鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

銀杏図小柄 後藤宗乗 Sojo Kozuka

2019-12-30 | 鍔の歴史
銀杏図小柄 後藤宗乗


銀杏図小柄 後藤宗乗

 古金工の時代でも、作者が明確なのが後藤家。幕府に仕えていたため、系流が確かだが、初代から三代までの作には銘がない。一例だけ三代に金象嵌銘がある。以下、代が降っても多くは無銘であるため、極め銘が施されている。この小柄は宗家二代目宗乗の作。風格のある彫口である。銀杏は、種に滋養があってしかもおいしいことから広く知られているが、葉にも薬功があり漢方では古くから利用されている。銀杏の葉を描いているだけだが、何とも品がある。なぜ銀杏の葉を彫り描いたのであろうと、考えてしまう。薬種として以外になかなか答えは出せないのだが、「公孫樹」とも呼ばれているところをみると、高貴な植物と考えられていたようだ。

霊芝図鐔 皆山應起 Masaoki Tsuba

2019-12-28 | 鍔の歴史
霊芝図鐔 皆山應起


霊芝図鐔 皆山應起

 毒キノコの見分けは難しい。と言うより全くわからないものがある。一方で自然の産物として薬功が認められているキノコもある。キノコの中でもサルノコシカケや、霊芝のように固くて通乗の食用にならないものがある。そのような、霊力を持つと考えられていたキノコを題材とした鐔である。赤銅一色で彫口は深く立体的。カサの裏側の描写などもこまやか。時代がぐっと降るが、皆山應起は江戸末期の京都の名工。
 筆者が子供のころ、両親と志賀高原へ遊びに行った時のこと。キノコの時期であった。宿泊した宿で、同じ宿をとった名も知らぬ方が、ベニテングタケは猛毒だが、干しておけば食べられる、と教えてくれた。翌日、一袋ほど毒々しい色合いのベニテングタケを採って家に帰った。言われた通り庭に広げ、天日に晒しておいた。もちろん食べられると信じていたし、食べるつもりであった。ところが筆者は、干してあるキノコの周囲にたくさんのハエが死んでいるのをみつけ、ちょっと待てよ、と疑ってみた。母にそれを伝えると、母も疑問を感じ、結果、ベニテングタケは食べなかった。だから今生きているし、こんな話もできる。

秋草図笄 古金工 kokinkou Kougai

2019-12-27 | 鍔の歴史
秋草図笄 古金工


秋草図笄 古金工

 秋草に紛れるように葡萄が描かれている。秋草について、食用になる春の七草と対照的に秋の七草は鑑賞にしか役立たないような言われ方をする。確かにススキなどは口にしたら歯に挟まりそうだ。毒を持つものもある。
 毒はごく少量用いれば薬になる場合もある。そんな研究をしたのが古代の仙人と言われる人々であった。

葡萄図鐔 秋田金工 Tsuba

2019-12-27 | 鍔の歴史
葡萄図鐔 秋田金工


葡萄図鐔 秋田金工

 古金工にも紛れるような素朴な鐔。山銅地高彫に色絵を加えているが、この下地の真鍮のような色合いがいい。浅い六ツ木瓜形も古風。葡萄の描写はかなり写実味が高まっているが、素銅、赤銅、金の色金の使い方が巧みだ。古金工風の作品として楽しんでよいだろう。

葛図小柄 古美濃 Komino Kozuka

2019-12-26 | 鍔の歴史
葛図小柄 古美濃


葛図小柄 古美濃

 これも彫口の深い描法からなる作。赤銅魚子地に高彫金の色絵とし、所々に朝露を意味する金の点象嵌を施している。古くからの技法のままになる出来。夏の野山に出かければ必ず見かける葛。多くの葉を茂らせて太陽の光を吸収し、糖質を根に蓄える。紫色の花は藤とは間違えないだろうが、適度にあれば庭園の景色にも採り入れられようが、そもそもは野趣に満ちた植物である。田畑を放っておくとはびこってしまうほどの生命力だ。ここに自然の力を感じていたに違いない。


