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tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

小説 デジャ・ヴ(グロ注意)

2006-12-12 20:18:32 | エッチ: よい子は立ち入り禁止
6.ジプシー
メッシーナ海峡には断層があり、そのためこの町は度々地震に襲われている。建物はそのせいか幾分新しく見えるが、やはり港町。日が高くなるとともに活気があふれてくる。市内の繁華街を目指して歩いているとカイローリ広場にぶつかり、そのそばで比較的駅に近いところに2つ星のホテルが数件見つかった。その中の1軒は、入り口の横に見えたレストランの窓に明かりがついていた。きっと、朝食の用意をしているのだろう。夏の休暇シーズンなので結構にぎわっているようである。入り口を入ってコーヒーの香りの漂うフロントでたずねると、幸運なことに2部屋の空きがあるとのこと。一つはツインの部屋であるが、エキストラベッドを追加して、3人泊まれるようにしてくれるらしい。また、もう一つのダブルの部屋はすぐにでも使えるようだ。その部屋にアーリーチェックインをして、ぼくたちは荷物を預けた。チェックインの際に、パスポートの預け入れを求められたが、ぼくのは銀行でトラベラーズチェックを両替する際に必要なので、その後で預けることで話がついた。部屋は角部屋で、ホテルとしてのランクが低いわりにとても広く、建物の古さもマッチして雰囲気が良い。窓からは、路面電車がみえた。ダブルベッドに体を投げ出したタカオカとニシザキを尻目に、ぼくはアヤカとヨーコを呼びに駅に戻った。
地中海の陽光があふれだした街中を引き返し、駅に着くと中年のジプシーを思わせる男がアヤカとヨーコに話しかけていた。見たところ男は40代と思われる。かなり、なれなれしくアヤカに話しかけている。近づくと、グレーの縦のストライプの入ったボタンダウンのシャツに茶色のスラックス姿のその男は、ぼくにも愛想を振りまいた。シャツを捲り上げた腕に漢字のワンポイントの刺青が見える。恐らく坊主って書いてあるのだろうが、漢字が反転しているので良く見ないと判らない。禿げ上がった広い額に、緑色の目が印象的である。シェイクスピアの「オセロ」では、イアーゴゥが「嫉妬は緑色の目をした怪物~」と言い放っている。この時から緑色は「嫉妬」を表す色になったと言われる。ぼくはヨーコが笑顔で話をしていたこの男に、敵愾心に根ざしたジェラシーを感じていたのかもしれない。ヨーコの話を聞くと、彼女達が駅で待っている間、駅の構内をうろついていた数匹の野良犬に持っていたビスケットをあげたところ、犬にまとわりつかれてしまったらしい。そこにこの男が来て、犬を追い払ってくれたとのこと。そういえば、ぼくが駅に戻ってくる途中、シェトランド・シープ・ドッグの雑種など大型の犬が数匹群れを成してゴミ箱をあさっているのを見た。やせ衰えて、一目で野良犬とわかる。きっと、以前は人に飼われていたのだろう。すごく人懐こく、すれ違う時はしっぽを振ってずっとこっちを見つめている。シチリアにはこうした野良犬が沢山いる。
「このおじさん、夕食を招待してくれるって」
アヤカがぼくに言う。ぼくが男を見ると、握手を求めて手を差し出してくる。ヤルダワルダ・メベルナッチと名乗るその男と握手して、二言・三言英語で話しかけるが、ほとんど向こうの英語が聞き取れない。ひどいドイツなまりがあるようだ。アヤカがたどたどしいイタリア語に通訳して男に伝えてくれる。どうやら彼は、一緒に夕食をどうぞと言っているらしい。男から電話番号のメモを受け取ったアヤカを横目に見ながら、ぼくは二人の大きな荷物を手に取ると、その男を無視してホテルに向かって今来た道を歩き出していた。