鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

刀剣関連初心者本のブームで・・・

2015-04-18 | その他
再度のお知らせ

半月ほど前にお知らせしたように、現在、空前の刀剣関連の出版ブームであります。背景に、刀剣をキャラクター化したゲームが流行しているからとのこと。刀剣そのものへの関心が高まっているのではなさそうだが、それでもゲーム好きの中にはお店にも鑑賞に来られる場合がある。御刀の販売にはつながらないのだが、刀剣店としては、少しでも理解をしていただこうと、容易な説明を心がけるなど対応は欠かせない。同時に歴史関連以外の出版社から刀剣関連のムック誌を出したいとの相談が頗る増え、その対応も容易ではない。多くは写真を貸してほしい、ということだが写真だけでおさまらず、説明にまで及ぶ。
宝島社から、さらに6月中にもう一冊出したいとの話があり、現在はその対応に追われる始末。
これら出版ブームの背後にある『日本刀大全』(学研)も、売れ行きは好調で、その初心者版(元来が初心者向けの本だからさらに易しくしたもの)も出ることになった。もちろん『日本刀大全』ⅠとⅡの良いところを集めたもの。
このような状態であり、もうしばらく、このブログは虫食いのように飛び飛びで続けることになりそう。

日月図頭鐺 Kasira

2013-11-08 | その他
日月図頭鐺


日月図頭鐺

 金と銀で陰陽に表現した波。そこには太陽と月が意図されている。造形が縦長ではあるも、丸みを持っていること、特に横からの眺めでは半円に見えることから、日月を暗に示していることは明白。金と銀の違いは別にして、微妙に彫り方を違えているのが分るだろうか。流れる波の表面に加えた片切彫である。どうっと流れてくる様子、崩れ落ちる様子を、巧みに描き分けているのである。波の表面にも小さな彫り込みを施して崩れ落ちる様子を独創的に表現している。

波図ハバキ 文僊篤興 Tokuoki Habaki

2013-11-06 | その他
波図ハバキ 文僊篤興


波図ハバキ 銘文僊篤興

 大月派を代表する一人篠山篤興。篤興に写実的表現になる鐔が多く遺されているのは、実際の風景に取材したからであろう、正確で精巧な作品が多い。だがこの波は荒れ狂う海上から眺めたもの。この波にも大月派の特徴が良く出ている。単純な荒波だが線描に抑揚変化があり、殊に流れ下る波の動きは微妙だが面白い。飛沫が楕円形であるのは大月派の特徴でもあるが、ここではさらに飛び散っているように切り込みも入れてあり、表現が巧みだ。

日月図ハバキ Habaki

2013-11-05 | その他
日月図ハバキ


日月図ハバキ

 大小揃いのハバキで、日月を対比させた意匠。銀地透彫りで太陽を表しているが、ここでも心象風景。海の中に太陽や月があっては変だとは思わない。政随の波間に三日月の図があったが、このハバキにおける波と日月の構成も巧みである。日月の前後に波が押し合い、月に覆いかぶさるように崩れ落ち、金の波飛沫が散って舞う。

重陽節句図栗形 土屋守親 Morichika Kurigata

2012-12-01 | その他
土屋守親


土屋守親作年中行事図一作金具から
重陽節句図栗形

 先に紹介した年中行事図揃金具と同様、奇麗な高彫金銀色絵の作を用いた大小拵から紹介する。栗形は秋、重陽の節句に関わる菊を題に得たものだが、これに秋の風物でもある栗を添えている。重陽の節句は栗節句とも言われているように、単に秋の稔りという意味での栗を採ったものではないことがわかるが、栗節句なる言葉は重陽の節句と同様に、現代では余り使われていない。栗形に栗を描いているのは洒落であろうか。

