MITIS 水野通訳翻訳研究所ブログ

Mizuno Institute for Interpreting and Translation Studies

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『東洋の翻訳論III』

2010年12月20日 | 

東洋の翻訳論3

アジアの翻訳の伝統ということであれば、まさにそのテーマにふさわしい本を頂いた。モンゴル在住の北村彰秀さんの『東洋の翻訳論III』である。かなり前にご恵投頂いたのだが、多忙にかまけてお礼も紹介も遅くなってしまった。この本は以前に紹介した『東洋の翻訳論 『続 東洋の翻訳論』に続く第3巻という位置づけである。冒頭の「はじめに」の中で、全3巻の構想と各巻の内容について述べられているので引用する。

「東洋の翻訳論全3巻は、東洋(主に中国、チベット、モンゴル)における翻訳の歴史に目を向け、そこでの翻訳方法、翻訳に対するアプローチ、翻訳論に注目し、検討しようという意図のものである。このような研究は東洋に対する理解を深めるためにも、また、翻訳というものありかたを探るためにも意義あるものと信ずる。
(中略)
 「東洋の翻訳論」(すなわち第1巻)では基本典の翻訳論に注目し、これがナイダの翻訳論に近いものであることに言及した。また、この翻訳論は、前半と後半の二つにわけることができ、前半は広い意味での言語学からのアプローチ、後半は狭い意味での言語学からのアプローチであることを述べた。また、Mergedとは賢者という意味ではなく、むしろ知識人、学者という意味であることを述べた。
 「続 東洋の翻訳論」においては、仏典漢訳の翻訳論を概観し、五失本三不易と基本典の翻訳論の類似について言及した。また、基本典の翻訳論の前半が、彦(げんそう)の翻訳論をもとにして書かれたものであることを示した。
 この第3巻においては、まず、今まで出した第1巻、第2巻の誤りを正し、議論をさらに深めたい。特に、第2巻で触れた彦の翻訳論の、基本典に影響を与えた経路について、もう少し見てみたい。第二に、基本典の翻訳論と辞書部分の関連について、論じてみたい。次に、満州語社会について見てみたい。東洋の翻訳論を扱う以上、大量の翻訳が組織的に行われた清朝(特に初期)の状況を検討しないわけにはいかないであろう。」

本の性質上(評者の非力ゆえ)、内容にわたるコメントはできないが、全3巻を通じて明らかになったような、幅広い視点から東洋の翻訳論を研究することには大きな意義があると思う。また長年にわたってこのテーマの研究を続けておられる北村さんに敬意を表したい。入手方法について明らかになればまた紹介します。