鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

五丈原図鐔 奈良直喜 Naoyoshi Tsuba

2013-05-30 | 
五丈原図鐔 奈良直喜


五丈原図鐔 銘 奈良直喜造

 孔明の最後の活躍場面。最後の、と言ったが、実はこのときすでに孔明は死んでいた。「死せる孔明生ける仲達を走らす」の言葉を残した五丈原の合戦である。孔明は自らの死期を悟り、戦車に自らの像を載せて敵に向かうことを言い残す。司馬仲達は孔明の死を悟り、攻撃を開始するのだが、孔明の軍中には死んだはずの孔明が乗る戦車があった。混乱した仲達はこれを恐れて自ら軍を退かせたという。

三国志図鐔 直利 Naotoshi Tsuba

2013-05-29 | 
三国志図鐔 直利


三国志図鐔 銘 直利(花押)

不明画題
 先に紹介した直随の鐔と似た構図であるが、岩の背後に広がる地面の様子を橋の一部と捉えれば長坂橋の飛張という考え方がより明確になると思うが、どうだろう。風に靡く旗を持つ部下の姿を添え描き、鐔空間の演出を強めている。裏面の樹木に鳥の翼を休める様子も直随のそれを手本にしているようだ。特に描写が精密で、顔や身体各部位に動きがあり迫力がある。

三国志図鐔 浜野直随 Naoyuki Tsuba

2013-05-25 | 
三国志図鐔 浜野直随


三国志図鐔 銘 浜野直随(印)

不明画題
 視界の開けた丘に立つ馬上の武者図。三国志演義に取材したものと思われるのだが、場面が良く分らない。ご存知の方がおられたら、御教示願いたい。
 朧銀地高彫に鑚の強さを活かした丁寧な彫刻を施しており、槍を手に前方を睨み付ける様子などに迫力がある。元来は大小そろいの鐔であったものか。長坂橋の飛張ではないかと推考する。


諸葛孔明図鐔 Tsuba

2013-05-23 | 
諸葛孔明図鐔


諸葛孔明図鐔

 孔明は天の動きを読むことができた。すなわち気象、今の天気予報とまでは言わないが、雲の動きや地域の気象にかかわる伝承などに通じていたということであろう。それを活かしたのが長江赤壁の戦い。曹操が数十万という兵を擁して南下、孫権は恭順か開戦か悩んでいた。劉備は、周瑜と共に開戦を迫る。舟戦に慣れていない曹操が相手であれば、数は劣るとはいえども逆に力は優ると考えていた。これに孔明の頭脳が加わって孫権軍の力は強大なものとなった。天気を、風を、霧を味方につけた孔明は、火攻めなど奇抜な手段を駆使して曹操軍を壊滅に追いやったのである。
 火攻めに必要な東南からの風を求める呪術を用いたのが孔明であったというが、それが気象を読む力に他ならない。舳で彼方を見やる孔明を描いたこの鐔は、そのような孔明の存在感を鮮明にしている作である。赤銅地高彫金銀朧銀色絵。


草廬三顧図鐔 蓋雲堂浜野直随 Naoyuki Tsuba

2013-05-21 | 
草廬三顧図鐔 蓋雲堂浜野直随


草廬三顧図鐔 銘 蓋雲堂浜野直随(金印)行年四十六

 素晴らしい作品であり、しかも保存状態が頗る良い。裏に諸葛孔明を描き、それを訪ねる三者を、丁寧な背景に浮かび上がらせるように色金の処方も巧みに調整して構成している。何より、顔身体の動きが良く分るよう描き、個性的な表情をも的確に描き出しており、戦いの場面ではないにもかかわらず迫力に満ち満ちている。細部まで丁寧に描いた人物像は、話し合っている口の動き皮膚の動きまでも伝わってくるようで、目の力も魅力的。裏面の孔明も全く同じに、静かな表現ながら生命観が伝わりくる。朧銀地高彫金銀赤銅素銅色絵象嵌。これも最新の入荷品。□


檀渓渡河図鐔 銘 浜野直随 Naoyuki Tsuba

2013-05-20 | 
檀渓渡河図鐔 銘 浜野直随


檀渓渡河図鐔 銘 浜野直随(花押)

 先に同図を3点ほど紹介したが、檀渓渡河図鐔を新入荷したので紹介する。直随の得意とした劉備危機一髪という場面を、朧銀地高彫金銀赤銅素銅色絵象嵌の手法で表現した作。当たり少なく保存状態が良く、永くコレクターが大切にしてきたことが分る。愛馬を駆って荒れ狂う檀渓に突き進む、その鬼気迫る様子を的確に描き出している。やはり鏨使いに迫力がある。意図的に鏨の痕跡を活かして動きの矣ある背景をも表現し、もちろん主題である劉備と的盧の表情が素晴らしい。名品である。□

