町内会の役員を引き受ける人がいないことが、全国的に話題になっています。私の知人の町会では、2018年に役員のなり手がいないということで、新しい役員選出方式を作りました。いわゆる輪番制という形式です。1回目には新しい役員選出方法で、新しい7名の役員が決まりました。役員の任期は2年で、2年間やれば次の人が代わってくれると、てっきり信じて役割をこなしてきました。この役員チームで、コロナ禍の難しい情況を乗り切ってきたわけです。そして、2回目の輪番制の年に入ったのです。でも、2回目の選出になったとき、前と同じように、役員のなり手が出なくなったのです。信じた方が、悪かったようです。7名の役員のうち、会長や副会長などの3名が続投となったわけです。役員の輪番制が崩れると、人の良い人が、心ならず何年も続けるということになるようです。良心的な方は、町内会の10年とか20年と続いた事業や慣習を、自分の代で変えることができないようです。慣例の事業に、加えて行政からの仕事を引き受けるようになります。行政からは、町内会にとって「良いこと」が次々に提案されてきます「良いこと」はやらなければならないと、引き受けて負担は増え続けていきます。役員のなり手がないにも関わらず、役員の仕事は次々増えていく悪循環が続くことになってしまったのです。
町内会の仕事が増えている理由には、市町村からの委託業務の増加があります。この委託業務には説明会、そして研修などの要請が付属的についています。ある町会の会長さんは、町会の行事を含めて年間100件以上の会議や出張の要請あったのです。普通の会社員では、務まらない仕事量になります。これを見ている人は、会長はもとより、役員を引き受けることはなくなります。町内会の多くの仕事は、こうした市町村の委託業務が活動の主流となりつつあります。もっとも、町内会に対して、市町村は指導監督権限がありません。町内会が、市町村からの委託業務を引き受け、委託料をもらう限りは責任を負うという立場になります。市町村からの委託業務は負担ばかりで意味がないと思えば、委託を受けない選択肢も当然あります。知人の町会では、15万円ほどの支援金が出ているようです。このお金をもらわずに、自立して町会のことは、町会の事情を考慮して行っても良いわけです。
例えば、福島県の福島市は、紙媒体の回覧板の情報伝達を電子化する実証事業を始めたのです。電子メールの導入による迅速な情報伝達は、ゼロカーボンの社会にはふさわしいものです。普通に考えれば、良い提案です。市は、電子メールの効果や通信機器の普及状況などを検証することにしました。このモデルには、市内の4町会が選ばれました。昨年12月には、4モデル町会向けの説明会が市民会館で開かれたのです。市の担当者から、取り扱う文書や実証事業内容の説明があります。実証事業は、市が電子メールで回覧文書を町内会の会長さんにまず送信します。次に、会長から会員にメールやlineを通じて情報を伝達する仕組みになるようです。市の担当者は、紙の使用が減り、情報は素早く伝わるというメリットを強調します。でも、市が良かれと思うことが、町内会の役員には過重負担になっていくのです。このような事例は、部分最適、全体最悪のケースになることもなります。
この市のやり方が、どの程度の負担になるかのヒントがあります。新型コロナウイルス感染で全国の小中高が一斉に休校になりました。その時に、いくつかの小学校は、オンライン授業を取り入れました。この授業を行う中に、ヒントがあるのです。各学校は「臨時休校」期間の子どもの学習をどのように確保するかという問題に直面しました。「オンライン授業」と聞くと、一人一台パソコンが前提という印象をもってしまいがちです。でも、各家庭のIT状況はいろいろです。学校は、保護者に、「スマホがあれば学べると捉えていただき、ご協力いただきたい」と学校の意図を伝えることから始めます。家庭に子どもが使える機器はあるかどうか、ネット接続はできるかどうか、ネット環境はあるが機器がないとか、器機の使える時間帯はいつかなど調べる作業があるわけです。その上で、全員が学習できるオンラインの授業を構築していく作業があります。蛇足ですが、オンライン学習には、非同期型のオンライン学習と同期型のオンライン学習があります。非同期型のオンライン学習は、簡単にいうと提示したプリント課題に取り組む形式になります。同期型のオンライン学習は、子どもと教員が画面越しで、双方向にやり取りができる形式になります。「双方向型オンライン学習」を実施したのは、小学校で8%でとごくわずかでした。非同期型のオンライン学習は、いつ学習に取り掛かっても良いというメリットがあります。でも、伝達の場合、全員に徹底するには、事前に送信や受信の時間を決めておくことが必要です。福島市の担当者から、会長へ、そして会長から会員へという伝達経路になるようです。むしろ、市の担当から直接会員へ伝達したほうが、合理的のように思います。おそらく、災害時を想定して、この電子化を進めているようにも思えます。
