日本の誇るべきものに、学校制度と医療制度があります。戦後何もない焼け野原から、経済大国になった理由に、教育の力があったことは世界が認めています。日本の医療は、非常に優れたものです。病気になれば、すぐに病院に運ばれ、お医者さんに治療を受けることができます。そして、誰でもがリーズナブルな費用で治療ができるのです。日本の医療は、同じような制度を持つイギリスなどに比べれば、とても早く治療をしてもらえます。でも、日本の優れた医療が、制度疲労を起こしていることに国民は気づき始めました。新型コロナウイルス感染によって、教育も医療も不都合な真実を見せ始めたのです
労働災害と認定される過労死ラインは、月80時間以上の時間外労働になります。労働災害(労災)は、働く人が、働いていることが原因で事故にあい、病気になることです。この80時間の2倍を超える時間外労働が、行われている病院もあります。この長時間の時間外労働を認める制度に、医療現場には不満がくすぶっていました。この不満は、コロナ禍が起きる前からささやかれていたものです。今回のコロナ禍において、医療を担ってきた医療従事者の方からは、診療の体制が維持できないとの声もあがっています。できないという声だけでなく、事実できない状況が現実に現れてきたわけです。コロナ禍は、医療現場の実態がさらに明らかにしたわけです。医療に従事する方は、患者にとっては救いの神です。でも、お医者さんや看護師さんは、過労死ラインの厳しい労働環境の中で働いているのです。
医療関係だけでなく、3交代制で働く人の労働は、厳しいと言われています。でも、本当は、3交代制の勤務より2交代制のほうが厳しいのです。その中で、3交代制勤務より厳しくなる2交代制勤務をとる病院が増えています。大きな原因は、看護師さんの不足があるようです。そこで、3交代制の勤務と2交代制の勤務に関する実験が行われました。看護師さんを対象に、モチベーション向上の実験が行われたのです。給料を上げるという条件で行われたこの実験では、いくつかの結果が予測されていました。普通に推測すれば、3交代側のモチバーションが上がり、2交代側は下がると予想されていました。子育ての真最中の看護師さんは、給料より3交代制の勤務を選ばざるを得なくなりました。この育てに重点を置く看護師の場合でも、病院に保育施設があれば、高いモチベーションを持って看護業務を行っていました。一方、厳しいとされた2交代制を進んで、受け持った看護師さんもいたのです。看護のスキルを上げたい方は、自発的に訓練の場として2交代勤務を受け入れたのです。厳しい労働環境の中でも、看護師さんの家庭状況や自己研鑽の意欲など、いくつかの要素を加味した勤務体系を構築することも必要なことかもしれません。
東京都では、新型コロナウイルス感染が陽性でも入院先や療養先が決まらない人が急増しています。受け入れ先となる医療機関の病床はひっ迫する状態になっています。割り振りを担う保健所などの人手不足が深刻です。保健所業務の増大で、新規感染者への適切な対応が難しくなっているのです。神奈川県内では市中感染がまん延し、感染経路をたどりきれなくなってきています。感染経路たどる疫学調査には、1人当たりに対して数時間かかります。現在の保健所の人員では、すべての調査が不可能なほどに感染者が急増しているのです。いま対応は、感染されている方への対応を最優先にする非常時の段階に来ています。制限された状況の中で、情報集約や健康観察といった感染者への対応力の維持を目指す方向に、舵を切ったということになります。
医療の世界では、患者を救いたいけれど、そうできないケースがでてきます。医療従事者の方も、悩み苦しむという構造を取る場合がでてくるわけです。「治療をすべきだという理想と、できない現実の葛藤」が、医療従事者の悩みや苦しみを増幅しています。人間に大きな苦しみが生じたとき、コルチゾールが分泌されます。コルチゾールは、ストレスホルモンともいわれ、苦しみに抵抗します。軽い苦しみならば、すぐに正常に戻ります。でも、苦しみや葛藤が長く続くと、コルチゾールの分泌や効果も限界になってきます。ストレスの過剰の非常事態が長期間続くと、脳や体内の組織が弱体化していきます。深刻な悩みや苦しみに耐えられず、人間は押しつぶされてしまうのです。コロナ禍は、2020年2月ごろから、医療従事者を休ませずに、過労な環境で働くことを強いてきました。その過重な負担が、この時期に顕著に現れているようです。
医療の質を落とさずに、患者の命を守るためには医療従事者の健康が大切になります。ケアをする側の医療従事者はフレッシュな状態を維持しながら、医療業務に従事すべきです。理想的な医療は、専門家のスキルを十分に発揮できる心身の状態を確保が前提条件になります。医療従事者の方にも、自分たちの生活があります。新型コロナの情況は、医療現場で働く方たちへ配慮をする余裕がなくなりつつあります。ある意味で、国民のエゴの現れかもしれません。国民の皆さんが求めるサービスの水準は、高いところにあるようです。病気になれば、治してもらえるという甘えがあるようにも見えます。人間は必ず死ぬというという事実を忘れているかようです。国民が医療サービスを求める場合、分度をわきまえることが大切になります。あまりにも、エゴを強めると両者が共倒れという事態になります。医療従事者の厳しい労働環境が続き、ケアをする側が病気になれば、患者も共倒れということになるということです。国民にできることは、外出をしない。感染をしない、感染しても人にうつさないという姿勢が求められるようです。新型コロナウイルスに感染しない有効な方法は、示されているわけです。
余談ですが、中間層」と言われる人たちの所得が、全体的に下がる傾向は多くの先進国で観察されるようになりました。そんな中で、極端な人手不足が発生する職種と人員が過剰となる職種の二極化が生まれています。「事務的職業」や「清掃・包装等の職業」は、有効求人倍率「1.0」を大きく下回るようになりました。有効求人倍率は、「保安の職業」で7倍、「建設や採掘の職業」で5倍を超と高水準で推移しています。そして、「家庭生活支援サービスの職本業」、「介護サービスの職業」、そして「生活衛生サービスの職業」は、4倍を超えて人手不足が顕著になっています。不足する労働力を、新技術で代替する動きが加速していくことになります。また別な面からは、余剰感のある分野から不足している労働市場に、人材を供給していくことも必要になります。個人としては、事務も生活衛生もできる能力を身に付けておけば、仕事を得ることができる社会とも言えます。社会全体としては、人材の最適化を目指す人員配置が求められることになります。目先の利く方は、今からこの「家庭生活支援サービスの職本業」、「介護サービスの職業」、そして「生活衛生サービスの職業」の分野で働けるスキルを磨くことになります。できれば、ここに新技術のデジタルのスキルが加味できれば、完璧かもしれません。