鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

鯱図鍔 間 Hazama Sahari-Tsuba

2010-09-30 | 
鯱図鍔 間


鯱図鍔 銘 間

 鐔上部のクロスは屋根を表現しているのであろう。その上に備え置かれた鯱が主題。鉄の肌合いも鍛え強く黒々として光沢強く魅力的。時とともに鉄が腐蝕してゆく。その変化を、肌合いと錆に感じとる。古い時代の鉄鐔が好まれるのは、その力強い鉄の素材美が掌で楽しめるからに他ならない。この鐔もそれと同様、素材こそ異なり、鉄だけでなく砂張を含めて質感を楽しむべき鐔である。

芙蓉図鍔 間 Hazama Sahari-Tsuba

2010-09-29 | 
芙蓉図鍔 間


芙蓉図鍔 銘 間

 真夏の炎天下で鮮やかな花を咲かせる芙蓉も、砂張ではこのような印象になる。鉄の錆色に沈んだ鉛色の花。その所々が虫喰いのように窪んでいる。
 桃山頃に現代では琳派と呼ばれる文様化された空間表現が盛んに行われるようになったが、その美感と通じ合うようで通じ合わない独特の世界である。

大工道具図鍔 間 Hazama Sahari-Tsuba

2010-09-28 | 
大工道具図鍔 間


大工道具図鍔 銘 間



 表に斧、裏に角尺と墨壷、大工道具を画いた、砂張の魅了横溢の作。斧と角尺は面による描写で、墨壷は細く太くと線を組み合わせたもの。砂張の表面が複雑に、微妙に、自然異凹凸しているのが見どころ。
 平象嵌による線描写は、あたかも絵筆でえがいたような風合いがあることから、墨絵に擬えられることがある。この鐔の墨壷も、色あせた古紙に画かれたような、不思議な魅力がある。間(はざま)の作。

糸巻図鍔 銘 間 Hazama Sahari-Tsuba

2010-09-27 | 
糸巻図鍔 間


糸巻図鍔 銘 間(砂張)



 砂張(さはり)と呼ばれる象嵌技法を用いた鐔は、技法が特殊であるため、そのほとんどが文様表現である。
 砂張鐔を紹介する。鐔の中にあって特異な存在感を示すことから、興味深い作品世界である。鉄地と灰色の金属のみからなる渋い味わいは、茶の美感を呈して侘び寂びの世界を追究した肥後鐔の渋さとは大きく離れた魅力であることを述べたい。
 砂張とは鉄砲に施された平象嵌に始まる。近江国の国友村では戦国時代末期から江戸時代初期にかけて主要武器である鉄砲を盛んに製作した。この装飾が、砂張と呼ばれる鉛、亜鉛、錫などの合金で行われたが、時代が下って鉄砲の生産が低下して以降、装飾技術が他の工芸分野に求められることとなり、結果として砂張による鐔装飾が際立ったと考えられる。江戸中期に隣国の伊勢亀山藩の抱工となった貞栄、正栄などが個名を知られている。間と銘する工は複数いたと推測されるが、これも近江国の鉄砲鍛冶で間一派と考えられる。
 技法は七宝と似ている。鉄地に文様を鋤き施し、ここに加熱溶融した砂張を流し込んで冷却固化させるもの。実際には、拡大写真をみても分かるように、砂張の微細な粒を文様の隙間に置き、加熱溶融させたようだ。写真例では溶融が不十分であったものか、粒が残っている。
 加熱溶融した金属が冷却固化すると、体積が減って表面に窪みが出来る。溶融した金属に中に閉じ込められていた空気が、固化の際に気泡となって表面に現われる。不完全な溶融により粒が残る。表面に固化の際に微妙な凹凸ができることがある。時とともに表面が酸化されて光沢を失う。金属の結晶のような肌が現われることがある。など、作者の意図を越えて生じた諸々の景色が鑑賞の要素となる。楽焼など茶器の肌を楽しむのと似ている。比較的軟質であるため、扱いは丁寧にする必要があるも、素手で触れて良いことから、指先でその質感も楽しめる。
 とにかく、面白い作品世界である。
 この鐔は、糸巻を意匠したもので、表裏対称に、図柄を透かしたかのように配しているが、わずか一ミリほどの鋤彫に砂張を象嵌している。砂張鐔の多くは表裏を異なる意匠とする。この鐔では表裏同図としているところも興味深い。銘は間(はざま)。

