鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

田植え図鐔 松下亭元廣 Motohiro Tsuba

2019-03-30 | 鍔の歴史
田植え図鐔 松下亭元廣


田植え図鐔 松下亭元廣

苗代、代掻きから田植えまでの、春の農村の様子を写し取った作。米作りそのものが大自然とかかわりのある我が国の文化でもあるのだが、自然の賛美よりも人間味のある景色として捉えたもの。牛を操る代掻き、スズメに食われないよう苗代を見守る者、田植えの人の並んだ様子、昼餉の用意をしてきた母子であろうか、それぞれの人の動きが景色を成している。

代掻き図鐔 一春 Kazuharu Tsuba

2019-03-29 | 鍔の歴史
代掻き図鐔 一春


代掻き図鐔 一春

 同じ牛が主題であっても、これは明らかに農村の風景。いかにものんびりとしているようだが、彼らにしてみたら、冷害、旱魃、襲い来る自然の脅威に真っ向から対決してゆかねばならない。そんなに楽なものではないぞ、と大きな声で言いたいだろう。今は田植えの時期を逸することがなきよう、黙々と水田をならしている。次の小柄も同じ図。松下亭元廣には鄙びた農村の風景をきれいに彫り描いた作がある。


代掻き図小柄 松下亭元廣派


牧童図鐔 政春 Masaharu Tsuba

2019-03-28 | 鍔の歴史
牧童図鐔 政春


牧童図鐔 政春

 先の牛引き図を十牛図の一つ、禅を得ようと悪戦苦闘する姿を描いたものとするのであれば、これも禅の習得、すなわち禅を学び得た状態を描いたもの。ところがこの図は、禅の問題にかかわらず好まれたのであろうか間々見かける。あるいは禅を学んだ証として用いたのであろうか。とはいえ、そのように考えなくても楽しめる図柄である。農村の鄙びた景色を良く捉えている。

牛引き図鐔 安親 Yasuchika Tsuba

2019-03-27 | 鍔の歴史
牛引き図鐔 安親


牛引き図鐔 安親

 農村に取材した作。牛を引く農夫などはごく普通に見られた光景。装剣小道具では、禅の教え、その習得の程度を牛引きに擬えて十段階に違えて描いた十牛図と解く。先に紹介した樵夫図とおなじだ。この鐔では、十牛図のひとつと見なくても、農村の鄙びた風景と捉えればそれで充分に楽しめる。下の小柄は同図を描いたもの。


木賊刈図鐔 安親  Yasuchika Tsuba

2019-03-26 | 鍔の歴史
木賊刈図鐔 安親


木賊刈図鐔 安親

 謡曲木賊刈に題を得た作品。この図は、安親が好んで描いており、複数の作がある。木賊刈の老父を主題に大きく採った作もあるが、ここでは山水の構成を借り、雲間に出てきた月を眺め、かどわかされた我が子を思う様子を鄙びた風情として彫り描いている。夕闇の迫る頃、月明かりに浮かび上がる木賊と鎌を手に佇む老父。子細に観察すると、状況描写がすこぶる丁寧で、川の流れ、岩場、遠く闇に沈んでいる山並みなどが的確。この鐔は、農村を題に得ている図柄では際立つ存在感を放っている。

樵夫図鐔 勝随 Katsuyuki Tsuba

2019-03-23 | 鍔の歴史
樵夫図鐔 勝随


樵夫図鐔 勝随

 瀧の落ちる山奥で薪を束ねる樵夫。山水図を借りて山仕事を描いたもの。裏面は急峻な沢の流れ。まさに山水図の美しい構成。普通だとここに李白が立って瀧を眺めている場面とされる。背後の瀧や遠く連なる山々など、この樵夫はもう見飽きたといわんばかりに作業している。さて、樵の図は良く絵画にも採られているが、単に樵という職業を題に得たものであろうか。実は禅を学び得ることを意味しているとも言われている。彫口は精密で正確。勝随は浜野家の流れを汲む岩間家の三代目。

