鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

富岳図小柄 平田 Hirata Kozuka

2019-02-28 | 鍔の歴史
富岳図小柄 平田


富岳図小柄 平田

富岳図というと七宝象嵌による表現も思い浮かぶ。平田派は初代道仁が古代の七宝の技術を再現し、殊に富岳図を得意として家康に仕えた。以降代々がその技術を守り、古様式から次第に鮮やかな七宝へと発展させている。ここに紹介する七宝は、透明感の少ない古様式になる作風。泥七宝に近いながらも色鮮やかな素材は金工にないことから、大きな魅力となっている。


富岳図小柄 東龍斎清壽 Kiyotoshi Kozuka

2019-02-27 | 鍔の歴史
富岳図小柄 東龍斎清壽


富岳図小柄 東龍斎清壽

富岳は、我が国の
ランドマーク。海の彼方からも独特の様子がうかがえ、外洋から自国を目指してきた船人達は、これを目にしたとき、故郷に戻ってきたことを強く感じたことであろう。波間から見た富岳の図。素銅地に片切彫、毛彫、山肌は金の梨子地象嵌、波も片切彫。


富岳図鍔 秀國 Hidekuni Tsuba

2019-02-26 | 鍔の歴史
富岳図鍔 秀國


富岳図鍔 秀國

 秀國は大月派の名工。同じ流派でもとらえ方が異なると、印象が随分と違ってくる。余白を大きく残しているのは、闇夜に月の明かりで浮かび上がった景色を再現しているのだろう。静かな空気の流れが感じられる作品である。

富岳図鍔 則亮 Norisuke Tsuba

2019-02-25 | 鍔の歴史
富岳図鍔 則亮


富岳図鍔 則亮

我が国における山水図といったら富岳図を外すわけにゆかないだろう。この鐔は、山水の古様式をそのまま富岳の表現に採り入れた作。表に山並みを越えてくる帰雁、裏面は遠望の富岳と、近景に岩山と松。地面が石目地によって霞むような風合い。日本的な、奇麗な山水富岳図となっている。則亮は尾張の鐔工。鉄地を薄肉彫とする巧みな描法を得意とした。


富岳図鍔 大月派

 これも山水富岳図。磯馴松越しの遠見の富岳。山水の様式を採り、我が国独特の風景観を鮮明にしている。雲間に見え隠れする富岳、その雲が画面に変化を与えている。

山水図鍔 染谷知信 Tomonobu Tsuba

2019-02-23 | 鍔の歴史
山水図鍔 染谷知信


山水図鍔 染谷知信

 山水図で忘れられないのが知信。知信は本作のような、鏨の痕跡を強く意識した特徴的な木々の表現で山水図を描くを得意とした金工。題に得ているのは古典的な山水風景である。特に近景の岩肌の質感描写が優れ、遠く霞む山並みや雲は空に溶け込むような風合い。朧銀地高彫金赤銅象嵌。下の鐔は鉄地一色。色金を使わなくても、ここまで岩肌や木々の様子が再現されている。


親子猪図鐔 安親 Yasu

2019-02-20 | 鍔の歴史
親子猪図鐔 安親


親子猪図鐔 安親

 猪の背景は我が国の山水図。水辺の猪に野を駆けて水場へと走る親子。池と流れ込む小さな瀧、遠く暮れてゆく夕日であろう。自然の営みが、暖か味のある安親の目を通して再現されている。山水図はいろいろと変化してゆくようだ。

山水図鐔 一光 Iko Tsuba

2019-02-19 | 鍔の歴史
山水図鐔 一光


山水図鐔 一光

一光は会津正阿弥派の金工。作風も描法も金家を手本にしているようだが、表裏ともに山水図で、所々に独創を組み込んでいる。高彫に彩色の手法は正阿弥流の布目象嵌。このように金家を思わせる風景図を再現した金工は多い。山水図が好まれ図柄として極まったことと、金家のように別の題材を表現する背景として完成度を高めたことの二つの方向性が考えられるだろう。


