鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

水辺風景図小柄 武明 Takeaki Kozuka

2019-10-31 | 鍔の歴史
水辺風景図小柄 武明



水辺風景図小柄 武明

 武明は会津正阿弥派の金工であろう。図柄の構成に優れている。蛇籠を手前に水の流れに映る三日月。科学的視線からありえない絵だが、とても奇麗だ。朧銀地に銀の月という色金の使い方も、暮れてゆく頃の空気感があっていい。

大根図鐔 甚吾 Jingo Tsuba

2019-10-30 | 鍔の歴史
大根図鐔 甚吾


大根図鐔 甚吾

 このような月の捉え方もある。大根とのとり合わせは何を意味しているのであろうか、とても興味深い。このような意味が分からない作品において、図柄に存在感があることが最も大きなポイントだろう。すうっと、目線が、意識が誘われこまれてゆくような…。
 このような作品は、鐔が出来上がったときにはもっと奇麗なはずで…、あまりにも奇麗では魅力がないし、とすれば甚吾は、時を重ねて変質することを意識して製作していた。とくに月の銀が渋い色調に変じているところが魅力だ。

猛虎清図鐔 玉川美清 Yoshikiyo Tsuba

2019-10-29 | 鍔の歴史
猛虎図鐔 玉川美清


猛虎図鐔 玉川美清

 洞窟を背景に端然とした猛虎を描いたのは安親。その意匠な後世の金工に与えた影響は頗る大きい。櫃穴を洞窟に仕立て、ゆったりと這い出してきた虎の姿がいい。表情もいい。ここでは月を添え描いている。月あっての虎である。

狐図鐔 壽松斎東意 Toui Tsuba

2019-10-28 | 鍔の歴史
狐図鐔 壽松斎東意


狐図鐔 壽松斎東意

 秋野に狐。狐は宝珠をくわえている。正確な図取り構成に精密な彫刻。奇麗な図柄だが凄みがある。艶のある毛並み。柔軟で跳躍力の高そうな身体の様子。漆黒の赤銅地は夜。月を銀で表し、その朧な様子は魚子地の中で自然味がある。「東意」は水戸金工元儔の号。つい先日長野県と山梨県の境目辺りに行ったとき、ふつうに人家の近くでも狐を見かけた。狐は、このようにしているのだと、改めて感じた。狐の図は謡曲の「釣狐」や罠にかかった狐の図が後藤家にある程度で、あまり見ることがない。月は夜を意味しているのであろうが、月の存在が絵画として強い印象を与えている。

福禄寿図鐔 壽景 Toshik

2019-10-26 | 鍔の歴史
福禄寿図鐔 壽景


福禄寿図鐔 壽景

 東龍斎派の特徴的な作風。秋野に鹿を主題とし、蝙蝠、足元には霊芝であろうか茸のようなもの、とすれば月はここに描かれていない寿老人であろうか、奇麗な風景図に仕上げている。秋草が活きている。鹿が天上を見上げている構図で、和歌の素材にもなりうる風景。

月に時鳥図鐔 明義 Akiyoshi Tsuba

2019-10-25 | 鍔の歴史
月に時鳥図鐔 明義


月に時鳥図鐔 明義

 月は風景の中で感じとるもの。この鐔は夏の訪れを意味している。月は秋が見ごろといわれるが、一年を通じて楽しむべき存在。時鳥は初夏の鳥。徳大寺実定(後徳大寺左大臣)に「ほととぎす鳴きつる方を眺むれば ただ有明の月ぞ残れる」の歌がある。この鐔はこの場面を描いている。裏には、白々と明けつつある京の街が描かれている。


月に時鳥図目貫 橋本一至

 金無垢地容彫に銀の雲。

月に笹兎図鐔 在哉 Arichika Tsuba

2019-10-24 | 鍔の歴史
月に笹兎図鐔 在哉


月に笹兎図鐔 在哉

 安親の先輩にあたる出羽国の金工、在哉の洒落た作。透が印象的で優れているのだが、さらに毛彫を加えて月明かりに浮かび上がる辺りの景色が活かされている。月が雲の隙間に顔を出しているのだが、その月の照る様子が透かしで表現されている。この陰陽の使い方が優れている。

