鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

雛人形図目貫 Menuki

2013-01-31 | 目貫
雛人形図目貫

 
雛人形図目貫

 拵に巻き込まれている目貫だが、普通に見られる雛人形を表にし、裏には変り雛であろうか動物を雛人形に擬えた作を巻き込んでいる。裏の動物の雛には素朴な風合いが漂っており、土雛のような印象が窺える。変り雛というと現代のものを思い浮かべがちではあるが、江戸時代にすでにあり、元来の穢れを祓う意味での雛人形とは異なる意識で眺めていた、あるいは楽しんでいたということ。

三月 雛祭図 Hideaki Kozuka

2013-01-30 | 小柄
日本東都市中年中行事図十二ヶ月揃小柄 塚田秀鏡作から


三月 雛祭図

 片切彫平象嵌の技法はこのような図に適している。繊細でしかも細く太くと変化があることから動きが生み出され、力があって雅。平象嵌も鮮やかであり、殊に花の表現は美しい。もちろん高い技量が下地として備わっていることは重要。ここに描かれている雛人形は、武家らしい装束。花は桜。

雛祭図縁頭 Morichika Fuchigashira

2013-01-28 | 縁頭
土屋守親作年中行事図一作金具から


雛祭図縁頭

 雛人形に関わる風習とは、古くは人形を自らの依り代とし、病魔など邪悪な要素を移らせて川に流し去るという、禊に通じる呪術的なものであった。流し雛は今でも各地に残されている。また、雛人形を村はずれの祠などに納めるという地域もあった。これも流し雛を同じ意識からなるもので、それが故に雛人形あるいは単なる人形であっても拾ってくることは忌避されたのである。自らの身体の代理とする意識は、後の雛鎧を寺社に奉納して自らの安全を願う意識に重なる。雛飾りは、元来は三月はじめの巳の日に行われた風習の一つ。曲水の宴も有名。この縁頭は、今の季節感では少し時節も違っているが桃の節句といわれるようにその一枝を飾っており、行事の一つとして行われる蹴鞠も添えている。

二月 初午図 塚田秀鏡 Hideaki Kozuka

2013-01-25 | 小柄
日本東都市中年中行事図十二ヶ月揃小柄 塚田秀鏡作から


二月 初午図 塚田秀鏡

 二月最初の午の日が初午。稲荷社の縁日として各地の稲荷神社には参詣者が絶えなかったという。江戸に祀られた稲荷社の数は頗る多く、江戸での信仰の広さが窺い知れる。稲荷社は、語にあるような稲だけでなく豊穣のための自然神の一つ。ところが商売の神として崇められるようになると、特に全国から江戸に集まった商家が稲荷社を祀ったことから増えたと考えられている。因みに今年の初午は九日に当たる。図柄は、梅樹を大きく描いて季節感を鮮明にし、籠に納められているのは絵馬であろうか。

追難 やいかかがし図目貫 Morichika Tsuba

2013-01-24 | 
土屋守親作年中行事図一作金具から


追難 やいかかがし図目貫

 鬼やらい、即ち寒い冬に流行する風邪など、人に難をもたらす様々な悪を、鬼の仕業とし、これを追い払う行事の一つ。西洋ではニンニクを吊るしてその悪臭で吸血鬼を追い払う。我が国では腐った鰯の頭を門口に飾り、その悪臭で鬼を追いやる。通じるところがある。柊は葉の縁が尖っていて触れると痛いことから、これも鬼を追い払う目的で用いる。
 鉄地高彫象嵌の手法で、これを脇差鐔の表に描き、大刀の鐔は正月飾りで装っている。即ち、この鐔が製作された頃は、正月と節分の行事は一対のものであった。

追難 豆まき図小柄 矩随 Noriyuki Kozuka

2013-01-23 | 小柄
追難 豆まき図小柄 矩随



追難 豆まき図小柄 銘 矩随(花押)

 節分というと鬼やらい、豆撒きを思い起こす。元来は年の境目に行われる行事で、節分とはその語の通り年の分け目である。節分は今では二月初めだが、鬼やらいが行われたのは大晦日、新たな年を迎えるための神事であった。真冬の寒気は様々な病魔を流行させる。病こそ鬼に他ならない。
 この小柄は極端な立体的高彫で豆のみを写実的に彫り出したもので、地に微妙な抑揚をつけて雪の積もった様子を表現しており、豆だけでも追難のそれと判る。作者は浜野矩随。裏板に「富久者有智遠仁者疎徳」と書き添えている。


七草図大小目貫 土屋守親 Mirichika Menuki

2013-01-22 | 目貫
土屋守親作年中行事図一作金具から


七草図大小目貫

 蕪、大根、芹などの七草を題に得た目貫。粥などに入れられることの多い植物を写実表現した目貫。赤銅地容彫金銀色絵。各々の植物の特徴が良く表わされている。
 正月の風俗として、根松曳きの場面も採られることが多い。松の若い芽が発する爽やかな香りを体内に取り入れ、気分を一新させたのであろう。これら天然自然の産物を採り、その力を活かそうとする指向は、まさに古代中国の神仙の意識に通じる。


品玉図小柄 恒斎 Kosai Kozuka

2013-01-21 | 小柄
品玉図小柄 恒斎


品玉図小柄 銘 恒斎(花押)

 品玉とは、今で言うところのジャグリング。猿回し同様に正月や寺社の縁日など街中で見られた芸の一つ。宙を舞うキセルや玉が、恰も糸で操られているかのように元の手に戻る。神技とも言いうる妙技は手妻(手品)に通じよう。現代の手品は、そのネタが科学的な分野にまで広がっており、手や指の技を巧みとする本来の面白みから離れてしまったのはつまらないが、ジャグリングの妙技は何時見ても飽きない。この図も時代を見事に映し出しており、江戸時代を知る資料としては優れている。朧銀地高彫金銀素銅色絵。裏板に毛彫と金色絵で梅樹を描き、正月の季節感を演出している。