そこで、災害時の対策についてのお話になります。近年の災害から学ばされることは、分散避難が原則だということのようです。2020年9月に発生した台風第10号は、日本に接近後に朝鮮半島に上陸した台風です。台風第10号は過去最強クラスと言われ、特別警報の発表も予想されました。ホテルなどに分散して避難する「分散避難」が初めて大規模に実施されたケースになりました。分散避難は、3つに要約できます。まずは、自宅で自分の安全を確保することです。第2に、自宅が危険となれば、知人宅やホテルなどの自宅外避難を選択します。最後の手段として、指定された避難所を選ぶということになります。でも、避難所は決して快適な場所ではないということです。それが分かるようになったために、今回の台風ではホテルなどの2番目の分散避難が多くなったわけです。分散避難の増大の要因は、避難先の事前検討や在宅避難を想定する人が増えたことによるともいえます。福島市が電子化を災害に利用する場合、自宅避難、ホテル避難、避難所と事前に把握できれば、対策をたてやすくなります。
町内会の役員を引き受ける人がいないことが、話題になっています。でも、すべての町会の役員がイヤイヤやらされているわけではありません。生き生きと活動を、行っている町内会もあるのです。積極的な町内会では、5000万円の自主財源を作り出したところもあります。5000万円をもとに、I T器機を整備し、子ども達の1Tのスキルの向上を図っている町会もあるのです。パソコンやコピーも無料で利用できるため、会員による多様な活動を行っている町会もあります。だれでもが、役員になれるような仕事量であればよいわけです。そこに、共通の趣味があり、「楽しいこと」があれば、役員はやりがいのある地域の仕事になります。
そこで、知人がハッピーに役員を務めている情景を再現してみます。国土交通省のスマートシティ構想では、ウオーキングが重視されています。歩けば健康になり、医療費は軽減されるということです。知人は、会員が健康という利益を獲得し、社会に貢献でき、町会役員の仕事が激減する町内会の仕掛けを作ったのです。スマートシティの構想では、1人が1000歩を歩くと60円の医療費節減になります。この町会の100人が1000歩100日歩くということで、60万円の医療費節減という社会貢献したのです。役所からの配布物を班長さんや役員が配ることを止め、回覧文書もやめました。町会の会館に、回覧文書を張り付けたのです。会員はそれを見に来るために歩いてくるわけです。それが、1日1000歩ということです。配布物は集会所に置いて、それを会員が取りに行く方式にしました。
次に、減らした仕事は、役所から依頼される研修や集会に参加しないことでした。その代わり、市から補助金の15万円をもらわないことにしました。市町村からの委託業務を引き受け、委託料をもらう限りは責任を負うという立場になります。委託業務は負担ばかりで意味がないと決断をしたのです。そのために、市からの委託業務に関わる100件の仕事がなくなりました。補助金の15万円をどうするのかという問題が残ります。60万円の社会貢献をしました。この町会は、赤い羽根や歳末助け合い募金の寄付金を12万円支出していました。15万円の4倍の貢献をしているので、これらの12万円の寄付を止めたのです。歩く仕掛けを作ったことで、町会員の健康は向上し、役員の仕事は激減しました。おかげで、役員を引き受ける人が、心配せずに引き受けてくれたというハッピーエンドのお話です。市役所の回覧版の電子化も良いのですが、歩いて見に行くというシンプルな形式も選択肢になるかもしれません。
後日談ですが、100人の町民が会館に歩いていく時間が、子ども達の通学や帰宅の時間と重なるようになり、自動的に見守り隊の役割を果たすようになりました。あと、分散避難の事前検討や在宅避難を想定する人たちは、非常食をストックするようになりました。そんな仲間が話し合うようになり、新しい災害の知見が出てくるようです。非常食は、普段食べ慣れているものを備蓄品いたほうが良いようです。いざ災害のときには、普段食べているものがあると気持ちが落ち着くという理由です。賞味期限が1年くらいの備蓄食品を「家族の人数分を3~7日分」を備えておくのが一般的です。この仲間たちは、会館の周りで、月に1回程度の割合で非常食を料理して、歓談するようです。非常食は、常に入れ替えて、賞味期限切れにならいような配慮が必要です。防災では、「自助・共助・公助」の3つが問われます。最近の災害を考えると、公助に依存しすぎず、自助・共助を重視すべきという考え方が増えました。防災も自助の時代になり、非常食の「ローリングストック法」も注目されるようになりました。それを実践する人々も、町内会に現れているということです。