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tetujin's blog

映画の「ネタバレの場合があります。健康のため、読み過ぎにご注意ください。」

小説 デジャ・ヴ(グロ注意)

2006-12-06 20:20:17 | エッチ: よい子は立ち入り禁止

3.エディーコラ
コンパートメントに5人分の席を確保すると、駅のエディーコラ(日本でいう駅のキオスクのようなもの)に飲み物を調達しに行く。当然、一番年下のぼくが買いにやらされる。750ml入りのペットボトルでサンペレグリノ(炭酸入りのナチュラルミネラルウォーター)が売られている。ぼくの前にレジに並んだ北欧から来たと思われる若い娘達が、ジュースを買っている。しかし、店員がとり出した缶ジュースは彼女達が欲しかったものではないらしい。店員と片言のイタリア語でその缶ジュースを前にしてやりとりをしていた。発車の時間がとうに過ぎていたので、いつ列車が発車するかわからない。だから、こっちも気が気ではない。女の子達は、結局、数分粘っていたもののジュースを買わずに列から離れていった。彼女達の、たかがジュースにしっかりと自己主張する点に感心しながら、750mlのミネラルウォーター2本と、それから、彼女達が購入を拒否した缶入りのオレンジジュースを5缶購入する。1990年代後半のイタリアでは、通貨がユーロに統一される前でまだリラが通貨であったが、リラは比較的弱い通貨で、国内のインフレのため100万リラ札などものすごい額の紙幣があった。トラベラーズチェックで約1万円のドルを両替すると、180万リラくらいある。そして、ひどく分厚い札束になる。しかも、当時のイタリアには同じ金額であっても、何種類も紙幣あるので非常に判りづらい。
両替を兼ねてジュース代金を100万リラ札で支払うと、エディーコラの制服を着た店員は札を光に透かして見たりして、偽札かどうか確かめた挙句、恐らく両替だと思うがお金を持ってどっかに行ってしまった。店員が帰ってくるのを待っていたが、なかなかやってこない。そのうち、シチリア行きの列車が動き出してしまった。
「つりを返せ。(Give the change back to me!)」
叫んだが、もうどうしようもないことが分かっていた。ぼくは、ミネラルウォーターとオレンジジュースを抱えると、つり銭を諦めて、走り去る列車に追いつくと、飛び乗った。うまく列車のデッキにしがみつくと、周りで何事かと見ていた通行人から賞賛の歓声があがる。
ヨーロッパの電車は、発車のベルなんて鳴らさない。おもむろにゆっくり走り出す。良く映画でプラットホームを走って列車に飛び乗るのを見かけるが、列車の出だしはかなりスピードが低いので、これが可能だ。
自分のコンパートメントへ戻ると、買ってきたジュースとミネラルウォーターを配りながら、エディーコラでの出来事をみんなに話した。タカオカは、アホちゃうかという目でこちらを見てくる。他のみんなは慰めてくれたが、当然のことながら誰も損失を補填するとは言わない。これが旅行者のルールなのだ。他人の不幸は共有しない。
さて、同乗した2人組の男たち、タカオカとニシザキは、大学の同級生だったらしい。日本を発ってまだ1週間。パリに到着した彼等はスイスに渡り、イタリアへ南下してきた。年齢は聞いていないが、恐らくぼくより4つか5つ、年上であろう。二人とも関西弁でしゃべっている。1年ぐらいの予定でヨーロッパのあちこちを回るとのこと。きっと、会社を辞めて旅しているのだろう。あるいはもともとフリーターか。ぼくらは、個人的なことで余計なことは聞かないし、また自らも話をしない。タカオカは赤いチェックのコットンシャツ、もう一人はジーンズのシャツのいでたちで、二人とも大きなバックパックにアルミのコップをぶら下げている。
アヤカは会社を辞めて旅行に出てきたと言う。コロのついた大きなスーツケースとクレッセント型のショルダーバッグ。当時、流行った大きな輪のピアス、ちょっと余計なものいろいろ付いてるよね、の服、田舎ヤクザチックなサングラス、多少カッコ悪い、かつらと見間違うようなワンレングスの髪、などなど。年の頃は30前後だが、自己主張がかなり強そうに見える。正体不明のおばさんだ。一方、ヨーコは現在、イギリスに留学中で、夏休とのこと。ナイロンのボストンバッグ一つの身軽さで、愛くるしい顔と後ろで結んだ髪がよくマッチしている。二人は、2日前にドイツで合流し、イタリアへ流れてきたらしい。二人とも、日本で見たらどちらかと言えば美女の部類に入るだろう。ただし、西洋人の堀の深い顔立ちを毎日見ていると、東洋人の持つのっぺりとした顔立ちがとても奇異に感じられて、日本で見た時ほどは、ここでは美しくは見えない。
話はそれるが、ヨーロッパを旅すれば日本人の顔立ちを忘れるのだけれども、日本人旅行者と韓国人や中国人など、日本人以外の旅行者との外観の違いは言葉を聞かなくてもどことなくわかる。これは日本人の顔立ちを忘れることと矛盾するし、なぜ識別できるのか不思議だ。恐らく、服装や独特の雰囲気などから判断しているのだろう。ただし、ぼくに関しては、成田空港で搭乗を待っている韓国のおばちゃんに韓国語で話しかけられることが多いから何も言えない。きっと、ぼくは日本人離れして見えるに違いない。そして、どちらかと言うと韓国人に似た顔つきなのか・・・。