鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

波に烏図小柄 Kozuka

2014-07-31 | 鍔の歴史
波に烏図小柄


波に烏図小柄 

 前面に大小異なる点象嵌が施されているかのように見えるが、この中で点象嵌は波に3つ、烏の目玉に2つだけ。あとは高彫に金色絵。鳥の目玉は平滑に仕上げられているから平象嵌と呼ぶべきか。このように、小半球に処理した部分に色絵を施して水飛沫に見せる方法もある。もちろん、露象嵌においても、素銅の半球を象嵌し、その上に金色絵を加えて金の露象嵌に見せる例もある。室町時代後期。

菊水図鍔 古金工 Kokinko Tsuba

2014-07-30 | 鍔の歴史
菊水図鍔 古金工


菊水図鍔 古金工

 赤銅地高彫に色絵と象嵌を駆使した作。菊の枝葉花は高彫色絵。枝先の蕾と葉の露は点象嵌。花の中央の丸みは判断が難しい。葉の露の一部は鑚の打ち込みによるものかもしれない、これも判断が難しい。この鐔を見ると、様々な半球を造り出す技術があったことが判る。鍔のように強く叩き込んでも総体の造形が崩れない金具は理解しやすいが、目貫のように、叩き込む作業によって目貫の本体が壊れてしまう場合があるものは、鏨の打ち込みという作業だけでも、はたして可能なのであろうかと判断に苦しむ。美濃彫による秋草図目貫の、綺麗な処理になる撫子の花部分の処理などを見るにつけ、打ち込みであろうか、彫り込みであろうか、判断に迷うことがある。室町時代。77ミリ。

秋草図鍔 古金工 Kokinko Tsuba

2014-07-29 | 鍔の歴史
秋草図鍔 古金工


秋草図鍔 古金工

 露象嵌の処理が良く分る作品である。また、様々な処理技術が加えられている面白い標本でもある。耳を高くした木瓜形で、太刀様式だが、図柄の方向から打刀に用いられたものであることが判る。赤味の強い赤銅地に古拙な魚子地、高彫に金銀の色絵だが、色絵は薄い金銀の板を図柄に被せるという手法。被せた部分を金属などで接着したものが色絵。これと似ているが、被せた金属の端部を留める手法をうっとり色絵と呼ぶ。ここで採られている手法は、色絵の金属が破れている部分を観察するとうっとり色絵のようにも見えるし、破れの一部が下地と接着しているように見える部分もあり、技術的にも面白い作である。叩き込んだ露象嵌の端部にはみ出した金属が窺え、処理の過程が想像される。時代の上がる作であるにも関わらず、露象嵌の脱落が少ないのが不思議だ。裏の切羽台のすぐ上に一箇所抜けた痕跡があるのだが、比較的浅い処理であることが判る。露の球を打ち込んだ後に、その周囲を再度打ち込むという複式の処理をしているためであろうか、たいへんに興味深い。71ミリ。

葛図小柄 古美濃 Komino Kozuka

2014-07-28 | 鍔の歴史
葛図小柄 古美濃




葛図小柄 古美濃

 地板嵌めこみ式の小柄の製作方法も、基本は目貫と同じである。薄手の地板を背後から打ち出して高彫し、この表面に鏨を加えて図像を彫り出し、さらに色絵や象嵌を加える。ただし小柄でも、古い笄を直したものは地板打ち出しではないため、高彫部分の肉は厚い状態。一般的な小柄の地板を外すことはないし避けたいが、何らかの事情で外れてしまった作を観察すると、高彫や据紋の技術が理解できる。この小柄では、露象嵌は比較的量感がなく平象嵌に近い。それでも、処理を観察すると、地を寄せているのが分る。

藻貝図目貫 古美濃 Komino menuki

2014-07-26 | 鍔の歴史
藻貝図目貫 古美濃



藻貝図目貫 古美濃

 網目のように構成し、その表面に微細な鏨を加えて表情を浮かび上がらせる。背後からはふっくらとさせるために打ち出すのだが、古い金具は地金そのものがかなり薄手に仕立てられる。ここに象嵌を加えている。深く処理すると背後に抜けてしまうのではないかと気にかかる。裏面を見れば納得、打ち込みによって裏に突出しているのが見える。それでも、目貫の点象嵌は比較的落ちやすいのだろう、本作でも脱落がある。

秋草図小柄 古美濃 Komino Kozuka

2014-07-25 | 鍔の歴史
秋草図小柄 古美濃






秋草図小柄 古美濃

 笄を小柄に直したもの。古くは小柄が少なかったため、後に古作で小柄笄目貫の三所物が必要になった際には、笄を小柄に仕立て直して揃えるという作業を行った。古い小柄がないということと、古き良き物を大切に使うという意識とがこのような動きとなった。この2点は、同じ作者ではなかろうかと思えるほどに良く似た作行き。露象嵌を施す下地の小穴が、殊のほか深く仕立てられていることが判る。赤銅地という素材であるがゆえ、工作が容易であるということであろうか、応仁鍔を思い出していただきたいのだが、ずいぶんと様子が異なるのに気付くだろう。