山水図鐔 古正阿弥 Ko-Shoami Tsuba

2019-02-18 | 鍔の歴史
山水図鐔 古正阿弥


山水図鐔 古正阿弥

 桃山時代の正阿弥と極められた作。金家を遡るのであろうか古金工にも分類されるような古調な出来。表の散水図はいろいろな要素が文様風に組み込まれていて面白い。山を越えて帰巣する雁や松などは我が国の風景だが、山陰の塔や人物は古代中国。裏の芦刈の人物は我が国の風情。鍔における風景図の初期の作とみれば興味も一入である。

帰雁図鐔 金家 Kaneie Tsuba

2019-02-16 | 鍔の歴史
帰雁図鐔 金家


帰雁図鐔 金家

 すこぶる簡潔な図柄。穏やかに連なる山を越えて飛来する雁。あの有名な水墨画を思わせる。裏面は山水図で金家の特徴だが、金家の山水図は、京都近郊の風景を採ったのではないだろうかと思われる要素が多々見られるのが面白い。

李杜図鐔 金家 Kaneie Tsuba

2019-02-15 | 鍔の歴史
李杜図鐔 金家


李杜図鐔 金家

 李白と杜甫は唐代中国の詩人。この二人が旅をしている様子を描いた作。両者の関係はご存知の方も多いと思うので特に説明しないが、一時期共に名勝を訪ねて詩を遺している。その出来事をそのまま鐔に表したもの。表に主題を、裏面には山水風景図を描き、金家の特徴的構成としている。近景の立木を表に、裏は遠景の山並みに多宝塔、中ほどには宙に突き出すような奇岩と東屋。見ているだけでこの画中に入り込んでしまいそうな作となっている。

西行図鐔 宜時 Yoshitoki Tsuba

2019-02-14 | 鍔の歴史
西行図鐔 宜時


西行図鐔 宜時

 安藤宜時は出羽金工佐藤珍久の門人。歌枕を訪ねて旅した西行を描いたもの。歌枕そのものが我が国の山水風景に重なるところがある。穏やかに、そして幾重にも連なる山並みに水辺の風景。中国の李白と重ね合わせた作品ではないが、画中に景色を眺める人物を描くことにより、この鐔を見る自身が鐔の中に入り込んでゆくような、意識の融合を狙ったものであろう。宜時の最高傑作のひとつである。赤銅地高彫に金色絵。□


山水図鐔 貞次 Sadatsugu Tsuba

2019-02-14 | 鍔の歴史
山水図鐔 貞次


山水図鐔 貞次

 長州鐔工には埋忠の流れをくむ者がある。この鐔は、以前にも紹介したことがある埋忠一族とみられる光忠の作風によく似ている。銘がなければ光忠、あるいは古埋忠と極められる風合い。水辺の風景だけをふわっと浮かび上がらせる表現で、描かれているのは干網と蛇籠、そして帰雁の群。かすむ彼方に山並みが連なっていることを暗に示している。

山水図小柄 後藤廉乗 Renjo Ko

2019-02-13 | 鍔の歴史
山水図小柄 後藤廉乗



山水図小柄 後藤廉乗

 後藤宗家十代廉乗の山水に帰雁図小柄。穏やかに連なる山並みは我が国の風景。山を越えて帰巣する雁の群を添え描いている。中国の切り立つ山々の図とは異なって、ほっとするような景色である。ただし、奇麗に揃った赤銅魚子地がポイント。このように、魚子地処理した中に主題をぽつんと描くのが後藤家に特徴的な構成。魚子地は様々な意味を持つ。見る人が異なれば感じ方も違ってくる。それが狙いであったのか、作者に聞かねば解らないが、単純に背景を処理したものではないことは想像できよう。特にこの山水図を見ていると、本来の山水図が意味する、無限に広がる空間が意識されてくる。大名品だと思う。

山水図鐔 安親 Ysuchika Tsuba

2019-02-12 | 鍔の歴史
山水図鐔 安親


山水図鐔 安親

 安親が出羽庄内より江戸に出てきた頃、比較的初期の作。安親は奈良派に学んでいるため、初期にはこのような奈良風の山水図を高彫色絵表現している。東の空に月が出ているころ、西には夕日が沈んでゆく。陰陽の交わっている空間を描いたもの。村人、旅人などを描いて人間の生活感を伴う山水図としている。奇岩に多宝塔、遠くの家、遠く流れる雲など、安親はまだ有名ではないはずだが、優れた感性と技術が窺える作品である。