NHK教育テレビ「『斜陽』への旅 太宰治と太田静子の真実」、「人間」がいた
去る10月4日の夜、NHK教育テレビで「『斜陽』への旅 太宰治と太田静子の真実」が放映された。番組は、『斜陽』のモデルとなった愛人・太田静子のメモと太宰治との手紙のやりとりをもとに(メモや手紙は初公開)、太宰と太田静子の間にできた子どもである作家太田治子が、初めて青森にある太宰の記念館を訪ねるなどしつつ、二人を語る形で番組は構成されている。
番組では、太宰のベストセラー小説『斜陽』の誕生を中心に構成されていた。当初『斜陽』は死の物語であったのが、太田治子の誕生によって生きる希望の物語へ大きくストーリーが変わったとのことだ。
太宰と太田静子の出会いから始まって、二人のやりとりをつづった手紙が公開されたが、そこにはまさに人間がいてとても迫力のある画面構成となっていた。
ところで、太田治子は母の思い出を書いた『心映えの記』で、1986年に「第一回坪田譲治文学賞」を受賞している。太田治子は父・太宰とは一度も会ったことがないそうで、この間長い間重荷を背負ってきたが、やっと今父と母の関係に正面から向き合おうとしてるようで、今年『明るい方へ 父・太宰治と母
・太田治子』(朝日新聞社刊)を刊行している。
私は、太宰は読もうという気にならなかった作家であり、今回松たか子が主演する映画の原作ということもあり、初めて『ヴィヨンの妻』を読んだ程度だ。今回のテレビ番組を見て、太宰の『斜陽』や太田静子が書いた『斜陽日記』も読んでみようという気になった。
ともあれ、今回のNHK教育テレビの映像に、しっかりと見入った。豊かな内容の番組であり、そこには紛れもなく人間がいた。私が興味を持ち、かつ惹かれる世界だった。このような番組がたくさん製作され、放映されることを願う。