砧打ち図小柄 浜野壽随 Toshiyuki Kozuka

2019-03-22 | 鍔の歴史
砧打ち図小柄 浜野壽随


砧打ち図小柄 浜野壽随

業平や西行が和歌の名勝なる地を訪ねる旅にでたように、風光明媚な土地は好んで和歌に取られたようだが、それらに比較すると農村の様子が詩歌に詠まれた例は少ないだろう。砧打ちは農村の鄙びた風景の一つでもあったようだが、和歌にも採られている。この小柄では、朧銀地が風情ある景色を生み出している。

富岳西行図鐔 直次 Tsugunao Tsuba

2019-03-20 | 鍔の歴史
富岳西行図鐔 直次


富岳西行図鐔 直次

 富岳何景になったろうか、金工だから絵画ほどではないと思っていたが、表現手法は多彩だ。この鐔は、聳え立つ富岳を主題に、松原から眺める旅人を添え描いた作。旅人は歌人西行ではないかと思わせる鄙びた構成。彫口は簡潔な線描写と、富岳のみに金象嵌。人物を大きく採らず、かろうじてわかる程度に描いていることから必然的にそこに目が行くようになる。実は巧みに存在感を高めている作だ。

東下り図鐔 額川保則 Yasunori Tsuba

2019-03-19 | 鍔の歴史
東下り図鐔 額川保則


東下り図鐔 額川保則

 古典的図柄を得意とした水戸金工、その額川保則の作。和歌の旅に出た業平が主題。ようやく富岳が面前に聳える地まで来たのか、その感動に震えているのか、業平の表情はかたい。その一方で従者はもう旅に飽きたのか…。ちょっとない、面白い風景。


東下り図鐔 後藤光孝 Mitsutaka Tsuba

2019-03-18 | 鍔の歴史
東下り図鐔 後藤光孝


東下り図鐔 後藤光孝

 後藤宗家十三代光孝の、片切彫を駆使した手法として珍しい作。東下りは好まれた画題であり、間々見かける。ここでは主人公である業平が描かれていない。留守模様であろうか、あるいは大小そろいの鐔の、一方に描かれているのであろう。簡潔な線描写の美しい出来。

木花咲耶姫図縁頭 皆山應起 Masaoki Fuchigashira

2019-03-16 | 鍔の歴史
木花咲耶姫図縁頭 皆山應起


木花咲耶姫図縁頭 皆山應起

 大月派の金工。木花咲耶姫は、富岳を御神体とする浅間神社に、富士山の噴火を鎮めるために祀られている。神話世界を美しく彫り描いた作で、図柄としてはとても珍しい。

一富士二鷹三茄図大小鐔 義照 Yoshiteru Tsuba

2019-03-15 | 鍔の歴史
一富士二鷹三茄図大小鐔 佐藤義照


一富士二鷹三茄図大小鐔

 佐藤義照極めの大小鐔。構成のしっかりとした図柄。写実的であり、雄大であり、すがすがしさが感じられる。「一富士二鷹三茄」の謂いは、「富士越龍」と共に出典が良く判らない。でも普通に、富岳というと思い浮かぶ場面であり図柄である。下の鐔は、かなり印象的な構成としている。鷹は富岳を越えんとしているのか…。


一富士二鷹三茄図 義為

富岳桜図大小鍔 安壽 Yasutoshi Tsuba

2019-03-13 | 鍔の歴史
富岳桜図大小鍔 安壽


富岳桜図鍔 安壽

 安壽は仙台金工。大小鐔だが、大は桜に月、小が富岳。風景を連続させたものであろう、雰囲気がよく合っている。富岳のすそ野の構成線が桜の枝とほぼ同じのは偶然ではなかろう。成功で正確な彫刻。各図柄がきりっと立っており、迫りくるものがある。

松原富岳図鍔 一拳 Ikken Tsuba

2019-03-12 | 鍔の歴史
松原富岳図鍔 一拳


松原富岳図鍔 一拳

 一拳は後藤一乗一門。この鐔では手前に松原を描き、その背後に迫りくる富岳を描いている。表面だけでは描き切れないとみて、裏面に連続させている。現実には写真でしか表裏を並べて繋げることができないのだが、面白い試みである。しかも実際に並べてみるとかなり迫力があり、意識として成功していると思う。