地底人の独り言

いつまでもみずみずしい感性を持ち続けて生きたいと願いつつ、日々の思いや暮らしを綴っていきます

無頼作家

2013年08月17日 | 読書

無頼派の私小説作家・西村賢太の「日記」は、まさにそれ自体が(私)小説

 西村賢太、言うまでもないが『苦役列車』(森山未來と前田敦子で映画化された)で芥川賞受賞作家だ。北町貫太が主人公で、同棲相手の秋恵に殴る蹴るのDV常習犯。まさに「反吐を吐きたくなる」世界オンパレードと、久々に出現した「無頼派作家」であり、私小説作家だ。しかし、何とも魅力のある小説家であり、その作品世界を楽しませてもらっている。

 そんな西村賢太の二冊の本を最近読んだ。一冊は、『一私小説書きの日乗』(文藝春秋刊)。「規格外の作家は毎日どう生きているのか。2011年3月から一年余りの無頼の記録。どこまでも自己からの眺めに徹した一人の作家の生活と意見がここにある」とPRしているが、まさに頷ける。

 そしてもう一冊は、『随筆集 一日』(文藝春秋刊)だ。先の『一私小説書きの日乗』で、原稿を書いたり校正したりする随筆が収録されているなどして、読み比べるととても面白い。

 それにしても、『一私小説書きの日乗』は、私小説家の日記であり小説のように面白い。グイグイ引き込まれて、一日で読み終えた。一部を紹介すると、「5月23日 深更、宝一本弱、ウインナー缶、温泉卵、歌舞伎揚げ7、8枚。カップのイカ焼きそばを食べて寝る」などと、食事の内容や誰と何処にのみに行ったかなど、とても克明に記録されている。文藝春秋から出版されているが、最も多く登場するのは新潮社の社員たちだ。

 また「7月28日 夜、買淫。済ましたのち、冷やし喜多方ラーメンの大盛りをすする」もある。この「買淫」はしばしば登場する。西村賢太以外にこうしたことを書く作家はいないだろう。この「日記」では出版界の世界が垣間見られる。絶交と手打ちを繰り返す、この作家を担当するのは本当に大変だと、編集者に同情したりもする。

 ところで、「(2011年)3月15日」の日記には「昨年の自分の原稿料、印税収入の合計480万円弱。意外と普通に食えるだけは稼いでいた事実に一驚する」とある。ところが、芥川賞を受賞した翌年の「2012年1月24日」の日記には、「去年は新潮社からだけでも3800万円。次いで飛び抜けているのは文藝春秋。そして角川書店の順。没交渉となっている講談社は、それでも180万円は得ていた」とある。

 本人も何度も書いているが、やはり「芥川賞」は、スゴイことを改めて知った。そして今や、西村賢太は作家であるとともに、渡辺プロと契約するタレントでもある。

 そうした西村貫太は、「落魄の果てに42歳で芝公園で狂凍死した藤澤清造の『没後弟子』を自任」し、「散逸した作品や書簡等を集めて7巻の全集刊行を目論んでいる。で、これだけなら一寸した奇特な美談風だが、更には傾倒の度を越して、血縁の耐えたその人の墓守をつとめ、菩提寺からオフィシャルな位牌まで預かっていると云う、甚だキ印じみた男でもある」と自らを書いている(随筆集『一日』より)。

 それだけ西村賢太が傾倒する藤澤清造の「根津権現裏」(新潮文庫)を読んで見ようと思っている。「根津権現裏」は1922(大正11)年に書き下ろされて以来、西村賢太によって90年ぶりに初めて復刊されている。そして当然だが、その解説も西村賢太が書いている(その「解説」全文は随筆集『一日』に収録されている)。そんな藤澤清造の「根津権現裏」であり、是非供読んでみたいと思っている。

 それにしても、この作家の飲む酒の量と食事の量は半端ではない。コレステロールなどの薬を飲んでいるようだが、是非とも自身の体を大切にして、これからも素晴らしい作品を書き続けて欲しいと願う。何しろ現代では希有な作家なのだから。

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