趙雲奮戦図鐔 浜野矩随 Noriyuki Tsuba

2013-05-15 | 
趙雲奮戦図鐔 浜野矩随


趙雲奮戦図鐔 浜野矩随

 長坂で曹操軍に追いつかれて混乱に陥った劉備軍は、飛張の活躍で渡河を断念させるに至るのだが、その陰では悲しい出来事も起こっていた。劉備の甘夫人や糜夫人とその子供である阿斗などが敵兵に捕えられてしまったのである。その救出に向かったのが趙雲。ところが、怪我をして動けない糜夫人は趙雲に阿斗を託すと、自らは足手まといになるのを恐れて井戸に身を投じてしまった。趙雲は阿斗を懐に奮戦、かろうじて脱出。その姿を描いた鐔で、懐に阿斗を抱き、左手に槍、右手に剣を持ち、巧みに馬を操る場面。鉄地高彫金銀象嵌。阿斗を描いた作は珍しい。浜野矩随は政随の高弟。この鐔には忠五郎と自信の名が刻され、さらに十七歳とある。

長坂橋図縁頭 國光 Kunimitsu Fuchigashira

2013-05-14 | 縁頭
長坂橋図縁頭 國光


長坂橋図縁頭 阿部國光

 朧銀地高彫に各種の色絵。人物描写に特徴が見られる。歌舞伎の一場面を見るような構成は江戸時代後期に間々あり、どれほど人気が高かったものか想像もできよう。頭に飛張、縁にはその怪力に押されて逃げる敵兵をコミカルに描いている。

長坂橋図鐔 濱野直随 Naoyuki Tsuba

2013-05-13 | 
長坂橋図鐔 濱野直随


長坂橋図鐔 濱野直随

 曹操への降伏帰順か対立かを迫られていた劉。その下、新野城にあって対曹操戦の要とされていた劉備は、突然の劉の降伏によって孤立してしまった。曹操の大軍団を前に為す術もなく、諸葛孔明の案により、劉備は、ひとまず江陵を目指して南下する策を採ったが、新野の領民も劉備に追随の道を採ったため、軍行は捗らず、ついに曹操軍に追いつかれて混戦となった。それが長坂橋の辺り。
 攻め寄せる曹操軍の長坂渡河を許さじと橋の中ほどに馬を進めて独り立ち、敵軍を睨みつける飛張の姿が作品化された例は多い。濱野直随のこの鐔は、赤銅地を高彫にして金銀素銅の色絵を巧みに加えた、直随らしい迫力のある作。


諸葛孔明図目貫 Menuki

2013-05-10 | 目貫
諸葛孔明図目貫


諸葛孔明図目貫

 諸葛孔明図鐔に似た構成になる作品だが、ちょっと様子が異なる。机には琴が置かれているのである。孔明と琴の組み合わせは『空城の計』を思い起こす。この目貫はその暗示であろうか。空城の計とは、敵に対して圧倒的に兵力が劣る際、攻め込まれることを回避するために行う城を空と思わせる奇策の一つ。孔明は、圧倒的多数の魏軍に城を攻撃されることを回避する目的で、城の大門を開け放ち、城上で琴の音を響かせたという。敵軍は伏兵が潜んでいるものと恐れ、引き去ったという。

諸葛孔明図鐔 良紀 Yoshinori Tsuba

2013-05-09 | 
諸葛孔明図鐔 良紀


諸葛孔明図鐔 良紀

 赤銅地高彫色絵。先に紹介した鐔と同じ構成だが、厳しい表情の諸葛孔明を描いている。孔明を描く際の決まりごとの一つに独特の被り物と羽団扇がある。以前から気にはなっているのだが、被り物については家流や自出を示すものであろうか、歴史上の当時の流行であろうか、よくわからない。あるいは飛張や関羽の風体のような、単純なるキャラクター設定上のものかもしれない。

諸葛孔明図鐔 随廣 Yukihiro Tsuba

2013-05-07 | 
諸葛孔明図鐔 随廣


諸葛孔明図鐔 随廣

 諸葛孔明を自らの参謀に得たいと願う劉備は、良い返事をもらえないながらも度々訪れた。目上の者であるはずの劉備の、三度の訪問に応える形を採った孔明は、その行為そのものを歴史に刻んだ。『三顧の礼』である。
 机に向かう孔明の姿はよく描かれる。思慮深く繊細な趣を携えており、飛張や関羽とは全く異なる存在感。性格の異なる武士を束ねた劉備自らも結構面白いキャラクターであり、各々が性質を異にするエピソードを生み出すことからも人気がでたものであろう。写真の鐔は、静穏なるその様子を描いた作。朧銀地高彫色絵。随廣は江戸後期の浜野派の工。