銀座長州屋からのお知らせ

2011-02-07 | その他
お知らせ

銀座長州屋のホームページをご覧いただいているお客様から、銀座長州屋のホームページにアクセスしたことにより、ウィルスに感染したとの報告がありました。また、Web検索によってウイルス感染の警告が表示されたこともあり、調査しましたが、ウイルスが検出されておりません。2月4日の午後にはWeb検索による警告の表示が出なくなりましたが、一部のパソコンでは未だに表示されているようです。各個のパソコンに搭載されているセキュリティーソフトの違いによる表示の有無も確認されたことから、銀座長州屋のホームページを構成している機能の特定のコードがウイルスと誤認された可能性があります。銀座長州屋のホームページは、現在安全な状態にありますので、安心してご利用下さい。

お知らせ

2011-02-04 | その他
銀座長州屋からお知らせします。

数日前から、Web検索を通じて銀座長州屋のホームページにアクセスしようとすると、ウイルス感染の『警告』が表示されるようになりました。
銀座長州屋のホームページを管理しているサーバーはもちろん、銀座長州屋のパソコン及び周辺機器などについてはウイルス感染していないことが確認されており、ホームページをご覧いただいても全く問題はないのですが、一時公開を中止し、確認と対策を急いでおります。
申し訳ございませんが、解決次第ホームページを再開いたしますので、しばらくお待ち下さい。

葡萄棚図笄 古後藤 Kogoto Kogai

2010-07-27 | その他
葡萄棚図笄 古後藤



葡萄棚図笄 無銘古後藤

 時代の上がる後藤家の作と極められた、棚下に葡萄の図。『源氏物語』などに取材するのではなく、このような現実の風景を捉えた写生風の表現は、この時代の後藤には珍しい。上から眺め降ろす視覚的な構成は古典的で、棚に伸びる蔓と茂る葉、たわわに実る房が垂れ下がる様子にはまだ文様化の名残りが感じられる。図柄として眺めた場合、画面を切る竹棚の斜の線が活きている。

葡萄図笄 古金工 Kokinkou Kougai

2010-07-24 | その他
葡萄図笄 古金工



葡萄図笄 無銘古金工

 なんて美しいのだろうか。赤銅魚子地に高彫、金うっとり色絵の手法で一枝のたわわに実る葡萄を表現した作。葡萄の色絵が擦れて内部が露出しているのだが、その様子がむしろ美しい。ただ見とれてしまう。
 葡萄の一枝としたところも素敵だ。このシリーズでは蔓の伸びる様子を美しく捉えた作品を紹介している。それは自然の中で美しさを増すものだが、こうして枝を折りとった葡萄のなんと美しいことか。
 赤銅魚子地に高彫し、金のうっとり色絵を施している。

茘枝図三所物 後藤程乗 Goto-Teijo Mitokoromono

2010-07-18 | その他
茘枝図三所物 後藤程乗


茘枝図三所物 銘後藤程乗 光晃(花押)




 茘枝(れいし)とは、ニガウリ、ゴーヤーのこと。実には苦味があって好き嫌いの評価が割れるところだが、古くから薬として捉えられていた。瓜と同様に勢い良く蔓を伸ばして成長する様子は生命感にあふれ、これに強い生命の源があるとも考えられたであろう。
 筆者はゴーヤーを、実が熟すまで育てたことがある。翡翠のようにあおあおとした実が次第に黄色くなり、ついに割れて中の真っ赤な種があらわになる。その様子は壮観だ。前回に紹介した瓜図目貫のように割れた実が反り返って種の集まりが柘榴石のような透明感を呈してその存在を鮮明にしている。独特の香りも良い。
 この三所物の図では、葉は瓜であるが実は石榴のようでもある。とはいえ、実の表面には凹凸があって、割れ方は瓜のそれ。
 この三所物は後藤宗家七代程乗(ていじょう)の作。時代は、桃山文化の影響が残る江戸時代初期。綺麗に揃った赤銅魚子地に高彫とし、葉と実に金を、花に銀を、割れた実から覗き見える種は素銅の色絵。実の色合いは微妙に銀を交えて色調に変化を与えている。

