おばちゃんが打つ幻の蕎麦を食べた次の日、上田の駅前にある60年近く(1957年創業)
やってる珈琲屋を訪ねた。上田といえば、有名な蕎麦屋とパン屋(ルパン三世、みたいな名前)がある。
どちらも縁があるので、まずそのパン屋にいってみた。カフェもあり時間が
はやかったので、パンを買って帰ろうとしたら、主人が「どこかでお会いしましたね」
と声をかけてくれた。「いつぞや、来ていただき、おおきに、天真庵どす」と挨拶したら、
お店の中を案内してくれた。無駄な装飾がなく、あるべきところに、調度品がうまく配置され、
店員さんたちもスレンダーで両性具有みたいにスマートな出で立ちで、テキパキと楽しそうに
仕事をしている。「さすがや」なと感心して、おもわず店主と握手をしてしまった。チェーン店ではなく全国的なお店
というのは、突き抜けた「ほんもの」を随所に感じる。
その後、有名な蕎麦屋で蕎麦をずずっと手繰り、珈琲店へ。カウンターの中におばあちゃんがいた。
音楽もなければ、会話も無駄なことを聞いてはいけない。60年間ずっとそうしてきた雰囲気に波動をあわせながら、
「ブレンドください」と注文。コウノのサイフォンで丁寧に香ばしい珈琲を入れてくれる。冷蔵庫に手をかけようとしたので、
「ミルクも砂糖もいりません」といったら、ニコッと笑って「そうですか」と一言。でもここから「珈琲はブラックときめてます」
とか、「この珈琲はどんな豆ですか」などと言ったりすると、煎った珈琲豆に対して無粋なくらい静謐な雰囲気がただよう。
でもけっして、窮屈な思いはなく、昔北九州の小倉の駅前の裏通りにあったおばあちゃんがやっていた珈琲屋「モカ」を
思いだした。ウィンナー珈琲を注文したら、家庭用の白い冷蔵庫からホイップクリームが入ったボールをとりだし、
それを大きなスプーンでくるっとすくって、砂糖大ひとつを入れた珈琲の上に丸くのせ、スプーンで上の丸をこわさない
ようにまぜる所作が、かっこよく、ひょっとしたらその手つきにひとめぼれして、その後小倉駅から京都にいって、珈琲屋
で修行する運命にあったのでは?と思うことがある。天真庵には、ウィンナー珈琲はメニューにないけど、そのモカの
おばあちゃんの所作は体にしみついている。と同じように、「木の実」の店主の所作も、お茶のお手前みたいにみごとだ。
今日から夏休み明けの営業。夕方は「タイムドメイン」。
好きなCDをもって、飲みたいお酒(飲ませたいお酒)、喰いたい酒肴(食わせたい・・)を持ち寄って、談論風発。
桜島の噴火や異常気象、世界中が混沌としている大恐慌の中、明日が来たらラッキーだけど、こなかったら
「これが最後の晩餐」となると思うと、この会は、ぴったりの宴。一期一会に感謝。