鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

蒲萄に斧図鐔 貞栄 Teiei Tsuba

2018-12-28 | 鍔の歴史
蒲萄に斧図鐔 貞栄


蒲萄に斧図鐔 貞栄

 これも砂張象嵌の貞栄の作。小柄笄の櫃穴も左右同じであり、表裏をどちらにでも付け替えられるよう考えたものであろう、違う題材が描かれている。では、蒲萄と斧の関係って何だろう。どなたか、判るか誰がおられたら教えてほしい。何て面白いんだろう、禅画のようで。

 鐔には表裏がある。強く意識して表裏を創作している鐔があり、表裏があることによって完成する図柄への興味が深まる。そのようなことから、鑑賞する側からも鐔の表裏を意識してほしい。

藻貝に兎鐔 貞栄 Teiei Tsuba

2018-12-27 | 鍔の歴史
藻貝に兎鐔 貞栄


藻貝に兎鐔 貞栄

 砂張象嵌を得意としたのが貞栄など間派の鐔工。鉄地に文様を彫り込み、溶けた砂張と呼ばれる鉛色の合金を文様に流し込み、固着させて装飾とした。鉄地に、さらに渋い鉛色の金属を文様として施すところに面白さがある。さて、この一群の鐔工は、文様を表裏同じ題材とするものもあるが、表裏を無関係な(あるいは筆者が判らないだけで深い関連があるのかもしれない)図柄としたものが頗る多い。表は海の幸でもある藻貝、裏は兎。この関係が判らない。下の写真は、表が松樹と判るが、裏は松の幹だろう、この鐔では関連性が理解できるものの、図柄の風合いは異なる。


丸文に虫図鐔 加賀 bKaga Tsuba

2018-12-26 | 鍔の歴史
丸文に虫図鐔 加賀


丸文に虫図鐔 加賀

 加賀の平象嵌が美しい作。このような作には表裏図柄が異なるものが間々遺されている。この鐔もその一つで、現在、片方の櫃穴が埋められているが、元来は同じ形状の小柄笄櫃。即ち表裏の意識があまりない。掛けかえて楽しんだとも考えられる。


秋草に蝶図鐔 加賀

 これも平象嵌が美しい作。特に濃密に文様を組み合わせている。表裏を描き分けて、見る者を驚かせようとした意図が窺える。

鳳凰図鐔 吉岡因幡介 Yoshioka-inabanosuke

2018-12-25 | 鍔の歴史
鳳凰図鐔 吉岡因幡介


鳳凰図鐔 吉岡因幡介

 赤銅魚子地仕上げの耳にのみ意匠している。上品な構成である。こうして眺めていると、球体の上に鳳凰が舞っているように感じられる。鳳凰は永遠の生命を持つ無限の存在。球体もまた突き詰めることの叶わない形状である。そのような意識がこの鐔の背景にあったのであろうか・・・、面白い図柄となっている。

龍虎図鐔 昆寛 Konkan

2018-12-20 | 鍔の歴史
龍虎図鐔 昆寛


龍虎図鐔 昆寛

 岩本昆寛の、表に虎を描いた鐔。土屋安親が、このような構成で、岩場に立つ虎の作品を遺している。ここでは、裏面に渦巻く雲を描いて龍の存在を暗示している。即ち龍を描いている。微細な石目地仕上げの赤銅地を碁石形に造り込み、高彫に色絵象嵌を加え、雲と風は片切彫。鐔の表裏を意識した作品の一つである。

牛図鐔 庄内 Shonai Tuba

2018-12-15 | 鍔の歴史
牛図鐔 庄内


牛図鐔 庄内

 なんて面白い図柄であろうか、うずくまる牛を鐔の円形に構成した、庄内金工の作。見た通り、表裏を描いている。図柄だけでなく、真鍮地という素朴な色合いを呈する素材の持ち味も活かされている。


牛図鐔 春田

 これも牛を素材にして、巴に組み合わせた図柄。横から見たのでは表裏同じになる。裏の牛については、ガラスなど透明な板の上にいるのでなければ、絶対にこのように見えない。想像しながら描いたのであろうか、頗る面白い作品である。

巣籠鶴図鐔 赤坂忠重 Tadashige Tsuba

2018-12-12 | 鍔の歴史
巣籠鶴図鐔 赤坂忠重


巣籠鶴図鐔 赤坂忠重

 赤坂鐔工の名人忠重が、肥後鐔を手本とした作。透かし鐔の多くがこのように表裏向きを変えても、同じ図柄の左右対称図となる。おなじような毛彫を加えていて分かり難いが、わずか嘴の先端のみ、片面は松樹に隠れるように、もう一方は松の手前側となるよう毛彫処理されている。

鳳凰図鐔 友直 Tomonao Tsuba

2018-12-11 | 鍔の歴史
鳳凰図鐔 友直


鳳凰図鐔 友直

 長州鐔工は、本作のような正確な構成と精巧な彫刻表現になる透かし鐔などを製作している。図柄は山水、龍、霊獣、花、歴史人物など。鳳凰は広く好まれた図。透かし鐔だから、表裏の構成は同じになって良いのだが、顔が表であれば裏には顔が見えないはず。ところが表裏に同じように翼を描き、顔を描いている。違うのはただ一点、嘴が阿(開いた相)と吽(閉じた相)の二態とされているところ。嘴を閉じた吽相側が表だろう。

