<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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社会人2年目。
芸大卒業の私はなぜか建築業界で働いていた。
建築業界といっても日雇いの労働者ではない。
大手空調設備会社の竣工検査に必要な書類作成や検査立ち会いなどを行う会社に技術者として勤めていたのだった。
なぜ芸大卒の私が、そんな工学部卒がするような仕事をしていたのか。
そういった説明が複雑そうな話題はさておいて、この建築設備業界は給料がそう悪くない代わりに勤務条件の厳しい世界であったことを説明しなければならない。

建築現場の朝は早い。
だいたいが朝8時に始まるため、それに併せて出勤をせねばならない。
そのため、朝6時前に家を出発することなどざらで、しかも通勤距離が長かった。
どういうわけか私は京都市内か神戸市内の現場に配属されていたため、大阪府南部の自宅からは片道1時間半から2時間という関西では非常識な長時間をかけて通勤していたのだ。
通勤の最長距離は滋賀県の米原であった。
この現場仕事はたったの2週間で完了したのであったが、さすがに新幹線通勤となり、身も心もずたずたになってしまったのだった。

しかもこの業界は残業なんて当たり前。
竣工前のバタバタを手伝うのが私の仕事のため、徹夜仕事も珍しくなかったのであった。

この頃、家は寝るためだけにあった。

週休二日制が一般的ではない時代。
唯一の日曜日。
私はだいたいにおいて、日中でも寝てばかりいたのであった。
そんなある日。
「こんなことではいけない」
と思った私は大阪難波に繰り出すことにした。
久しぶりに大好きなはずの映画て、その後日本橋の電気街をうろつこうと考えたのだった。

当時の日本橋にはメイドカフェやアダルト本ショップ、コスプレ屋などのいわゆる萌え業界は一切なかった。
純粋な電器店とパソコン店、電子部品店などが軒を並べた東京秋葉原と同じく電機製品のメッカなのであった。

「何か新しい電機製品は無いかいな」

と歩いていると、パソコンショップの前に置かれたモニターにツタンカーメン王の黄金のマスクが映し出されているのが目に留まった。

「?」

画面に映し出された仮面はCGによるものであった。
驚いた。
リアルだった。
そしてとりわけ金色の輝きの表現が秀逸で、思わず見とれてしまったのであった。

「これ、すごいな」

私の2台目のパソコンとなるシャープのX68000との初めての出会いであった。

建築設備業でせっせと働いている中でも、私の創作意欲は休眠状態ながら冷めてはいなかった。
家に戻ってからもツタンカーメンの映像が頭から離れない。
家庭で使うパーソナルコンピューターで、ついに映画に出てくるような精巧なCGが描けるようになったのか。
にわかには信じがたいものがあった。
たった数年で、そこまで技術が進歩してしまうとは当時の頭では理解することができなかったのだ。
もし、本当にあんなリアルな映像が作れるのなら、是非ともチャレンジしてみたい。
と、私の創作意欲は突如復活し、考えれば考えるほど高まっていったのであった。

早速久しく買わなかったパソコン雑誌を買ってきた。
「Oh!X」という雑誌でシャープのパソコンがメインの大衆向けパソコン誌であった。
その中で、X68000の数々の特徴が記されていて、とりわけグラフィック機能に特筆すべきものがある、ということが分かってきた。
但し、値段もなかなか高価であることも分かってきた。

幸いなことに、建築設備業界に勤めていた私の収入は少なくなかった。
また、多くもなかった。
ただ1年中ほとんど仕事ばかりしていたのでお金を使う機会がほとんどなく、パソコンの一台ぐらい、すぐに買うことができる環境にはあった。

X68000というパソコンは今でこそ伝説の中に埋もれてしまい、Windows世代の人々にはその存在さえ知られていないマイナーな機種かも知れない。
しかし、日本のパソコン史上、これほどユニークなパソコンは他になかったのではと思われるのだ。
「日本のマッキントッシュコンピュータ」
一部の愛好家の中で喚ばれたその栄えある愛称は、まさにその喚び方にぴったりの性能とコンセプトを持っていた。

私はこのユニークなパソコンを近所に住むシャープ社員のZさんにお願いし、社員価格で売ってもらうえるようトライしたのであった。
普通の電器店で買えなくもなかったが、節約を旨とする私はあくまでもケチケチスピリットを堅持し、そして希望通り、X68000を購入したのであった。

つづく

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