鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

波千鳥図鐔 赤坂忠重 Tadashige Tsuba

2020-04-21 | 鍔の歴史
波千鳥図鐔 赤坂忠重


波千鳥図鐔 赤坂忠重

 江戸時代下って中後期に至ると、赤坂鐔の意匠もここまで風景の文様化が極まる。なんて面白いんだろう、と飽かずに眺めてしまう。忠重自体が、古作に紛れるような鐔を製作していると同時に、独創性に富んだ新趣の作をも生み出した名人である。そもそも、透かし鐔で説明したように、透かしという意匠はかなり主題を略して草体化させる必要がある。心象的表現であったり、文様化が進むのは普通に起こるだろう。だが、この鐔の文様化は面白い。同時代の絵画と比較してみないと判らないが、この波千鳥は、あるいは世の流行であったのかもしれない。

柳に鷺図鐔 赤坂忠時 Tadatoki Tsuba

2020-04-20 | 鍔の歴史
柳に鷺図鐔 赤坂忠時


柳に鷺図鐔 赤坂忠時

 室町時代の透鐔で古正阿弥、あるいはその流れを汲むであろう京透などには、先に紹介した八橋図のような、風景を文様表現した作がある。江戸時代に隆盛した赤坂鐔の源流を探ると、古正阿弥に行きつくのではないだろうかと考えている。古正阿弥の透かし鐔には、赤坂に極めてもよさそうな作があり、また赤坂には古正阿弥風の作もある。地鉄の古い若いの違いだけで時代を判断しなければならないような作があるのは確か。この洒落た構成の鐔は明らかに赤坂。柳の下に小魚を追う鷺を、赤坂独特の文様美としている。

秋草図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2020-04-17 | 鍔の歴史
秋草図鐔 古金工


秋草図鐔 古金工

 室町時代前期と考えられる、古金工の鐔。太刀の添え差しとされた小脇差に用いられたものであろう、高級武将の持ち物であったと思われる。表裏図柄の様子を違えている作は時代の上がる鐔に見られる特徴。一面は秋草をそのままの貮あるように描こうとしている。もう一面は明らかに唐草と菊花の組み合わせになる文様表現。古典的な太刀拵の装飾として唐草や霊獣図があるのだが、その延長線にある単調な繰り返しの唐草とも異なり、創意と工夫がみられる。

秋草図鐔 美濃 Mino Tsuba

2020-04-15 | 鍔の歴史
秋草図鐔 美濃


秋草図鐔 美濃

鐔の耳際のみに秋草を構成した意匠。古い美濃鐔や古金工に秋草図はあるが、いずれも鐔全面に散らし配したもので、江戸時代に至ると、美観の追求から耳際に、あたかも鐔の中央に向かって迫りくるように構成した鐔が作られている。下の石黒政美の鐔がその良い例。草原の草むらに寝そべって大空を見上げているような自然観がある。上の鐔については似た意匠ながら、花束を意匠している。この意匠構成も面白い。そもそも美濃彫については秋草や虫、動物などを捉え、自然空間を文様化しているのだが、このように文様美の進化も窺えて頗る面白いのである。


秋草図鐔 石黒政美

秋草図鐔 美濃 Mino Tsuba

2020-04-14 | 鍔の歴史
秋草図鐔 美濃


秋草図鐔 美濃

鐔の耳際のみに秋草を構成した意匠。古い美濃鐔や古金工に秋草図はあるが、いずれも鐔全面に散らし配したもので、江戸時代に至ると、美観の追求から、耳際に、あたかも鐔の中央に向かって茂りくるように構成した鐔が作られている。下の石黒政美の鐔がその良い例。草原に寝そべって大空を見上げているような自然観がある。上の鐔については似た意匠ながら、花束を意匠している。そもそも美濃彫については秋草や虫、動物などを捉え、自然空間を文様化しているのだが、このように文様美の進化も窺えて頗る面白い。


秋草図鐔 石黒政美

枯木図鐔 林 Hayashi Tsuba

2020-04-10 | 鍔の歴史
枯木図鐔 林


枯木図鐔 林

 左右の櫃穴は古木に生じた洞であろう、地面には金布目象嵌の手法で枯れ枝のような景色、あるいは枯木に絡まる葛を表現したものであろうか。葉が生い茂り、生命感に溢れた風景とは異なる、冬枯れの野を感じさせる作。これを「枯木象嵌」の図と呼んでいるのだが、明らかに布目象嵌が剥がれ落ち、かすれているところまで図柄と見ているところに面白さがある。即ち、この枯木模様は、布目象嵌という技法である点が重要なのだ。昔から言われているように、茶の美意識が背後にある肥後独特の文様化された風景に他ならない。

桜花文図大小鐔 神吉楽寿 Rakuju Tsuba

2020-04-09 | 鍔の歴史
桜花文図大小鐔 神吉楽寿



桜花文図大小鐔 神吉楽寿

 全面に桜花を散らした意匠の鐔。肥後金工は細川家が用いた家紋の一つ、桜花文を意匠した作をまま製作している。これも家紋とは異なる意匠。地鉄の部分拡大を見ると、鍛え肌が水の流れのように感じられる。とすれば先に紹介したような、吉野川を意図したものか。□

下の鐔は焼手を加えて鍛え肌を鮮明にしており、明らかに川の流れと桜を表現している。

桜花図鐔 正充

都風景図鐔 鎌倉 Kamakura Tsuba

2020-04-04 | 鍔の歴史
都風景図鐔 鎌倉



都風景図鐔 鎌倉

 鎌倉鐔と汎称される、鉄地鋤彫表現からなる鐔も、多くは風景を題材に得ている。風景と言っても、風景を成す素材を文様風に捉え直し、それらを組み合わせることによって独特の景色を創出している。これを風景と言ってよいのだろうかとの思いもある。
 下の写真は、やはり風景の一部を切り出して組み合わせた作。山があり、雲があり、鳥があり、花があり、松樹があり、川がある。もちろん写実ではない。かなりくずしている。文様かというとそうであったりそうでもなかったりと、頗る面白い。このような作風がどこから生まれたのだろうか。強い存在感がある一類である。






蛇籠図鐔 間 Hazama Tsuba

2020-04-03 | 鍔の歴史
蛇籠図鐔 間


蛇籠図鐔 間

 なんて素敵なデザインなんだろう。風景の文様表現が突き詰められている。簡潔な線と面の組み合わせ。波は線が綺麗に揃っており、それに加えられている波頭も簡潔な文様。蛇籠は川の侵食を防ぐために設けられた、自然とは正反対の構造物であるはずだが、まま風景に採り入れられている。そして日本的な絵になってしまうのが面白い。先に紹介したように、間派は鉄地砂張象嵌の手法で平面的文様表現をする鐔工だが、この作品では赤銅地に金象嵌を施した、特別の造り込み。