大原女図鐔 川原林秀興 Hideoki Tsuba

2018-12-10 | 鍔の歴史
大原女図鐔 川原林秀興


大原女図鐔 川原林秀興

 焚き付けに用いられる黒木を売る大原女図は、京都の風俗図として間々描かれている。この鐔も正確で精巧、精密な彫刻に色絵の冴えた出来。真鍮地高彫色絵。裏は桜花の枝で、一見桜の木の下を歩く大原女のように思えるが、実は表裏を活かしで図を連続させた、構成の優れた作品(下写真参照)。


朝妻舟図鐔 後藤一乗 Ichijo Tsuba

2018-12-08 | 鍔の歴史
朝妻舟図鐔 後藤一乗


朝妻舟図鐔 後藤一乗

 この図について、解釈は多様である。古くは源平合戦に敗れた平家方の女房たちが、琵琶湖畔の朝妻辺りで身を売って生活していたという伝説があり、これを題にしたもの。またこれを背景に、江戸中期の絵師英一蝶が描いている。ところが、将軍綱吉が柳沢吉保の妻と通じていたことが話題になり、それを揶揄して描いたとも言われている。金工後藤一乗は幕府と深い関係があることから、一蝶と同じ考えで彫り描いたとは思えない。作品は、表裏を小舟で連続させている。因みに一蝶の絵は舟に座り込んでいる様子。この鐔では、表に裏の脱ぎ捨てられた水干や扇がある。これだけでは何の図か判らないのだが、裏に舟を漕ぐ遊女があり、ようやく背景が浮かび上がってくる。巧みな表裏の使い方である。


風俗図鐔 Tsuba

2018-12-07 | 鍔の歴史
風俗図鐔


風俗図鐔

 ちょっと面白い図柄の鐔を紹介する。作者は、描かれている人々に対してかなり批判的であったと考えられる。描かれているのは、江戸時代に間々みられた宗教の端っこを生業とする人々。「願人坊主」が師走に門前で経文を唱えていくらかのお布施をもらうのは良いが、代わりに冷たい海の水を浴びて汚れを落とすのが生業の「代垢離」は、断ると逆に脅すものだから、仕方なくお金を払うことになる。大きな神社の遣いのような姿で家々を巡る「御師」も、中には困ったことをした者があったという。「鉦叩き」、「すたすた坊主」等々、世人の現世利益を望む気持ちの真正面に切り込んでいた人々が一堂に会した場面。袈裟を付けた僧の着物の下に尻尾が見える。鐔の裏面に、強い批判が示されている。鐔の裏面を活かした、面白い作である。

布袋和尚図鐔 政豊 Masatoyo Tsuba

2018-12-05 | 鍔の歴史
布袋和尚図鐔 政豊


布袋和尚図鐔 政豊

 政豊は長州鐔工。長州鐔工は正確な図取りと精巧な彫刻技術で、山水図、竜神図、植物図、また古典に取材した人物図を得意とした。図柄として好まれたのであろう間々みられる布袋和尚は、禅僧の一人。かなり自然体で活きていたと考えられ、大きな袋に生活道具を詰め込んで持ち運ぶ場面や、子供たちと遊ぶ姿が題に採られる。この鐔では、裏からでは何が描かれているのかわからないが、布袋和尚の携える大きな袋。大きな袋に寄りかかって笑顔を見せる布袋の姿は、この鐔からでも、人々を和ませたであろうことが想像され、禅を体現した人物として好まれた理由も理解できよう。これも鐔の表裏を強く意識した作品である。

獅子図鐔 雪山 Setsuzan Tsuba

2018-12-04 | 鍔の歴史
獅子図鐔 雪山


獅子図鐔 雪山

 先に紹介した高山と同じ構成になる鐔。裏面だけでは何が描かれているのかわからない。長く金工を楽しんできた方であれば、主題の肌模様から辛うじてそれと判るだろうが。表裏連続して完成される図柄。高山の作も腐らかしによって変化をつけた地金が、図柄に面白味を与えている。異界にでも紛れ込んだような感じ。真鍮という素材は、銅と亜鉛の合金だが、溶ける温度が極端に異なることから造り出すことが困難であった。どのような処方で真鍮地を製作したものか不明だが、古い真鍮地の作品には、この鐔や、埋忠派にも見られるように、細かな鑢目のような肌が現われる。これも自然な景色となっている。このような地金はともかくとして、表裏を強く意識した作品である。

這龍図鐔 高山 Kouzan Tsuba

2018-12-03 | 鍔の歴史
這龍図鐔 高山


這龍図鐔 高山

 高山は一宮長常の師匠と伝えられている。長常の初銘が雪山と言われ、似た図柄の作品を遺している。表裏連続する画面としている。新しいというわけではないが、画面をはみ出すような大胆な構成で、表裏を意識して製作している見本のような出来。真鍮地鉄が、焼手腐らかしによって変化に富み、自然な空気感を伝えている。