松樹図笄 古美濃 Komino Kougai

2014-07-24 | 鍔の歴史
松樹図笄 古美濃




松樹図笄 古美濃

 根が強く張り左右に枝を伸ばす屈曲した古風な松樹。荘厳な印象がある。庭園を造形する風景の一部ではない。能舞台を構成する要素と考えれば、この重厚な空間構成も理解できよう。永遠不滅の生命。唐草を下地とした構成にもそれが感じられる。さて、ここでも背景から幹、枝、松葉にまで、金と銀の点象嵌が採り入れられている。屈曲した枝振りと共に、穏やかではない空間を演出している。魚子地部分を見ると分り易いが、丁寧に周囲の赤銅地を寄せて、象嵌が落ちないように工夫している。目貫のような薄手の地金への象嵌とも、頑強な鉄地への象嵌とも異なる作業であろう。□


葡萄文図笄 古美濃 Komino Kougai

2014-07-19 | 鍔の歴史
葡萄文図笄 古美濃





葡萄文図笄 古美濃

山銅地深彫、銀露象嵌。濃密な露象嵌かと思うも、図柄が葡萄であり、稔ったその様子と、散らばった粒状の実をも文様としているのであろう、小さな半球を点在させた、頗るにぎやかな画面となっている。葉の上だけでなく、背景の魚子地にも露象嵌が加えられている。背後の露象嵌と、葉の上の露象嵌とでは表現が異なっている。もちろん金属の色の違いもあるが、中央が飛び出したような半球と、平象嵌に近い半球だが、平象嵌に見えるのは使用された結果、表面が磨り減って平担になったものか。

牡丹図笄 古美濃 Komino Kougai

2014-07-18 | 鍔の歴史
牡丹図笄 古美濃




牡丹図笄 古美濃

 平象嵌より技術的に容易であろうと推測されるのが点象嵌。応仁鐔の点象嵌、古美濃や古金工に見られる露象嵌も点象嵌。まずは古美濃と極められている、深彫が特徴的な笄。山銅地を鋤き込んで図柄を肉高く彫り表わし、その所々に銀の点象嵌を散している。枝の虫食い簿の表現にも小穴が散らされているが、点象嵌の落ちた部分の小穴とでは少々様子が異なっている。笄であるが故に下地は肉が厚く、いくら穴を深くしても工作は可能だ。銀象嵌の素材である球状の銀の、打ち込みの痕跡が明瞭に遺されている。

達磨図鍔 金家 Kaneie Tsuba

2014-07-16 | 鍔の歴史
達磨図鍔 金家


達磨図鍔 銘山城國伏見住金家

 金家はいくつかの達磨図を遺している。いずれも風貌を異にしている。これについて誰も疑問を抱かないのだろうか。丸顔ででっぷりとした様子、細身の小柄な体躯、ごつい顔立ち、品のある顔つきなど。金家はいろいろな達磨を表現しようと考えたのだろうか。そこまで風貌を違える必要はなかろうと、普通に考える。金家の作品は画題が問題ではないんだよ、と言われればそれまでだが。金家は鍔に同時代の風景や事物を描き込んだことでも良く知られている。年紀がないことから、描かれた場面がいつのものなのか不明である点が惜しい。それが故に製作年代を特定する試みも行われている。それはそれで面白い。とすると、描かれている達磨なる人物は、実は同時代を生きた実在の僧ではないだろうかと考えたくもなる。あるいは羅漢図。それであれば多様な顔つきがあってもよいのだが、どうだろう。
 さて、金家の特徴として良く知られているのが、共鉄象嵌の手法である。鉄地の地面を鋤き込み、高彫した鉄地の塑像をそこに象嵌し、表面を巧みに処理して自然な肌合いに仕上げている。錆び込みの微妙な違いで象嵌の境い目に筋が見えることがあり、これによって共金象嵌であることが想像され、レントゲン撮影によって実証された。鋤き込んだ部分が、ごくごく微妙なくぼみであることは、地の薄さでも理解できよう。わずか1ミリほどの地面に象嵌するのだから、しかも扱い難い鉄地の処理である、高い技術をそこに見ることができる。

