鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

二ツ木瓜形鐔 平安城象嵌 Heianjo-Zogan

2014-06-30 | 鍔の歴史
二ツ木瓜形鐔 平安城象嵌


二ツ木瓜形鐔 平安城象嵌

 先に紹介した、八方に猪目透を意匠している応仁極めの鐔をと比較しても、充分に応仁の要素を備えていると言える平安城象嵌鐔である。二つ木瓜の意匠がいい。このような意匠の新鮮味が平安城象嵌極めの要であろうか。菊花状の装飾を耳際に施し、縒り線を放射状に象嵌している。この兜の鉢を想わせる意匠がいい。点象嵌も活きている。79.3ミリ。

文散し図鐔 平安城象嵌 Heianjo-Zogan Tsuba

2014-06-28 | 鍔の歴史
文散し図鐔 平安城象嵌


文散し図鐔 平安城象嵌

 この鐔も、充分に応仁の要素を備えるも、装飾性が高まっている作。枝菊、ススキ、蔓草、松毬、木瓜、点象嵌。総てを応仁鐔と比較鑑賞されたい。表面は使用による擦れで平滑になってはいるが、特に松毬の魚子仕上げ部分を、角木瓜形の応仁鐔の文様部分と見比べてみたい。菊花形応仁鐔との比較も面白い。82ミリ。

龍文図鐔 平安城象嵌 Heianjo-Zogan  Tsuba

2014-06-27 | 鍔の歴史
龍文図鐔 平安城象嵌


龍文図鐔 平安城象嵌

 真鍮象嵌鐔を連続して見た上で興味深いのがこの作だ。平安城象嵌として極めているが、応仁の要素を充分に備えている。象嵌の手法も古様式とみられる。龍の下半、その左右の文様の周囲に彫り込んだ痕跡がある点も興味深い。象嵌が落ちたものか、製作途中であったものか、あるいは鎌倉鐔のように鋤彫を装飾として考慮していたものであろうか。考え方は多様だ。文様も古拙と言って良いのだろうか、意図して、即ち独創を狙ったものか。同時代の古金工にはもちろん優れた龍の表現があるわけだから、明らかに龍の姿態は創造のもの。応仁鐔から平安城象嵌が隆盛をみる頃の、頗る面白い鐔である。80ミリ。

唐草文図鐔 応仁 Onin Tsuba

2014-06-26 | 鍔の歴史
唐草文図鐔 応仁


唐草文図鐔 応仁

 かなり頑丈な印象のある鉄地。応仁には間々みられる三引両の紋と、櫛のような文様が散し配された作。切羽台の周囲に円周状の線象嵌が施されている。いずれも応仁鐔に間々見られる文様である。唐草と言って良いのだろうか、植物の、葉の表面に打ち込み痕で文様を施している、葉に朝露を想わせる小さな点状の文様を散している。93ミリ。

四方猪目透松毬図鐔 応仁 Onin Tsuba

2014-06-25 | 鍔の歴史
四方猪目透松毬図鐔 応仁



四方猪目透松毬図鐔 応仁

大振り角木瓜形、薄手の造り込み。松毬に松葉、三引両の家紋を組み合わせた図。古いままで良く残されてきたと思う。応仁古式の手法で象嵌した作で、純粋な文様から事物の文様に変化しつつある頃の作。材料は古法のまま。鉄地に真鍮象嵌を施しているその文様の周囲に鉄地を寄せたと思われる部分がわずかに観察され、地面が盛り上がっていることが分る。特に細線部分で顕著。松毬には文様として鏨が打ち込まれているが、先に紹介した菊花や葉の表面に施されているなだらかな打ち込み痕よりも古い手法に感じられる。これも脱落防止の処理かもしれない。83ミリ。□

文散図鐔 応仁 Onin Tsuba

2014-06-24 | 鍔の歴史
文散図鐔 応仁


文散図鐔 応仁

 前回と同様に文様を散している作。下地は放射状の浅い溝を切り込んで菊花形に仕立てている。文様の多くはお目出度い事物。象嵌の色合いが素銅に近いものであろう、赤みが強く感じられる。象嵌の落ちた部分を観察してほしい。以前に紹介した作品でも同様だが、意外にも浅く彫り込んだところに嵌め込んでいる。これでは容易に落ちてしまうだろうと思う。即ち、猪目透かしが施された鐔は、本作より時代が下がると考えてよさそうだ。前回の鐔と同様に、切羽台周囲の菊花状金具の打ち込み部分を比較鑑賞されたい。

