先月の10月28日午前10時8分に発生した中国四川省重慶市でのバス事故(事件)報道を見て、「ついにこんな事故というか事件」が起きてしまったかと、バスの乗客や運転手に哀悼の念を感ぜずにはいられなかった。事故(事件)をひき起こした張本人の40代の女性乗客以外の死者14名はとてもとても気の毒だ。
中国一の大河「長江(揚子江)」が市内を流れる大都市「重慶」。市内には長江に架かる長く高い橋脚が多くある。そのうちの一つ「万州長江二橋」で起きた事故は13人が死亡し、2人が行方不明。乗客・乗員全員が亡くなった。
報道によると、事故・事件は次のように起きたという。「逆走してきた赤色の乗用車と衝突し、その直後に橋の欄干を突き破って60メートル下の長江へ市内バスは墜落した。フロント部分を大破して路肩に止まっていた乗用車を運転していた女性を拘束した。」と当初は報道された。60mといえば、ビルの20階建ての高さに相当する。しかし、事故の調査が進むにつれて、事故の真相が明らかにされ乗用車運転の女性は釈放された。
長江に落下し水没したバスを捜索(約70隻の救助船、3隻のクレーン船、15人の潜水作業員)、橋から上流28mの水深71mの場所に沈んでいるバスの引き上げは、水圧の大きさもあり難航し、遅々として進まなかった。しかし、10月31日の早朝に潜水作業員が水中のバスの中から運行状況を記録したブラックボックスを回収し、31日の深夜にはバスはクレーン船によって水上に引き上げられた。
ブラックボックスの解析から、事故当時の車内の映像もあきらかになった。15人の乗客・運転手の内、13人が車内で遺体となっていたが、2人は 長江を遺体となり漂流している可能性が高いとされた。事故の原因は、「ブラックボックスに入っていた監視カメラには、事故発生までの車内の状況が音声付で映っていた」により、克明に解明された。その状況は次の通り。
①このバスに一人の中年女性(事故を引き起こした)が バス停から乗車したのは午前9時35分。②この女性が下車する予定のバス停の道路付近が工事中のため、バスの走行路線が一部変更されていたので、そのバス停を経由しなかった。③このため、バスはその次の停留所に停まった際に、「その女性が下車予定の停留所で下車する予定だった乗客に、ここで下車して歩くように注意を促した」。この中年女性(劉桂平・48才)はこれに気が付かなかったのか、降りようとはしなかった。
④ところが、バスが再び走り始めてしばらく行くと、女性は自分の下車予定のバス停をとうに通り過ぎたことに気づき、大声で運転者に対して下車させるようにように要求し始めた。⑤しかし、バスは停留所以外では下車させることはできないので、次の停留所で停まるべく、運転手は女性の要求を無視して運転を続けた。⑥10時3分、女性は座席から立ち上がると運転席の横に行き、運転手を大声で責め立て始めた。運転手は女性に対して停留所以外では降車させられない旨を何度も説明したが、女性は聞く耳持たず、2人は激しく言い争った。
⑦10時8分49秒、バスが橋の上を南端から348mの所まで走行した時に、女性は右手に持った携帯電話で運転手の右側頭部を殴り付けた。これに対して、運転手はハンドルの右手を離すと、身体を右にねじって女性に殴り返した。再び女性が運転手の右肩を携帯電話で殴りつけた。これを運転手は防ぎながら女性の右上腕骨をつかむ。⑧10時8分51秒、運転手が右手をハンドルに戻して(この時の時速は51km)、ハンドルを右に切ったが、車体はコントロールを失い、左側の対向車線を走ってきた赤色に乗用車に衝突し、その直後に橋の欄干を突き破って長江へ墜落した。(中国は右側通行)
◆つまり、この事故は、乗客の中年女性が停留所以外の場所でのバスの停車を求めて、運転手になぐりかかったために、運転手がハンドル操作を誤ったことが原因だった。また、バスの運転手の乗客への対応(バス停の変更事前連絡をしない)も問題がある。また、長時間の言い争いに対して、乗客の誰一人も中年女性の暴力行為などを止めようとしなかったことも、事故を誘発した一因ともなっている。
犠牲者の中には、25才の母親に連れられた3才と1才の子供と、その祖母も含まれていた。この事故は、「他人事ではないなあ!」と思った。中国全土の公共バスの乗客・運転手の様子などを6年間体験していると、「これはありうることだと」感じもした。他人事ではないのだ。いつ自分の身に降りかかるか他人事ではない。まず日本では絶対と言っていいほど起こり得ない事故・事件だが、中国人という民族の社会では、起こりえることだと思うことだった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます