<新・とりがら時事放談> 旅・映画・音楽・演芸・書籍・雑誌・グルメなど、エンタメに的を絞った自由奔放コラム
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万里の長城トレッキングツアーで死者が出た。
ツアーを企画したのは3年前に遭難死亡事故を出したアミューズツアーという登山客向けの旅行会社。
今この旅行会社に非難が集中しているが、晩秋の北京郊外で何が起こるのか。
気象予測をあまく見た結果の悲劇だが、果たして旅行会社の杜撰な計画だけが原因と言っていいのかどうか。
十分に考慮する必要のある事故といえよう。

そもそも尖閣諸島で日中が揉めている、というか中国が一方的にクレームを付けて日本に対して暴力に訴えている状態で、
「万里の長城にトレッキング」
を実行する人っていったいどういう考えを持っているのか。
新聞は読んでいなかったのか。
テレビのニュースは見ていなかったのか。
中国についていいことしか書いていない朝日新聞の読者だったのか。
注意不足では済まされないものがある。
「現地では十分に気をつけて。用のない外出は控えるように」
というのが中国出張に頻繁に出かけるメーカーや商社の現実的な話なので、今回の事故の発生以前に旅行会社はもちろん、当の旅行者自身にも世間から疑問が投げかけられてもおかしくない事故だったのだ。

そもそも、旅行というのは国内であろうが国外であろうが、旅行者自身が十分に安全を考慮して楽しまなければならない「娯楽」だと私は思っている。
自分の生活している場とは違うところへ出かけるわけだから、どのような事態が発生するのか、当然のことながら想像することは難しい。
飛行機や電車に乗り遅れたどうしよう、金やパスポートを盗まれたらどうしよう、という基本的なことから、インチキ賭博に引きこまれて「金を出せ」と言われた後に「ありません」と言ったらヤクザが出てきたらどうするのか、滞在している街でクーデターや大規模テロが起こったらどうするのかという応用編まで、十分に注意しなければならない。

ご存知のように私は時々ミャンマーやタイ、ベトナムへ旅行をしている。
バックパッカー的旅行は私の最もお気に入りの気分転換方法でもある。
とりわけミャンマーがお気に入りなのだが、ミャンマー旅行はタイを旅行するよりも、より多くのことに注意を払い自己責任で行動できるように心がける必要がある。

今でこそミャンマーへのツアーは日本旅行やJTBといった大手旅行社がこぞって企画しているが、民主化前のミャンマーにはこれら会社はその支店さえ現地になかった。
私のような旅行者は個人旅行か、どうしてもツアーを選ぶなら現地のツアー会社か、国内でもアミューズツアーのようなマイナーな旅行代理店しか選択肢がなかった。
保険は効きそうにないし、危険な要素もたくさんある。
従って、メジャー旅行代店はリスクを恐れてツアーを組まなかったのだ。

ミャンマーへ行くたびに、いつも私は念の為に海外旅行保険に入ることにしていた。
旅費をケチっていつもなら海外旅行保険に入ることは稀なのだが、もし万が一事故にでも遭ったらシャレにならない。

例えば、ミャンマーで自動車事故や転落事故に遭って重症を負ったとする。
足の骨を複雑骨折して臓器破裂、脊髄に損傷の可能性がある、なんていうシリアスな状態になった場合、ミャンマー国内では十分な治療を受けることができない。
十分なケアを受けるためにはバンコクやシンガポールなどの大きな技術もあって信頼出来る病院まで運んでもらう必要があるのだ。
インフラは民主化後の今も大変だ。
停電、洪水、その他トラブルに日常的に備える必要がある。
例えば、懐中電灯は必携で、夜、ヤンゴン市内を歩くだけでも突然の停電で周囲が見えなくなることがあるので懐中電灯は安全に歩くために欠かすことのできないアイテムである。
また、ミャンマーだけではなく、トイレットペーパーが常備されていない国も多い。
タイやミャンマーなどは「手で洗う」というのが習慣で、むしろ紙を使うのは世界の3分の1ほどでしかないという。
従って突然の便意に備えるためには、そのへんの備えも大切だ。
とりわけ田舎では重要になる。
さらに、列車、バス、タクシーなどが機械的なトラブルで停止することも多く、万一に備えて移動手段を複数用意しておくことも重要なのである。

最近の日本人は、なんでも他人に頼ってしまうという悪いくせがついている。
生活に困れば生活保護。
失業すれば失業保険。
災害に遭えば、消防署や警察、果ては自衛隊が到着するまで待っているだけ。
税金を他人のお金とでも考えているのか、なんでもかんでも他人任せで他人の責任。

旅についても同じように言えるわけで、北海道で8人も遭難死者を出した旅行社を選択するのも、それに営業免許を与えている国のせい。
現地の状況を把握していないのも旅行会社のせい。

江戸時代後半、現在と同じく多くの人々が日本全国を旅していたが、安全性は自己責任。
役所は旅人に通行手形を発行し、宿場町を整備して、各藩や代官所に対して旅行者の安全を司るよう治安維持を指示していた。
しかし山道突破、渡海、夜間行路などはすべて自己責任で、もし山賊に遭遇して身ぐるみ剥がされても、時化に巻き込まれてアメリカ大陸に流れ着いても、だれも政府に文句は言わなかった。

ということで、少なくとも海外旅行に出かける人は江戸時代の日本人以上の自己責任と覚悟と知恵が必要ではないだろうか。

(写真:黄金の三角地帯を流れるメコン川から撮影したミャンマー側 2003年撮影)

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