文散図鐔 応仁 Onin Tsuba

2014-06-23 | 鍔の歴史
文散図鐔 応仁


文散図鐔 応仁

 かなり装飾性が進み、点や線だけではなく、家紋や植物図が文様として採り入れられている。時代は不明。応仁鐔の応仁とは、応仁時代に製作された鐔というわけではなく、応仁頃に製作された独特の鐔の作風を捉えて分類したものであり、この後に隆盛する平安城象嵌鐔とは製作の時代が重なっている作も多くある。この鐔もそうした一つと考えられる。応仁と分類される要点は、線象嵌、点象嵌、切羽台や櫃穴の周囲にある菊花状の飾りと考えてよさそうだ。90ミリ。

猪目透図鐔 応仁 Onin Tsuba

2014-06-21 | 鍔の歴史
猪目透図鐔 応仁


猪目透図鐔 応仁

 象嵌の脱落防止のための処理という点でこの鐔を紹介する。力強い意匠構成とされた鐔。図柄は、放射状の真鍮線象嵌。古式の車透からのものであろうが筋兜を意匠したようにも見える。地鉄そのものは刀匠鐔や甲冑師鐔のように鍛え強く、鍛えた鎚の痕跡も明瞭に残り、もちろん腐食もあって真鍮の脇に朽ち込みなどが窺えるも、鉄地を責めて象嵌が落ちないように工夫しているところが鑑賞の要点。切羽台の周囲に花文が施されているも、同様に点象嵌もある。切羽台に沿って細かな菊花状の装飾を施している点も注意されたい。特に金属の上から打ち込んでいる鏨が鋭く、これによって象嵌の落ちるのを防いでいるのかもしれない。85ミリ。

唐花文図鐔 応仁 Onin Tsuba

2014-06-20 | 鍔の歴史
唐花文図鐔 応仁


唐花文図鐔 応仁

切羽台の周囲に唐花文を透かし、線象嵌で縁取りしたもの。いずれも地面には点象嵌を散している。この点状文様は、古式の魚子地を想定しているのであろうか。耳は甲冑師鐔の桶底耳で地面は薄手、点象嵌が無ければ甲冑師鐔に分類されるだろう。簡素な鉄鐔に装飾を施そうと考えた場合、下地から企画して創作創造するのではなく、既に存在する甲冑師鐔や刀匠鐔のような鉄板鐔に文様を加えてみることを考える。全く新しい肉彫鐔などに象嵌を加えるとは考えられない。確かに平安城象嵌の前に応仁鐔が隆盛し、その中から文様表現が発展し、展開してゆく。金工鐔では既に高彫色絵作品が製作されていた時代である。鉄地への高彫や象嵌が極めて少ないのは、銅合金よりも硬い鉄地を処理して象嵌を施すという技術面での問題があったのだろう、応仁鐔の象嵌に脱落が多いことでも良く分る。87.2ミリ。

点象嵌小透図鐔 応仁 Onin Tsuba

2014-06-19 | 鍔の歴史
鐔や装剣金具に装飾が施されるようになったのは、即ち、装剣具の装飾は、装剣具の歴史とほぼ同時と考えられるほどに古い。古墳時代の剣にも明らかに装飾があり、それらは大陸からもたらされたものからの発展で、次第に我が国独自の装飾へと移ってゆく。だが、文様などの下地は、例えば唐草文のように、現代にまで連綿と続いている文様もあり、その変化の度合いも興味を抱くところである。
だが、専ら刀の鐔や装剣小道具というと、室町時代辺りからのものを指す。実際に我々が入手できるのも室町時代からと考えてよさそうだ。装飾の技法としては、高彫、象嵌、色絵などを基本とし、その様々な手法の開発と技術的な洗練、さらに感性をも組み込まれた結果、江戸時代の芸術へと到着する。それら、高彫、象嵌、色絵の変遷を追いつつ、その妙味を感じとりたい。

