鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

一休図鐔 Tsuba

2012-12-30 | 
一休図鐔


一休図鐔

 正月を迎えるために忙しく動き回る人々を、あるいは新年を迎えて浮かれる人々を前にし、人々に忌み嫌われるであろう髑髏を示し、生者必滅の理を説いてまわった一休禅士。『一休頓智話』などの逸話類から、これを風狂という言葉で表わしてしまうのも愚か。知的な思想という面で流行した禅だが、真の禅を、同時代の誰が理解していたであろうか。禅に生きた一休は、そのような問いかけをしていたのである。鉄地高彫象嵌。裏に正月飾りが描かれている。

 何とかまた一年頑張ることができました。《鐔Tsuba装剣小道具の世界から》も始めましたので、来年は毎日更新ができるかどうか分かりませんが、出来る限り続けたいと考えています。このブログで装剣小道具の魅力を再確認して下されば幸いです。

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火消し図小柄 Kozuka

2012-12-29 | 小柄
火消し図小柄


火消し図小柄

 街中を現場へと急ぐ火消し。火災の多い江戸において発達した火消しの組織。今の季節感を良く表わす図として採りあげてみた。忙しく走り行く火消しの姿が捉えられている。ちょっと珍しい図であり世相を良く示していると見てよいのであろうか、面白い。
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黒木売り(樵)図鐔 山城國伏見住金家 Kaneie Tsuba

2012-12-28 | 
黒木売り図鐔 山城國伏見住金家


黒木売り(樵)図鐔 銘 山城國伏見住金家

 束ねた黒木を担いで山から下ろす男が主題。画題の面白さから大原女などが売り歩く姿が採られることが多いものの、長常の小柄にも例があるように、男の黒木売りもあったことは間違いなかろう。あるいは樵の可能性もあるが、奇麗に束ねられた粗朶は、大原女が頭上にしているそれと同質にも感じられる。急峻な山道を下る途中であろうか、休む男の背後を飛脚が駆け下りてゆく。黒木とは、乾燥させた粗朶を燻すなどして火が着き易いよう加工した薪のことで、特に冬場の生活の必需品。
 さて、この背後の飛脚により、この鐔が製作された(図の描かれた)年代を、飛脚制度が定められた頃以降と断定した研究家がおられる。筆者はその説は採らない。もう少し古い可能性があることを指摘したい。ごく簡単なことだが、制度や法律は、ある事項について問題が生じたり、収拾がつかなくなることによって定められる。即ち、飛脚制度が定められる以前から飛脚があり、飛脚が多くなり、あるいは飛脚の有用性が認められたが故に制度化されたと考える。未だ金家が生きた時代の判断はつかないのである。

記事を更新しました
《鐔 Tsuba 装剣小道具の世界から》
古美術雑誌『目の眼』において《装剣小道具の世界》と題して連載ページをいただき、刀剣に関わる金工芸術の魅力を紹介してきましたが、雑誌の内容を大きく変更する方針となり、連載が休止となりました。今後は、Web上にて同様に装剣金工作品の魅力を伝えてゆくつもりでおります。これまでは月刊雑誌という点から制約がありましたので、月一という紹介でしたが、今後は、掲載日を定めずに紹介して行く予定です。同様に、売品については価格を記載できなかったものを、Web上では価格表記も可能になりましたので、お求めをお考えの方にとっては、コレクションに直接つながる楽しみもあろうかと思います。このブログ同様に楽しんでいただければ幸いと考えております。

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曳き舟図 細野惣左衛門 Sozaemon Tsuba

2012-12-27 | 
曳き舟図 細野惣左衛門


曳き舟図 銘 細野惣左衛門

 舟で引き上げているのは炭のようだ。川の流れを利用して運搬する業態は、京の高瀬川の高瀬舟の例でも良く知られている。この鐔の作者は、京都やその近郊の風景を題材に選んだ細野惣左衛門であり、おそらく高瀬川のそれに取材したものであろう、同時代の風俗が良くわかる図でもある。炭は、大原女が売り歩いた黒木と共に生活の必需品。後藤家では多数の炭の図を描いた作例があるも、多くは茶に通じた道具として描いている。この惣左衛門の図とは自ずと意味が異なる。ぴんと張った綱、大地を踏む男たちの姿が、簡潔な線画ながら巧みに描かれている。冬を迎える京都の風景の一つでもある。