黒木売り図小柄 長常 Nagatsune Kozuka

2019-10-23 | 鍔の歴史
黒木売り図小柄 長常


黒木売り図小柄 長常

 裏に三日月があり、この小柄も月を見る老いた黒木売りの視線に意味がありそうだ。京の街を彩る風俗図として捉えたものかもしれないが、見る者に思索を投げかけてくれる作品である。

拾得指月図鐔 勝珉 Shomin Tsuba

2019-10-21 | 鍔の歴史
拾得指月図鐔 勝珉


拾得指月図鐔 勝珉

 詩人の寒山と拾得、豊干禅師は、禅画として題に採られることが多い。拾得が月を指し示す図も知られている。月を見て何を想うのか…といったような、先に紹介した仲麻呂が題材の鐔とはだいぶ意味合いが異なっている。人は指し示した指先を見てしまうという。見るべきものはこの鐔には描かれていない。拾得の指した指の遥か先には月があるのだ。

仲麻呂望月図鐔 政随 Masayuki Tsuba

2019-10-19 | 鍔の歴史
仲麻呂望月図鐔 政随


仲麻呂望月図鐔 政随

 阿倍仲麻呂は奈良時代に渡唐した留学生。吉備真備と一緒に渡航したので、時代背景が判るかと思う。渡航は命を賭けて行われた。唐で役人となった仲麻呂は後に帰国を望んだが、ついに叶わず、彼の地で生涯を終えた。仲麻呂は月を眺めて故郷を想っていたという。ここでも月が時間や空間を超えた想いという点で意味を持つ。


仲麻呂望月図鐔  奈良重治

 中国風の着物から阿部仲麻呂を想いうかべたが、瀧を臨む背景から別の意味があるのかもしれない。だが、月が大きな意味を持っている図であることに違いはない。

木賊刈図鐔 政春 Masaharu Tsuba

2019-10-18 | 鍔の歴史
木賊刈図鐔 政春


木賊刈図鐔 政春

前回、安親の木賊刈と一緒に、水戸金工政春の、安親を手本としたであろう同図の鐔を紹介した。写し物についてどのような意味合いがあるのか問われた。政春は玉川派の工で、石黒家に学んだ。頗る技量の高い金工である。この鐔も、安親と並べてみても決して劣ることのない作である。もちろんこの図を創案した安親と、同図に独創を加味した政春では、オリジナリティーという点で比較できないし、後者は先人に並ぶことができない。作品そのものとして、また細部の描写という点で政春は安親に挑んだものであろう。本作については、安親に及ばなくても内容度の高い、そして楽しめる作品である。

木賊刈図鐔 安親 Yasuchika Tsuba

2019-10-16 | 鍔の歴史
木賊刈図鐔 安親


木賊刈図鐔 安親

 我が子が幼い頃にかどわかされ、現在どこかで健康に生きているであろうか、月を見て想う老父。謡曲木賊刈の一場面である。月はこのように遠くにいる人を想う場合に引き合いに出される。この図の説明では、どこかにいる我が子が、この月を自分と同じように眺めているであろうかと、考えている、としている。この図式が面白い。今の我々では、我が子が月を見ているであろうかとは考えず、月は我が子を同じように照らしているであろうと考える。月を見る機会がお月見の頃、あるいはスーパームーンとか天体ショーの際に見るぐらいに減ってしまったからだろう。でもどうやら江戸時代やそれ以前には、月を眺めて遠くにいる人を想う、偲ぶ、という意識は普通にあったと考えて良さそうだ。だから月を見て想う図が多く遺されている。


木賊刈図鐔 政春

月見図小柄 東雨 Touu Kozuka

2019-10-15 | 鍔の歴史
月見図小柄 東雨


月見図小柄 東雨

 月見をするのは歌人や芸術家だけではない。市井の人々も同様に月を眺めて楽しみ、あるいは季節がら豊作を感謝する。この図は、どうやら御大尽の舟遊びといった風情。停滞している湖水の様子が、舟を操る漕ぎ手の姿に現れている。もちろん漕ぎ手には月を眺める間もないようだ。