風神雷神図鍔 友周 Tomochika Tsuba

2010-09-26 | 
風神雷神図鍔 友周


風神雷神図鍔 銘 長州萩住河治権允友周作

 この鍔も古典的な題材を、鏨深く切り込んで立体的で動感のある画面を創出した作。鉄地肉彫に金の布目象嵌。作風は高彫で写実味もあるが、琳派の巨匠として知られる俵屋宗達にもあるような文様化された風神雷神図で、背景にある稲妻が活きている。

布袋和尚図鍔 友周 Tomochika Tuba

2010-09-25 | 
布袋和尚図鍔 友周


布袋和尚図鍔 銘 長門萩住河治権允友周作

 長州鐔工の文様表現は、正阿弥派の作風を下地としていることは、幾つかの作品の鑑賞で理解できると思う。河治友周(ともちか)は江戸時代前期における長州鐔工界の重鎮で、本作のように古典的な題材を表現している。
 布袋和尚図は、茶席などで飾られる、所謂禅機画として好まれており、多くの美術品の図案に採られている。実は、筆者はこの図柄が好きである。大きな袋に日常品を入れて持ち歩いたというところから付けられた布袋という呼称だが、この大きな袋が漂わせる印象は宝袋であり、何が飛び出すか期待を抱かせるところに意味がある。現代で言うなら、ドラえもんのポケットである。
 金の布目象嵌で牡丹唐草を華やかに画き、宝尽くしを思わせる笠と杖、払子などを高彫象嵌の手法で彫り画いている。大きな袋を鐔の円形に採っている点も構図的に巧みである。□

鉄線透図鍔 宣治 Nobuharu Tsuba

2010-09-24 | 
鉄線透図鍔 宣治


鉄線透図鍔 銘 長州萩住岡田宣治

 岡田宣治(のぶはる)は銘鑑に出ていない金工の一人。岡田家は長州鐔工界の名流であり、多くの門人を抱えてていたことであろう、そのような一人と考えて良い。正阿弥流の肉彫地透に金布目象嵌を施した手法は先の友恒に通じて古風な面を漂わせつつも、洗練味があり、技量の高さを窺わせる。鉄線花は江戸中期以降の正確で精巧な彫刻、蔓の伸びる様子に動きがあり爽やか。江戸時代後期の作であろう。

地紙散図鍔 之信 Nobuyuki Tuba

2010-09-23 | 
地紙散図鍔 之信


地紙散図鐔 長州住赤名之信作

 何て素敵な構成であろうか、過去に扇散や破扇などの図を紹介したことがあるも、これに通じて雅な風情がある。単に地紙を公正しているだけでなく、背景にある扇の骨が折れているのも妙。長州萩は古くから京都の文化を採り入れて独自の文化を築こうとし、多くの文物を移入させ、文化を積み上げることに成功した。鐔の製作やその図柄も京都の文化そのもの。之信(ゆきのぶ)は江戸時代中期の赤名家の工。□

唐草に桐紋透図鐔 友恒Tomotsune Tsuba

2010-09-22 | 
唐草に桐紋透図鐔 友恒


唐草に桐紋透図鐔 銘 長州萩住中井善助友恒作

 中井友恒の作中では極上手の鐔。同趣の鐔に、肥後の平田派にもあり、いずれも正阿弥派の魅力を独自の指向で再現したもの。鉄地が撫八角形に造り込み、金の布目象嵌のみにて唐草文を全面に濃密に施している。鮮やかであり、時代は江戸中期頃だが、求めているところは桃山時代の派手な風合い。□

唐草文図鐔 友恒 Tomotsune Tsuba

2010-09-21 | 
唐草文図鐔 友恒


唐草文図鐔 銘 長門萩住中井善助友恒作

 これも正阿弥風の香りを漂わせ、しかも彫口に強弱変化を付けて唐草の延びに動きを与え、さらに洗練味のある空間を完成させている。金の布目象嵌が所々落ちているのが惜しまれるが、本質は頗る優れている。桐樹も動きがある。揺れるような構成は肥後にもみられるが、独特の唐草との取り合わせは魅力的。耳に施されている雷文の布目象嵌が所々落ちていると感じたが、あるいは破扇のように意図的に叢に施したものかもしれない。□