《鐔Tsuba 装剣小道具の世界》更新しました
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茶筅売り図鐔 Tsuba

2012-12-26 | 
茶筅売り図鐔


茶筅売り図鐔 無銘

 物売りの一つとして捉えられるも、けっこう意味が深いのが茶筅売り。茶筅とは抹茶をたてる道具の一つだが、茶筅売りが商っていたのは、この茶筅だけでなく、「大服茶」と呼ばれる邪気を祓う目的で正月元旦に呑むもの。含まれているのは梅干、黒豆、山椒などで、現代で言うところのサプリメントか。年末に街中を歩き、鐔に描かれているような独特の風体。太鼓や鉦を叩いて念仏を唱えながら売り歩いたそうだ。そのように眺めてみると、以前に「同じ穴の狢図鐔」で紹介した、願人坊主や代垢離、節季候など宗教色の強い輩にも通じるところがある。とにかく面白い図である。鉄地高彫象嵌。
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暖簾をくぐる男と雀図鐔 奈良正吉 Masayoshi Tsuba

2012-12-22 | 
暖簾をくぐる男と雀図鐔 奈良正吉


暖簾をくぐる男と雀図鐔 銘 彫物師奈良正吉(花押)

 如何なる場面に取材したものであろう、街中の一場面。後姿が描かれているため定かではないのだが、この人物は神職にあるのではなかろうか。切羽台で画が隠されており、杖を持つようだ。犬がちらと人物に目をやっているようだが・・・。ごく当たり前の空間に目を向け、現代で言うところのスナップ写真のような視点で捉えている。裏面は、先の小柄と同じく障子張り替えの糊の鉢。これに雀がいるのだが、先に紹介した光美の小柄と同じ図であり、定型化された図ということであろうか。写実的な表現であり面白い。この表裏の取り合わせの意味が良く判らず、歳末の風景と捉えたがどうだろう。

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雀(障子張り糊)図小柄 後藤光美 Mitsuyoshi Kozuka

2012-12-21 | 小柄
雀(障子張り糊)図小柄 光美



雀(障子張り糊)図小柄 銘 光美(花押)

 赤銅魚子地高彫金素銅色絵の手法で、糊を練っている鉢に誘われ来た雀であろう、その様子を描いた小柄。鉢に光美と銘が刻され、裏板に花押がある。舌切り雀の御伽噺を思い出すが、この場面は障子の張り替えに他ならない。作者である光美は、雀を追い払うことなく優しい視線を投げかけているように感じられる。後藤光美は宗家の十五代目。
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鳥刺し図鐔 猩々夫岩本昆壽 Konju Tsuba

2012-12-20 | 
鳥刺し図鐔 岩本昆壽


鳥刺し図鐔 銘 猩々夫岩本昆壽(花押)

 岩本昆寛の弟子昆壽の、やはり同門らしい市井の人物風俗に取材した作。鉄地高彫金銀赤銅朧銀など多彩な色金を用いて象嵌で表現している。犬に追い出された鳥を見上げる男という場面だが、これは鳥刺しと呼ばれる職業。鳥刺しとは、鷹狩として飼われている鷹に与える餌としての鳥を獲る業であり、身分は武士であった。手にしている長い棒の先端に鳥餅が着けられており、これで絡め獲る。鳥刺しは、鳥を獲るためであれば、農地や町家などのいずれの土地にも無断で入ることが許されていたという。
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雀図目貫 松下亭元廣 Motohiro Menuki