波桜文図縁頭 西垣勘四郎

2010-04-14 | その他
波桜文図縁頭 西垣勘四郎

 
波桜文図縁頭 無銘 西垣勘四郎

 赤銅地に川の流れを意味する波文を施し、これを背景に桜花を流れゆく様子を文様表現した作。紅葉の川流れを『竜田川』と呼ぶのに対し、桜の名所に擬えて桜の川流れを『吉野川』と呼んでいる。なんとも雅な響きがあろうか。吉野の桜を京都嵐山に移して楽しんだ背景には、吉野への深い思いがあったからに他ならない。
 肥後金工の祖とも言うべき細川三斎の美意識は、単に茶に通じていたというだけでなく、和歌、有職故実などなど深い知識と感性という下地があってのもの。作品の製作に直接携わったわけではないが、三斎の意識は肥後金工の感性と手を通じて作品とされたのである。そしてこの美意識は、後の多くの金工へと受け継がれている。
 縁頭の作者である西垣勘四郎(にしがきかんしろう)の説明の前に、肥後金工全般を俯瞰してみよう。
 肥後金工には平田家、志水家、西垣家、林家の四つの主流がある。平田彦三は、細川三斎が肥後国を治める以前の豊前国時代からの抱え工。平田彦三の甥が志水家(通称甚吾)の初代仁兵衛で、西垣家初代勘四郎は彦三の弟子。三斎が肥後に入る以前から肥後に居住していたのが林家初代又七。平田家は初代彦三―二代彦三(少三郎)と続くが三代目には作品がないと考えられている。西垣家は、初代勘四郎(吉弘)―二代勘四郎(吉當・永久)―三代勘四郎(吉教)―四代勘左衛門以下へと続き、初代次男(二代の弟)に勘平がいる。志水家は、初代仁兵衛―二代甚吾郎―三代甚五(永次)―四代甚吾―五代甚吾(茂永)以下へと続く。林家は、初代又七(重吉)―二代藤平(重光)―三代藤八(重吉・重房)―四代平蔵(重次)―五代又平以下へと続き、二代重光の門流に神吉家がある。神吉家は、初代正忠―二代深信―三代楽壽以下へと続く。その他、間々作品の見られる工として中根、遠山、諏訪などが挙げられ、また、剣豪宮本武蔵にも作例がある。以上、伊藤満氏の研究に従う。
 さて、西垣勘四郎には鉄地を透かし彫りするものと、真鍮や素銅地を比較的量感の低い、いわゆる薄肉彫による文様表現にするものとがある。この縁頭は後者の例で、縁は真鍮地、頭は素銅地。波を背景に桜花文も薄肉彫として、縁は素銅と赤銅の色絵、頭は赤銅と金銀の色絵。肉取りとも言うべき表面の微妙な抑揚、これに加えた質朴な毛彫が活き、色絵は大らかにして、総体が渋い中に華が感じられる作風である。

桜に雉子図笄 石黒光明

2010-04-10 | その他
桜に雉子図笄 石黒光明



桜に雉子図笄 銘 石黒光明(花押)

 花鳥図を得意とした石黒派初代政常の高弟政明の門人光明(みつあき)の、この一派らしい画題を巧みに高彫色絵表現した笄。石黒派の特徴は、綺麗に揃った赤銅魚子地を背景に、精巧緻密な鏨使いによる高彫表現で、これに金銀の色絵を多用して華麗でしかも繊細な画面を創出しているところにある。
 雉子と桜の取り合わせは古歌にあり、ここでも藤原定家の自選全歌集『拾遺愚草』の『詠花鳥和歌各十二首』に題を得た、堀江興成作花鳥十二ヶ月図揃小柄を紹介している。光明の小柄では雛鳥を添え描いており、定家の歌の意味とは風合いを異にする趣向。
 装剣小道具において桜を描く場合、花の咲き始め頃、あるいは満開のそれを取材しており、はらはらと散る様子は花筏文以外には多くは見られない。死に通ずる散ることへの忌避があってのことであろうか。ところがこの笄では花の散り掛かる様子が美しく表現されている。現実の桜樹の前に佇んでみても、舞い落ちる花びらには、潔く死を選ぶという意味合いとは別の美しさが感じられよう。江戸時代後期から明治時代初期の作品。