菊に葛図小柄 美濃 mino kozuka

2019-12-25 | 鍔の歴史
菊に葛図小柄 美濃


菊に葛図小柄 美濃

 深彫によって図柄が立ち上がっているように感じられる、古美濃の彫刻様式になる小柄。葛は、葛根湯の名称でも知られているように、薬功を有する代表的植物。葛の根からは澱粉も採れ、腹を満たしてくれる。さらに、夏の野を覆い尽くすように繁茂する生命力が印象深く、装剣小道具の題材として採られる理由も良く判る。美濃の極めだが、横からの観察でもきりっとたって際端の引き締まった彫口で、古美濃に分類してもよいだろうと思われる作である。

葡萄図小柄 古美濃 Komino Komino

2019-12-23 | 鍔の歴史
葡萄図小柄 古美濃


葡萄図小柄 古美濃

 桃山時代以前の金工の作を大きく「古金工」と分類している。その時代の上がる古金工の中でも、彫口がくっきりと高く、文様が魚子地の上に立ち上げっているように感じられる様式を美濃彫と呼んでいる。その特徴が良く表れた小柄。赤銅地は色合い黒く渋い光沢があり、素材の風合いもまた魅力。葡萄は蔓を伸ばして永遠に成長してゆくかのような、唐草と同じ意味を持つ自然界に存在する植物である。しかも甘い実をつける。自然に発酵してアルコールを生み出したことも好まれた理由として挙げられよう。もちろんアルコールは薬としての捉え方もあり、古くから好まれた題材であり文様である。

菊花図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2019-12-21 | 鍔の歴史
菊花図鐔 古金工


菊花図鐔 古金工

 古い鐔である。古式の木瓜形の耳を立て、高彫に厚手の金色絵(うっとりに近い手法)を施している。色絵の金が剥がれているところなどに古式の手法が窺え、作品の風合いを超えて魅力的。主題は菊に葡萄、その他不明の植物。葡萄も古くは薬種とされていたから、花をつけていな植物も、いずれかの薬種であろう。魚子地が古拙で面白い。面白いと言ってはあまりにも漠然としているが、江戸時代の後藤家の作のように整然と揃っているわけではなく、図柄の背景にあって石目地のように濃密に打たれているのだが味わいがあり、この魚子地を地面に打つにあたって、切羽台に試し打ちをしている痕跡があるのが興味深いところ。切羽台に魚子を試し打ちしている割に、実際には揃っていない・・・、試し打ちの意味はあるの?・・・など、作品を超えて面白みに溢れているのである。

波に菊図小柄 古金工 Kokinko Kozuka

2019-12-20 | 鍔の歴史
波に菊図小柄 古金工


波に菊図小柄 古金工

 綺麗な構成が魅力。明らかに菊水を意匠の要としている。赤銅地も色合い黒くそれだけで美しく、金の色絵など不要とでも言いたげな、戦国期の武将の姿が浮かび上がってくるようだ。
 下の鐔が室町後期の応仁鐔。ここに菊水が文様表現されている。江戸時代の綺麗な金具にあるような完成された菊水紋ではなく、古拙な味わいがあり、それが魅力となっている。菊水は、今の人々にとっては酒の名前ぐらいでしか知られていないが、昔の人々には人間が生きてゆくうえで欠くことのできない滋養、薬としての意味が大きく存在していた。だから文様としても尊ばれていたと思う。

