鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

秋草に虫図鐔 会津正阿弥

2010-03-08 | 
秋草に虫図鐔 会津正阿弥

 
① 秋草に虫図鐔 銘 正義作


② 秋草に虫図鐔 無銘会津正阿弥

 陸奥国の会津正阿弥(あいづしょうあみ)派には、秋草を添景として採り入れた作品が間々みられる。Photo①は正義(まさよし)の作で、秋草にキリギリスであろう、大胆な構成ながら、主題であるキリギリスを正確で精密な写実表現を試みており、裏の水辺に川骨と蝶との関連も味わい深く鑑賞できる。ただし秋草は象徴的とも言い得る描写で、ふっくらと丸みを帯びた花の種類は女郎花であろうかと推測せざるを得ない作風。遠く霧か雲の彼方には木々がみえるよう構成しており、山水図を基礎に置く風景画としていることが分かる。こうした絵画風の表現は会津正阿弥派の得意とするところである。赤銅石目地高彫金銀色絵の工法。
 Photo②は無銘ながら会津正阿弥派の作と極められる秋草に虫図鐔。これも雲間に顔を出した月の下、かすかな明かりに窺い見る野の小さな自然のいとなみといった風情である。江戸時代の正阿弥派は、室町時代のいわゆる古正阿弥派の風合いとは異なり、彼らが移住した各地の特質や、江戸で学んだ感性と技法を展開している。作風から奈良派の影響をも受けているように思われる。鉄地鋤彫高彫金赤銅銀象嵌の工法。