2012-12-19 | 目貫
雀図目貫 松下亭元廣



雀図目貫 銘 松下亭元廣

 稲穂に箕と箒で稲の収穫。これを狙って雀が来る。農家にとっては天敵だが、両者の取り合わせで素敵な場面となる。松下亭元廣は江戸後期の京都金工。
金無垢地容彫素銅朧銀赤銅の置金。置金という工法は、専ら金地に彩色する際に採られる手法。金地を打ち出して容彫するのは通常で、この地造りを厚手にし、彩色する部分は別彫りのやはり厚手になる赤銅、素銅、銀などの塑像を溶着するのである。拡大写真があるので確認されたい。際端部分が中ほどで二層になっているのが分かる。地が金で、色絵部分が素銅地。これにより、色絵よりもそれぞれの金属は鮮やかになる。磨り減りによる下地の露出もない。
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鳥追い図鐔 好流軒岩本寛利 Hirotoshi Tsuba

2012-12-18 | 
鳥追い図鐔 好流軒岩本寛利


鳥追い図鐔 銘 好流軒岩本寛利(花押)

 収穫を妨げる野鳥を追い払う鳥追いの、実にのんびりとした場面を取材した鐔。岩本寛利は昆寛の門人で、後に養子となった。素銅地高彫金銀色絵。鳥を追いながら草鞋を編んでいるのであろう、傍らにはその作りかけの草鞋と藁がある。稲刈り後であろう、鐔の裏面には乾燥させるために立て掛けた稲束がある。もちろんこの時期が最も鳥に狙われ易い。裏面の鳥は鴨であろうか、地面を這うように小虫を探す様子も面白い。昆寛と同様に市井に風景に主題を求めているが、作風は自ずと異なっている。
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舟上人物図鐔 花竜堂牧川 Bokusen Tsuba

2012-12-17 | 
舟上人物図鐔 花竜堂牧川


舟上人物図鐔 銘 花竜堂牧川

 牧川は江戸中期の京都金工。この鐔は、朧銀地を背景に片切彫と毛彫、金銀の平象嵌を用いて市井の人物図を描いた作。同じように舟と月が描かれてはいるも、政盧作のお大尽図とは主題が異なる。町人というより、苫舟で暮らす人々といった感じである。月が描かれており、また、空を見上げてはいるも見ているのは視線の先にあるのは月ではない。鳥の動きを見ているようでもあり、すると猟師であろうか。

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月見舟図鐔 葛龍軒政盧 Masayoshi

2012-12-15 | 
月見舟図鐔 葛龍軒政盧


月見舟図鐔 銘 葛龍軒政盧

 江戸時代後期の、平和な空気感が作品の要。月を見上げるお大尽といった風情の人物のみが描かれている。多くは状況説明という点から漕ぎ手が描かれるのだが、それを排し、小舟の先端と小波、芦といった添景のみで舟に揺られている様子を表現している。真鍮地を高彫にし、金銀赤銅の色絵。その地金の選択も巧みであり、粋に通じる渋さも魅力である。江戸の風情を楽しみたい作品である。政盧は奈良派の流れを汲む江戸の遠山直随の門人で、後に同じ浜野本家の誠随に学んだ名工の一人。□
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月見図小柄 Hideaki Kozuka

2012-12-14 | 小柄
日本東都市中年中行事図十二ヶ月揃小柄 塚田秀鏡作から


九月 月見図小柄

 薄に団子は、ドラマや映画などに出てくるような、あるいは絵に描いたような、時節を感じさせる月見の場面。現代ではありそうで、なさそうで、理由なくいいなあと感じる空間、そして時間である。

鐔 Tsuba 装剣小道具の世界
《装剣小道具の世界 バックナンバーから》記事を更新しました

これまで十年以上、古美術雑誌『目の眼』において《装剣小道具の世界》と題して連載ページをいただき、刀剣に関わる金工芸術の魅力を紹介してきましたが、雑誌の内容を大きく変更する方針となり、連載が休止となりました。今後は、Web上にて同様に装剣金工作品の魅力を伝えてゆくつもりでおります。これまでは月刊雑誌という点から制約がありましたので、月一という紹介でしたが、今後は、掲載日を定めずに紹介して行く予定です。同様に、売品については価格を記載できなかったものを、Web上では価格表記も可能になりましたので、お求めをお考えの方にとっては、コレクションに直接つながる楽しみもあろうかと思います。このブログ同様に楽しんでいただければ幸いと考えております。