翁透図鐔 友恒 Tomotsune Tsuba

2010-09-20 | 
翁透図鐔 友恒


翁透図鐔 銘 長門國萩住中井善助友恒作

 能楽の原点でもある翁。その演じられている場面を文様化した作品。中井善助友恒(ともつね)は江戸前期から中期にかけて活躍した名工。江戸時代後期に繁栄した長州鐔工としては比較的初期の工であり、作風は京都正阿弥派の影響を色濃く残している。この鐔の図も武家社会では伝統的なものであり、それに加え、西洋から中国を経て入り来た南蛮金工の作風をも採り入れているところが窺え、総合的に興味一入の作品である。
 古美術雑誌『目の眼』で連載している『刀装具の世界』において、中井善助友恒の作例を紹介している。ご覧いただきたい。□

鉤文透図鍔 埋忠 Umetada Tsuba

2010-09-19 | 
鉤文透図鍔 埋忠


鉤文透図鍔 銘 長州萩住埋忠作

 桃山時代に京都に栄え、後の金工文化の基礎を成したのが明壽に始まる埋忠派。その流れは江戸や播磨、肥前にも及んでいるが、長州にも影響を及ぼしていることを証明する作例である。図柄や造り込みなど作風はまさに京の埋忠派のそれ。貝合わせのように二つの楕円形を組み合わせて巧みに二つ木瓜形を創出し、鉤状の文様を陰に透かして図柄としている。さらに地面には金の布目象嵌を散している点も埋忠系らしい。
 地鉄は焼手によって抑揚変化があり、仔細に観察すると、鍛え肌が窺いとれる。地の表情に加え、投げ付けたような金布目象嵌の表情も大きな見どころである。京都から移住した埋忠系の工は岡田家の初祖正知であるとされているが不明な点は多いが、その時代が江戸前期であることに異論はない。埋忠と切る長州鐔工は幕末まで続いたが、本作はその初期のものであると鑑られる。資料的な価値の高い得がたい作例である。□

波龍図鍔 政知 Masatomo Tsuba

2010-09-18 | 
波龍図鍔 政知


波龍図鍔 銘 長陽群龍亭静壽翁政知行年七拾貮歳己酉初夏彫之

 老いてもなお鏨使いに衰えをみせぬ名工岡田政知(まさとも)の、実は没した年の作品。政知は嘉永二年に天寿を全うしている。鐔の耳際を帯状に縁取りし、内側には荒波を肉彫地透の手法で印象的空間として描写、耳際に雨龍を薄肉に彫り出している。大海原を波立たせ、突然に天空高く立ち昇る竜巻こそ龍神の本質とみたものであろう、波と龍の取り合わせになる図は頗る多い。
 耳を掛軸の縁のように演出する美感は、明らかに文様化の中から生じたもの。そのように眺めると、波のみの描写も現実世界の文様表現であることが理解できる。

雲龍図鍔 光高 Mitsutaka Tsuba

2010-09-16 | 
雲龍図鍔 光高


雲龍図鍔 銘 長州萩住光高作

 これも同様に雲間に龍神図。鉄地を彫り下げ深く、鏨を効かせた肉彫で殊に顔や手足の爪、鱗など各部を鮮烈に浮かび上がらせており、宙に突き出している鱗に覆われた細い脚部が印象的である。目玉のみ金象嵌。光高(みつたか)は岡本家の門流で江戸後期の工。やはり龍の図を得意として多くの迫力ある作品を遺している。

雲龍図鍔 茂常 shigetsune Tsuba

2010-09-16 | 
雲龍図鍔 茂常


雲龍図鍔 銘 長陽萩茂常造

 雲間に潜む龍神を実体的に彫り出し、円形の鐔を巧みに構成した、長州鐔工の得意とした龍図。これも上質の赤銅一色で、彫口鋭く鱗が立ち、爪が宙を掻き、雲をつかんでいる様子が鮮明。雲間の透かしが龍神を浮かび上がらせている。茂常(しげつね)は岡本家の江戸時代後期の工。殊に龍図を得意とした。