勿来関図縁頭 竹乗

2010-03-29 | その他
勿来関図縁頭 竹乗

  
勿来関図縁頭 銘 竹乗

 桜と関係のある人物として、まず第一に思い浮かぶのは、平安時代の武将、源氏の武士団としての基礎を固めた八幡太郎義家(はちまんたろうよしいえ)であろう。義家が陸奥守として奥州に赴いたおり、勿来の関(なこそのせき)を通過したのが桜の季節。歌枕にも採られているこの地に至った義家の、遠く離れた都を偲ぶ姿が画題として採られているのである。武将として名高いと同時に歌人としても知られているためか、義家は装剣小道具の画題として好まれており、この図も比較的目にする機会が多い。
 朧銀地を磨地に仕上げ、高彫に金銀赤銅の色絵を的確に施し、馬上の義家の振り返る先に、桜の散りかかる勿来の関がある。高彫の表面がなだらかに仕上げられて柔らか味があり、武家の姿を捉えた作品とは言え、振り向いた表情などに京の雅を漂わせている。桜はごくわずかに添え描いているのみだが、印象深く美しい構成である。この縁頭には竹乗の銘があるも、作者については不詳。

秋草図縁頭 永武

2010-03-04 | その他
秋草図縁頭 今井永武

 
秋草図縁頭 銘 今井永武(花押)

 野の草花を優しい視線で捉えた作品。作者は後藤八郎兵衛家六代一乗の門人の一人と考えられている今井永武(ながたけ)。永武は京都の紙商の子として文政元年に生まれる。幼くして一条家の家臣であった今井家の養子となるも、養父の没後に職を辞して金工となり、後に後藤一乗の門人となると伝えられている。ただし、正式に一乗の門人になったわけではないという説もある。明治十五年没。一乗風の綺麗に揃った赤銅魚子地を高彫色絵表現する、優雅で繊細な植物図を得意とした。
 この縁頭の造り込みは、美濃の風合いを残した一華の作例とは全く異なり、端整で瀟洒。過ぎることのない文様化された秋草。永武は金の平象嵌に似たケシ象嵌と呼ばれる霞みのような表現も得意としているが、ここでは、高彫に多彩な色絵を加えている。古金工にもみられるような古典的な風合いを、近代的な図取りとした作品である。このような空間を活かした構成は一乗一門の得意とするところである。一華などの作品と比較鑑賞すると、同じ一乗一門でも、金工による独創性がより強く示されていることがわかる。このように、より強く個性を追求するのは幕末の特徴でもある。

秋草図縁頭 一華

2010-03-03 | その他
秋草図縁頭 一華

 
秋草図縁頭 銘 一華(花押)田中福重應需

 美濃彫様式をそのまま伝え、豪壮華麗に作品化したのがこの縁頭。作者は後藤八郎兵衛家六代一乗の門人の中村一華(いっか)。京都金工で、美濃様式の作品を専らとした作家である。
 上質の赤銅地を大振りでふっくらと量感のある地造りとして小縁を鋭く立て、群れ茂る秋草を肉高く彫り出して古美濃にあるような深彫風に描写している。地に施した魚子地が見えないほど密に植物を配し、くっきりと立つ高彫部分には色違いの金、銀、金と銀の合金など鮮やかな色金を多用し、しかもグラデーションをつけるなど彩色に工夫をしている。秋草は菊、萩、女郎花といった定番に、頭の中央下辺りに布置しているのは芙蓉であろうか、作風手本は古作ながら、総体に新趣を楽しんでいることが良くわかる。菊の花を交差した曲線の切り込みで表現するのは、古金工や古美濃、甲冑の飾り金具にも良くみられる手法だが、古作と比較観察すると、力強い鏨が躍動的に切りつけられており、個性が感じられる。