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阿倍仲麻呂図鐔 奈良重治 Shigeharu Tsuba

2012-12-13 | 
阿倍仲麻呂図鐔 奈良重治


1阿倍仲麻呂図鐔 銘 奈良重治

 月の存在感は、絵画的にはかなり重い。離れ離れになった我が子を思う父が、わが子もまた同じ月を見ていることであろうと、月に自らの思いを重ねるのだが、それは物語。月は一方的に誰の頭上をも照らす。即ち、父→月←我が子ではなく、父→月→我が子という方向性があるわけで、思いは一方的なもの。その例と言うわけではないが、遣唐使の一人として留学した安倍仲麻呂は、行く度かの帰国の機会を逃し、ついに日本に戻ることができなかった。その強い思いを図としたのが写真例。月を見上げる唐人姿の人物図として描かれる。1は奈良派の重治、鉄地高彫金銀象嵌、2は無銘で朧銀地高彫金銀赤銅素銅色絵。




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《装剣小道具の世界 バックナンバーから》
これまで十年以上、古美術雑誌『目の眼』において《装剣小道具の世界》と題して連載ページをいただき、刀剣に関わる金工芸術の魅力を紹介してきましたが、雑誌の内容を大きく変更する方針となり、連載が休止となりました。今後は、Web上にて同様に装剣金工作品の魅力を伝えてゆくつもりでおります。これまでは月刊雑誌という点から制約がありましたので、月一という紹介でしたが、今後は、掲載日を定めずに紹介して行く予定です。同様に、売品については価格を記載できなかったものを、Web上では価格表記も可能になりましたので、お求めをお考えの方にとっては、コレクションに直接つながる楽しみもあろうかと思います。このブログ同様に楽しんでいただければ幸いと考えております。

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釜洗い図鐔 岩本昆寛 Konkan Tsuba

2012-12-12 | 
釜洗い図鐔 岩本昆寛


釜洗い図鐔 銘 岩本昆寛(花押)

 釜洗い図と呼ばれている古くから有銘な鐔。岩本昆寛は鳥などに題を得た、洗練された美しさの追求も得意としたが、市井の人物に視線を投げかけた作品も多く、同時代の風俗を知る上での良き資料ともなっている。
この鐔も月が大きな意味を持っているようだ。舟で釜を洗う男がただ一人、ふと手をとめて月を見上げる。何年も故郷を離れて江戸に住み、家族を思い出す姿であろうか、頬かむりをした様子と、背をまるくした姿に寒々とした空気感が漂う。昆寛以前には奈良派の工が人物図を得意とし、さらに古くは金家が古典の図に倣って人物を描いたが、それはまさに古典的な意識、同時代に取材して描いた人物図もあるがそれは景色の一つ、安親から人間を描く意識が生まれたと推考され、長常も市井の人々に視点を置いたが風俗図としての面が強く、ようやく昆寛に至って心の内部の表現を試みたと言えようか。
題材は、川辺の舟で寝起きすることをやむなくされた人々。昆寛の活きた時代には飢饉などがあり、地方から江戸に出稼ぎに来たものの、満足な生活が得られない状況の人々が多かったようだ。そのような一人に視点をおいたものであろう。
 鉄地を高彫にし、金銀素銅赤銅を象嵌し、細部にまで丁寧な鏨を加えている。鉄地は折り返し鍛錬して腐らかしを施したものであろうか、板目状の肌が現われており、空気の流れのような風合いを生み出している。竪丸形の空間を活かした構成も巧みで、朧なる夕月、裏面には帰雁を添景としている。昆寛の最高傑作のひとつである。
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