左義長図縁頭 長義 Nagayoshi Fuchigashira

2013-01-19 | 縁頭
左義長図縁頭


左義長図縁頭 銘 長義

 一月の十五日頃に行われる行事の一つ。火祭りの様式を採っていて「どんど焼」などと呼ばれているものこれにかかわる。竹などを塔のように組み、正月飾りや藁などを積み重ね、この周りで縁頭に描かれているような踊が行われ、夜になって火がかけられる。子供の頃、どんど焼をして正月が終わったのだなと感じた記憶がある。火中に書初めの半紙などを投じると、火勢にあおられて天高くに舞い上がる。その様子を眺め、きっと習字が上手になれると言われたが、その後の精進が足らずに未だにミミズの這ったような文字しか書けない。また、これで焼いた餅を食べると風邪をひかないとも言われたが、火勢が強いために表面がほとんど黒くなって苦く、美味くもない餅は薬のようだとも感じたものである。ただ、図にあるような踊は記憶にない。
 一宮長義は長常の門人。師風の平象嵌片切彫を得意とし、図柄も市井に生きる人物や踊りなど同時代の風俗に取材したものが多い。本作はその典型。

猿回し図小柄 銘 古川常珍 Tsunetaka Kozuka

2013-01-18 | 小柄
猿回し図小柄 古川常珍


猿回し図小柄 銘 古川常珍(花押)

 これも猿回しが題に採られた作。演芸の集団が舟で川を移動している場面であろうか、猿回しの芸に合わせて三味線や太鼓などを奏でている様子を裏面に描いている。作者は片切彫を得意とした古川常珍。同時代の市井の一場面に取材したものであろう、時代相が良く捉えられており貴重な資料ともなっている。手に扇子を持ち、特に足を棹に絡めて立つ猿の姿を細かいところまで描き出している。

《鐔Tsuba装剣小道具の世界》が更新されています
お正月の風習に関わる図柄が描かれた作品です

猿猴図目貫 Menuki

2013-01-17 | 目貫
猿猴図目貫


猿猴図目貫

 これも猿回しに取材したものであろう。江戸時代後期には正月の門付芸とは離れた演芸としての猿回しが増えていたようである。素銅地を容彫にし、車を押し歩く猿の姿を捉えて動きのある場面に仕立てている。マンガのような一場面であり、現代でも街中でみられる演芸猿回しのような雰囲気が面白い。

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お正月の風習に関わる図柄が描かれた作品です

猿回し図縁頭 田村忠之 Tadayuki Fuchigashira

2013-01-16 | 縁頭
猿回し図縁頭 田村忠之

 
猿回し図縁頭 銘 田村忠之(花押)

 再び猿回し図を紹介する。
調教しているのであろうか、拙い歩みで綱を頼りに歩く子猿と、それに暖かい視線を投げかける親方の表情を見事に再現している。朧銀地を高彫にし、金銀赤銅素銅の色絵を巧みに使い分け、特に鏨の打ち込み痕を活かした彫刻に見どころがある。田村忠之に付いては詳らかではないが、技術の高い工とみられる。

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正月の行事に関わる題材です

鏡開き削り掛け図目貫 河野春明 Haruaki Menuki

2013-01-15 | 目貫
鏡開き削り掛け図目貫 春明


鏡開き削り掛け図目貫 銘 春明法眼

 正月も終わり頃の風習の一つ。鏡開きと呼ばれるお飾りを割る風習は知られているが、裏目貫に描かれている削り掛けについて、筆者の郷里では、この風習はなかったように思う。あるいはすでに行われなくなっていたのかもしれない。この図の目貫を見たものの、何の図であるのか全く分からず、調べようもなかった。鏡餅を割る様子が描かれた表目貫から正月に関わる図ではなかろうかと推測し、調べた結果として、おぼろげながら、一月十四日頃の行事であることが分かってきた。作者は江戸時代後期の名工河野春明。天保十三年の年紀があることから、特別の需で製作されたと思われる。製作の背景にも興味がわく。□
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初音図小柄 Renjo-Goto Kozuka

2013-01-13 | 小柄
初音図小柄 廉乗


初音図小柄 銘 紋廉乗光晃(花押)

 後藤宗家十代廉乗の作であることを、同十六代光晃が極めた美しい小柄。鶯が松飾りの上で初音を披露するといった場面。土筆があり、蕨があり、春の訪れを待つ気分。現代の正月ではまだ土筆や蕨の出る時期ではないが、正月を迎えるということは、即ち新たな春の到来を意味しており、初音に春の訪れを重ねる意識は一段と強い。筆者の子供の頃、正月には神社で「初音」と呼ばれる竹細工の笛をいただいていた。うまく鳴らせなかったものだが、人ごみの中から鶯を擬した笛の音があちこちから聞こえ、こどもながらに羨ましく感じた記憶がある。


大黒天ねずみ回し図鐔 Tsuba

2013-01-12 | 
大黒天ねずみ回し図鐔


大黒天ねずみ回し図鐔

 猿回しに擬えたものであろう、猿の代わりに鼠が操られている図である。綱を引いているのは七福神の一人でもある大黒天。大黒様と呼ばれて親しまれており、鼠はその遣いであることから、装剣小道具としては俵、鼠、大黒天の三要素が描かれることも多い。お大尽の座敷で演じていることを想定しているのであろう、屏風があり、宝珠が飾り物として添えられている。素銅地高彫金銀朧銀色絵。