食の国際展示会といえは、余剰食品が出て当然の世界になります。2019年、イタリアのミラノで、国際的な食品飲料見本市が開かれました。この会場に、世界的な名シェフが訪れて、入場者に料理をふるまったのです。このシェフは、その日の冷蔵庫を開けて、そこにある食材を使って料理を始めます。当然、食品ロスは、ゼロになりました。余ることが当たり前ではなく、適量を調理して売り切る仕組みを国際展示会で実演したのです。日本にも、このような考えの名シェフがいます。彼は、明日ニンジンの料理を作りたいからニンジンくださいということを言わないのです。農家の方が、その日に取り入れた作物を、「1万円分ください」と言って野菜を仕入れるのです。その当日の材料を使って、その日の料理を作ります。このシェフはおまかせという1種類のメニューにし、食材ロスを出さない仕組みを作っています。これは、シェフに任せるというお客の度量がなければできないことです。でも、シェフの腕もかなりのものでなければ、できない芸当でもあります。自分の都合ではなく、自然の都合に合わせるという料理には、ロマンがあります。
少し前まで、大量生産・大量販販売・大量消費、そして大量廃棄という流れが当たり前でした。最近注目を浴びているのが、循環型経済(サーキュラー・エコノミー)というものです。調達・製造・販売・利用・廃棄で終わらせず、再販売や再利用、リメイクなどで循環させる仕組みです。無駄を出さないという精神が、前面に出てきています。世界の食料生産量のおよそ3分の1は、13億トンになります。この大量の13億トンが、捨てられている現実があります。作った食べ物のうち3分の1を捨ててしまうなら、最初からつくらなければ良いと思ってしまいます。この食品ロスは、1兆ドルの経済コスト、7000億ドルの環境コスト、9000億ドルの社会コストという損害を与えています。食品ロスは環境に負荷をかけ、経済損失や社会コストなどの多方面に悪影響を及ぼしているのです。このような現実に接している人たちにも、意識の変化が現れてきました。家にあるものを使って料理する人や食材を大切にする人が、増えているのです。食品ロスのゼロは無理でも、半分減らすことはできるというポジティブ思考の人たちが現れているようです。
食品ロスゼロを商売の中で、実現しているお店もあります。京都にある佰食屋では、「売れた数」を労働の区切りにしているのです。「1日100食」とステーキ丼の売上の上限を決めて、商いを行っています。自分たちの収入にも、上限を決めたわけです。自分たちが、食べていける範囲の仕事を作り出しました。このお店は、飲食業にありがちな労働時間の延長などない優良企業です。退勤時間は、夕方5時台で、食品ロスがほぼゼロ化の営業を行っています。もっとも、人気店なので、朝9時半から整理券を配りはじめるそうです。11時に開店になるのですが、早い時には3時前に終わるということです。整理券方式を取り、予約は行っていません。顔を合わせるというひと手間をお客様にお願いすることで、無断キャンセルの防止をしています。このお店を信頼するお客さんが多くなることが、食品ロスの近道のようです。売り切れを許容する社会へ変わっていくことが、食品ロス削減と働き方改革に繋がるということです。
セブンーイレブンは、おにぎりの販売期限を延ばす技術改良をするようです。技術を改良して、約1日半以上の消費期限のあるおにぎりをつくろうとしているわけです。実現すれば、おにぎりの廃棄量を約5割減らせることになります。消費期限の延長は、効率的な配送網が構築しやすくなります。この期限が延びれば、物流の面でもより長距離の輸送が可能になるのです。ローソンも、人工知能(AI) を使って食材の仕入れ量を調整する仕組みを導入しています。食材担当者の経験に基づく従来の場合と比べ、実際の需要との誤差を約3割縮めているのです。川上の生産部門でも需要の予測精度を高め、無駄な食材の仕入れの削減を実現しようとしているわけです。
コンビニ1店舗あたりの廃棄費用は、年間468万円と店の営業費用全体の2割を占めていたようです。この費用は、人件費に次いで加盟店の利益を圧迫する原因になっています。廃棄量を減らせば、加盟店の経営改善にもつながるわけです。ファミリーマートは、恵方巻きなど売れ残りが生じやすい季節商品を原則予約制にしています。セブンーイレブンは、消費期限が迫った商品の購入する客にポイント還元しています。消費期限が迫った商品の値引き情報を、配信するサービスも始めました。これらの企業努力が実って、1店舗の1日あたりの食品廃棄は、2017年度の約9kgから2019年度には約6kに減っています。廃棄を減らすことは、経営環境が苦しくなっている加盟店の収益改善にもつながる明るいニュースです。
つい最近まで、新聞を賑わしている話題が、給食の残飯が多いというものです。でも、給食の残飯の問題を、上手に解決している先生もいるようです。残飯削減の工夫は、子ども達の好き嫌いの一覧表を作ることから始まるようです。まず、栄養士さんに、給食の週間メニューをもらいます。この給食のメニューを見ながら、子ども達が好きな食材と嫌いな食材を把握するのです。ここからが、子ども達の戦いになります。先生は、給食当番に給食を選べる決定権を与えたのです。好きな食材を多く食べる権利を得る代わりに、嫌いな食材を少なく食べる権利も得るというものです。たとえば、佐藤君が好きな食材と、鈴木君の嫌いな食材を取り引きすることができるという決定権です。給食を選べる権利をクラスの給食当番に与えたところ、給食の残量は大幅に減ったということです。給食は、美味しさを味わい、楽しく過ごす時間であることが望ましいわけです。
朝食を食べる子どもの学力は、高いことが分かっています。学校給食に関しては、各学年100万人の単位でデータを集めることができます。たとえば、小学生1年生の100万人分の給食のデータを集めることができるわけです。学校には、子ども達の成長過程、栄養士の食材提供の記録、学校医の検診記録がすべて揃っています。学校給食と子どもの成長や健康、そして学習能力に関するデータが得られるというわけです。給食の状況と学習状況を分析し、その中から価値ある情報を引き出すことは、現在の技術を使えば容易にできます。学校データの強みは、構造データにあります。構造データをビッグデータの技術で分析し、AIで深層学習を繰り返し有用な知見を見出すことは可能でしょう。AIが、学力向上と給食の関係を見出すかもしれません。子ども達の成績を上げる仕組みをいくつか提示するということです。
ここからが、提案になります。学校のデータとコンビニのデータが合体したらどうなるでしょうか。朝コンビニのおにぎりを食べる子は、給食もよく食べ、学力との相関が高いとなれば、一つのビジネスチャンスになります。ビッグデータからAIが引き出す知見は数多くなります。もっともプログラミングの作り方によって違いはあるかもしれません。でも、ビジネスの種を提供するようだと面白いことになるでしょう。