文帝菊慈童図縁頭 壽墨 Juboku(iwama-masayoshi) Fuchigashira

2019-12-19 | 鍔の歴史
文帝菊慈童図縁頭 壽墨


文帝菊慈童図縁頭 壽墨

菊科の植物には様々な薬功がある。五月の節句に家の軒先につるされたり屋根に投げ上げられたのが蓬で、これも薬功があったから。同じ節句の時に菖蒲湯につかるのも薬功があるから。五月に飾られる薬玉(今では割って中から紙ふぶきなどが出てくる賑わいのための飾りとされているが)も同様、薬功のある植物を束ねて飾りとしたもの。
 菊慈童の伝説は、菊水の語があるように、名水伝説でもある。その源は、菊の葉に付いた清らかな朝露には、菊が備えている薬功があるというもの。名水はよい酒を生み出すことから酒の名前にも冠されている。この縁頭は、岩間政盧の晩年の作。菊慈童が仕えたといわれる文帝が菊水の酒を楽しんでいる場面。朧銀地高彫色絵。
下写真は、薬玉と、重陽の節句に飾られる薬玉と同じ意味の茱萸袋を彫り描いた作。薬草の香りが日常空間にあって効果を成していたのであろう。菊が古くから装剣小道具の画題に採られているのも、単に綺麗だからという理由だけではなさそうだ。

馬師皇図小柄 後藤清乗 seijo kozuka

2019-12-18 | 鍔の歴史
馬師皇図小柄 後藤清乗


馬師皇図小柄 後藤清乗

 馬師皇もまた仙人の一人。馬師皇は馬の病を治す医師であった。時に龍が馬師皇を訪れて身体の調子を治していたともいう。仙人の一人に数えられている。仙人図としてはガマ仙人や鉄拐仙人が好まれて作例は多いが、実はこのように医療に関わる者があり、薬種を自らに投与して長寿を得たとか、死を克服したとか言われるも、中には毒物中毒を起こしたものもあろうし、現代でいうところの麻薬中毒、あるいは麻薬を以て幻覚を人々に起こさせた例もあったろう。その中でも、現代にまで本当に薬として効果のある植物や動物、鉱物が見出されて伝わっているのである。

董奉図鐔 朗月亭安定 Yasusada Tsuba

2019-12-17 | 鍔の歴史
董奉図鐔 朗月亭安定


董奉図鐔 朗月亭安定

 仙人のように位置づけられているのが董奉。董奉は薬種に通じた、今でいうところの医者である。虎を飼い慣らしていたことから虎を添えて描かれることが多く、そのため、寒山拾得を見出した豊干禅師と間違えられることが多い。董奉は医者。杏の木を植えて薬としたことから、「杏林」の語ができ、この文字を用いる薬屋さんがあることで良く知られている。

東方朔図鐔 矢上光廣 Mitsuhiro Tsuba

2019-12-16 | 鍔の歴史
東方朔図鐔 矢上光廣


東方朔図鐔 矢上光廣

 これも東方朔。かなり悪い顔つきに表現している。こちらのほうが一般的な東方朔に対する意識であろうか。しかし、ここまで強烈な顔にするのだろうか、作者の、あるいは注文者の意識の背景に興味がおよぶ。頗る面白い作品である。

東方朔図小柄 奈良春信 Harunobu Kozuka

2019-12-14 | 鍔の歴史
東方朔図小柄 奈良春信


東方朔図小柄 奈良春信

 西王母が育てている長寿の桃を盗んだのが東方朔。実在の人物らしいのだが、良くわからない。西王母の桃を食べて千年を生きたらしい。長命をあやかりたい。この小柄における東方朔の表情はにこやかで、どのような意味合いで描いたのか不思議だ。桃を盗んで悪びれたところのない、なんとのどかな図であろうか。あるいはもっと別のところに意味があるのだろうか。

西王母図小柄 夏雄 Natsuo Kozuka

2019-12-13 | 鍔の歴史
西王母図小柄 夏雄


西王母図小柄 夏雄

 仙人の世界では最高ランクとされたのが西王母。一つ食べると三千年生きられるという桃を育てている。神仙の思想の背景には長寿への願いがある。桃が大きな意味を持っている。悪鬼を退けるという。我が国の神話にも桃が出てくる。
 美しい片切彫平象嵌の出来。髪飾りは鳳凰であろうか、中国の着物は多彩な色金を用いた平象嵌、涼やかな切れ長の目は繊細な片切彫、さらに強弱変化のある片切彫を身体に施し、雲間の流れる様子を三角鏨の点刻で表現している。裏には桃の籠。桃の表皮には微細な金の点状の平象嵌が散らされている。