点象嵌小透図鐔 応仁


点象嵌小透図鐔 応仁

まずは室町時代の応仁頃に製作が始まったとされている応仁鐔。鉄地に真鍮の点と線による象嵌が特徴的。図柄は線と点による文様だが、文様と言えるほどの意匠構成はなく、地透の縁を線で彩る程度。即ち、刀匠鐔や甲冑師鐔にあるような小透の縁を真鍮で装飾しているもの。写真の場合、小透の題材は良く分らない。茶入れであろうか、何らかの容器のように思える。79ミリ。

梅に鴛鴦図小柄 堀江興成 Okinari Kozuka

2014-06-18 | 小柄
梅に鴛鴦図小柄 堀江興成


梅に鴛鴦図小柄 銘堀江興成

花鳥十二ヶ月図揃い小柄から十二月

花…早梅
色うづむかきねの雪の花ながら
 年のこなたに匂ふ梅がえ

鳥…鴛鴦
ながめする池の氷にふる雪の
 かさなる年ををしの毛ごろも

 梅と言えば鶯なのだが、ここでは冬鳥の鴛鴦が美しい姿で競い合っている。鴛鴦は、金、朧銀、素銅、銀といった多彩な色金を用いなければ表現できない。華やかな様子が銀色絵の雪に、また大きく開いた梅との見事な調和を示している。色のなくなる冬における、色彩の妙を表現したものである。

枇杷に千鳥図小柄 堀江興成 Okinari Kozuka

2014-06-17 | 小柄
枇杷に千鳥図小柄 堀江興成


枇杷に千鳥図小柄 銘堀江興成

花鳥十二ヶ月図揃い小柄から十一月

花…枇杷
冬の日は木草のこさぬ霜の色を
 はがへぬ枝の色ぞまがふる

鳥…千鳥
千鳥なくかもの河せの夜はの月
 ひとつにみがく山あゐの袖

枇杷の花期は冬場。寒さに耐えて生きる植物の例として松、竹、梅、菊などが知られているも、枇杷が装剣金工の題材に採られた例は少ない。千鳥との組み合わせも面白い。背景が海ではなく川辺である点も興味深いのだが…。時代の上がる千鳥を描いた器物に、塩山図蒔絵手箱がある。千鳥が描かれているのだが、これは海辺ではなく甲斐国塩山のことだとも言われている。即ち千鳥というと海を思い浮かべてしまうが、実は海だけの鳥ではなかったというのだが…。

千鳥図鐔 後藤清乗 Seijo Tsuba

2014-06-16 | 
千鳥図鐔 後藤清乗


千鳥図鐔 銘後藤清乗(花押)

 我が国の風景感を鮮明にしている作。白砂青松。海辺に千鳥。背景には沈みゆく太陽。繰り返す波。穏やかな空気。この図が頗る好まれた理由が良く分る。鉄地高彫、微妙な鋤彫で雲の動きを表現し、金の布目象嵌を適所に施している。後藤清乗家は、京都に栄えた後藤の流れながら、逸早く江戸に進出して活躍した家流で、後藤家らしさが薄く江戸金工の特色を良く示して優れている。

残菊に鶴図小柄 堀江興成 Okinari Kozuka

2014-06-14 | 小柄
残菊に鶴図小柄 堀江興成


残菊に鶴図小柄 銘堀江興成

花鳥十二ヶ月揃い小柄より十月

花…残菊
神な月しも夜の菊のにほはずは
 秋のかたみになにをおかまし

鳥…鶴
ゆふ日影むれたつたづはさしながら
 時雨の雲ぞ山めぐりする

 静かに秋の深まってゆく様子が感じられる作。鶴の足元に描かれた浅い筋は水田を意味している。

白鳥図小柄 吉岡因幡介 Inabanosuke Kozuka

2014-06-13 | 小柄
白鳥図小柄 吉岡因幡介


白鳥図小柄 銘吉岡因幡介

 穏やかに揺れる水面に漂っているかのように進む一羽の白鳥を題に得た作。いずれも吉岡因幡介の銘があるも、吉岡因幡介は代々が同銘を切ることから代別の極めが頗る難しい一門と考えられている。これも、いずれが先か、いずれも同人の作か不明である。単純に並べて比較して鑑賞してみるのも面白い。