鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

菊花透図鍔 古金工 Kokinko Tsuba

2015-11-30 | 鍔の歴史
菊花透図鍔 古金工


菊花透図鍔 古金工

 意匠はまったく同じ、菊花をそのまま透で表現した作。異なるのは赤味を帯びた素銅地で、戦国時代の作とは思えない美観がある。耳にこのような段がある鍔は、床に置いた際に転げにくいという利点がある。角鍔も同じだ。そこまで考えた菊花図であろう。どのような拵であったのか、頗る興味のあるところだ。

菊花透図鍔 房吉 Husayoshi Tsuba

2015-11-28 | 鍔の歴史
菊花透図鍔 房吉


菊花透図鍔 房吉

 甲冑師の流れを汲む鐔工であろうか、銘が刻されているのは、室町時代の作としては珍しい。鉄地を透かしただけの簡素な造り込み。このような簡素な鍔は、桃山時代以前に多く作られたと考えられている。図柄は様々で、雅な風合いの漂う正阿弥や京、骨太な雰囲気の漂う尾張、金山など。この鍔は、京透に比較して頗る素朴な雰囲気がある。

秋草に菊花図鍔 古金工 Kokinko Tsuba

2015-11-27 | 鍔の歴史
秋草に菊花図鍔 古金工


秋草に菊花図鍔 古金工

 先に紹介した鍔の表裏。表裏が異なる表現という点では枝菊図鍔と同じ。この表裏異なる図というのは古金工に良く見られる手法で、表裏かけ替えられる構成としているのであろうか。この古金工の鍔は全く表裏で風合いが異なる。鍔の造形は菊花であることは先に紹介して通り。古金工の時代には、穏やかな高彫表現になる作と、極端な深彫を特徴とする美濃彫様式がある。秋草の中には、菊が古様式の表現で配されている。好みになるのだろうが、いずれも味わい深いが、本作は時代が感じられるし、後に影響を及ぼしてゆくであろうその下地とも考えらる。資料としても面白い作である。

枝菊図鍔 古金工 Kokinko Tsuba

2015-11-26 | 鍔の歴史
枝菊図鍔 古金工


枝菊図鍔 古金工

 菊と唐草の組合せは古くからある文様。片面は菊を唐草で装い、もう一面を秋草の繁る様子を文様としている。菊の描写は文様風だが古金工や古美濃にみられるような立体感のある表現ではなく、平面的に描いたような風合い。風雅な所も窺える。この点が頗る面白い。写実的で精密な表現は普通に好まれるだろうし、実際に古くから、より正確に描写しようとの意識がみられる作画あるのだが、これは違う。唐草という極端な文様化であっても、菊の花部分は菊として分り易い描写である。決して下手ではない、即ち意図しての文様である。

菊花図鍔 古金工 Kokinko Tsuba

2015-11-24 | 鍔の歴史
菊花図鍔 古金工


菊花図鍔 太刀師

過去に度々紹介しているように、菊の図は古くから装剣小道具に採られている。秋草の中の一つとしてだけでなく菊だけを用いた金具類も多い。古金工の太刀鍔や室町時代初期の波に菊と丁子図透鍔は何度か紹介したが、いずれも菊花をそのまま文様としたり、波に菊を組み合わせた作である。菊花の実を文様化すると菊紋になるため、多くは葉や枝先に花を組み合わせる。




波に菊図鍔 古金工

菊花図鍔 古金工 Kokinko Tsuba

2015-11-22 | 鍔の歴史
菊花図鍔 古金工


菊花図鍔 古金工

 耳を強く意識した鍔である。図柄が菊であり、それに合わせて菊花形に仕上げ、しかも菊の花びらを放射状に綺麗に施している。美しい構成である。赤銅の黒が強く活きる様、しかも拵に掛けて美観が高まるよう、金の使い方が計算されている。考えてみると、菊花形の鍔は、普通に丸形でもいいじゃない?と思えるように、端整ではあるが車透のように古くからある変わり形の一つである。

菊葉に虫図鍔 埋忠重義 Shigeyoshi Tsuba

2015-11-21 | 鍔の歴史
菊葉に虫図鍔 埋忠重義


菊葉に虫図鍔 埋忠七左衛門橘重義作

 重義は文様表現を得意とした京都の埋忠派の名工。この鍔は、古典的な題材である秋草に虫を発展させたものと捉えて良いだろう、菊の葉に虫を組み合わせて自然美を表現している。菊は古くから装剣金具だけでなく様々な分野で文様表現されている。文様に採られている理由は、古くから薬として利用されてきたからだ。この鍔では葉を巴状に仕立てている。これによって動きが生まれ、生命感が際立つ。所々に加えられた虫食いの小穴も、銀象嵌による露もいい。鈴虫であろうか、この高彫表現は美濃彫などに見られるような古典の虫を踏襲している。江戸時代にはこのように、古くからあった美濃彫などに見られる菊花や秋草に虫の組合せを発展させ、新たな美観を造り出している。本作は変り耳を活かして、さらに文様美を極めた名品である。□