唐草文に家紋散図鍔 与四郎 Yoshiro Tsuba

2014-07-14 | 鍔の歴史
唐草文に家紋散図鍔 与四郎


唐草文に家紋散図鍔 無銘与四郎

 大きな流れでは、象嵌の技術は平象嵌から始まった。古代の鉄剣などに施されている例で分る。その象嵌部分に装飾を加えてゆくようになったものの、地鉄そのものへの装飾は考慮されなかったのだろうか、正阿弥や尾張などの鉄地地透鐔も、総体では文様美であり、素材に精密な彫刻を加えて地相に装飾性を持たせている例は少ない。正阿弥派にはわずかに肉彫があり、地の一部に布目象嵌を施すという手法で装飾性を高めた例も多い。鉄地に直接透しを施したものは、甲冑師鍔や刀匠鍔の例では、細い線の部分が錆び落ちており、健全なままで伝わったものは少ない。小透の文を綺麗に見せたいと考えれば、別の腐蝕し難い素材で製作すれば良いと考えたものであろう、さえらに、銅合金であれば加工も容易であるし、色合いに変化を求めることもできる。この鍔では唐草は銀象嵌、文にも銀線象嵌によるものがあるも、透かし文は真鍮地。古い手のものは真鍮地に毛彫のみだが、この作では肉彫仕立てに毛彫や点刻が加えられている。同種の作品群の中では明らかに新しい。88.5ミリ。

唐草文に家紋散図鍔 三郎太夫 Saburodayu Tsuba

2014-07-12 | 鍔の歴史
唐草文に家紋散図鍔 三郎太夫


唐草文に家紋散図鍔 銘三郎太夫作之

 与四郎鍔と呼ばれる分類の一つだが、岡山金工の三郎太夫なる銘が刻されている。手法が全く同じであることから、この種の鍔が大いに流行したであろうことが想像される。このような作で無銘であれば、普通に直正の工房という考え方が浮かぶのだが、出来の良し悪しがあり、無銘の作も多いことから、工房を越えて各地で製作されていたのであろう。即ち、このような作品で、銘のある作では小池与四郎直正が最も有名であることから、同種の作で銘のないものを「与四郎鐔」と呼んでいるのである。決して和泉守小池直正の作あるいは直正工房作という意味ではない。72ミリ。

雪華文図鍔 古金工 Kokinko Tsuba

2014-07-10 | 鍔の歴史
雪華文図鍔 古金工


雪華文図鍔 古金工

 この鐔も装飾の歴史を考える上で興味深い作であるため、何度か紹介している。古金工と極められており、与四郎鐔より時代が遡ると考えられる。下地は素銅で、唐草風の文様と魚子地の中に、透かしの施された別造りの文が象嵌されている。鉄地真鍮象嵌になる与四郎鐔とは同じ手法である。とすると、欄間透なる手法は小池直正の創案ではないことになる。新たな文様の創造という意味では、透かし文の象嵌を創案した工がすでにあり、それを流行させたのが直正。室町時代には作品に銘を刻すという習慣が乏しかったようで、それは、芸術というより職人が成したものという意味。桃山頃から作品に銘を刻すようになったのは、職人の技術に高い評価がなされるようになり、作品に「個」が見いだされ、芸術という意識が高まり、さらにはそれを求める人々が現れた結果ということも考えられる。85ミリ。

唐草に文散図鍔 和泉守直正 Naomasa Tsuba

2014-07-09 | 鍔の歴史
唐草に文散図鍔 和泉守直正小池与四郎


唐草に文散図鍔 銘和泉守直正小池与四郎

 平安城象嵌の流れを汲む手法で、鉄地板鐔の全面に唐草を真鍮象嵌し、その隙間に家紋のような別造の真鍮地の文を象嵌した鐔。作者は、この種の鐔では最も良く知られ、在銘作品があることにより、この種の鐔を「与四郎鐔」と呼ぶほどに有名な和泉守直正小池与四郎。前回の唐草文鐔と、この種の鐔とではどちらが古いのかというと、ちょっと分らないが、流れとしては唐草文の完成度が高まった後に別の文様表現が加わったであろうと考えるが、実は前回の鐔の方が新しいのかもしれない。さて、この鐔には、別造りの透かし文がある。これによって欄間透かしなどとも呼ばれることがある。真鍮線象嵌ではなく、完全に透かした部分に別の文を嵌め込むという手法を採っており、新しさが確認されよう。小池与四郎は、鐙などに平象嵌を施した工の出である。73ミリ。

牡丹唐草図鍔 平安城象嵌 Heianjo-Zogan Tsuba

2014-07-08 | 鍔の歴史
牡丹唐草図鍔 平安城象嵌


牡丹唐草図鍔 平安城象嵌

 文様表現に、かなり創造性が加わっている作。唐草は古典文様の基礎にある一つがだが、様々な分野で装飾に採られている。古金工でも多く見られるし、唐草の一部が新たな装飾を生み出している場合がある。この鐔の櫃穴の周囲に透かされている部分、格狭間(こうざま)と呼ばれる装飾的な構造であり、唐草の先端である蕨手状の曲線の組合せによってできたもの。真鍮象嵌鐔にも次第に構造的な装飾性が加わっていることがこの作によって分る。鐔の厚さも、耳際が薄く、透かしの際も薄手で、総体がふっくらと肉取りされているのが分る。さらに、真鍮地も表面が平滑ではなく少し盛り上がっているのである。牡丹の花びら部分も、これにより後の高彫風な量感がある。桃山時代から江戸時代初期であろうか。90ミリ。