<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
宇宙エンタメ前哨基地





「どういうわけかマスコミは市民団体だとか、ボランティアだとかの意見をさも真実のように取り上げて間違った知識が氾濫している。」
「欧米ではこういう時に動員されるのは核物理学の専門家ですよ。」

そう話してくれた先生は、インチキ学者でも、市民活動原発反対を叫ぶ活動家でもない。
核物理や放射線医学を研究する国立大学や国立の研究機関の先生方なのであった。
ちょうど福島原発事故が危機状況から脱するかどうかと騒がれていた5月頃の会話だった。

昨年の3.11から連鎖的に始まった福島原発のメルトダウン事故では、あまりに色々な情報が伝えら過ぎ、どれを信じていいのか分からない、というのが実情だ。
今もその状況は変わっていない。
だって核の知識など誰もが持っているものでもなく、唐突に襲ってきた事故だったから、マスコミが十分な知識も持たないないまま騒ぎ立て、必要以上に市井を不安に落としれ、さも知ったりの市民団体を持ち上げたりして混乱がひどくなったのも影響している。

中でも、放射線が人々に与える影響というのは、不安の中核をなすもので、これまで同様の事故事例が少ないだけに、
「この治療法が有効です」
とか
「この程度の放射線量は心配に及ばず」
と言えないところが難しい。
だから「怖い」という気持ちが先行し、論理的判断が薄れてしまい感情論が先行する。
総理大臣が感情爆発させるくらいだから、まともな判断、報道なんかできるわけもないかもしれないが。
それでも、例えば半世紀前に広島の原爆で被害を受けた人たちのその後の調査などはきっちりと予備知識として公にしてはどうかとも思う。
たとえば被害者の子供、いわゆる原爆2世には放射線障害は皆無であることや、あの原爆炸裂の下にいた人々の中に20名近くも助かった人達がいて多くが平成の御世まで長命したことなど。
広島の復興計画は他の地方からの援助もまともに受けられない状態で粛々と進められたことは、東北の人たちの大きな参考になるに違いないものがある。
なんといっても、あの時破壊されていない大都市は無いわけで、被害で言えば東京や大阪のほうが大きかったはずだ。
そういうことも考え合わせると、やはり核物理学や放射線医療の専門家のしっかりとした意見をもとに、何が安全で、何が危険なのか、感情に囚われない判断が必要なことがよくわかる。
議論と責任のなすりあいに終始している暇もなく、「生きている人たち」の明日をしっかりと考えなければならないはずだ。

ね、野田さん。
わかってるんかいな。

ところで、10シーベルトや20シーベルトといった致死量の放射線被曝を本当に受けてしまったらどうなるのか。
現代の医学でもその人の生命を救うことは本当にできないのだろうか。
その疑問に対する答えが「朽ちていった命 ~被曝治療83日間の記録」NHK取材班著(新潮文庫)に著されている。

本書は1999年に発生した東海村の臨海事故で致死量の放射線を浴びてしまった作業員の生命を如何にして救うかという被害者本人、医療チーム、そして被害者家族の壮絶な闘いを描いているノンフィクションだ。

この事故は当時大きく報道されていたので記憶している人は多いことと思う。
しかし、その事故に被災した人たちの結末を知ることはなかなかなかたった。
そして、強い放射線を浴びてしまった被害者がどのように生命を絶たれてしまったのか、私も噂は耳にしていたが、ここまで壮絶であったとは知らなかった。
放射線を浴びた側の皮膚細胞はことごとく染色体が破壊され、再生が不可能になる。
このため数日間は普通の状態だが、やがて火傷のように爛れ、肉が露出し、決して再生することのない姿に変貌し、被害者は激痛に苦しむことになる。
内蔵も蝕まれる。
普段は代謝の多い臓器ほど被害が大きく、白血球の生成もできなくなり、やがて自分の免疫系が自分自身を攻撃するというような事態にも陥ってしまう。

被害者を助けようと懸命に努力する東大病院の医療チームも目を見張るものがある。
未知の放射線災害に対して東大チームが立ち向かうその努力は、日本の医療最前線が世界最先端であり、しかも負けるかもしれない闘いにおいて弱音を吐かない力強さを感じるのだ。
その東大病院の医療チームよりも「生きる」ことへの努力を最後まであきらめなかった被害者とその家族の勇気は、いま原子力発電所の存続の是非の論議とともに必ず知っておかなければならない事実であると思った。

驚くことに、本書に登場する名前は被害者家族を含め、ほとんどが実名である。
実名で事故の経緯を記録することにより、後世への警告と放射線被曝へのさらなる医療研究の重要な資料になることは間違いない。
東大病院のチームの勇気もすごいものがあるけれども、実名での掲載を認めた被害者家族の勇気には将来必ず人々は感謝する日が来ると思った。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )



« 大阪の百貨店 ビネガーとほ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。