牛図鐔 春田 Haruta Tsuba

2015-11-20 | 鍔の歴史
牛図鐔 春田


牛図鐔 春田

 鍛えの良い鉄地を肉彫にし、牛を巴に構成している。以前に牛の手綱を耳に構成した作を紹介したが、本作は牛そのもの。陰影だけで捉えると、出入りが複雑な耳に仕立てられているが、頗る面白い。牛も写実的で肉感があり力強い。裏面の、のしかかってくるような牛の腹部の表現も、ここまでやるかなと思うほど。構成は巴形。この永遠の流れを秘める巴方は、それ故に好まれて鍔などの構成として採られている。

帆立貝図鍔 壽親 Toshichika Tsuba

2015-11-19 | 鍔の歴史
帆立貝図鍔 壽親


帆立貝図鍔 壽親(花押)

 朧銀地の色調を活かして彫り出し、貝殻の質感を極めた作。何より面白いのは、貝殻そのままに造形しているところ。変り形の極りといえよう。表には年輪上に微妙な皺を彫り、さらに生き物の痕跡を高彫金色絵で表し、裏には、貝の特徴である放射状の凹凸だけでなく、肉の付着していた部分にみられる微妙な質感まで再現している。なんと、小柄櫃の穴の周囲には、実際の貝殻に穴をあけたように、微妙に貝殻の表面が剥がれ落ちている様子まで再現している。やり過ぎだろうと思わせるところにこの鍔の魅力がある。

洞に注連縄図鐔 菊池忠義 Tadayoshi Tsuba

2015-11-17 | 鍔の歴史
洞に注連縄図鐔 菊池忠義


洞に注連縄図鐔 菊池忠義(花押)

 面白い図柄構成の鐔である。自然の洞穴を描いたものだが、何に取材したものであろうか、まず気になる。褐色の素銅地を活かして岩のありようを表現している。当然耳の形状は不定形になる。注連縄が張られているということはご神体。まず思い浮かぶのは天照大神の岩や隠れだ。とにかく面白い題材である。特に耳の部分の肉を厚く仕立て、櫃穴辺りが深く掘り込んであるように仕上げている。

瑞雲透図鍔 Tsuba

2015-11-16 | 鍔の歴史
瑞雲透図鍔


瑞雲透図鍔

 遠くから見ると茸や霊芝を構成しているように見える。そこからこの種の雲の文様を霊芝雲とも呼んでいる。鍔総体は流れるような曲線の構成で、変り形が活かされた作と言えよう。雲は明らかに文様として捉えている。鞘の地模様に瑞雲文があり、衣服にもあるように、広く定着している文様の一つ。しっかりとした主題の背後に添え描いて主題を明確にするような存在だ。だから、このように瑞雲だけで鐔としているのは少ない。鉄地肉彫地透。

茸透図鍔 大野 Oono Tsuba

2015-11-11 | 鍔の歴史
茸透図鍔 大野


茸透図鍔 大野

 これはどうやら食用の茸を題材にしたようだ。シメジの仲間であろうか、茎が太くいかにも食べられそうな形状。それを耳に連続させ、鐔の形状に仕上げている。鉄地肉彫で、さほど精密な彫刻を加えているわけではないのだが妙趣に溢れている。変り耳の一形態である。素朴なありようだが、面白さは突き抜けている。

霊芝図鍔 皆山應起 Masaoki Tsuba

2015-11-10 | 鍔の歴史
霊芝図鍔 皆山應起


霊芝図鍔 皆山應起

 秋の味覚と言えば茸。だが昔から装剣小道具に採られるのは薬種とされる霊芝、サルノコシカケに似た種類の万年茸が多い。木のように堅くて食べられたものではないが、粉末にして煎じて飲むそうだ。その艶のある堅木のような質感を全面に漂わせ、質感も形状として採り込み、耳のラインに構成している。これによって鐔の形状は定まらない変わり形となっている。質感豊かな地面の高彫描写も優れており、カサはもちろん、その裏の表情まで巧みだ。赤銅地の光沢も活かされている。

蕗図鍔 秋田正阿弥 Shoami-Akita Tsuba

2015-11-09 | 鍔の歴史
蕗図鍔 秋田正阿弥


蕗図鍔 秋田正阿弥

 形状を不明瞭にするという手法で面白味を出す作とは正反対の、主題が持つ形状を突き詰めて耳に造形した作例がこれ。蕗の葉を巧みに鍔の形状に仕立てている。赤銅地肉彫地透金平象嵌。とにかく巧みだ。葉のラインと茎を活かしている。ところどころの虫食いも面白い。茎から葉に変わる辺りの蕨手状の切り込みも巧みだ。茎を繋ぐために朝露を配しているが、その一つに小さな穴を設けて光を反射している様子まで表わしている。

山水図鍔 清壽 Kiyotoshi Tsuba

2015-11-07 | 鍔の歴史
山水図鍔 一家式竜法眼壽


山水図鍔 一家式竜法眼壽

 東龍斎清壽の変り形鍔。お多福形ともちょっと異なるが、中程がくびれて下ふくれの形状。これがどのような拵に備えられていたのか気になるところである。変り形としては比較的安定しているものの、頗る気になる存在だ。素銅地高彫金銀赤銅朧銀色絵赤銅覆輪。地面のかすかな抑揚と石目地仕上げによる地模様など、すべてにおいて妙味溢れ、さすがと改めて感動した。東龍斎清壽は、以前に紹介した海辺に錨を描いた鍔のように、洞窟から見たような耳際の構成を得意とした。ここにはそのような強い技法は見られないが、変り耳による構成線の妙は誰にもまねのできないものと言えるであろう。