縁頭 浜野保随

 精巧で細密な高彫表現。これも野にある草花ではなく、切り取られて飾られることを意識した構成。繁栄よりも美しさに視点が置かれている。鉄地に高彫された塑像の象嵌。自然の状態であれば野趣にあふれた存在だが、見事に花そのものが芸術作品として捉えられている。

沢瀉図小柄 古後藤 Ko-Goto Kozuka

2019-06-24 | 鍔の歴史
沢瀉図小柄 古後藤


沢瀉図小柄 古後藤

 濃密な高彫表現。繁栄を暗示している。打ち出された沢瀉の葉や花はくっきりと肉高く、厚手の金をうっとり色絵に処理している。金の多用も繁栄に通じる。高級武将の備えとされたものであろう。室町時代から桃山時代の古い作。

沢瀉図鐔 柳川齋連行 Tsurayuki Tsuba

2019-06-22 | 鍔の歴史
沢瀉図鐔 柳川齋連行


沢瀉図鐔 柳川齋連行

 沢瀉、河骨、菱、水草が好んで描かれる理由はどこにあるのだろうか。蓮にも言えることで、じつは地下茎が発達して湖沼一面に成長することから、これらの植物は繁栄の象徴とされたようだ。もう一点、沢瀉には勝軍草の呼称がある。前にしか進まない蜻蛉は勝虫と呼ばれており、その勝虫が羽根を休める草が沢瀉であることからの呼称である。これも好まれた理由であろう。

鉄線に蜻蛉図鐔 宗政 Munemasa Tsuba

2019-06-21 | 鍔の歴史
鉄線に蜻蛉図鐔 宗政


鉄線に蜻蛉図鐔 宗政

 宗政は藤堂家の金工。写実的作風が特徴だが、もう一つ興味深い点がある。頗る鍛えの強い鉄地を素材として、鉄地そのものにも働きというか強さ、鉄本来の魅力を備えた作品を製作しているのである。この鐔が良い例だ。拳形というか不定形の造形がいい。抑揚のある鉄の肌がいい。夏の午後のひと時、といった長閑な風景がいい。花は鉄線。


鉄線花図鐔 美濃 Mino Tsuba

2019-06-20 | 鍔の歴史
鉄線花図鐔 美濃


鉄線花図鐔 美濃

 鉄線花は輸入された植物である。それゆえに輸入された時代の決定が、鐔の製作時期の判断にもつながると考えられているようだ。この鐔は、鉄線花の伝来より古い室町時代の古法による深彫表現。桶底式に耳が高く、魚子が打たれた地面が低く、文様も耳と同様にくっきりと高い。だが、先に述べたように鉄線の輸入が寛永ころといわれていることから、寛永以降の製作ではないかと鑑られている。花の輸入は江戸時代初期でも、鉄線の絵画は古くからあるかもしれないので、絵画を手本としたなら、製作の時代はもっと遡っても良いだろう。彫法が古い作品の実製作の時代判定は難しい。この鐔は、いくつかの鑑賞要素を備えた、資料的価値の高い興味深い作品でもある。赤みの強い赤銅地。高彫の花は金の薄い板を被せて際端で固定させたうっとり色絵に近い手法。あるいは焼き付けされているのかもしれない。金色絵の剥がれた部分を観察すると、下地にも彫刻が施されていることが判る。切羽台には魚子地の試し打ちの痕跡があり、これも面白い。

蓮花図小柄 後藤廉乗 Renjo Kozuka

2019-06-18 | 鍔の歴史
蓮花図小柄 後藤廉乗


蓮花図小柄 後藤廉乗

 美しい初夏の花の代表格でもある蓮。後藤宗家十代廉乗の作であることを、同十二代光理が極めた作。生け花の美意識が背景にあるのだろう、野や池の花とは異なる上品な構成だ。赤銅魚子地高彫金銀色絵。茶室に客をもてなすため、茶室も、庭に咲く花にも演出をほどこすのは、今では当たり前になっている。束ねられた花にはそんな感覚が窺える。

藤花図小柄 戸張富久 Tomihisa Kozuka

2019-06-17 | 鍔の歴史
藤花図小柄 戸張富久


藤花図小柄 戸張富久

 藤も穏やかな紫色を呈して春から夏への季節の移り変わりを示す植物。この小柄は奇麗な平象嵌による表現。朧銀地に金の葉と銀の花が、線のシャープな切り絵のように平面として浮かび上がる。銀の花が朧でいい。桜が期の短い花の代表格とされているが、藤も花期は短い。ひと月も前になるが、白藤を目当てに鎌倉の英勝寺へ行ってみたのだが、例年では満開のはずがちょっと早く、瀧のように折り重なって咲く花房は見られなかった。数年前には連休の後半に行って遅かったことを経験している。

花桐図鐔 埋忠重義 Shigeyoshi Tsuba

2019-06-15 | 鍔の歴史
花桐図鐔 埋忠重義


花桐図鐔 埋忠重義

 桐花の上品な淡い紫色を金の色絵で表現している。桐は桜の後に野を彩る植物。彩るとは言っても、桜ほどには強い存在感を示すわけではない。穏やかで優しい色合い。四月の中頃だろうか、山梨県の塩山からちょっと山の方に小旅行をしたことがある。萌え始めた緑の中に淡い紫の色叢が所々に見られた。目的は桐花の鑑賞ではなかったのだが、つい見とれてしまった。山桜以上に存在感があるように感じられる。


花桐図縁頭 藤原政龍

 桐紋を意匠した花桐。洒落た感覚だ。


牡丹図小柄 高瀬榮壽 Eiju Kozuka

2019-06-14 | 鍔の歴史
牡丹図小柄 高瀬榮壽




牡丹図小柄 高瀬榮壽

 町彫り金工らしい美しい表現になる牡丹図。花弁に量感があり、牡丹の特徴が鮮明。横谷宗珉以降、後藤家にはないこのような贅沢すぎる表現が流行している。絵画では狩野家の花鳥図屏風などに鑑られるように、美しい花、作品化された花は、見ているだけで安心し、穏やかな気分になれる。花鳥図が好まれたのはそのあたりに理由があるのだろう。もちろん牡丹は花の王と呼ばれているように品位の高い花である。

桜に燕図鍔 盛親 Morichika Tsuba

2019-06-13 | 鍔の歴史
桜に燕図鍔 盛親


桜に燕図鍔 盛親

 ぼうっとしているあいだに春の花の季節が過ぎてしまった。この鐔は、ちょっと季節を遡って春の花、吉野の桜に燕が題材。桜は遠望のそれと、川の流れにのる花房。美しい場面を題に採り、東龍斎派に特徴的な夢の中にあるような構成。春霞か花の香りか…銀で縁取ったところがいい。飛翔する燕も構成線が美しい。45□
 

朝顔図鍔 宣政 Nobumasa Tsuba

2019-06-12 | 鍔の歴史
朝顔図鍔 宣政


朝顔図鍔 宣政

 夏の花朝顔。これも長州鐔工の作。やはり唐草を背景に構成しているものの、南蛮の趣は微塵にも感じさせない。美しい作である。朝顔は、江戸時代に栽培が流行し、様々な、奇妙なといったほうが良いだろうか珍しい咲き方をする花が生み出された。